ヤムチャになったってどうしたらいい 作:茉莉
第23回天下一武道会、決勝戦。
俺と悟空は、修復されたばかりの石造りのリング上で、数メートルという絶妙な間合いを保ち、静かに対峙していた。
「……行くぞ、ヤムチャ」
「ああ、来い、悟空」
互いの声は静かだったが、その言葉を合図に、空気の密度が一段階上がった。
最初は慎重な探り合いだった。悟空が軽く踏み込み、鋭いジャブを放つ。俺は首をわずかに傾けてそれをかわし、返しの掌底を放つ。悟空もまた、それを最小限の動きで受け流す。お互いに相手の力量、間合い、反射速度を、肌に触れる空気の揺らぎだけで計っていた。
しびれを切らしたのは悟空だった。
「はああああっ!」
不敵な笑みを浮かべた刹那、悟空が弾丸のような速さで突撃してきた。一撃一撃が岩をも砕く重さの連撃。だが、俺は重力修行と神殿での「無」の境地で、その猛攻をいなし続けた。
悟空の右ストレートを紙一重でかわし、その力を利用して彼の体勢をわずかに逸らす。猛烈なラッシュを柳のようにしのぎ切り、悟空が体勢を立て直そうとした一瞬の隙。
「そこだ!」
俺の貫手が悟空の脇腹を捉えた。
「ぐっ……!?」
そこから一気に乱打戦へと雪崩れ込む。俺の拳と悟空の拳が空中で火花を散らすように激突し、凄まじい衝撃波がリングの砂埃を吹き飛ばした。互いに数十発、数百発という拳を撃ち合い、その反動で一度大きく距離を取る。
「へへ、やっぱり凄いや……! だったら、これはどうだ!」
悟空が両手から連続で気功波を放つ。だが、操作性において「繰気弾」を極めた俺に、単純な気弾は通用しない。
俺は指先を指揮者のように動かし、自身の気弾で悟空の攻撃を次々と撃ち落としながら、その隙間を縫うようにして一発の「繰気弾」を悟空の背後に回り込ませて命中させた。
ドォォン!
背後からの衝撃に、悟空がわずかによろめく。だが、彼は楽しそうに笑っていた。
「……へへ、今のがウォーミングアップだなんて、贅沢すぎるな」
「そうだな。そろそろ……『本番』といこうか」
俺たちは同時に、これまで抑えていた気を解放した。
ドォォォォォォォン!!
会場全体が、地震のような轟音と共に激しく揺れた。俺と悟空の周囲から立ち昇るオーラが、物理的な圧力となって武舞台の石畳を粉々に砕き、隆起させる。解放された「気」と「気」がぶつかり合うだけで、周囲に稲妻のような放電が走り、とてつもない衝撃波が観客席を襲った。
「な、なんだ……! 全く見えん! 何が起きているんだ!?」
実況の叫び声が聞こえるが、もはや一般の観客には、空中で炸裂する爆風と、石畳が次々と砕ける音しか感知できない。
瞬動。
一歩踏み出した瞬間、俺と悟空の姿は消え、次に現れたのはリング中央で拳を交差させた瞬間だった。
「らららららららっ!!」
「はあああああああ!!」
超高密度の殴り合い。音速を超えた打撃の応酬が、衝撃波の塊となって会場を震わせる。
だが、戦いの流れは徐々に俺へと傾き始めていた。
神殿で磨いた「気の消去」と、ブリーフ博士の科学的解析に基づいた「最短の幾何学攻撃」。悟空の攻撃はことごとく俺の腕に阻まれ、逆に俺の拳が悟空の肩、胸、腹部を的確に捉え始める。
重い一撃を食らい、悟空の体が大きく仰け反る。
「……決めるぞ!」
俺は追撃の手を緩めない。畳み掛けるような連撃。悟空は必死に防御し、その合間を縫って反撃に転じようとするが、俺の「アンチ・エネルギー」が彼の気の出力を無効化し、悉く防ぎ切る。
終始、俺が悟空を圧倒していた。
このまま押し切るか――そう思われた瞬間。
スッ……。
俺の左ストレートが、悟空の顔面を捉える寸前で空を切った。
「……ッ!?」
悟空の動きが変わった。これまでの必死な防御ではなく、どこか脱力したような、流れるような動き。
続く俺の右フックも、悟空は最小限の首の動きだけで回避した。さらに、俺の放った連撃の「リズム」に、悟空の呼吸が重なり始める。
「……見えてきたぞ、ヤムチャ。おめえの動き……すっげえ速ぇけど、だんだん分かってきた!」
悟空の瞳に、野生の鋭さが戻る。
これまで一方的に受けていた悟空の拳が、ついに俺のガードを掠め、頬をかすめた。
見切られ始めている。天才・孫悟空。戦いの中で進化し続ける、サイヤ人の本能が目覚めようとしていた。
「へへ……ここからが本当の勝負だ!!」
俺の頬から一筋の血が流れる。
俺は口角を上げ、再び拳を握り直した。
「……面白い。そうでなくっちゃな、悟空!」