ヤムチャになったってどうしたらいい 作:茉莉
「よりによってヤムチャかよ……!」
目が覚めた瞬間、鏡に映った自分の顔を見て、俺は絶望した。 ボサボサの黒髪に、整った顔立ち。イケメンなのはいい。だが、この世界が「ドラゴンボール」で、俺が「ヤムチャ」であるという事実は、死刑宣告に近い。
序章:絶望と「詰み」の現状確認
前世はしがないサラリーマンだった俺。知識はある。だからこそ分かる。 ヤムチャの歩む道は、あまりに過酷だ。
天下一武道会では、毎回のように初戦付近で強敵に当たり、負ける。
サイヤ人編は栽培マンの自爆で、あの有名な「ヤムチャ視点」のポーズで退場。
人造人間編、最初にドクター・ゲロに腹を貫かれる。
「……ふざけんな。あんな噛ませ犬の人生、真っ平ごめんだぞ」
俺は荒野の隠れ家で、空を見上げて叫んだ。 外を見ると、人影が見えた。
間違いない。孫悟空とブルマだ。
俺の命を掛けた生存戦略が始まる。
「おい、プーアル。獲物が来たぞ。豪華な車に美味そうな食い物……ありゃあ、相当なカモだぜ」
俺は荒野の岩陰に身を潜め、震える声で相棒に囁いた。前世の知識が脳裏をよぎる。この後、俺は腹を空かせた少年にボコボコにされ、女の子を見て赤面して逃げ出すんだ。分かっている。分かっているが、まずは「ヤムチャ」として物語のレールに乗らなきゃ始まらない。
「ヤムチャ様、なんだか顔色が悪いですよ? 無理しなくても……」
「バカ言え、こちとら砂漠のハイエナだ。……行くぞ!」
俺は岩場から飛び出すと、猛スピードで走る車を強引に停車させた。砂埃が舞う中、車から降りてきたのは、背中に如意棒を背負った小さな少年と、お目当ての天才少女だった。
「動くな! 俺は砂漠の用心棒、ヤムチャ様だ! 持っているカプセルと金を置いていきな!」
精一杯の悪役スマイルで言い放つ。だが、視界にブルマが入った瞬間、心臓が跳ね上がった。
(う、わ……。本物は破壊力が違うな。可愛いとかいうレベルじゃねえ、眩しすぎて直視できん……!)
「なによあんた! いきなり現れて失礼しちゃうわね。ちょっと悟空、やっつけちゃいなさいよ!」
ブルマが勝気な瞳で俺を睨みつける。彼女の気の強さに圧倒され、俺は思わず一歩後退りした。
「おめえ、オラたちを襲うつもりか? 悪いことすっと、じっちゃんに怒られるぞ」
悟空がひょいと前に出る。その瞳は濁り一つなく、圧倒的な強者のオーラを微かに放っていた。
「へ、へん! ガキが抜かしやがる。食らえ、狼牙風風拳!」
俺は決まっていた動きをなぞるように、鋭い爪を立てて悟空に飛びかかった。だが、内心では冷や汗が止まらない。相手は後の宇宙最強だ。当たるわけがない。案の定、悟空はひらりと俺の連撃をかわすと、鋭いカウンターを俺の腹部に叩き込んだ。
「ぐふっ……!」
地面に転がり、泥を舐める。痛い。だが、これでいい。
「い、いてて……。おめえ、見かけによらずやりやがるな……」
「おめえもなかなか強ぇな! だけど、オラの方がもっと強ぇぞ」
悟空がケロッとした顔で笑う。俺は土を払いながら立ち上がり、わざとらしく視線を泳がせた。ブルマが「なによ、口ほどにもないわね」と腰に手を当ててこちらを見ている。
「……あ、あのよ。おめえら、そんなに強いんなら、別に身ぐるみ剥ぐつもりはねえんだ。ただ、その、腹が減ってただけで……」
「なんだ、おめえ腹減ってんのか! だったらオラのメシ、分けてやっか?」
「えっ、あ、いいのか? ……悪いな、悟空。俺はヤムチャだ。そっちの、えーと、綺麗なお姉さんは?」
俺が恐る恐るブルマに声をかけると、彼女は少し意外そうな顔をして髪をかき上げた。
「私はブルマよ。あんた、さっきまであんなに偉そうだったのに、急に敬語っぽくなっちゃって変な奴ね。まあ、顔だけはいいから許してあげてもいいけど」
「はは……。どうも。女の子と話すのは、その、あんまり得意じゃなくてな……」
俺は頬を掻きながら、心の中でガッツポーズを作った。とりあえず最悪の第一印象は回避したはずだ。殺される未来を回避するには、まずはこの輪に入るしかない。
「なあ、おめえら。これからどこへ行くんだ? もしよかったら、この先の道案内くらいはしてやるぜ。砂漠は危険だからな」
悟空は「おっ、いいぞ! 賑やかな方が楽しいしな!」と快諾し、ブルマは少し疑り深い目を向けつつも「イケメンのボディガードなら悪くないわね」と頷いた。
よし。まずは第一段階突破だ。栽培マンに自爆される未来を書き換えるための、俺の長い戦いが今、始まったんだ。