機動戦士ガンダム二次創作  ミリしらシャア・アズナブル列伝   作:泉 とも

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保護者会議

「全く兄貴も余計なことをしてくれる!」

 

 シャアが通信を繋いだ矢先、ドズル・ザビは開口一番そう言った。

 

「ドズル兄さん、落ち着いてください」

 

 それを嗜めるのはキシリア・ザビ。ジオン公国を治めるザビ家三兄弟の内二人が、この会議に参加していた。

 

 議題はずばり、ガルマの今後であった。

 

「ガルマは司令官としてはお飾りだったかもしれんが、今ではジオン軍兵器開発部の重要な相談役で、各企業との折衝を担当しているのだぞ」

 

 戦時中のガルマは軍が毎週のように繰り出して来るびっくりドッキリメカに胃を痛めては必死にケチをつけまくる日々を送っていた。

 

 その甲斐もあって生産ラインの乱造と迷走は防がれていたのである。

 

「今はただでさえ開発競争も過熱し、戦後の時期主力MSの座を争って、混迷を極める情勢だというのに。このままビグザムが量産されでもしたら、俺はガルマに殺されてしまう」

 

「それは流石に言い過ぎでは」

 

 シャアは思わず笑った。末っ子への罪悪感に弱る巨漢の図が、思いの外に可愛らしかったのだ。

 

「ドズル兄さん、ビグザムの量産は元々兄さんの案だったではありませんか」

 

「そうだ。しかしこうも矢継ぎ早に改良版が出回れば、俺も拘ってはいられん」

 

 ジャブロー攻略に使用されるかとも思われたビグザムだが、アジア方面軍で鬼才と名高いギニアス技術少将がアプサラスシリーズを開発。

 

 これが思ったよりも使い勝手がよく、またアプサラスⅢは初陣で敵司令部と陣地を一撃の元に消し飛ばしたこともあり、ビグザムは出る幕を失ってしまったのだ。

 

 なおギニアス少将はその後『性能テストで戦いが終わってしまい誠に残念です』とイケボでメッセージを送って来た。

 

 ボロボロの体を推して兵器開発をし、完成した機体は戦場を圧倒した直後に本人は病没。技術畑の人間からはカリスマとして崇められている。

 

「統合整備計画の余波で、互換性のない部品を使い使い果たすために、コンペ落ちした機体やペーパープランの物を作らせてやれば、どいつもこいつも戦果を上げおって」

 

 愚痴のような自慢話をするドズル。

 

 ザクを始めとした陸戦と宇宙用MSは、部品の規格を統一することで生産性と整備性を劇的に向上させた。

 

 しかしそれ以前のバージョンと、そのための部品は消えゆく運命を負ったのだが、ドズルはいっそのこと使い捨てとして、戦場の攪乱目的で開発競争に敗れた機体の製造を許可した。

 

 そんなイレギュラー要素たちは善戦し、機体の様々なデータを豊かにし、より一層の活躍とアップデートを繰り返した。

 

 正式採用において旧ザクに敗れたヅダやブグなどは、連邦製技術を吸収し、当時高価と言われた仕様の陳腐化、コストダウン、課題の解決を経て、一気に新型の水準に返り咲く有様であった。

 

 中でもゼーゴックとズサブースターの誕生は奇跡としか言えなかった。

 

「今やジオン軍のMSは、同じ部品で作ろうと思えば何でも作れますからな」

 

 言わばジオン軍のMSは名前こそ違えど、大半がバリエーションに近い存在になっていた。

 

「問題児も多いが、無駄になった物は一つも無い」

 

 ちなみにミスター伸びしろの塊ことゲルググは、既に特殊部隊用や専用機のベース機としての枠を勝ち取っている。

 

「話を戻しましょう。今はガルマのことです」

 

 キシリアの咳払いに男二人が居住まいを正す。

 

 こういうことは脱線している内に本題に戻るものだが、それを待っている暇が全員にあるとは限らない。

 

「ガルマのアクシズへの出向、ギレン兄上の指示ですが、あの子の懸念は尤もなことです」

 

「うむ。兄貴は間違いなく、連邦の残党をまとめ上げて一掃する気だろう」

 

 ガルマ・ザビの唐突な異動。それについてドズルとキシリアが快く思っていなかったことにシャアは安心した。

 

「兄貴は敵を全て倒さんと気が済まん質だ。そしてそれができると考えている節がある」

 

「ジャブロー攻略時にマ・クベの登用を言われた時は、流石に耳を疑いました」

 

 連邦軍がオデッサに集結した時、キシリアはマ・クベを指揮官に推挙した。

 

 だがこの時ギレンは戦術核弾頭を惜しんで見送った。最初から連邦の本拠地攻撃に使うために温存する気だったのだ。

 

「結果的に味方の被害は抑えられたから俺も強くは言えんが、アレで方々に動揺が走り、危うく分裂するかという所まで行ったんだ」

 

「終戦で押し切った感は否めませんが、内外で火種が燻る今ガルマを外すようなことは、連邦の残党にせよ反ギレン派にせよ、敵を挑発し暴発させようとしているとしか思えませぬ」

 

 ともすれば新生ジオンだのネオジオンだのという名前の勢力が勃興しかねない。

 

「ガルマでさえも気付く当たり、相当に露骨だったということであります。アクシズの穏健派、マハラジャ・カーン氏の元へ行かせるというのも、反乱分子の出現と、その後への備えと考えるべきでしょう」

 

 自分の粗を人気者の身内に指摘させ、ダメージを軽減するという路線も当然予測できた。

 

 一つの行動に複数の狙いがあることは政治的には当然であり、国民感情をコントロールすることもまた、為政者の手腕の問われる所であった。

 

「産業起こしで連邦系MSの開発に合わせてガルマを外す。産業が軌道に乗る頃には、反乱分子が力を付ける。そういう段取りでしょう。ガルマの坊やは人に好かれる故、彼等が絆される可能性を危惧したのもあるでしょう」

 

「ははは、キシリア、何もそこまで買い被らんでもいい。それが期待されてはいたがな」

 

 シャアは笑えなかった。

 

 復讐の足掛かりにするはずが、結局その機会も無く、見つけても決心が付かず、今ではこうして世話を焼いている始末。

 

「ところでシャアよ、親父には声をかけなかったのか」

 

「はっ、デギン公王は一も二もなくガルマを助けてくれそうですが、ギレン閣下と衝突するのは不味いと思い」

 

「よく察してくれた。父の弾み易さがどう転ぶか、あまり想像したくはないのでな」

 

 デギンとギレンが不仲であることは、軍部においてはそこそこ知られたことだった。

 

 だから誰も口にはしない。わざわざヒビを入れるような言動を、自らすることもないからだ。

 

「親父にはこちらで方針を立ててから、俺から協力を仰ぐ。親子喧嘩一つで国が割れるかもしれんのだから、扱いに困るな」

 

「とりあえず、何もかもが今すぐ動き出す訳ではありません。地上のMS開発にせよ、それを鎮圧するこちらの新型量産機にせよ、危惧が現実になるには時間を要するでしょう」

 

 政治的スケジュールは年単位で動くのが常である。

 

 卑近な例だとオリンピックやワールドカップが四年のスパンで運営されているのがそう。

 

「三年から四年と言った所ですかな」

「MS開発ならば、そうであろう」

 

「問題は連邦残党だ。そこまで気持ちが続くかどうか」

 

 シャアはドズルの言わんとすることが分かった。復讐者の成り損ないには、身に詰まされる話題が豊富にある。

 

「復讐心が続く者もいるでしょうが、その数は未知数です。中には風化するものもいるでしょうが……」

 

「流石に詳しいな」

「はっ、よくある話というもので」

 

 キシリアはシャアの正体が分かっている。その上でからかって来る。神経が太い。

 

「俺も同じことを考えていた。問題は、敵が思ったより少数だった場合だ。兄貴のことだ、何がしか反感を煽るような仕込みをやるだろう。難なら敵対派閥と抱き合わせることもするに違いない」

 

 ギレンの家庭内での好感度と信用は払底していたが、それ故に人物像への理解は完璧かつ徹底していた。

 

「ガルマはその旗印に使われる恐れもあります」

「まさか」

「そのまさかが兄貴の恐ろしさよ、シャア」

 

 冷たい空気が会議に流れる。

 

「現状で打てる手は、せいぜい地上がギレン兄上に細工をされないよう、目を光らせておくことと、ガルマとの交流を絶やさないことです」

 

「こういうことは義務と思って、ローテーションを組んだ方が良いでしょうね」

 

 シャアはガルマがアクシズに発った後、定期的に連絡を取り合うことを提案した。

 

 ほとんど希少動物の保護観察である。

 

「それなら親父も巻き込めるだろう。全く、幾つになってもお守りの欠かせぬ弟だ」

 

 ドズルは笑うと通信を切った。

 残されたのはキシリアとシャアの二人のみ。

 

「私もこれで失礼する。月は私の庭だが、アレで鼠のうるさい場所でな」

 

「閣下、今日はガルマのことでご対応頂き、ありがとうございました」

 

 シャアは二人を前にしても、ガルマを様付けで呼んだりはしなかった。

 

 らしくもない失敗だが、無意識から来る行動だった。

 

「いや、ガルマのおかげで私も生きていられるし、あの子を立てれば貴様も悪い気はすまい」

 

「キシリア閣下」

 

「私は、父と兄の業については理解している。お前がその気なら、いつでも罰は受けよう」

 

 ジオン・ズム・ダイクンの暗殺。そしてシャア・アズナブルの正体。

 

 キシリアはそれらの真相を知っての上で、目の前の男と接していた。

 

「……おからかいにならないでください。私にはもう、そんな気は起こせない」

 

「だろうな。しかし人間とは不思議なもので、気を許した相手になら、却って腹が据わるというものだよ、キャスバル坊や」

 

「私はもう妻がいる身ですよ」

 

 精一杯の強がりである。

 21歳の青年と25歳の女性。

 

 十代にしか見えない男と35歳にしか見えない女性だが、そういうことになっている。

 

 シャア×キシリアとか50年経っても出なかったな。

 

「ふふふ、そうだな。貴様も立派な男になったよ、シャア」

 

 一瞬、キシリアの表情が柔らかくなる。

 知っている人を見送る、女性の笑み。

 

「ありがとうございます、閣下」

「では私も本来の仕事に戻る。互いに気を付けよう」

「はっドズル閣下にもお伝え願います」

「そうしよう。ではな」

 

 通信が切れて、シャアは再び一人になった。室内の静寂は白々しく、まだ人がいるような気さえしていた。

 

(戦争は終わらせるほうが難しいとは言うが)

 

 彼は机の上に置かれた、かつての仮面を触った。己を偽り駆け抜けた、激動の一年が、今は酷く恋しかった。

 

「上手く行かないものだな、人生は」

 

 そう独り言を呟くと、シャアは部屋の窓から、サイド3の景色を眺めた。

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