マシュ・キリエライトしか分からない   作:ats376

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第11話 「藤丸がいない戦場」

藤丸達がワイバーン達を効率的に退ける術を身につけたのと同じ日、夜がさらに深まった頃。

藤丸の知らない場所でマルタは一人きりで立っていた。

 

斜面の中腹。

焼けた木の幹に背を預け、眼下の小さな火を見下ろしている。

そこにはカルデアの一行がいた。遠くからでも分かる。列の組み方、火の置き方、見張りの位置。まるで敵のようでいて、どこか“守る側”の動きが濃い。

 

遠くで焚き火が揺れているカルデアの一行の陣では避難民は中央。兵士は外周。英霊はその要所を抑えている。

遠目でも分かる守る陣形だ。マルタは腕を組んだまま、ため息をつきつつそれを見下ろしていた。

 

「・・・・・本当に、気に入らないわね」

 

 小さく呟く。

 

「敵なのよ。敵なのに、どうしてあんな顔をしているのかしら。避難民を囲んで子どもを庇って、まるで自分たちが守護者みたいな顔をしている。そんなものを見せられると、こっちが迷うじゃない。バカやってるわね、私たち」

 

 

 

「そうね」

 

背後から声がした。マルタは反射的に振り向き、杖を構える。

そこに立っていたのは――エレナ・ブラヴァツキー。

 

夜風に帽子を揺らしながら彼女は穏やかな笑みを浮かべている。

 

「あなたは・・・・、カルデアのキャスター。いつからそこにいたの?」

 

「さあ? 少なくとも、あなたが“迷うじゃない”って言った頃には、もう聞いていたわ」

 

「盗み聞き?」

 

「違うわ」

 

エレナは軽く笑った。

 

「夜ってね、魔術師にはとても耳がいい時間なの。空気の流れも音の反響も、全部が静かだから」

 

マルタは距離を測る。キャスター。クラスとしての相性では望ましいとはいえど油断できない。

 

「それで? 私に何か用?」

 

「ええ」

 

エレナはゆっくりと数歩ずつ近づいてくる。

だがその一歩一歩が妙に重い。

 

「ただ確認したかったのよ。あなたが本当に“そういう人”なのかどうか」

 

「どういう意味?」

 

エレナは焚き火を指す。

 

「敵を見て嫌な気持ちになる人」

 

マルタは一瞬黙った。

そして吐き捨てるように睨みながら短く吐き出す。

 

「悪い?」

 

「いいえ、とても人間らしいと思うわ。そういうの大好きよ。私たちのマスターもそうだから」

 

その時。空気が変わり闇の中に影一つ。背後より小さな足音。

マルタが振り向くとそこには影が立っていた。

白い髪に小さな身体。その手には月明かりでうっすら輝くナイフ。

少女はじっとマルタを見ている。

 

「こんばんは。・・・・・いい匂い」

 

マルタの背筋が冷えた。

何かが違う。この少女は―― サーヴァントの気配なのにまるで重さがない。気配がないような・・・。

言葉を失っていると、ジャックが首を傾げる。

 

「ねえあなたは、マスターの敵?」

 

言葉を失うマルタに代わりエレナが答える。

 

「そうね。一応、敵側のサーヴァントよ」

 

その瞬間。ジャックの目が変わり満面の喜色が浮かぶ。

 

「じゃあ殺していいよね」

 

 

 マルタが叫ぶ。

 

「来るな!」

 

 杖が振るわれ放たれた聖女の一撃に空気が震える。

 だが――当たることはなく虚空をなぎ払うだけに終わった。

 

 ジャックの身体が溶けるように消えた。

 

「・・・!?」

 

 陰が這い回るように背後へと

 ナイフが掠めて肩が裂け、血が流れる。

 

「ぐっ!」

 

 マルタは大きく跳ねて距離を取る。敵の早さとの差を埋める地形を探して

 

 いや――違う。

 速さじゃない。位置が分からない。

 

 霧。

 

 影。

 

 気配。

 

周囲を見て、そして理解する。そこら中にいる。

ジャックが。

 

 十。

 

 二十。

 

 三十。

 

夜の斜面の陰はいつのまにか少女で埋まっていた。

 

「・・・・なっ」

 

震える声のマルタへエレナが静かに語りかける。先ほどのように穏やかな表情のまま、目つきは氷のように冷たく声は無機質に。

 

「顔の無い殺人鬼。知っているでしょう?」

 

ジャックたちが囁く。

 

「ママ」「ママ」「ママ」

 

 声が増える。

 

「「「「「「愛してくれる?」」」」」」

 

マルタが杖を振るい光が弾け、数体が消える。

だがすぐ増える。増える増える増える。

 

 

「マスターは優しい」

 

 ナイフが残影を残して腕が裂ける。

 

「だからマスターの敵きらい」

 

 ナイフが太腿を貫く。

 

「でも、ここにはマスターいない」

 

傷を増やすマルタがその言葉に動きを止めたその瞬間。全てのジャックが動いた。夜に落ちた影が一斉に蠢き迫る。

ナイフの嵐をマルタは必死に防ぐ。だが戦闘にならない。宝具を発動する暇すら無い。

 

前からの攻撃を捌けば背後から別の刃が腰から押し入って内臓を貫く。

腕で防げば骨が割れる。背中を見せれば幾本も幾本も。躱しきれずに掠めて脇腹が裂けて血が舞い上がる。

 

「・・・・っ!」

 

全身が赤く染まり始めて膝が揺れ、まともに立てないマルタへジャックが近づく。

 

「ねえ」

 

ナイフが腹部へ深く刺しこまれ、蹴りでそのナイフがさらに打ち込まれ、激痛と共にマルタの身体が止まる。

 

「・・・あ」

 

 ジャック達が囁く。

 

「「「「「「「ここにはマスターいないから、遠慮いらないよね」」」」」」」

 

 

 その瞬間。

 分身が一斉に集まった。制止役のいない暴力が放たれる。

 

 

 

 

むせかえるような鉄の香りと、命が獣に貪り尽くされる音を伴って。

 

 

 

 

 肉が裂ける。

 

 骨が砕ける。

 

 血が噴き出す。

 

 マルタの身体がバラバラに、否。粉々に解体されていく。

 

 ジャックは笑っていた。

 

                         「愛」

 

                        「「愛」」

 

                  「「「「「「「「愛」」」」」」」」」

 

動く気配すらなくなった聖女を見て満足げにエレナが言う。その顔はとても満たされている。

 

「もういいわよ、お疲れ様」

 

ジャックが顔を上げる。

 

「終わり?」

 

「ええ」

 

 エレナは亡骸を見る。原型はほとんどない。

 

「・・・・・やっぱり、マスターがいないとこうなるのよね。私も似たようなものだけど。怒られたことあるしね」

 

「だめ?」

 

「いいえ、だって戦場だもの。戦うのが本分のサーヴァントのくせに負ける方が悪いわ」

 

遠くの焚き火を見る。そこには大切な藤丸がいる。

まだ何も知らないまま穏やかな夜を過ごしている。

 

「でも、マスターの前ではもう少し優しくしましょうね? マスターがいる時の私たちはちゃんと人間じゃないといけないから」

 

「うん」

 

夜は依然変わらず穏やかな静寂なまま。一人の脱落者が迎えた凄惨な最期すらも受け止めてしまうほどに。

 

 

 




引率の先生の大切さは大人になると理解できる、そう感じる今日この頃
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