ヤムチャになったってどうしたらいい 作:茉莉
「な、なんだ貴様は……! この私の『爆力魔波』を、ただの片手で……!?」
若返り、全盛期の力を手に入れたピッコロ大魔王が、信じられないものを見るかのように後退った。その額からは、冷や汗が流れている。
「……ヤムチャさん、すげぇや。気が、さっきまでと全然違うぞ。まるで空みたいに静かなのに、とんでもねぇ力が詰まってる……!」
背後でボロボロの悟空が、驚きと共に不敵な笑みを漏らす。超神水を飲み、大猿の力をその身に宿した悟空。そして神殿で「無」を学んだ俺。今、地球最強の二人が、魔の根源の前に並び立った。
「悟空、動けるか?」
「おう……! 腹ん中に力がみなぎってんだ。いけるぞ!」
「よし。……行くぞ、大魔王。これが俺たちの『答え』だ!」
俺が地を蹴った瞬間、キングキャッスルの瓦礫が衝撃波で粉砕された。神殿で磨き上げた**「瞬光・縮地」**。もはや移動という概念を超え、俺は一瞬で大魔王の死角を捉える。
「ぬうっ! 速すぎる……! だが、私を舐めるなよ!!」
大魔王が周囲を無差別に破壊する衝撃波を放つ。だが、俺はその爆風を「気の流れ」として利用し、柳のように受け流しながら連撃を叩き込んだ。
「狼牙風風拳・零式、改――『牙城壊滅』!」
無駄な叫びも、大きな構えもない。急所を的確に、そして連鎖的に穿つ超高速の突き。大魔王の強靭な皮膚が、俺の「気」を一点に集中させた貫手によって次々と弾け飛ぶ。
「が、はっ……あ、ありえん! この私が、人間に……うわあああっ!」
堪らず上空へ逃げようとした大魔王の足首を、悟空の如意棒が鋭く捉えた。
「逃がさねぇぞ! はああああっ!」
悟空が大猿の幻影を背負い、強烈な一撃を大魔王の腹部に叩き込む。その反動で宙に浮いた大魔王に向け、俺は指先を跳ね上げた。
「多重・操気弾――『全方位封殺』!」
十数発の光弾が、逃げ道を完全に塞ぐ檻のように大魔王を包囲する。
「これ、は……!? 避けても無駄というのか……!」
「終わりだ、ピッコロ」
俺と悟空が同時に、最大出力の構えに入った。
「「か・め・は・め……波ぁーーーーっ!!」」
悟空の黄金色の光と、俺の白銀に輝く光が一点で混ざり合い、巨大な光の龍となって大魔王を飲み込んだ。細胞のひとつひとつが浄化されるような、圧倒的なエネルギーの奔流。
「……ば、化け物……め……。だが……これで……終わると、思うなよ……!」
大魔王は絶叫と共に、自らの命を振り絞り、一つの卵を遥か彼方へと吐き出した。それは原作通りの「マジュニア」の誕生。だが、俺はそれをあえて見逃した。
「……ヤムチャ。あいつ、最後になんか出しやがったぞ」
「ああ。……でも、いいさ。奴は消滅したからな」
大魔王が完全に消滅し、キングキャッスルに静寂が戻った。
俺は力尽き、地面に腰を下ろした。悟空もその隣にドスンと座り込み、二人で夕焼けに染まる空を見上げた。
「……勝ったんだな、オラたち」
「ああ。……でも、まだ始まりに過ぎないぜ、悟空。まだまだ、強い奴は沢山いるからな。3年後の天下一武道会に来るだろうさ」
「へへ、楽しみだなぁ! オラ、もっともっと修行すっぞ!」
悟空の屈託のない笑顔。その隣で、俺は自分の右拳を見つめた。
ヤムチャとして転生し、がむしゃらに生き残ろうとしてきた。だが、いつの間にか俺は「死ぬのが怖い」という動機ではなく、「この世界を守りたい」という、気持ち。そして、武道家としての純粋な闘志に突き動かされていた。
三年後の天下一武道会。
マジュニアとの決戦。そして、その後に待ち受けるサイヤ人の襲来。
俺は通信機を手に取り、心配しているであろうブルマに一言だけメッセージを送った。
『終わったよ。少し遅れるけど、飯、期待してるぜ』
「……さあて、次は重力20倍の設定、博士にお願いしねぇとな」
俺は立ち上がり、ボロボロになった道着の埃を払った。
噛ませ犬の運命なんて、もうどこにもありはしない。