選択の結果
[選ばれたのはおうどんでした]
「・・・・は?なによ、うどんって...。藤丸、あなた真面目に答えてるの!?」
「い、いや。トレーニングしてお腹すいてて.....、もう訳が分からなくてつい口から」
「なによそれ、もういいわ。この件はもうこちらでなんとかします。食堂にでも行ってきなさい。常に万全を期すのも仕事です」
藤丸は颯爽と食堂へと去って行く。結局、この意味不明な冊子については何の情報も得られなかった。だが、収穫がゼロだったわけではない。
そう、藤丸もまたこの悍ましい書物「ファーストサーヴァントは譲れない」に対して自身と同じリアクションをしていた。
恐らく最もマシュと関わりのあるカルデアの人間でありながらも内容を知らない。
これは大きなアドバンテージとなる。
「マシュ、残念だけれど藤丸もこの小説については知らないみたいね。やはり止めに「なるほど、さすがは先輩です」何言ってるのよ」
発言に被せてくるシールダー。というか今のやりとりの内容のどこに褒める要素があったというのか。
話の流れが急すぎる。
「先輩はかつて契約していたサーヴァントの方について触れることを促して下さったのかも知れません。うどん...。たしかにヒントになります」
「頭大丈夫?うどんがサーヴァントとなんの関係があるのよ。あぁ、好物とか?彼と同じ故郷のサーヴァントならあり得るかもね」
「いえ、うどん生地が触媒となって召喚されたサーヴァントの方ですね」
「何言ってるの貴方。いやほんとに。うどん生地がサーヴァントに繋がるわけ無いでしょう!?そんな馬鹿げたことをする人がいてたまりますか!」
「しかし!!現にアニングさんやバニヤンさんがうどん生地から!!」
「っ...!!」
オルガマリーはぐっと言葉をこらえた。
なんでうどんで不毛なやりとりをした挙げ句に言い負かされなければならないのか。
いやそもそもなんでうどん生地でサーヴァントが呼べるのか。呼べたら駄目だろうに。常識を考えて。
「...!!いえ、甘いわね。マシュ。なぜなら、あなたから貰っていた原稿にはそんな奇妙な内容は無かった....。つまり、後付けなんでしょう?」
「あ、これは微小特異点の話だからですね。本筋の特異点攻略の話とは直接の関わりの無い話になります。だから、省く必要があったんですね」
ここまでおかしい話しかなかったが、ここにきてその他の特異点の話まで。
マシュが見てきたという世界線は理解が難しい、もしかしてマシュが宇宙人ではないのか?という疑問がほんのり浮かびつつあった。
「そもそもね、マシュ。うどんで話が繋がるわけが....」
「残念でしたね、所長。たとえうどんであっても先輩の旅路を彩るに相応しいエピソードはあるのです。そう、『ファーストサーヴァントは譲れない、外典』になら」
唐突に現れた情報量の援軍によりオルガマリーは固まる。
外典ってなによ....?と聞く勇気はもはや無い。ここでさらに突っ込んだら実は第二弾もありますとか言われたら多分寝込む。
「ではご紹介しましょう。微小特異点「製パン戦争」について、お話しします。時系列的には第7特異点攻略からしばらくと言ったところでしょうか。まぁ、聡明な所長ならばこの情報だけで何があったかはご理解いただけたでしょう」
「えっ? ちょ、ちょっと待って」
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------「あぁ!、なんかいつもの展開になりつつある!」
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-------------「本当に待って!!うどんが原因で話し拡がるとか勘弁してちょうだい!」
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~第7特異点攻略後しばらくの頃~
「特異点、ですか?メソポタミアに?」
「うん、どうやらそうらしい。といってもそこまで脅威度は高くなさそうだ。....まぁ、この間の本物のビーストⅡとの戦いを超えたら大体そう思えるかもだけど」
眼鏡の少女マシュ、そしてそのマスターと話す女性の名はダ・ヴィンチ。
カルデアの観測能力により探知された特異点。しばらく前に激戦を終えたばかりのその地において、新たな戦いが幕を開けるとでも言わんばかりの話しぶりだ。
しかしその口ぶりには妙に余裕がある。
「サーヴァントがあまりいないだろ?どうやら現地へレイシフトしているようでね。夏期休暇と言うわけではないが息抜きだよ、息抜き。職員が休むならば英霊にもそういうのはあってもいいだろう?肩の力を抜くのはとても大切だ。私も絵に発明にあれにこれにと懲りすぎて昔は大変だったからね。分かるとも」
「はぁ。仰ることは分かりますが.....」
「どのくらいのサーヴァントが行ってるんですか?」
「あぁ、行ってるのは4割くらいかな?メソポタミア出身者なんかは全員行ってるけど。精神的にも君たちは疲労を溜めてる。バイタルチェックじゃ問題なくても心の休息は大切だ。特異点を解消しつつのんびりしたまえよ」
「そこまで言ってもらえるなら・・・。マシュ、俺たちも行く?」
「そうですね、過程はどうあれ特異点は解消しなくてはなりません。行ってみるのは良いかもしれませんね」
3女神との戦い、ラフムの大群との死闘にビーストⅡとの激戦。積み重なった心労は計り知れない。だが戦いは勝利を収めることは出来て、特異点の解消も成功した。少し休もうか、なんてゆったりした雰囲気を醸し出す3人。
現地に他のサーヴァントがいるなら少し遊ぶくらいでも良いかも、なんて考えていたその時。
「成る程成る程。新たに出撃ですか、素晴らしいですねマスター。是非!お供させていただきますよ。他の同輩にも声をかけてきましょうか?」
鎧の音を立てながら現れたのはジャンヌ・ダルク(獣)。
第7特異点攻略時もその猛威を振るった槍使いは明らかに臨戦態勢で。話を聞いていたと言うには殺伐としすぎである。
が、そこに声をかける者が一人。
「待ちなさい、今回は休暇を兼ねているというのが聞こえなかったのかしら?聖女ジャンヌ・ダルク」
「聖女マルタさんですね。ご安心下さい。マスターのお命は必ずお守りしますとも」
「.....どんなふうに?」
「え?そうですね・・・・、敵兵がいらっしゃいましたら(自己規制)したり(放送禁止用語)なんかで二度と寄りつかないようにしますね」
「はいアウト!! もうアウト! 駄目なことしかないから!」
「でも、マスターの身は守られて聖杯も回収できますよ?」
「倫理観がガバガバすぎる。あなた本当にあのルーラ-のジャンヌと元は同じなの・・・?」
実際やばいことしかない。これなら拳で殴る聖女の方がどれだけ正しく真っ当かと思えてくるほどに。
「そうだね、ジャンヌ。君達の力は絶大だ。7騎いるうちの一人でもいれば大きくパワーバランスは変わるだろう」
「では早速用意をs」
「だが、今回は君たちの出撃はなしだ。ロマニと話しあって決めてる。理由は分かると思うけど?」
その言葉にジャンヌはこの上なく不快そうにその美しい顔をゆがめる。
ちらりと藤丸の方を見るが擁護は期待できなさそうだ。
かなり前の出来事______。
ビーストサーヴァント達からすれば些事の認識だったが、自分達と同時期に召喚されたサーヴァント、フランチェスカ・プレラーティを始末したことでこっぴどくマスターから叱られていた。勝手にマスターの私室へ上がりこみ、取り入るために誘惑するに留まらず歪んだ発想を押しつける様が許せず、モルガン(獣)やブーディカ(獣)と結託し『フランチェスカの宝具』が機能しなくなるまで殺し続けていたのがバレたのだ。勝手に退去したと嘯いていたのも良くなかった。
マスターの身の安全のためと弁明したがどうやらまだ許しは得られていないらしい。
「....分かりました。今回は大人しくしましょう。マスターから咎められているのは理解しています。ただ、マスターからお呼びがあればその限りでは無い・・・そうでしょう?」
「あぁ、それで構わない。ご理解に感謝するよ」
踵を返して去って行くジャンヌと申し訳なさそうに会釈をして去って行くマルタを見送った藤丸達。
「これでいいのかな」
「先輩、カルデアは組織です。大義名分があってもやり過ぎなのは擁護できません。それに私ももう少し警戒すべきでした...。淑女らしいフランチェスカさんを失ったのは思うところがあります」
「ま、二人とも気負いすぎちゃ駄目だ。そうやってしっかり想ってくれればいつかフランチェスカの方からまた来てくれるさ」
その言葉に二人は破顔する。彼らの知るフランチェスカは悪人では無く、多少奇抜でハイテンションな人に過ぎなかったからだ。....常に何かに怯えていたような気もするが。
「ほらほら、早く特異点に行かないとギルガメッシュ王あたりがサクっと特異点解消しちゃかもだぜ?早いことレイシフトしないとね!」
礼を言いながらレイシフトへ向かう若者達を見送り、ダ・ヴィンチはこのあとの作業に頭を働かせる。
休暇とは言っても特異点の解消が必須あのは変わらない。やることはたくさんあるのだ。
「ただでさえ、あれこれ背負わないといけないのに藤丸君ときたらとんでもない連中を抱え込んじゃって....全く、ORTだかなんだか知らないが人の限界を考慮しないってのは罪なものだね」
「フハハハハハハ! よく来たな、雑種!とりあえずは獣狩りの功績を褒めてやろう!」
「ありがとうございます!ギルガメッシュ王!」
「よかったですね、藤丸さん。マシュさん」
特異点に到着してすぐに藤丸達はシドゥリによって宮殿へ招かれていた。
なんでも特異点解決の間は宿やらなにやらも工面してくれるということで、この特異点のルールも懇切丁寧に伝えられた。
「いいか?このウルクは今、パン作りがキモだ。7騎に対してそれぞれパン工房があてがわれ、如何に市井へ受け入れられるかを競うというものでな。俺もその一人だ。だが、俺はパンなど捏ねん。よって、貴様にパン職人の仕事を与えることとする。安心しろ。三食とこのウルクの一等地宿泊付きだ。もちろんずっとパンに向き合えなどと言うつもりも無い。手を抜かなければ問題ないだろうからな」
訂正。押しつけられただけかも知れない。
その後は俺は仕事をする、そう言って聞かない王様に追い出され、シドゥリによって仮住まいへと通されることとなった二人。
広い空間、市街地と比べて豪華な調度品の数々。ギルガメッシュなりの気遣いがあるのかもしれない。
「はぁ~、なんか大変なことになったなぁ」
「そうは仰いますがなにやら楽しそうに見えますよ先輩。やはり休暇が楽しみだったのですか?」
すると何やら気恥ずかしそうに頬を掻きながらその問いかけに答える。
通信も入り、ダ・ヴィンチも会話に混ざる。
「なんだなんだ。百戦錬磨のマスターもお困りかな?」
「いや、俺さ。パン屋とかやりたいな、って思ったことあってさ。練習とまでは行かずとも良い経験になるかなぁって」
「そのような事情が...!! では必ずや先輩をこの特異点NO.1のパン職人になれるようサポートいたします!」
「とりあえず、製パン戦争について勢力を整理しようか。聖杯探索には重要な内容になる。二人はなにか現時点で知っているかな?」
「かしこまりました。といってもシドゥリさんからの受け売りのようなものですが・・・。現在のウルクでは製パン戦争が繰り広げられています。といっても血なまぐさいものではなく、極めて緩い雰囲気であり各陣営が流通させるパンの人気投票を行う平和的なイベントです。
ルールとしては、
①各陣営は割り当てられた魔術工房ならぬパン工房でパンを作り、そのレシピを登録すればあとは工房で量産される。そのパンがウルクへと広く販売され、人気投票によって勝者が決まる。
②略奪、工房への偵察、攻撃などは禁止。
③同盟などの協力体制の禁止。
④価格は一律で設定
⑤材料は工房で注文すれば自動納入。また、これ以外の材料を使うのは禁止
⑥流通には関わらない
おおまかには以上6種。
陣営は我々の『フジマルパン(仮)』、ネロさん率いる『パンとサーカス』、エジソンさんの『トースター工房』、スカサハさんが仕切る『クロスブレッド』、マリーさん達フランスの英霊の方々による『Le goût de la révolution』、黒髭さん達が展開する『海賊の飯屋』、そしてニトクリスさんの『太陽と鷹』。強豪揃いです....」
藤丸はあくまでもパンに関しては初心者。そうそうたるメンツに生唾を飲み込む。
彼らは自分たちとは違う時代に生きた者達。出すパンもまるで違う。同じパンという名前でも背負う歴史もかたどった文化もまるで違うのだ。
現代の既製品しか知らない自分に果たして何が出来るのか....。休暇の気持ちは消え去り、特異点攻略の顔へと変わっていた。
「先輩。意気込むのは大切ですが、ダ・ヴィンチちゃんが言っていたように肩の力を抜くのも大切です。まずは、ウルク____いえメソポタミアのパン文化についても」
「そうだね、ならばダ・ヴィンチちゃんの授業の時間だ。まずは簡単に当時のメソポタミアでどんなパンが食べられていたか、ということだ。」
ダ・ヴィンチは通信越しにではあるが図解を示しながら二人へ話す。
なんか絵のクオリティが無駄に高いのが気になるが説明を今は聞こう。
「まず、我々が考えるパンというのは大体が発酵という過程を経ている。それは酵母の働きによるものだね。これについて知っている人は多い。こういった系統のパンはエジプト文明が起源ないし、最初期に製法を確立した...なんて言われている。偶然であった可能性が高いともされているがこの偶然の産物がギリシャ、ローマへ伝わり今日のパン文明へと飛躍したというわけさ。では紀元前のメソポタミアはどうだったか。こちらは穀物を挽いて水と混ぜて焼いた『フラットブレッド』と呼ばれている。アッカド語では呼び名が異なり『アカル』と呼称されることもあるね。藤丸君にも分かるように言うなら煎餅なんかが近いかな?発酵が無いから今みたいな見た目にはならなくて、かみ応えのあるものが焼き上がるんだ。こうしたパンについての存在は『ギルガメシュ叙事詩』においても度々登場する。自分たちの偉人について語る資料においてもわざわざ触れる程度には彼らとパンの距離感は近しいものだったことが伺えるね」
「で。材料は何かという問題だが、これは単純で大麦だ。種類や用途に応じて臼で加工されて小麦粉となった。これがまぁ、大変な重労働でね!当時の人々の苦労を想えば現代の我々が店先に並ぶだけでパンを買えるのはいかにも文明の発展を感じられるというものだ。出来上がったそれらを水と混ぜてパン生地に加工、土製の釜で焼いて人々の口に運ばれたわけだ。見た目?なんか平べったくて、カッチカチ!、重みのある焼いた小麦の塊だよ」
「今の時代以上に古代は専門職の地位は重かった。戦士しかり文官しかり。人々の胃袋を支えるパン職人も例外では無かったろう。そしてだ。大麦がとれると言うことは、ビール文化も発展することになる.....のだけれど君たちは未成年だからね。これについては省略かな?とはいえ、パンというのは農耕のシンボルでもある。パンを作るにはまとまった材料が必要だ。より多くの収穫を願い、それが叶えば豊穣の神の逸話にも関わってくることもあるだろう。それは翌年以降の豊作を願う信仰心となって神への供物に選ばれることも少なくない。農耕の発展と都市の拡大。大昔のコトと思わず現代人も立ち返ると何気ない気づきを得ることが出来るかも知れないよ。これにてダ・ヴィンチちゃんの授業はいったん閉幕だ」
カルデアからの定期連絡も終了し、広い部屋には再び二人。しみじみと聞き入っていた藤丸はこの特異点でどんなパンを作るか悩む。
食べるのはウルクの人々だ。当時に近いものにするのか?それとも自身が食べ慣れている現代風にするのか。ウンウン唸って悩み始める。
「奥深いんだな...パンって」
「・・・(先輩がものすごく悩んでいます。お菓子には多少覚えがあってもパンは触れたことが無いこの身が恨めしいです)」
「よし、決めた!」
「え!?もうですか? 具体的にどのようなパンを・・・?」
「違う違う。とりあえず他のチームがどんなものを出してるのかを見て回るんだ。それから自分たちの案を纏めようかなって。ほら、俺たち後発組だからさ。ルールにも違反してないし」
「なるほど、確かにそれもそうですね!街を見て回りましょう」
??「なら僕も同行していいかな?」
入り口の方から声がする。そこには穏やかな顔つきの青年が立っていた。
つい最近カルデアに来てくれた頼れるランサー
「エルキドゥ!!君も来てたんだ」
「あぁ、ギルからも頼まれてね。『どうせ考えが纏まらずに困っているだろうから手伝ってやれ』ってね」
「頼もしいです、よろしくお願いしますねエルキドゥさん!」
「任せてくれ。今回の僕はパンマシーンだよ。」
「「パ、パンマシーン...?」」
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「なんか、思ってたよりも食べられてないっぽい?これだけ色んなパンがあるのに」
藤丸の疑問も尤もである。2人はウルクの街を歩き、多くの露天にパンが並べられているのを確認した。参加者が参加者だけあって国際色豊かなラインナップ。どれもこれも確かに美味しそうと思えるものばかり。だが、人々はあまり食べていないのだ。彼らが口へ運ぶパンと言えば食べ慣れたもの。
現代のパンの本場であるフランスを背負ったにも関わらず、自信作が上手く受け入れられないことに愕然としたサンソンが真っ白に燃え尽きてイスに座っていた光景は記憶に新しい。
「む?マスター達も来たのか」
「あ、エジソンさん。お疲れ様です」
「ごきげんよう、ミス・キリエライト。聞いたとも、君たちも参加したとね。これは負けていられんな、ハッハッハ!...はぁ...」
「テンションの落差が激しすぎる。エジソン、一体何が?」
「聞いてくれるか、マスターよ。私はな、アメリカ人らしく雑穀パンとコーンブレッドで勝負に打って出た」
「コーンブレッドですか、確かにアメリカらしいパンです。乾燥トウモロコシの粉末であるコーンミールを使用して生地を作り、ほのかに甘い味が特徴の?」
「ミス・キリエライトは知っているようだな。だが、私が使ったのはより粒が粗く食感が際立つコーングリッツを使ったものだ。雑穀パンも悪くないが、私としてはこちらを推していた....。だが、思ったよりも選ばれない!なぜだ!?」
獅子の雄叫びを上げる発明王。
現代アメリカ人にとって日常生活に限らず、感謝祭などでは欠かせないコーンブレッドをメインにしたのは確かに勝負に出たとも言えるだろう。
一体何が原因なのか....
「これでは私のウルク向けトースターが売れないではないか!!」
「なんか雲行きが怪しくなってきたぞ?」
「聞いてくれ、マスター。連中が言うには、『直火が一番だよね』だの、『なんかパン黄色くない?』だの。焦げたような見た目してたりするのを日常的に喰ってるんだから、いまさら色くらい別にいいだろう!極めつけには菓子扱いだ!確かにコーンブレッドはそういう扱いを受けるときもある。だが、この特異点ではパンとして消費されないと駄目だという。戦わずして負けているではないか!チックショォォォ!」
「お、落ち着いて下さい!エジソンさん!」
哀れ発明王。生前はトースターを売るために広告を使い倒し、「一日三食食べるとよい。それもトーストが適している」という商品そのものでは無く解決案で売り込んだ漢は一般ウルク民達に軽くあしらわれてしまっているらしい。
「すまない・・・。つい熱くなってしまった。まるで電熱だな。ハッハッハ。では私はパン研究に戻るとする。君たちの健闘を祈ろう」
「エ、エジソンさん、去って行かれました...」
「プライドが傷ついたんだろう。そっとしておこう」
ここに来て沼の様相を見せる聖杯戦争ならぬ製パン戦争。味のプロが敗れ、マーケィングのプロが結果を出せずにいる。
それも当然。彼らは確かにプロだったかもしれない。
素晴らしい商品を作る。誰もを魅了する一品を焼き上げる。長年愛される味を絶やさない。
そうした力はあっても欠落しているもの。それは。
「・・・・もしかして単純にウルクの人達が考えるパンと違いすぎて食指が働いてないだけなんじゃ?」
「先輩、流石にそれは。いえ、しかしその可能性は確かに。現代的なパンというのはエジプト由来で広まっていった発酵を伴うパンです。そういう点で考えればエジソンさんのコーンブレッドも例外ではありません」
だとすると不思議な点がある。
確かにフランス英霊とエジソンは上手くいっていない。だが、その一方で海賊陣営とケルト陣営が多少上手くいっているのか。
「調査しつつ、俺たちも案考えないとね」
「お任せ下さい。必ずや先輩を地球パン総長にしてみせます」
「そんなことは望まないかな.....」
ふとマシュが疑問を口にする。姿を見せないことに違和感を感じはじめたからだ。
いつもならうっすらと気配を感じられるのに。
「そういえばORTさんはどちらに?ずっと見ていませんが」
「あぁ、なんか『食事のことはよく分からん』って言ってからじっとしてるね」
7つの陣営が商品を出し合う製パン戦争。戦いの幕は開かれたばかりだ。
なんか変な思惑も交錯しているが、果たして。
本筋の話からさらに逸れて展開される微少特異点。書いてたら頭痛くなってきた(38.4℃)