幻想に咲く花を何度でも   作:五月雨 夏樹

1 / 1
 あれは、いつも通りの帰り道だった。
夏の青空の下、ある公園の木陰で涼み、俺――旭野 優人は居眠りをしている。

「ぐががぁ……」

汗が乾き、鳥肌の立っている肌。制服の夏服は白Tのようで、黒い長ズボンは日光を吸収していた。そんな状態のまま、俺はいびきをあげている。

 そんな、夏のとある日に事件は起こった。
眠っている俺の前に、亀裂が入る。そこにあるのは空気で、空気が割れていた。

中から、とんでもない引力が生じて、俺の体は吸い込まれる。しかし、俺は気付かないまま、目を覚ましてから、あんな日々が始まるとは、思ってもいなかった……。


1話『幻想入り』

 あれは、いつも通りの帰り道だった。

夏の青空の下、ある公園の木陰で涼み、俺――旭野 優人は居眠りをしている。

 

「ぐががぁ……」

 

汗が乾き、鳥肌の立っている肌。制服の夏服は白Tのようで、黒い長ズボンは日光を吸収していた。そんな状態のまま、俺はいびきをあげている。

 

 そんな、夏のとある日に事件は起こった。

眠っている俺の前に、亀裂が入る。そこにあるのは空気で、空気が割れていた。

 

中から、とんでもない引力が生じて、俺の体は吸い込まれる。しかし、俺は気付かないまま、目を覚ましてから、あんな日々が始まるとは、思ってもいなかった……。

 

  ◇◇

 

 真っ暗な視界で、鼻につままれたような痛みが走る。瞬間、意識が覚醒した。

 

「あいたただっ!」

 

視界に飛び込んできたのは、満天の青空。それを遮るようにこちらを覗き込む、目つきの悪い一人の巫女。

 

「……はあ」

 

その巫女は若く、やれやれと言わんばかりの顔でため息を漏らす。その少女が視界から消えて、俺は体を起こした。すると、灼熱の暑さが上半身を襲う。瞬間、ぶわーっと汗が吹き出した。

 

「……ここ、どこだ? ていうか、あっつい」

 

視界から消えた巫女は、現在いる、神社の砦前を箒で掃いており、こちらを見るなり、もう一度ため息を。箒を砦にうまいこと立てかけて、俺の方へ歩み寄ってきた。

 

「あんた、その感じだと、外の世界の人間よね。一体、どうやって入ったのかしら?」

 

「……外の、世界? どういうことだ? ここは、地球じゃないのか?」

 

少女が言った《外の世界》という単語に口を開く。

 

さっきまで公園にいたはずなのに、なぜ神社にいるのか。この少女は誰なのか。ここは、一体どこなのか。

 

疑問が汗のように脳裏で吹き出す。考えてみても、分からないことだらけだ。

 

「……はあ。いい? ここは《幻想郷》、あなたが知っている、安全な世界じゃないの」

 

「安全な世界じゃないって、なんで俺はそんなところにいるんだよ? 早く、元の場所に帰してくれ」

 

明日は、ヲタク友達と欲しいゲームを買いに行く予定なのに。

 

うちの中学は、帰宅時間が他よりも遅い。けれど、明日だけはたった四限。早く帰れることだけを楽しみにしていたのだ。

 

「……それは私が知りたいわよ。とにかく、元の世界に戻るためには、その原因を探さなきゃいけない」

「ここら辺一体は危険だし、今日は安全な場所に案内してあげる」

 

こんなに暑いというのに、この巫女は平然としている。砦をくぐり、階段を下り始め、振り返っては俺に手招きしていた。

 

遅れないようそれに着いていき、額の汗を腕で拭いながら、たくさん歩く。そして、日陰になっている森林の中で。

 

「……あなた、名前はなんて言うの?」

 

滑らかな人工道を歩き、巫女の質問に答える。そこは自然に溢れており、鳥のせせらぎなどが聞こえてきていた。

 

「……えっと、旭野 優人。あんたは?」

 

問いかけると、少女は立ち止まり、お祓い棒を肩にのせて振り返った。

 

「霊夢、博麗 霊夢よ」

 

「……霊夢。いい、名前だな」

 

普段聞いたことがないような名前で、少し驚く。が、綺麗な名前のようにも思えて、感想を伝えた。

 

「……そうかしら。あなたも、いい名前よ」

 

それからというもの、無言で歩き続け、俺と霊夢は開けた道に出た。この先には、辺りを柵で囲んでいる里が。

 

和風の家に囲まれており、地面は砂のよう。様々な曲がり角があり、人が繁盛していた。しかも、その人達でさえ、和服を着ている。まるで、江戸時代にタイムリープしたような気分だ。

 

「ここが《幻想郷》いち安全な場所。《人里》よ。しばらく、あなたにはここで生活してもらうつもりだから」

 

霊夢の説明もあった通り、確実に安全そう。度々、視線が怪しい人もいるが、そこら辺は目を瞑ろう。そんなことよりも、ほとんどの人が俺を見ては目を逸らしている。

 

「それは、ありがたいんだけどさ。霊夢、なんで皆、俺を見ると視線を外すんだ……?」

 

もしかして、嫌われているのではないか。不安が頭をよぎる。まだ、初対面にも届かない距離感だというのに。

 

「……あなたは、優人は《外の世界》の人間だから、慣れるまでは異物と思われるでしょうね。申し訳ないけど、耐えてちょうだい」

 

「……ちょ、異物って。外来人って呼んでくれてもいいんだからな?」

 

そんな戯言を抜かしつつ、霊夢の後に続く。目線が気になる中、門番がついている屋敷のような建物にたどり着き、中に入る。

 

木製の薄暗い廊下を歩いていき、霊夢が襖を開けた部屋の中に入る。すると、そこには主らしき強面のおじさんが現れた。

 

俺達は座敷を踏み、用意されていた座布団の上に正座する。四角形の机の上には和菓子が添えられており、これから何かを話すのだと状況を察することができた。

 

「博麗の巫女さんが来たってことは、異変か、それとも提案かの?」

 

渋い男声が耳に入り、霊夢は口を開く。

 

「ええ。実は、また幻想郷に迷い込んだ子が来ちゃって。外に帰すまで、ここで面倒を見てくれないかしら」

 

そのような会話を聞き流していると、入ってきた襖とは逆の襖から、廊下を歩く音が聞こえてくる。その後、すっと扉が軽く開いた。

 

「?」

 

扉の先に目をやれば、餡色の髪をしたショートヘアーの少女。綺麗な髪質に、鈴の髪飾り。瞳は潤んでいて、宝石みたい。

 

和服はずんだの色合いをしていて、鮮やかな花柄。同い年くらいの美少女が笑顔で俺に手を振っている。

 

「……わかった。それじゃあ、そこの少年はここで預からせていただこう」

 

話は進んでおり、霊夢たちはこの少女に気付いていない。俺は手を振り返して、視線を戻す。すると、隣に座っていた霊夢がこちらを見るなり、口を開いた。

 

「てことで、今日からここがあなたの家よ。私も時々質問しにきたりするから、安心しなさい」




軽い説明だろうか。霊夢は話が終わると立ち上がり、部屋から出ていく。襖が完全に閉まりきると、目の前にいる、この屋敷の主――おじさんから、奥の部屋へ案内され始めた。

「……ここが優人、お主の部屋じゃ。飯はできたら持ってくるし、布団は家来が敷いてくれる。出かけるときだけ、わしに一声かけてくれ」

用意された部屋は、旅館のように広い部屋。一人ではもったいないと思えるほどのものだった。しかし、おじさんはそれを気にする様子もなく、説明をして部屋から出ていく。

「今日は疲れただろうし、ゆっくりと休むといい。それじゃあの」

襖がぴたりと閉まり、ようやく一人の空間が生まれる。俺は置いてあった浴衣に着替え、自分で布団を敷いて、早速横になった。

「なんか、どっと疲れたなあ……」

今ごろ、お母さんたちは心配でもしているのではないだろうか。

そんなことを考えながら、目を瞑る。すると、強烈な眠気が襲ってきて、あくびをした後、深い眠りにつくのだった。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(必須:20文字~500文字)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。