ヤムチャになったってどうしたらいい 作:茉莉
第22回天下一武道会。会場となる寺院の周辺は、前回を遥かに凌ぐ熱気に包まれていた。
俺はブリーフ博士特製の、一見するとただの黒いインナーにしか見えない「重力負荷スーツ」を道着の下に着込み、受付を済ませた。設定は現在「5倍」。立っているだけで全身の細胞がミシミシと音を立てるが、これが今の俺にとっては「日常」だ。
「よお、ヤムチャ! 久しぶりだな!」
聞き慣れた明るい声に振り向くと、そこには少し背が伸びた悟空がいた。その後ろにはクリリンと亀仙人様
「悟空か。いい気だ……カリン塔での修行、相当やり込んだみたいだな」
「へへ、おめえこそすっげえぞ! 気を隠してるみてぇだけど、なんだかワクワクするような強さが漏れてるぞ!」
悟空の直感に俺は苦笑いした。スカウターさえ欺くつもりで練り上げた隠密行動だが、野生児の勘までは誤魔化せないらしい。
そんな再会を遮るように、鋭く冷たい殺気が会場を貫いた。
「……お前たちが、あの桃白白様を倒したというネズミ共か」
振り返ると、そこには三つ目の大男・天津飯と、小柄な餃子、そして卑屈な笑みを浮かべた鶴仙人が立っていた。原作通りだが、実物を前にするとその威圧感はなかなかのものだ。
「桃白白? ああ、柱乗りのおっさんか。懐かしいな」
俺がわざと挑発的に言い放つと、天津飯の三つの目が怒りに見開かれた。
「貴様……ヤムチャと言ったな。その軽口、リングの上で後悔させてやる」
「楽しみにしてるぜ。あんたの技、受ける準備はできてるからな」
予選の開始が告げられ、俺たちはそれぞれのブロックへと分かれた。
俺の予選第一試合。相手は熊のような体格の大男だった。
「へっ、優男が。死にたくなければ今のうちに——」
男が言い切る前に、俺は一歩踏み出した。いや、踏み出したように見えたはずだ。今までスーツによる重力を受けていた俺だが、今はスーツを外してある。それにより今の俺には、圧倒的なスピードを持っている。
その爆発的な加速を利用した技を繰り出した。
「狼牙・瞬――」
刹那、俺の手刀が男の首筋を捉える。
男は何が起きたのか理解できないまま、白目を剥いて崩れ落ちた。審判も、観客も、何が起きたのか分からず数秒の静寂が流れる。
「……な、何をしたんだ今の……?」
「速すぎる……。消えたぞ、あいつ!」
周囲のざわめきを無視して、静かにリングを降りた。
その後も予選は続いた。俺は常に最短・最小の動きで相手を無力化していった。無駄な叫びも、派手なポーズも一切ない。ただ、淡々と「作業」のように勝利を積み重ねていく。
一方、別のブロックでは天津飯が対戦相手を病院送りにしていた。
「おい、ヤムチャ……あいつ、めちゃくちゃ強ぇぞ。気をつけろよ」
クリリンが不安げに囁く。
「分かってるさ。……だが、あいつが見ているのは『今の俺』じゃない。過去のデータに縛られてる奴に、俺は負けないよ」
予選を勝ち抜き、本戦出場者が揃った。
悟空、クリリン、天津飯、餃子、ジャッキー・チュン、パンプット、男狼。
そして、俺。
掲示板に張り出された一回戦の組み合わせを見て、俺は口角を上げた。
「ヤムチャ vs 天津飯」
原作では俺の足がへし折られ、噛ませ犬としての地位が確定した運命の一戦だ。だが、今の俺の足首には、重力修行で鋼鉄以上の硬度となった骨と筋肉、そしてブルマと博士のお陰で今までは無かった、自信がある。
どんな的にも負けないという自信が。
「……さて。クレーターに転がるのは、どっちか決めようぜ、天津飯」
俺は控え室で一人、静かに拳を握り込んだ。