機動戦士ガンダム二次創作 ミリしらシャア・アズナブル列伝 作:泉 とも
月のアンマンにて。
「は~~~~……」
クワトロことシャアは気が滅入っていた。
それというのもカミーユの身内が立て続けに死んでしまったからだ。
事の発端は身バレしていたことで、カミーユの両親がティターンズに人質に取られたことにあった。
しかも雑に扱われて母親が死亡。
次に父親が不倫を皆にバラされ、ガンマガンダムに乗り込み機体を盗んだ挙句、息子に銃を向けて発砲。
その後撃墜され息子に手を差し伸べられずに死んだ。
「…………」
恥辱の限りを味わいながら、最終的責任が自分にあるかのような死に方をされ、カミーユのメンタルはズタボロだった。
しかもエゥーゴに来る女パイロットたちは軒並み気が強く、当たりも強いためメンタルケアが全くない。
この辺をちょっとなって思ったのか、後年の漫画版ではフォローするような描写があるそうなのだが、それは後付け設定というものである。
「ちょっとよくない空気ですな」
「こういう話の転がり方は、私も初めてだ」
誰が悪いのかって言ったら、シャアにも責任の一端は確かにある。
しかしわざわざ民間人を人質に取り、挙句二人も死なせたティターンズとは比べるべくもない。
何よりジェリドに切れて殴りかかった挙句、その後勢いで機体を奪って他の兵士たちにも機銃掃射をぶちかまし、バッチリ身バレしていたカミーユという存在が一番悪い。
因果応報や自業自得とも言い切れないが、迂闊というならその通りだった。
「ガンマガンダムの補充はどうだ」
「今は他の部隊が優先だそうです。先日解析に回したマークⅡを戻して貰いますか」
「そうだな。私の機体の追加装甲を送って、ついでに改造の一つもさせよう。連中のことだ。これを口実に試作機でも送り付けて来る気だろう。どの道補給や整備に不安の出る要素を抱えるなら、予めこちらで注文を付けておくのが賢明というものだ」
十年後くらいに結果を出す可変機の雛型(非可変機)を押し付けられるくらいなら、見えている範囲で安全面の期待値を高める。
ジオン軍で週刊とんち機を目にして来たシャアなりの処世術だった。
「ですな。それで大尉、この後どうなさる気で」
「カミーユを見て来る。こう見えて私も父親だ」
「奥さんに相談するのも手ですよ」
「名案だ」
本編でも基本的にシャアはカミーユを構いまくる。それは単純に相手を気に入っている以外にも、いい格好をしたかったのかも知れない。
「カミーユ、少しいいか?」
「何ですか?気を遣ってくれるなら、今は放っておいて欲しいんですが」
部屋の中に祭壇まで作って引きこもりかけており、傍目にもカミーユは重症だった。
トントン拍子に親が死んだ、この青年と少年の間くらいをフラフラしている彼を、シャアは放っておけなかった。
平成的価値観を背景にした理不尽慣れした大人たちのノンデリや甲斐性の無さは、このシャアとは無縁なのだ。
「お見通しか。だが、今後のことも話す必要がある。仕事と思って聞いてくれ」
「お題目でしょう」
「半分はな。君のために話題を用意できるほど、気の利いた男じゃない。プロポーズだって妻からされたんだ」
「大尉、奥さんがいたんですか」
意外と思ったのか、カミーユは会話に乗って来た。名前一つで癇癪を起す甘ったれだが、その分他人の好意には人一倍敏感であった。
日本だと僻み根性からか、甘やかされた子が将来甘ったれた大人になるという意見が主立つが、実際には過度に世話をしたりズレた甘えさせ方をしたりした毒親のケースであり、家族や周りが甘えさせないほうが、大人になってから反動が強く出て、世間で言われるようなステレオタイプの甘ったれになり易いのである。
簡単に言うと甘えさせてもらえなかった甘ったれが、自分のことを認めたくない一心で、十分に甘えさせてもらった子は甘ったれになるという世論を形成していたのだ。
悲しいね、バナージ。
「ああ、これがその写真だ」
シャアはパツパツノースリーブの懐から一枚の写真を取り出した。
そこにはシャアとララァ、そして三人の子供が写っていた。
「この子が長男のロランだ。下の子が双子で、キエルとソシエ。そしてこの女性がララァ。私の妻だ」
利発そうな銀髪褐色の美しい少年と、お姫様のような少女、そして声がイマイチそうな元気いっぱいの女の子。
シャアとララァの子である。
ここではそういうことにする。
いいね?
「上の子は今年で6つになる」
「髪が銀色ですね」
「ああ、検診で虚弱の兆候があり、放射線にも弱いと言われてしまってな。直ぐに地球に引っ越すこともできないし、コロニーで暮らすのにそれは命取りだった。だから遺伝子操作をして貰った。幸いにして、今の所は元気に育ってくれているが、その際に髪の色は変わってしまった。赤ん坊の時は私に似た金髪だったんだが、ほら」
シャアはまたパツパツノースリーブから写真を取り出した。そこには金髪時代のロランが写っていた。
(もしかして大尉の服がパツパツなのって、ポケットに写真を沢山入れているからなのか?)
「下の子は特に問題は無かった。強いて言えばソシエは最初から大きくて、キエルを押し退けるようにしていたくらいさ」
「妊娠と出産って二回目の方が上手く行くって言いますもんね」
二人はそこで少し笑った。
「……私はかつて、父をジオン軍に殺された。孤児になった私は、復讐のために引き取り先を飛び出し、兵士になった」
彼はサングラスをかけ直した。
忙しないサングラスである。
「だが戦う内に戦友や部下に愛着が湧き、妻にも知り合い、皆のその後の人生を考えた時、私は復讐をできなくなった。心のどこかで諦めきれずいるが、それでも考えないようになった」
シャアは自嘲した。本当にこれで良かったのかと、何かの節に思うようになった。
決して不幸ではないが、やらなくてはいけないことから、目を背けているような気がしていた。
「……守る者が出来たから、私はこのティターンズとの戦いに志願した。だが、そのせいで君を戦災孤児にしてしまった。すまない」
「それを言いたくて来たんですか」
「ああ。笑ってくれてもいい」
カミーユは笑った。少し泣きそうだった。
レコアやエマに比べてこのナイーブなおっさんの方が遥かに優しかった。
話の都合で途中からどんどん株が下がるクワトロ・バジーナはこの世界にはいないのだ。
「大尉のせいじゃありませんよ。悪いのはティターンズで、責任はオレにあります」
「カミーユ……」
しっかり善悪と責任を分けつつ、カミーユは言う。この辺を有耶無耶にしないのが如何にも彼である。
「オレは戦争を甘く見ていた。戦って死ぬかもしれないと思った。でもこんな風に、身の回りの人間を襲われるとは、考えてなかった」
「我々もそれを危惧して偽名を名乗ったり、ジオン系MSを使わないようにしたりと、色々手を打ったが、君がそうなってしまうとはな」
二人は溜息を吐いた。
迂闊、甘さ、たったそれだけの言葉に集約するには、現実はあまりに重い。
「……今度地球に降りる。そこでジャブローの攻略に向かう。ティターンズの幹部たちが集まる予定だから、彼等を捕える」
「分かりました」
口実で持って来た仕事の話で、会話を終わらせようとする不器用な二人。
年齢差が十歳と、年の離れた兄弟か、叔父と甥のようにも映る彼等。
NTだからではない、奇妙な親近感があった。
「カミーユ、もしもこの戦いが終わって、お互い生きていたら、私の家族に会ってくれないか」
「ええ?」
「兵士にとって戦いの後には、戦いの後を生きて行く誰かが必要だ。君にそういう人はいるかと思ってな」
「……」
カミーユの脳裏にファの姿が横切るが、小さく頭を振る。
「考えておきます。変ですよね、あんな親でも、生きている間は先のことなんか、心配しなくて良かったのに」
「人生なんてだいたいそんなものさ、む」
その時である。
艦内に警報がけたたましく鳴り響いたのは。
「ティターンズの戦艦が接近、パイロットは直ちに出撃!」
次いでドレンの怒鳴るような声がした。
「行くか」
「ええ」
妙な話ではあったが、戦いが彼らにとって気晴らしになりつつあった。
生と死の空間が人生を遠くに押しやる。その時間に身を委ねることを、求める自分たちがいた。
一方その頃。
「総統閣下、かねてよりご命令にありました例の物、発見と押収が完了しました」
「そうか。よくやった。後はこれを何処で使うかだな。下がって良い」
「はっ!」
サイドカ3ことジオン公国総統執務室にて、ギレン・ザビは政務という名の陰謀に取り組んでいた。
「宇宙に上げる人間と地上に落とす人間、その選別は私が行わなくてはならん。全く為政者とは難儀なものだ」
選民思想の強いギレンだが、地上と宇宙の部分を逆にするとティターンズのジャミトフになる。
「さて、次の予定だが」
ギレンはスケジュールに書かれた人物へと通信を入れる。
地球圏の外からやって来た人物へと。
「貴公が木星公社のジュピトリス艦長か。お初にお目にかかる」
「ジオン軍総帥直々のご挨拶、光栄の極み」
通信用の液晶端末の画面に映っていたのは、シャア以上に何をやらせても取り敢えずできる男。
パプテマス・シロッコだった。