ヤムチャになったってどうしたらいい   作:茉莉

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第16話

第23回天下一武道会、準決勝。

会場の熱気は、もはや飽和状態を超えていた。第一試合で神様(シェン)を下した俺の勝利は、会場にいたすべての武道家たちの常識を覆した。そして、目の前に立つ男――マジュニアことピッコロ大魔王の分身は、その事実を誰よりも重く、そして忌々しく受け止めているようだった。

「……貴様、あのシェンの正体に気づいていたな」

マジュニアが低く、地を這うような声で呟く。巨大なマントが風にたなびき、周囲の石畳が彼の放つ負のエネルギーでピシピシと音を立てていた。

「さあな。ただ、あんたが求めている『復讐』という名の退屈な終焉を、ここで止める必要があるってことだけは分かってるぜ」

俺は静かに応じ、道着の袖をまくり上げた。神様との一戦で消耗した気は、すでに深い呼吸と神殿仕込みの瞑想で八割方回復している。

審判が旗を振り下ろす。「始め!」の合図。

その瞬間、世界から音が消えた。

マジュニアの巨体が、文字通り一瞬で俺の目の前に現れる。反射神経を司る神経細胞が焼き切れるような速度。だが、俺は重力50倍の地獄で、思考よりも早く体が動くよう叩き込まれている。

「死ねいっ!」

マジュニアの鋭い貫手が俺の眉間を狙う。俺はそれを首をわずかに傾けてかわし、同時にその手首を掴んで引き込んだ。合気道にも似た円の動き。マジュニアの突進力をそのまま利用し、俺は膝に全体重を乗せて彼の脇腹へと突き上げた。

「……ッ!?」

鈍い打撃音が響く。だが、マジュニアは怯まない。彼は空いた左手を俺の顔面に突き出し、至近距離から怪光線を放とうとした。

「甘い!」

俺は「アンチ・エネルギー」の波動を右手に纏わせ、その掌でマジュニアの拳を包み込むように押さえ込んだ。光線が放たれる寸前、逆位相の気が衝突し、エネルギーが内部で相殺される。マジュニアの腕の中で、小さな爆発が起きた。

「なっ……私の気を……消しただと!?」

驚愕に目を見開くマジュニア。その隙を逃さず、俺は「狼牙風風拳・零式」の連撃を開始した。

左ジャブ、右ストレート、そして螺旋を帯びたアッパー。一撃一撃が神殿で学んだ「無」の境地から放たれ、大魔王の血を引く強靭な肉体に深く沈み込む。一秒間に数十発という連撃の嵐。観客の目には、俺の手が数千本の残像に見えていたはずだ。

「おのれぇ……! 調子に乗るなよ、人間がァ!」

マジュニアが咆哮し、全身から衝撃波を放って俺を弾き飛ばした。俺は空中で体勢を立て直し、ふわりと着地する。

「……やはり、一筋縄じゃいかないか」

「貴様……ヤムチャと言ったか。三年前、あのガキ(悟空)と共に私を追い詰めた時とは、もはや別次元の化け物だな。だが、魔族の底力を思い知らせてやる!」

マジュニアが不気味に腕を伸ばした。原作でも見せた触手のような伸縮攻撃。だが、重力修行で全方位への気配察知を極めた俺にとって、死角からの攻撃は存在しない。俺は伸びてくる腕を紙一重でかわし続け、右手で空中に「操気弾」を練り上げた。

「行けっ!」

放たれた操気弾は、マジュニアの顔面を狙うと見せかけて、急激に軌道を変えた。マジュニアの伸びた腕に絡みつくように旋回し、その関節を的確に叩く。

「ぐわぁっ!? この弾、意志を持っているのか!?」

「ただの弾じゃない。俺の神経そのものだ!」

俺は指先をピアノを弾くように動かし、一発の操気弾を分裂させた。十数発の小さな光弾が、マジュニアを包囲するように舞う。

「操気弾・連――『星屑の檻』!」

全方位からの同時飽和攻撃。マジュニアは四方八方から飛来する光弾を叩き落とそうとするが、弾は生き物のように彼の指先をすり抜け、背中、膝、肩を執拗に穿つ。

「……くっ、小癄なマネを……! ヌンッ!!」

マジュニアが突如として巨大化した。

「超巨身術」だ。ビルほどもある巨体がリングを覆い尽くし、巨大な足が俺を押し潰そうと振り下ろされる。

「……待ってたぜ、その姿を」

俺は冷静だった。巨大化はパワーは増すが、その分「気の密度」が薄れる。俺は空高く跳躍し、マジュニアの巨大な顔面の真正面に躍り出た。

「無駄だ! 叩き潰してやる!」

マジュニアの巨大な掌が、ハエを叩くように俺を襲う。だが、俺は空中で「重力負荷スーツ」の概念を応用した。足裏から爆発的に気を放出し、空中での三次元的な制動を実現する。

俺はマジュニアの指の間をすり抜け、彼の眉間に人差し指を突き立てた。

「アンチ・エネルギー……全点集中」

俺が開発した最大奥義の一つ。相手の気の中心(コア)を解析し、そこに逆の波長を「楔」として打ち込む。マジュニアの巨体を支えていた気のバランスが、一瞬で崩壊した。

「な……な、なんだ……力が……抜ける……!?」

マジュニアの体が急速に縮んでいく。等身大に戻った彼は、膝をつき、激しく喘いだ。

「……信じられん。魔族の奥義までも、貴様の妙な術で破られるとは。ヤムチャ……貴様は一体、何者だ。ただの人間が、ここまで……」

「俺は、ヤムチャだ。死にたくなくて、誰よりも臆病で、だから誰よりも準備してきた……ただの男さ」

俺は腰だめに両手を構えた。仕上げだ。神様を倒した時以上の、純粋で透明な気が俺の周囲に渦巻く。

「か……め……は……め……」

「……させん! 刺し違えてでも、貴様だけは!!」

マジュニアが両目から怪光線を放ち、同時に全力の突進を仕掛けてくる。まさに捨て身の特攻。

「波ぁーーーーーっ!!」

俺の放った「かめはめ波」は、これまでのものとは色が違った。青白い輝きの中に、銀色の粒子が混じる。それは、神殿の知恵とブリーフ博士の科学、そして俺の執念が結晶化した「理の光」だ。

大魔王の遺志を継ぐ魔光線が、俺の光に触れた瞬間に霧散した。光の奔流はマジュニアの体を優しく、しかし抗いようのない力で包み込み、そのまま彼をリングの外へと押し流した。

ドォォォォォン!!

会場の外壁が吹き飛ぶほどの衝撃。

砂埃が舞い、静寂が訪れる。

「……マ、マジュニア選手、場外! 勝者、ヤムチャ選手!!」

審判の叫び声と共に、会場が割れんばかりの歓声に包まれた。

俺はリングの上に立ち、遠く場外で倒れているマジュニアを見つめた。トドメは刺していない。彼には生きていてもらわねばならない。後のナメック星編で、ピッコロという戦士が欠けることは、全宇宙の損失だからだ。

「……勝ったぞ」

俺は小さく呟き、観客席にいるブルマを見た。彼女は口を押さえ、涙を流しながら笑っていた。悟空はといえば、戦慄を通り越して「すっげえ! すっげえやヤムチャ!」と子供のように飛び跳ねている。

これで、準決勝終了。

次は、いよいよ決勝戦。

孫悟空対ヤムチャ。

三年前のドローという結果。そして、神と魔をその手で超えた今の俺。

俺たちは、かつてない高みで、再び拳を交えることになる。

「……さあ、来いよ悟空。俺たちの『答え』を見せ合おうぜ」

俺はボロボロになった道着を脱ぎ捨て、決勝のリングを見据えた。

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