夏の青空の下、ある公園の木陰で涼み、俺――旭野 優人は居眠りをしている。
「ぐががぁ……」
汗が乾き、鳥肌の立っている肌。制服の夏服は白Tのようで、黒い長ズボンは日光を吸収していた。そんな状態のまま、俺はいびきをあげている。
そんな、夏のとある日に事件は起こった。
眠っている俺の前に、亀裂が入る。そこにあるのは空気で、空気が割れていた。
中から、とんでもない引力が生じて、俺の体は吸い込まれる。しかし、俺は気付かないまま、目を覚ましてから、あんな日々が始まるとは、思ってもいなかった……。
あれは、いつも通りの帰り道だった。
夏の青空の下、ある公園の木陰で涼み、俺――旭野 優人は居眠りをしている。
「ぐががぁ……」
汗が乾き、鳥肌の立っている肌。制服の夏服は白Tのようで、黒い長ズボンは日光を吸収していた。そんな状態のまま、俺はいびきをあげている。
そんな、夏のとある日に事件は起こった。
眠っている俺の前に、亀裂が入る。そこにあるのは空気で、空気が割れていた。
中から、とんでもない引力が生じて、俺の体は吸い込まれる。しかし、俺は気付かないまま、目を覚ましてから、あんな日々が始まるとは、思ってもいなかった……。
◇◇
真っ暗な視界で、鼻につままれたような痛みが走る。瞬間、意識が覚醒した。
「あいたただっ!」
視界に飛び込んできたのは、満天の青空。それを遮るようにこちらを覗き込む、目つきの悪い一人の巫女。
「……はあ」
その巫女は若く、やれやれと言わんばかりの顔でため息を漏らす。その少女が視界から消えて、俺は体を起こした。すると、灼熱の暑さが上半身を襲う。瞬間、ぶわーっと汗が吹き出した。
「……ここ、どこだ? ていうか、あっつい」
視界から消えた巫女は、現在いる、神社の砦前を箒で掃いており、こちらを見るなり、もう一度ため息を。箒を砦にうまいこと立てかけて、俺の方へ歩み寄ってきた。
「あんた、その感じだと、外の世界の人間よね。一体、どうやって入ったのかしら?」
「……外の、世界? どういうことだ? ここは、地球じゃないのか?」
少女が言った《外の世界》という単語に口を開く。
さっきまで公園にいたはずなのに、なぜ神社にいるのか。この少女は誰なのか。ここは、一体どこなのか。
疑問が汗のように脳裏で吹き出す。考えてみても、分からないことだらけだ。
「……はあ。いい? ここは《幻想郷》、あなたが知っている、安全な世界じゃないの」
「安全な世界じゃないって、なんで俺はそんなところにいるんだよ? 早く、元の場所に帰してくれ」
明日は、ヲタク友達と欲しいゲームを買いに行く予定なのに。
うちの中学は、帰宅時間が他よりも遅い。けれど、明日だけはたった四限。早く帰れることだけを楽しみにしていたのだ。
「……それは私が知りたいわよ。とにかく、元の世界に戻るためには、その原因を探さなきゃいけない」
「ここら辺一体は危険だし、今日は安全な場所に案内してあげる」
こんなに暑いというのに、この巫女は平然としている。砦をくぐり、階段を下り始め、振り返っては俺に手招きしていた。
遅れないようそれに着いていき、額の汗を腕で拭いながら、たくさん歩く。そして、日陰になっている森林の中で。
「……あなた、名前はなんて言うの?」
滑らかな人工道を歩き、巫女の質問に答える。そこは自然に溢れており、鳥のせせらぎなどが聞こえてきていた。
「……えっと、旭野 優人。あんたは?」
問いかけると、少女は立ち止まり、お祓い棒を肩にのせて振り返った。
「霊夢、博麗 霊夢よ」
「……霊夢。いい、名前だな」
普段聞いたことがないような名前で、少し驚く。が、綺麗な名前のようにも思えて、感想を伝えた。
「……そうかしら。あなたも、いい名前よ」
それからというもの、無言で歩き続け、俺と霊夢は開けた道に出た。この先には、辺りを柵で囲んでいる里が。
和風の家に囲まれており、地面は砂のよう。様々な曲がり角があり、人が繁盛していた。しかも、その人達でさえ、和服を着ている。まるで、江戸時代にタイムリープしたような気分だ。
「ここが《幻想郷》いち安全な場所。《人里》よ。しばらく、あなたにはここで生活してもらうつもりだから」
霊夢の説明もあった通り、確実に安全そう。度々、視線が怪しい人もいるが、そこら辺は目を瞑ろう。そんなことよりも、ほとんどの人が俺を見ては目を逸らしている。
「それは、ありがたいんだけどさ。霊夢、なんで皆、俺を見ると視線を外すんだ……?」
もしかして、嫌われているのではないか。不安が頭をよぎる。まだ、初対面にも届かない距離感だというのに。
「……あなたは、優人は《外の世界》の人間だから、慣れるまでは異物と思われるでしょうね。申し訳ないけど、耐えてちょうだい」
「……ちょ、異物って。外来人って呼んでくれてもいいんだからな?」
そんな戯言を抜かしつつ、霊夢の後に続く。目線が気になる中、門番がついている屋敷のような建物にたどり着き、中に入る。
木製の薄暗い廊下を歩いていき、霊夢が襖を開けた部屋の中に入る。すると、そこには主らしき強面のおじさんが現れた。
俺達は座敷を踏み、用意されていた座布団の上に正座する。四角形の机の上には和菓子が添えられており、これから何かを話すのだと状況を察することができた。
「博麗の巫女さんが来たってことは、異変か、それとも提案かの?」
渋い男声が耳に入り、霊夢は口を開く。
「ええ。実は、また幻想郷に迷い込んだ子が来ちゃって。外に帰すまで、ここで面倒を見てくれないかしら」
そのような会話を聞き流していると、入ってきた襖とは逆の襖から、廊下を歩く音が聞こえてくる。その後、すっと扉が軽く開いた。
「?」
扉の先に目をやれば、餡色の髪をしたショートヘアーの少女。綺麗な髪質に、鈴の髪飾り。瞳は潤んでいて、宝石みたい。
和服はずんだの色合いをしていて、鮮やかな花柄。同い年くらいの美少女が笑顔で俺に手を振っている。
「……わかった。それじゃあ、そこの少年はここで預からせていただこう」
話は進んでおり、霊夢たちはこの少女に気付いていない。俺は手を振り返して、視線を戻す。すると、隣に座っていた霊夢がこちらを見るなり、口を開いた。
「てことで、今日からここがあなたの家よ。私も時々質問しにきたりするから、安心しなさい」
軽い説明だろうか。霊夢は話が終わると立ち上がり、部屋から出ていく。襖が完全に閉まりきると、目の前にいる、この屋敷の主――おじさんから、奥の部屋へ案内され始めた。
「……ここが優人、お主の部屋じゃ。飯はできたら持ってくるし、布団は家来が敷いてくれる。出かけるときだけ、わしに一声かけてくれ」
用意された部屋は、旅館のように広い部屋。一人ではもったいないと思えるほどのものだった。しかし、おじさんはそれを気にする様子もなく、説明をして部屋から出ていく。
「今日は疲れただろうし、ゆっくりと休むといい。それじゃあの」
襖がぴたりと閉まり、ようやく一人の空間が生まれる。俺は置いてあった浴衣に着替え、自分で布団を敷いて、早速横になった。
「なんか、どっと疲れたなあ……」
今ごろ、お母さんたちは心配でもしているのではないだろうか。
そんなことを考えながら、目を瞑る。すると、強烈な眠気が襲ってきて、あくびをした後、深い眠りにつくのだった。