ヤムチャになったってどうしたらいい 作:茉莉
カプセルコーポレーションの庭に流れていた和やかな空気は、一瞬にして凍りついた。遥か東の空から届いたのは、生物の本能が拒絶するような、どろりと重く凶悪な気の波動だった。
「……ッ!? なんだ、今の地響きみたいな気は……!」
クリリンが顔を青くして空を仰ぐ。悟空もまた、悟飯をチチの背後に隠し、鋭い眼差しで地平線を見据えた。
「悟空、始まったぞ。あそこだ」
俺は迷わず空へ飛び上がった。
「ブルマ、ここは危ない。みんなを連れて地下シェルターへ避難してくれ。絶対に外へ出るなよ」
「ヤムチャ……! あんた、絶対よ。絶対、無事で帰ってきなさいよ!」
ブルマの叫びを背に、俺と悟空、そしてピッコロ大魔王が現場へと急行した。
荒野の中央、巨大なクレーターの底には、見たこともない奇妙な宇宙ポッドが鎮座していた。プシューッという排気音と共にハッチが開き、中から長い黒髪をなびかせた大柄な男が姿を現す。
「……ふん。この星のゴミ虫の分際で、真っ先に迎えに来るとは。少しは骨のある奴がいるようだな」
男――ラディッツが耳のスカウターを弾いた。彼は俺たちを一瞥し、鼻で笑う。
「戦闘力、たったの『5』か。ふん、貴様のようなカスが……」
「ラディッツ。お前のその機械は、本当の『力』を測りきれるほど高性能じゃないらしいな」
俺が一歩前に出ると、ラディッツは眉をひそめた。
「……なぜ私の名を知っている? まあいい。それよりカカロット、貴様、何をボサッとしている。この星の人間どもを全滅させる任務はどうした!」
「カカロット……? オラは悟空だ! おめぇみたいな奴の仲間じゃねぇ!」
悟空が叫ぶ。ラディッツは冷酷に笑い、自分たちが兄弟であること、そして一年後にさらに強力な二人のサイヤ人が来ることを告げた。
「……そうか。ならば死ね。まずは貴様からだ、名もなきゴミ虫よ!」
ラディッツが俺に向かって突進してきた。常人には見えないはずの超高速。だが、今の俺には、彼の動きはまるで泥の中を泳いでいるかのように遅く見えた。
ドォォォン!!
俺は動かなかった。いや、動く必要がなかった。ラディッツの渾身の拳を、俺は左手の掌だけで無造作に受け止めたのだ。
「……な、なんだと……!? 私の拳を、片手で……!?」
「驚くのはまだ早いぜ、サイヤ人さん。これが、お前たちが侮った『地球人』の力だ」
俺は右拳を腰だめに構えた。神殿で学び、カプセルコーポレーションの科学で補強した、俺だけの最強の「気」が拳に収束していく。
「狼牙……瞬光衝!!」
接触した瞬間に爆発的な波動を送り込む一撃。ラディッツの胸部装甲が砕け散り、彼は血を吐きながら後方の岩山まで吹き飛んだ。
「……う、うそだろ……ヤムチャ。おめぇ、一人でこいつを……」
悟空が戦慄する。ピッコロも冷や汗を流しながら、俺の背中を凝視していた。
俺は瀕死のラディッツの首根っこを掴み上げた。彼は恐怖に顔を歪め、スカウターを通じて「ベジータ………」と弱々しく呟いている。
「いいか、ラディッツ。お前を殺すのは簡単だが、あえて生かしてやる。悟空、ピッコロ。こいつは一旦、カプセルコーポレーションで拘束する。神様には俺から話を通しておいた。悟空、お前は今すぐ神様の下へ行き、『界王様』のところへ修行に行ってくれ。ピッコロ、お前は悟飯を連れて修行に入れ。一年後、こいつ以上の化け物が二人、この星に来る」
俺は冷徹に状況を整理した。原作では悟空が死んで解決したこの場を、俺は「全員生存」で乗り切ったのだ。
「悟空。お前は界王様の奥義を学んでくるんだ。いいな!」
「……わかった、ヤムチャ! おら、もっと強くなってくるぞ!」
悟空が神様と共にあの世へ旅立ち、ピッコロが悟飯を連れて荒野へ消えていく。
俺は残されたクリリン、天津飯、餃子の方を向き、不敵に笑った。
「さて……俺たちは、ブルマに作ってもらった『重力室』で訓練だ。一年後、ナッパとベジータの鼻を明かしてやるために」
俺の生存戦略は、ついにサイヤ人を迎え撃つための、最終的な準備期間へと突入した。