ヤムチャになったってどうしたらいい 作:茉莉
天下一武道会の興奮が冷めやらぬ中、俺たちは夕食の席へと向かおうとしていた。だが、悟空が「あ! 如意棒と四星球、会場に忘れてきちゃった!」と声を上げた。
「もう、悟空ったらしょうがないわね」と笑うブルマを横目に、クリリンが「いいよ、オラが取ってきてやるよ」と駆け出した。
その瞬間、俺の脳内に警鐘が鳴り響いた。
(待て……原作通りなら、ここでクリリンは死ぬ。タンバリンに襲われて……!)
「待て、クリリン! 俺も行く!」
「えっ、ヤムチャさん? すぐそこだし大丈夫だよ」
「いいから! 胸騒ぎがするんだ」
俺は困惑するクリリンを半ば強引に連れ、夕闇に包まれ始めた武道会場へと引き返した。
会場の廊下に足を踏み入れた瞬間、空気が凍りついた。異様な、どろりとした邪悪な気が辺りに充満している。
「……ッ!? なんだ、この嫌な気は……!」
クリリンが身構える。その視線の先、悟空の荷物の前に、翼を持つ異形の怪物が立っていた。ピッコロ大魔王が生み出した魔族、タンバリンだ。
「ほう……。殺害リストにはない面々だが、名簿とドラゴンボールを奪うついでだ。貴様らも冥土の土産に殺してやろう」
タンバリンが凶悪な爪を剥き出しにして、クリリンに飛びかかる。
「クリリン、下がれ!!」
俺はクリリンを突き飛ばし、重力修行で練り上げた拳をタンバリンの顔面に叩き込んだ。
「ぐふっ!? な、なんだと……人間風情がこの私のスピードに……!」
「悪いな、魔族さんよ。俺は『予定通り』に死人が出るのが大嫌いなんだ」
俺は全身から隠していた気を解放した。大会でのドローを経て、さらに研ぎ澄まされた俺のオーラが、薄暗い廊下を白く照らす。
「貴様、ただの人間ではないな……! 死ねぇっ!」
タンバリンが口から怪光線を放つ。だが、俺はそれを首を傾げて避けると、新技「狼牙・瞬光閃」を叩き込んだ。
最短距離で放たれる連撃。重力5倍に耐え抜いた俺の拳は、魔族の強靭な肉体をいとも容易く打ち砕いていく。
「がはっ! ば、化け物め……大魔王様に……報告を……!」
「報告? させるわけないだろ。……ここで終わらせる」
俺は至近距離で両手を突き出した。
「操気弾・一点集中!!」
凝縮された気の塊がタンバリンの胸部を貫き、背後の壁もろとも彼を吹き飛ばした。絶命した魔族が、塵となって消えていく。
「ヤ、ヤムチャさん……。あいつ、一体何だったんだよ。あんな奴、見たことないぞ……」
震えるクリリンの肩を、俺は力強く掴んだ。
「……クリリン、これが始まりだ。本当の地獄が、今、目覚めようとしてる。悟空のところへ戻るぞ。一刻の猶予もない」
俺は床に落ちた如意棒とドラゴンボール、そしてタンバリンが持っていた「武道家名簿」を拾い上げた。
(間に合った。クリリンを救った。だが、これでピッコロ大魔王は確実に俺を『最優先排除対象』として認識するはずだ)
俺の生存戦略は、ついに世界の命運を左右する戦いへと突入した。前世の知識では、この後悟空が超神水を飲んでパワーアップする。だが、俺は俺のやり方で、この「絶望の時代」を終わらせてやる。