ヤムチャになったってどうしたらいい   作:茉莉

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第7話

本戦一回戦、第一試合。

会場は異様な静寂に包まれていた。片や、鶴仙流の最終兵器・天津飯。片や、砂漠のハイエナから「科学と修行」の申し子へと変貌を遂げた俺。

「ヤムチャさん、頑張ってー!」

観客席からブルマの声が響く。俺は今日、あの「重力負荷スーツ」を脱いできた。自分の純粋な「器」が、どれだけ巨大になったかを試すためだ。

「貴様の足、どちらから折ってほしいか決めたか?」

天津飯が三つの目で俺を射抜くように睨む。

「……悪いな。俺の足は、お前の拳より硬いぜ」

審判の「始め!」の合図と同時に、天津飯が消えた。原作通りの超高速移動。だが、カリン塔で無駄を削ぎ落とし、重力下で神経を研ぎ澄ませた今の俺には、彼の動きはスローモーションに近い。

「はあああっ!」

天津飯の鋭い突きが俺の顔面を捉える直前、俺は首をわずか数センチ横に傾けて回避。そのまま、ノーモーションで裏拳を彼の腹部に叩き込んだ。

「ぐはっ……!?」

天津飯の体がくの字に曲がる。彼は信じられないといった表情で飛び退き、距離を取った。

「……バカな。今の突きを避けるどころか、カウンターだと?」

「驚くのはまだ早いぜ、天津飯。あんたの動きは『綺麗すぎる』んだ。教科書通りすぎて、次が読みやすい」

俺は地面を蹴った。一歩で間合いを詰め、放つのは「狼牙風風拳・零式」。

かつての野蛮な咆哮はない。あるのは、精密機械のように急所だけを最短距離で穿つ、静かなる連撃だ。

「ど、どうした天津飯! 圧倒されているぞ!」

観客席の鶴仙人が叫ぶ。天津飯は必死に防御に回るが、俺の拳はことごとくガードの間をすり抜け、彼の肉体を叩く。

「くっ……これほどの使い手が、亀仙流にいたというのか! だが、これで終わりだ!」

天津飯が太陽拳の構えをとる。だが、俺は眩い光が放たれる瞬間、目をつむるのではなく「気」の探知だけで彼の背後に回り込んでいた。

「光に頼りすぎだ」

「なっ、後ろに――!?」

振り返りざまに放たれた天津飯の回し蹴りを、俺は左腕一本で受け止めた。重力修行で密度を高めた俺の腕は、大木をも跳ね返す。

「……信じられん。私の全力を、片腕で……」

天津飯の目に、初めて「恐怖」ではなく「戦慄」と「尊敬」が混ざった色が浮かんだ。

「まだだ……まだ私は負けん! どどん波ぁーーっ!」

至近距離から放たれた必殺の光線。俺はそれを避けることもなく、右手に凝縮した気を掲げた。

「悪いな。それはもう、桃白白で見てるんだ」

俺は掌に「操気弾」を発生させ、どどん波のエネルギーを包み込むようにして弾き飛ばした。光球はリングの端で爆発し、凄まじい風圧が会場を襲う。

「……バカな。どどん波を……手で……?」

天津飯は力なく腕を下ろした。息は絶え絶え、体中が俺の連撃で悲鳴を上げている。だが、その瞳には澄んだ光が宿っていた。

「……ヤムチャ。貴様、なぜトドメを刺さない。これほどの力があれば、一撃で私を場外に送れたはずだ」

「あんたは強い。俺が死なないために必死で鍛えなきゃ、勝てなかった相手だ。……ここで壊すのはもったいないと思っただけさ」

俺が不敵に笑うと、天津飯は深く、静かに息を吐き出した。

「……完敗だ。亀仙流の武術、そして貴様の執念。……私の負けだ」

天津飯は自ら場外へと歩き、白線の外に降りた。静まり返る会場。審判が震える手で俺を指差す。

「ヤ、ヤムチャ選手……勝ち!!」

爆発的な歓声。俺はリングの上で、今まで感じたことのない高揚感に包まれていた。

原作の「噛ませ犬」の運命を、俺は今、実力でねじ伏せたんだ。

「すっげえぞヤムチャ! 今の、オラでも勝てたかどうか分かんねえぞ!」

駆け寄ってくる悟空。その後ろで、ジャッキー・チュンこと亀仙人が、信じられないものを見るような目で俺を見つめていた。

「ヤムチャよ……お主、一体何を目指しておる? その力、もはや『武天老師の弟子』という枠に収まるものではないぞ」

「……亀仙人様。俺はただ、誰も死なない未来を作りたいだけですよ」

俺は空を見上げた。次は悟空との準決勝。

だが、その視線の先にあるのは、数年後にやってくる「サイヤ人」たちの影だ。

「……見てろよ、ベジータ。お前が地球に来る頃には、俺はもっととんでもないことになってるぜ」

俺の本当の戦いは、ここから始まる。

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