機動戦士ガンダム二次創作  ミリしらシャア・アズナブル列伝   作:泉 とも

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身元引受人系戦災孤児

 アーガマ艦内、機首にて。

 

「は~~~~……」

「いつにも増して大きな溜息ですな」

「無理もありませんけどね」

 

 シャアは壁にもたれかかり完全に上の空だった。

 

 例によって例の如く忙しかったのだが、今回は段違いに忙しかったのだ。

 

 何せ地上に降りてキリマンジャロ基地を攻略し、そのまま暫定地球連邦議会総会にてティターンズを告発、自身のシャア及びキャスバルとしての正体を明かしつつ、演説を行ったのだ。

 

「しかしラプラス憲章の原盤が出た時は驚きましたよ」

 

「ああ、何でも直前になって情報部から原稿と一緒に渡されたらしい」

 

「情報部って本当に仕事をしてたんですね」

「ああ、オレも初めて知ったよ」

 

 ドレンとカミーユはすっかり打ち解けていた。

 

 カミーユを正規のパイロットにするかどうかで、無理解な大人の外圧ではなく、間にシャアが立っての説明と説得の甲斐もあり、スムーズな正規化へと繋げられたのが大きい。

 

「証拠の提出、ティターンズのパイロットの証言、ラプラス憲章の告発。これでもう地球連邦に再起の芽はありませんね」

 

 情報部改めジオン諜報部の努力が身を結び、世論に影響を与えられる最高のタイミングで、アースノイドの移民弾圧を追及することができた。

 

 今やクワトロ・バジーナことシャア・アズナブルは教科書に載るレベルの偉人である。

 

 歴史クラスタの女子は部屋に写真を飾ったりしている。

 

「ギレン閣下の目論見は、これでやっと果たされるという訳だな。認めたくは無いが」

 

 シャアはのそりと体を起こした。貰った原稿に幾らかアレンジを加えつつ、ザビ家批判は避け、ぶっつけ本番で演説を行ったのだ。

 

 危うく何かふわふわしたお気持ち表明で終わる所だったのが、おかげでしっかりと物が言えたので、誰にも文句は付けられない。

 

「これで少しは平和になるんですかね」

「少なくとも、大きな戦争はこれで終わりだろう」

「良かった……」

 

 カミーユの呟きには、年齢に似合わぬ憂いが滲んでいた。

 

「色々有ったが、後は追い詰められたティターンズの動向を掴んで、最後の戦いに勝利するだけだ」

 

「最早連中に残された手は、コロニーか月の実行支配しかありませんからな」

 

 ティターンズは残存する戦力を全て宇宙に上げていた。汚職に関わった以上先には末路しかないが、大人しく降伏するようならこんな勢力に入っていない。

 

「決戦前か。息抜きができるのはこれが最後かもしれん。疲れは取っておけよ」

 

「大尉が一番心配ですよ」

「全くですな」

『ははははは!』

 

「あっいたいた、カミーユ!」

 

 などと話していると、通路から女性が二人やって来た。

 

「お兄ちゃん、じゃなかった。カミーユ君。こんにちは」

 

「フォウ、それにロザミィ。どうしたんだい二人とも」

 

 先日救出した強化人間ズが、我先にとカミーユに甘える。

 

「二人で街に出掛けようかって、それでカミーユとファも誘おうってなったのよ」

 

「ええ、参ったな。ドレン艦長」

「構わんよ。せいぜい羽を伸ばして来い」

「ありがとうございます艦長、さ、行きましょう!」

 

 カミーユはあっという間に女性陣に連れて行かれてしまった。この後ファも加えて三人ハーレム状態になるのだが、フォウもロザミアもカミーユを慕いながらも、ファとくっつける気でいるのだから健気である。

 

 私はあんたのお守りで良いと言う意思を体現するのだから、正にラブイズオーバー。

 

「あの子たちも、だいぶ回復しましたな」

 

「ああ、初めてロザミアを見た時は肝を冷やしたものだが」

 

 洗脳に洗脳を重ねた強化人間ロザミア・バダムは、カミーユの妹と称していきなり現れた。

 

 どうみても二十代半ばのデカイ女性が、十七歳の青年に向かって突然お兄ちゃん!と言って来るのは恐怖でしかない。

 

 チェンジで。

 

「サイコミュの感応とカミーユの熱意で何とかなったが、若さとは羨ましいものだ」

 

 現実的な脅威とそのイタさは、周りになんて酷いことをと思わせるには十分だった。

 

 突然のバラドル転向のような仕打ち。案の定凶暴化して敵として現れた。

 

「あのガトーとかいうパイロットにも例を言わないといかんですな」

 

「ああ。真っ直ぐ過ぎるが、今はラーディッシュの一員だったか」

 

 ロザミアを説得した際に彼女が暴走、ガトーがサイコガンダムマークⅡを討ち取りかけた所をカミーユが制止し、それを見たバスクがゲーツにガトーを撃つように命令し、味方から攻撃されてガトーが離反したという。

 

 スパロボみたいな一幕があったのだ。

 

「待ってくれ!彼女は無理矢理戦わされているだけなんた!」

 

「エゥーゴのパイロット!敵を庇うとは貴様、ロザミア・バダムとどういう関係だ!」

 

「ロザミィはオレの、オレの妹なんだ!」

「!」

「オレが彼女を助けて見せる。だから、どうか手を出さないでくれ!」

 

 みたいな。

 

「アナハイムの恋人がオサリバンとかいう上司からセクハラを受けて、それを知ったガトーがそいつを殴り倒したことで、ティターンズに左遷されたらしいですよ」

 

「元々いる筋合いのない人間だったという訳だ」

 

 その後は無事に生存し、エマ中尉よろしくエゥーゴに投降。アーガマは既に人がいっぱいだったので、ラーディッシュへと送られた。

 

 そしてサイコガンダムから解放されたロザミアは、一旦月へ送られたのだが、肉体に重点を置いて強化されていたことで、回復がフォウよりも早かった。

 

「しかしニュータイプの精神感応というのは凄まじいですな。マシンによる洗脳を無理矢理解除するとは」

 

 ララァとカミーユに加え、何故かガブスレイに乗ったフォウが現れ、加勢してくれたのだ。調べると機体の出所はグラナダであり、キシリアの手配によるものだった。

 

 現在アーガマは毒ガス作戦から防衛したサイドⅡで、補給を受けている所である。

 

「もっとも、あのデカブツを無力化したのは、結局物理的な力だった。これからもそうだろう」

 

「ですな。そこを忘れないようにしませんと。しかしキシリア閣下も随分あの若者を買っている。まあ気持ちは分かりますがね」

 

「ああ、フォウのことで面談した時、彼らに任せてみようとなったらしい」

 

 ロザミアが現れる前に、フォウの治療経過を話す際、キシリアはフォウがよく話すカミーユを見たいと通信を入れて来た。

 

 カミーユもまたこれには直ぐに応じた。

 

 

 ――その際のやり取りでは。

 

 

「君がカミーユ・ビダンか。フォウ・ムラサメの治療経過だが、彼女を救助した君には伝えておくべきと思ってな。お初にお目にかかる。キシリア・ザビである」

 

「あっ、えっと、お気遣い、ありがとうございます」

 

 さしものカミーユもジオンの実質的№Ⅱを前にしては緊張した。だがキシリアはその様子を意に介さない。

 

「縮こまることはない。君は自分の身内の容態を聞くだけなのだから」

 

「あっはい」

 

「結論から言おう。彼女の容態は良好だ。過度の追加実験なども受けなかったのが幸いした。脳へのダメージも驚異的な速度で回復している。ただし」

 

「ただし、何ですか」

 

 キシリアはカルテを見ながら一度目を瞑った。少しの間を置いてから、カミーユに向き直る。

 

「彼女には素性が無いのだ」

「素性?」

「どこの誰であったかということだ」

「!」

 

「彼女はムラサメ研究所の被検体第四号。だからフォウ・ムラサメ。それ以前に何処で生まれ、誰と暮らしていたかの記録は抹消されていた。よいか、これが強化人間に選ばれる者ということだ」

 

 厳しく、そして淡々と告げるキシリアに、カミーユの喉はカラカラに干上がっていく。

 

 命のやり取りとは別の、無機質な悪意に全身が汗ばむ。

 

「強化の過程で被検者の性格の変更や、人格の上塗りなどは既に問題となっている。今後は別人格を植え付けられた強化人間が作られるかもしれないが、元の人格さえ本来のものとは限らないのだ」

 

 人間に対するあまりに粗略な扱いに、カミーユの脳は理解を拒んだが、彼は全身の力で理性を保った。

 

「フォウ・ムラサメについてはこちらで引き取る用意もあるが、もしも彼女がそれを拒んだとき、或いは君の傍にいることを望んだとき、君はどうする。カミーユ・ビダン」

 

 カミーユは何故キシリアが自分と話そうとしたのか、真意を悟った。

 

 フォウが呼んでいるのだ。自分を。

 

「オレにできることは、何もないかもしれません。だけど、もしもフォウが、オレの傍にいたいと言ってくれるなら、オレは、彼女の支えてあげたいと思います。彼女が、いつか本当の彼女になれるまで」

 

「……あの男も、縁に恵まれたものだな」

「え?」

 

「君の意思は確認した。今日は急に呼び出してすまなかったな。ありがとう」

 

「こちらこそ、フォウをよろしくお願いします」

「ああ、またいずれ会おう。カミーユ・ビダン」

 

 その後フォウはグラナダの病院を脱走、これ見よがしに用意してあったガブスレイを奪って出撃、カミーユたちと合流したのだった。

 

 

 ――そして場面はアーガマに戻る。

 

 

「大尉もご家族と過ごされたどうです」

 

「そうだな。こんな状況では子供たちを、グラナダにもアクシズにも預けられん」

 

「戦いが終わらないと、ご実家にも帰れませんな」

 

「自宅より前線にいた時間の方が長いくらいだ。笑えない父親だよ」

 

 ドレンに軽く手を振ると、シャアは空いた時間を家族サービスに使うことにした。

 

 空気を悪くするだけのレコアもいなくなったので、アーガマの空気は何時になく穏やかだった。

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