クインテットの日常   作:戦竜

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まいさつの乳首当てゲーム

紗月のアパートは、相変わらず静かだった。

ワンルームの空間に置かれた最低限の家具、整えられすぎていない生活感。

それが彼女らしいと、真唯は何度目かの訪問で改めて思う。

 

「それでね、突然なのだけど」

 

座布団の上に足を組んで座り、

湯気の立つマグカップを両手で包みながら、真唯が唐突に口を開いた。

 

「……嫌な予感がするのだけれど」

 

紗月は視線だけを向けて、淡々と返す。

 

「乳首当てゲームをしよう」

「……は?」

 

あまりに予想外の単語に、紗月の眉がわずかに動いた。

 

「なにそれ」

「文字通りだよ。服の上から、相手の乳首の位置を当てるだけ」

 

真唯は悪びれもせず言い切る。

その顔は真剣で、どこか妙に張り切っていた。

 

「今度、れな子とやることになってて……その練習さ」

「意味が分からない……」

 

紗月はため息を一つ吐いた。

が、すぐに理解もしてしまう。

真唯がこういう提案をした時点で、拒否権はほぼ存在しない。

 

「どうせ断ってもやるのでしょう?」

「うん」

 

即答だった。

 

「……はあ」

 

観念したように肩を落とし、紗月はカップをテーブルに置く。

 

「一回だけよ」

「ありがとう」

 

真唯は嬉しそうに身を乗り出した。

 

「それでは、私からだね」

 

そう言って、真唯は紗月の方へ少し距離を詰める。

近い。思ったより、ずっと。

 

「服の上から、よね」

「そう」

 

確認するように言いながら、真唯の指先が宙で迷う。

視線は真剣だが、その真剣さが逆に変な緊張を生んでいた。

 

「……ここ!」

 

えい、と軽く突かれた指先が、紗月の胸に触れる。

 

「……違うわ」

 

即座に返され、紗月は小さく鼻で笑った。

 

「フッ」

「ちょっと、その笑い方はずるくないか?」

 

真唯は悔しそうに頬を膨らませる。

 

「もう一回!今のはウォーミングアップとしてだから!」

「理由になっていないけれど……まあ、もう一度だけよ」

「よし!」

 

真唯は今度こそ、と真剣に狙いを定める。

指先が服の上を、ほんのわずかに彷徨う。

 

――近い。

距離が、意識せずにはいられないほど。

 

「……ここっ!」

 

再び一突き。

 

「残念」

「えええ……」

 

肩を落とす真唯に、紗月は涼しい顔で告げる。

 

「次は、私の番ね」

「え、あ……うむ」

 

言われて初めて、真唯は自分が突かれる側になることを意識したようだった。

 

紗月は少しだけ間を置き、真唯の正面に向き直る。

 

「動かないで」

「……うん」

 

その声が、わずかに硬い。

 

紗月の指が、迷いなく伸びる。

服越しに、正確な胸の位置へ。

 

つん。

 

「……っ!?」

 

真唯の体が、びくっと跳ねた。

 

「当たりのようね」

「そ、んな……」

 

驚きに目を見開いたまま、真唯は言葉を失う。

 

「どうして……」

「覚えているだけ。昔、一緒に着替えた時に見えたから」

 

事実を述べただけの、平然とした口調。

だが、その言葉とは裏腹に、紗月自身の頬にも熱が集まっていく。

 

「……」

 

真唯の頬が、じわじわと赤く染まっていく。

 

「な、なんか……」

 

言いかけて、言葉に詰まる。

 

「……妙な気分」

 

紗月も同じだった。

胸の奥が、落ち着かない。

 

「……私たち、何をしているのかしら」

 

思わず漏れた独り言に、真唯が小さく頷く。

 

「うむ……これは」

 

一拍置いて、

 

「危険な遊びかもしれない」

 

その言葉に、二人は顔を見合わせ、そして同時に視線を逸らした。

 

もしも、ここにまいさつ過激派の花取がいたら、

状況を理解した瞬間に鼻血を吹き出していただろう。

 

部屋に、気まずい沈黙が落ちる。

さっきまでの軽さが、嘘のように消えていた。

 

「……今日は、ここまでね」

「……うむ」

 

そう答えながらも、真唯の頬の赤みはなかなか引かなかった。

 

紗月も同じだった。

 

ただの遊びのはずだった。

それなのに、指先の感触だけが、妙に鮮明に残っている。

 

しばらくして、どちらからともなくカップに手を伸ばす。

視線は合わない。

 

カップの中のココアはまだほんのり温かった。




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