機動戦士ガンダム二次創作  ミリしらシャア・アズナブル列伝   作:泉 とも

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ガルマ出向

 サイドⅢジオン軍基地にて。

 

「お帰りなさい大佐、休暇はどうでした」

 

 シャアの復帰に際して、真っ先に声を掛けたのはドレン(未だにフルネーム無し)だった。

 

「慣れない休みは却って仕事を増やすことが分かった。いい勉強になったよ」

 

「違いないですな」

 

 シャアは大佐である。

 バリバリの高級士官である。

 

 終戦後は前線から遠ざかり、政務官の真似事のようなことをして日々を過ごしていた。

 

「ドレンはまだファルメルの艦長をしているのか」

 

「ええ。文官に戻るには戦場を経験し過ぎました。航海することが性に合ってしまいまして」

 

「君も今や歴戦の艦長だ。嫌だと言っても軍が許さんだろう」

 

 ドレンは開戦当時からシャアの副官を務め上げ、ムサイ級戦艦を運用して戦い続けた。

 

「パイロットと違って艦長職は寿命が長いですからな、このまま永久就職と佐官昇進を目指しますよ」

 

「堅実で何よりだ」

 

 当時の部下は散り散りになっていたが、ドレンはサイド3に戻され、士官学校付きの艦長に納まっていた。

 

 目立つ功績こそないが、無事之名馬の言葉通り、無難・堅実な船の指揮は若人たちの良い手本になった。

 

「一度はザンジバル級に乗りたかったんですが、まあムサイが旧式になったら、嫌でも新しい艦に乗れますからな、それで我慢しますよ」

 

「気の長い話だが、ドレンのそういう所が艦長に向いているんだろう」

 

「どうも」

 

 そこで分かれると、シャアは自分に宛がわれた部屋へと向かった。

 

 左官待遇ともなれば個別の執務室くらいはある。これからは訓練と内勤の日々を送ることになる。

 

「私も今日からは普通のおじさんか」

 

 独り言を呟くと、彼は自分宛てに通信が入っていることに気付いた。執務机の呼び出しボタンを押すと、宙に映像が浮かび上がり、オペ子が出現した。

 

『シャア大佐、ガルマ准将から通信が入っています』

「ガルマから?分かった。繋いでくれ」

『了解しました』

 

 ガルマ・ザビは一年戦争終結後、昇進して准将となっていた。

 

『久しぶりだな、シャア』

「この前会ったばかりじゃないか」

『そういえばそうだった』

 

 シャアの結婚式を手配し、当日いの一番に駆け付けたのが、誰あろうこの男であった。

 

「奥さんとは上手くやれているか?君のことだ、もう尻に敷かれている頃だと思うんだが」

 

「互いに押し切られた身の上だ。同じ末路を遂げるさ」

 

 ガルマは終戦後、イセリナと正式に結婚した。

 

 イセリナ側の周辺人物は反ジオンであり猛反対したが、それならばとイセリナは家を捨てようとした。

 

 ガルマはそれなら自分がジオンを捨てると言い放つも、この話を聞いたドズルに『自分から甲斐性を手放してどうする』と一喝されて撤回。

 

 最終的にジオンは戦勝国なんだから、ということで一応はまとまったのだった。

 

「はっはっは、違いない。戦時中は心の支えだったが、平和になるとこの世で一番怖いのが女だ」

 

「よせガルマ、どこで耳に入るか分からん。そろそろ仕事の話でもしようじゃないか」

 

「そうだな」

 

 雑談を終えると、彼等は少しだけ態度を真面目にした。

 

 男にとって最も幸福な時間は趣味に没頭するか、気心の知れた有人とだべるかのどちらかである。

 

「実は今度、アクシズに転勤するんだ」

「アクシズに?また急な話だな」

 

「ギレン兄上から直々の話なんだ」

「ギレン総帥の?」

 

 ギレン・ザビはデギン・ザビの第一子であり生粋のレイシストである。

 

 それは差別感情ではなく、状況判断から来る現実主義者としての差別である。

 

 身内だろうが使い潰そうとする冷徹さと傲慢さを併せ持つが、その才を遺憾なく発揮してジオンを勝利へと導いた。

 

 シャアがガンダムを拾っていなくても、ギレンの野望ならば戦勝に辿り着いただろうとは、よく言われることである。

 

「兄上は戦争を終わらせたが、その時のやり方で反発を食らっていてな」

 

「まあ、アレは仕方があるまい」

 

 ギレンは軍が制宙権を確立し、地球へ降下してジャブローを発見した後、容赦なくコロニーを落とした。

 

 これにより地球連邦最大の軍事拠点たるジャブロー地下基地は壊滅、破壊を免れた部分にもキシリアからマ・クベを通し、核で爆破した。

 

 この徹底的な殲滅により、連邦は最後の反抗能力を失い、終戦へと至った。ジオン軍の被害は出なかったが、やり方が非人道的過ぎるとして、ギレンは現在ハト派から突き上げを食らっている。

 

「元はと言えば、制圧用の人員が慢性的に不足していたのが原因だからな」

 

 ジオン軍は開戦から地上の六割を瞬く間に制圧したが、広い地球を制圧する人員が不足したために、膠着状態を招いた。

 

 何せ他のコロニーが連邦の犬同然の状態であり、どのコロニーもコロニー側であるジオンに与しなかったためである。

 

 このせいでジオンはいきなり周りのコロニーから、喉元に刃物を突き付けられた状態で開戦することになった。

 

 もっとも、そのおかげで不満分子の粛清と落下用コロニーの調達、当時の連邦軍元帥レビルの捕縛と抹殺などに繋がるのだが。

 

「ああ、私もあまり言いたくないが、地上の7割を制圧し、連邦軍が壊滅してやっと他のコロニーたちが参戦に乗り出したからな」

 

「ドズル閣下が口角泡を飛ばして、激していらしたのも納得だ」

 

 ギレンはやむを得ず企業や連邦軍からの離反者たちをも登用し、大々的に宣伝を打った。

 

 その甲斐もあって地上の完全制圧は成されたのである。

 

「とはいえ、地上は君のおかげでまとまりつつある。今君が抜けたらそれこそどうなるか」

 

「いや、実はその地上のこともあって、行かなくてはならないんだ。地上には粛清の嵐が吹き荒れ、産業が減っている。そこで連邦のMSを作らせようとなったんだ」

 

 抜け駆けや違法行為に手を付けた者は当然だが処罰されている。ジオンは戦後処理に忙殺されている真っ最中だった。

 

「戦時中はあれほど必死になって食い止めたのに、それこそ反発を受けるだろう」

 

「だからさ、ザビ家には経済を担当し、穏健派に回る人間がいない」

 

「確かにな」

 

 ギレンは政治、キシリアは研究、ドズルは軍事を担当している。

 

 経済もギレンが担当しているが、枠が空いていると言えば空いている。

 

「身内から追及されるほうが、世間体にも良いとお考えらしい」

 

「なるほど。イメージダウンを軽減しつつ、地上と宇宙の間を取り持ち、ザビ家の経済圏を確かにしようというのか。顔の良い君には打って付けだな」

 

 ガルマは見た目が良く、加えて『全員の仲が悪いザビ家の全員に可愛がられ』仲が良い。

 

 育ちの良い戦勝国国家元首の末子というロイヤル具合で、気付けば味方も増えている。

 

 かく言うシャアもその一人だった。

 

「茶化さないでくれ。これでも気を揉んでいるんだ」

 

「そうだろうな。話を戻すが、何故アクシズなんだ」

 

「ああ、そこには穏健派の重鎮、マハラジャ・カーン氏がいる。彼に指導してもらいつつ、連邦製MS開発の手綱を握って貰おうという話になったのだ」

 

(あわよくば政治基盤も吸収させる気だろう)

 

 シャアはこの左遷紛いの出向にきな臭いものを感じていた。

 

 ガルマはザビ家からはみ出した仁徳である。ギレンが生理的に嫌悪する人種とも言えた。

 

 あくまでもザビ家の人間だから、目零しされているだけに見えた。

 

「今回の勝利で、ジオニック社とツィマッド社の政治的発言力は大幅に増した。これを牽制できるようにしたいのが、兄上の狙いだろう」

 

「ああ、なるほど」

 

 シャアが持ち帰った連邦製MSの技術は業界を激震させた。

 

 しかし生産ラインというものがあるので、どれだけ技術革新をしても、いやむしろ技術革新をするほど、生産と整備は現行から離れて行く。

 

 加えて地元産業の保護と経済の観点から言えば『ガンダムたちが強いからそればっかり作ればいいじゃん』とはならないのだ。こんなものはちょっと社会人をやれば分かることである。

 

「今やその二社は共同の一社と思って差し支えが無い」

 

 そして連邦の技術を取り入れ、強化改修が前倒しになると、補給・整備構造が別々であることは致命的となった。

 

 同じく前倒しで統合整備計画は強行され、ジオニックとツィマッドを事実上の強大な一社へと変えてしまったのだ。

 

「ああ。だが月のアナハイムを使うこともできない。あそこには信用以外の全てがあるからな」

 

『信用以外の全てがある』とはアナハイム・エレクトロニクスに対する揶揄(キャッチコピー)である。

 

 形振り構わない手口で伸し上がった企業で、圧倒的な工業力を有するが、MS開発を任されず出遅れていた。

 

 またヤシマ重工との業務提携も、つい先日決裂したばかりだった。

 

「……シャア、私がアクシズに向かったら、地上の動向に目を光らせておいてくれないか」

 

「それが本題か。私には政治や経済の話は荷が重い」

 

 そんなこと言っても任せるとだいたい何でも卒なくこなすのがこの男である。

 

「真面目な話だ。兄上は私の不在に、地上の不満分子を焚き付けるやもしれない。それを避けたいのだ」

 

 地上の治安は北米を中心に、ガルマのカリスマに頼って保たれている状態である。

 

 わざわざそれを引っこ抜けばどうなるか、想像するに難くなかった。

 

「分かった。出来る限りのことはしてみよう。ちなみにこの話は他にもしたのか、ガルマ」

 

「ああ、父上とドズル兄上とキシリア姉上とラル大尉と……」

 

「はっはっはっはっはっはっはっは!分かった、もういい」

 

「笑うなよ、兵が見ている」

 

 つまり兵士にも筒抜けである。

 

「その調子なら滅多なこともあるまい。気を付けて行って来るがいい」

 

「ありがとうシャア。私とてザビ家の男。やって見せるさ」

 

「ああ、勝利の栄光を、君に」

 

 そこで通信が途切れ、シャアは一つ溜息を吐いた。

 

「ほとんど言い触らしているようなものだな。まあ、根回しが済んでいると考えよう」

 

 シャアはそう呟くと、ガルマが言い触らして回った者たちに向け、回線を開いた。

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