ヤムチャになったってどうしたらいい   作:茉莉

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第4話

カプセルコーポレーションでの生活は、前世のサラリーマン時代には考えられないほど刺激的で、かつ充実したものだった。ブルマの父、ブリーフ博士の助手として働きながら、俺は最新鋭の重力室で己を追い込み続けた。

そんなある日、ひょっこりと悟空が顔を出した。

「よお、ヤムチャ! ブルマ! ドラゴンレーダーが動かなくなっちまったんだ。直してくれねぇか?」

相変わらず無邪気な悟空に、ブルマは「もう、相変わらずね」と呆れながらも、修理のついでに冒険への好奇心を爆発させた。

「ねえヤムチャ、私たちがついて行けば修理もすぐできるし、面白そうじゃない?」

「……まあ、お前一人で行かせるわけにはいかないからな」

俺は内心で(レッドリボン軍編か……)と身構えつつ、ブルマの付き添いとして同行を決めた。

道中、世界最悪の軍隊レッドリボン軍の噂を聞き、ブルマは震え上がったが、今の俺たちには関係ない。俺と悟空、そして途中で合流したクリリンの三人が揃えば、並の兵士など敵ではなかった。俺は「多重・操気弾」の精密射撃で遠くの砲台を沈め、悟空が正面から突き進む。各支部は、原作以上のスピードで次々と陥落していった。

だが、聖地カリンに差し掛かった時、空気が一変した。

「どどーん!」と不気味な音を立て、空から一本の柱が飛来する。そこに乗っていたのは、世界最悪の殺し屋・桃白白。

原作ではウパの父・ボラが殺され、悟空が敗北する絶望のシーンだ。だが、今回は違う。

「悟空、下がってろ。こいつは……今までの敵とは格が違う」

俺は「完全隠密」にしていた気を一気に解放した。桃白白の余裕の笑みが消える。

「ほう、賞金首以外にも骨のある奴がいたか」

桃白白が指先に気を集め、「どどん波」の予備動作に入る。だが、その瞬間に俺は動いた。

新技「狼牙・瞬光閃」。重力修行で鍛え上げた脚力による超高速の踏み込みで、俺は桃白白の懐へ潜り込んだ。

「なっ……!?」

どどん波が放たれる直前、俺は彼の指の角度をわずかに逸らした。放たれた光線は虚しく空を貫き、暴発する。

「バカな! 私の動きを読んだだと!?」

驚愕する桃白白に、俺と悟空のダブル攻撃が炸裂した。俺の操気弾が逃げ道を塞ぎ、悟空の如意棒が重い一撃を叩き込む。最後は自業自得の爆弾返りで見事勝利。俺がいたことで、ボラは傷一つ負わずに済んだ。

 

桃白白を退けたものの、その圧倒的な技のキレに悟空は珍しく息を切らしていた。ボラを救えた安堵感よりも、自分より遥かに格上の存在が世界にはまだいるという事実に、悟空の戦士としての本能が刺激されているのが分かった。

「……強かったなぁ、あの棒を投げるおっちゃん。オラ、もっと強くならねぇと、これから先もっとやべぇ奴が出てきた時にみんなを守れねぇぞ」

悔しそうに拳を握りしめる悟空を見て、俺は「今だ」と確信した。

「悟空、この上にあるカリン塔に登ってみろ。そこにはカリン様っていう凄い仙人がいて、修行をつけてくれるはずだ。俺もあそこで鍛え直したんだぜ」

俺の言葉に、悟空の目がパッと輝いた。

「本当か、ヤムチャ! よし、オラ行ってくる!」

そう言うなり、悟空は脇目も振らずに巨大な塔の柱に取り付いた。俺は、かつて自分が味わったあの地獄のような筋肉痛を思い出しながら、下からその背中を見送った。

それから二週間。俺はカプセルコーポレーションの通信機をカリン塔の麓に持ち込み、ブルマと連絡を取りながら、時折襲いかかってくるレッドリボン軍の偵察隊を片手間で蹴散らしていた。

「ヤムチャ! 修行終わったぞーーーっ!」

空から降ってきたのは、以前よりも数段、気が研ぎ澄まされた悟空だった。その佇まいには、野生の鋭さに加えて、静かな威圧感が備わっている。

「……へへ、いい面構えになったな。よし、待たせたな悟空。仕上げに行こうぜ。レッドリボン軍の本部だ」

俺たちはブルマが用意した高速飛行機に飛び乗り、敵の本拠地へと急行した

 

 

 

レッドリボン軍の総本部を包む空気は、爆音と悲鳴で支配されていた。

 

かつて世界最恐と謳われた軍隊も、今の俺と悟空の前ではただの動く標的に過ぎない。俺は重力室での修行で研ぎ澄まされた感覚をフル回転させ、押し寄せる歩兵連隊の中を文字通り「風」となって駆け抜けた。

 

「狼牙……瞬光斬!」

 

拳を振るうまでもない。超高速の移動から放たれる手刀の風圧だけで、銃を構えた兵士たちが次々と意識を失い倒れていく。無益な殺生は避ける主義だが、容赦はしない。俺の指先から放たれた数発の操気弾は、まるで意思を持っているかのように蛇行しながら飛んでいき、基地内に配備された対空砲火の銃身だけを正確に、そして冷酷に叩き折っていった。

 

「すっげえや、ヤムチャ! オラも負けてらんねえぞ!」

 

上空からは筋斗雲に乗った悟空が、如意棒を振り回して旋回している。悟空が正面から派手に暴れて敵の注意を引いてくれるおかげで、俺は隠密行動に専念できる。これこそが「ヤムチャ」というキャラクターの特性を理解した上での戦術だ。俺はあえて気の出力を極限まで抑え、監視カメラやレーダーの死角を縫うようにして、ブラック補佐が立てこもる司令棟へと潜入した。

 

重厚な防爆ドアの前にたどり着いた時、内側から巨大な金属音が響いた。ブラックが搭乗する最終兵器、バトルジャケットの起動音だ。

 

「チョコマカと……ネズミどもがぁ! 跡形もなく消し飛べ!」

 

ブラックが叫ぶとともに、ロボットの肩部から大量のミサイルが発射される。原作のヤムチャならここで冷や汗を流して回避に専念するところだが、今の俺は違う。俺は一歩も引かず、両手の手のひらを前方へ突き出した。

 

「そんな大火力の兵器、この狭い室内で使うのがどれだけ危険か教えてやるよ」

 

俺は「操気弾」のエネルギーを弾丸サイズにまで凝縮し、それをミサイルの信管一点に向けて正確に放った。着弾。連鎖的に誘爆するミサイルの炎が、逆にブラックの機体を焼き焦がす。爆炎を突き抜け、俺と悟空は同時に跳躍した。

 

「悟空! 合わせろ!」 「おう! か・め・は・め……」

 

二人の声が重なる。放たれた二条の青白い光線は、空中で螺旋を描きながら一本の巨大な奔流へと成長し、ブラックのロボットをコクピットごと貫いた。金属が溶解し、軍の象徴だった司令棟がゆっくりと崩落していく。

 

 

 

基地の跡地で、俺はドラゴンボールを回収しながら、安堵の息をついた。

「すっげえなヤムチャ! どんどん強くなってやがる!」

「はは、まあな……」

悟空の無邪気な笑顔に答えながらも、俺の心境は複雑だった。

ボラを救い、軍のハイテク技術もブルマの手元に渡った。だが、俺は知っている。この壊滅の様子を、復讐の炎を燃やして見つめている男がいることを。

(……ドクター・ゲロ。今ここで研究所を叩くべきか? いや、そんなことをすれば人造人間編のパワーアップイベントが消えて、将来の魔人ブウとかに対応できなくなるか……?)

俺の持つ「前世の知識」が、次なる戦略のジレンマを生んでいた。俺はヤムチャ。ただ生き残るだけじゃない。この世界を救うための「最適解」を、俺は見つけ出さなきゃならないんだ。

瓦礫の山となった基地を見下ろしながら、俺の視線はすでに遠い未来、この軍の残党が生み出すであろう「人造人間」の影を追っていた。

 

「……やりすぎたかな。だが、これで俺が『噛ませ犬』じゃないことは、神様にも伝わったはずだ」

 

隣で無邪気にドラゴンボールを掲げる悟空の笑顔を見ながら、俺は次の修行場所、天界へと意識を向けた。

 

 

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