クインテットの日常   作:戦竜

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まいさつと罰ゲーム

「……ねぇ、本当に大丈夫?わたし、お邪魔じゃないかな?」

 

紗月さんの自宅――

古びたけれど綺麗に掃除された、紗月さんの狭いアパートの一室で

わたし、甘織れな子は恐る恐る口を開いた。

目の前には、スパダリこと王塚真唯が、

我が家のような顔をして座布団に収まっている。

 

「気にしなくていいわ。真唯は昔から入り浸っているし、

一人増えたところでどうということはないわ」

 

紗月さんは相変わらずのクールな表情で、お茶を差し出してくれた。

その所作一つとっても、ここが四畳半だということを忘れさせる気品がある。

 

「ふふっ、れな子。紗月がこう言っているんだ、甘えていいんだよ。

さあ、今日はとことん遊ぼうじゃないか!」

 

真唯がキラキラした笑顔で言う。

よし、それじゃあ今日の本題に入りますか。

 

 

今日の出し物は、なんとレトロゲーム。

紗月さんが押し入れから引っ張り出してきたのは、

お母さんのお下がりだという伝説のハード『ゲームボーイアドバンス』。

ソフトは名作『ポケットモンスター ファイアレッド・リーフグリーン』。

 

「これで通信対戦をするつもりだったのだけれど……

さすがに通信ケーブルなんて、今はもう骨董品ね」

 

紗月さんが困ったように眉を寄せた。

ふふふ……ここで引き下がるわたしじゃない。

カーストトップで、ガジェットと執着心も一級品のわたしを見くびらないでほしい。

 

「……ふっふっふ、紗月さん。

今の時代、そんな悩みは『Switch』が解決してくれるんですよ!」

 

ドヤ顔で鞄から取り出したのは、なんとSwitch3台。

……え?なぜ3台もあるのかって?

それは、予備の予備まで用意するのが真のゲーマーの嗜みだからだよ!

 

「今のSwitchなら、公式の配信サービスでGBAのソフトが遊べるんです!

通信もワイヤレス!時代は令和なんですよ!」

「……準備良すぎじゃないかしら、甘織」

 

引き気味の紗月さんを余所に、わたしたちはさっそく対戦を開始した。

 

「いっけえええ!わたしの愛しいラプラスちゃん!『れいとうビーム』で粉砕!」

 

画面の中で、わたしの育て上げたラプラスが、

真唯のライチュウ(通称:マイチュウ)を氷漬けにする。

 

「な、なぜだ!?相性は私のマイチュウの方が圧倒的に有利なはず……

なのに、どうして一撃で……っ!?」

 

真唯が驚愕に目を見開く。

当然だよ、真唯。

チミのライチュウは「可愛いから」という理由で捕まえた野生児。

対する私のラプラスは、孵化作業を数百回繰り返し、

個体値を極限まで高めた努力値振り切り個体なんだから!

 

再び氷の光が画面を走る。

今度は真唯のフシギバナのHPバーが一瞬で赤になり――

 

ドン。瀕死☆

 

「勝ったぁぁぁ!圧倒的勝利!

ちゅきちゅきちゅっちゅ♡ わたしのラプラスちゃん最高!」

 

わたしは液晶画面に熱烈なキスを贈る。

ああ、画面越しに感じるこの勝利の味。最高に気持ちいいのぉ♡

 

「……甘織、少し落ち着きなさい。真唯が本気で落ち込んでいるわよ」

「わ、私のポケモンが……。れな子、君は一体どんな魔法を使ったんだい?」

 

震える真唯に、紗月さんが溜息混じりに解説を入れる。

 

「真唯、無駄よ。甘織は『6V』も平気で粘るような、いわゆる廃人なのよ」

「ろくぶい……?禄高のことか?」

「違うわよ。まあ、とにかく素人と玄人の差ってこと」

 

真唯が「なんだそれは……」と宇宙の真理に触れたような顔をしている。

いい気になったわたしは、Switchを指先でプラプラさせながら、

今度は紗月さんに狙いを定めた。

 

「ねえ、紗月さん?次は紗月さんの番ですよ。

氷の女王も、わたしのラプラスの前では溶けちゃうんじゃないかなぁ~?」

「……いいわ。その挑戦、受けて立つわ」

 

――5分後。

 

「ぎゃあああああああああああ!?」

 

私のラプラスは、

紗月さんのサンダースが放った『10まんボルト』の前に、一瞬で塵となった。

即落ち2コマ。ぐうの音も出ない完敗。

 

「……あの、紗月さん。そのサンダース、努力値調整完璧すぎませんか……?」

「母から『これだけは負けるな』と教わった育成理論よ。甘いわね、甘織」

 

氷の女王は、ゲームの世界でも女王だった。

 

「さて。負けた二人には、お約束の『罰ゲーム』が必要よね?」

 

紗月さんの目が、サド気味に光る。

まずはターゲットにされたのは、

まだマイチュウの敗北から立ち直れていない真唯だ。

 

「真唯。貴方の完璧主義を少し崩してあげましょうか。

……甘織は知らないでしょうけど、真唯は小学生の頃、

お泊り会でおねしょをしたことがあるのよ」

「ちょ、紗月!?それは……!」

「私が自分のせいにして庇ってあげたけれど、親と先生にはバレバレだったわ。

真唯、泣きじゃくって私のパジャマを握りしめていたわよね」

 

真唯の顔が、熟れたトマトのように真っ赤になる。

 

「れ、れな子!今の話を聞いたかい!?もし、もし記憶してしまったのなら、

今すぐ脳みそを他人と移植してはもらえないだろうか!?いますぐ!スワップ!」

「真唯、落ち着いて!脳みそスワップは流石にヤバいから!」

 

頭のネジが数本飛んでしまった真唯を宥めるのは大変だった。

完璧超人の意外な弱点……ごちそうさまです。

 

「次は甘織ね」

 

紗月さんの冷たい指先が私を指す。ひいいっ。

 

「……貴方、先日私が貸した官能小説の続きが気になるからって、

夜中に『続巻も貸してください、お願いしますなんでもしますから』って

メッセージ送ってきたわよね?」

「わーわーわーっ!言わないで!それは言っちゃダメなやつ!」

 

わたしは耳まで真っ赤にして悶絶した。

あの背徳感あふれる文体、ねっとりとした描写……

一度読んだら止まらなくなっちゃうんだよ!

 

「ほう……」

 

隣で復活した真唯が、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 

「れな子。そんなに興味があるのなら……

今ここで、私と『そういうこと』をしてみるかい?」

「絶対しないから!挑発し返さないで!」

 

ぐぬぬ……このままじゃ一方的にやられっぱなしだ。

どうにかして、この涼しい顔をしている紗月さんの鼻をあかしてやりたい。

 

紗月さんの弱点。

鉄壁の防御を誇る彼女に、

ギャラドスへの電気技のような「4倍ダメージ」を与える攻撃……。

 

……あ。

あった。

 

「……ねえ、紗月さん。そんなこと言っちゃっていいんですかねぇ?」

 

わたしは、ニヤリと口角を上げた。

 

「……なによ。私に弱点なんてないわよ」

「いいえ、あります。……わたし、知ってるんですよ。

前に紗月さんとキスしたとき、わたしがちょっと勇気を出して舌を入れたら……

紗月さん、耳まで真っ赤にして、小鹿みたいに身体を震わせて――」

「ひっ、……な、ななななっ……!」

 

紗月さんの顔が、一瞬で沸騰した。

キマった!4倍ダメージ!効果はばつぐんだ!

 

しかし、次の瞬間。

紗月さんがスカートのポケットから取り出したのは、

スマホでもハンカチでもなく――護身用のスタンガンだった。

 

バチバチバチィッ!!

 

「甘織……これで4倍ダメージ、受けてみる?『れなドス』さん?」

「ひいいいいいっ!?ス、スタンガン!?

女子高生が持ち歩いていい出力じゃないからそれ!?」

 

青白い火花を散らすスタンガンを前に、わたしは腰を抜かしそうになる。

けれど、ここで引いたらカーストトップ層の誇りが廃る!

 

「……そんなに怒るってことは、図星なんだ!

紗月さんは、クインテットの中で一番、身体が敏感なくせに――っ!!」

「だっ、黙りなさいっ!!」

 

わーわーぎゃーぎゃー

 

結局、恥ずかしさで爆発した紗月さんに、

クッションやぬいぐるみを山ほど投げつけられ、

わたしはアパートの隅へと追いやられた。

真唯は横で「クインテットで一番……ほう、それは興味深いデータだ」と

メモを取ろうとして、また紗月さんに怒られている。

 

狭いアパートの一室。

外は少しずつ夕暮れの色に染まっていた。

 

「……全く。貴方たちといると、本当に疲れるわ」

 

髪を少し乱した紗月さんが、ふいっと窓の外を向いて呟く。

でも、その耳の先はまだ少し赤い。

 

「でも、楽しかっただろう?紗月」

 

真唯が優しく笑いかける。

 

「……否定はしないわよ。次は、もっとマシな罰ゲームにしましょう」

「へへ、じゃあ次はみんなであっち向いてホイの負け残り暴露大会ね!」

「れな子、それは自爆しに行くようなものじゃないかい?」

 

わたしたちは顔を見合わせて笑った。

こうして一緒にバカをやれる時間は、

どんなレアなポケモンを手に入れるよりも、ずっとずっと大切な宝物だ。

 

……あ、ところで紗月さん。

さっきの官能小説の続き、本当に貸してくれませんか?

 

「……スタンガン、もう一回浴びたいかしら?」

 

ごめんなさい黙ります!




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