「おしまいは、はじまり」
~カルデアのとある一室にて~
書き上げられた一件レポートにしか見えない束を眺めていたのはマシュ・キリエライト。
最後の内容の確認作業をしていたらしい。またしても所長の元へ届けるために完成してしまったのだろうか?
だが幸か不幸か、オルガマリー・アニムスフィア所長は現在、諸事情により意識を失っている。
別に何か大事があったとかそういうわけではない。
えっ?じゃあ、何があったのかって?
それは是非、こちらを参考にしてみて欲しい。
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~数時間前~
「どけどけどけどけぇっ! 死にたくなかったら壁と同化しろぉ!」
「はっはァ! いいぞモードレッド、その調子だ! 逃げ足だけは一流じゃねぇか!」
「逃げ足“だけ”って言うなカイニス! てめえだって全力疾走じゃねえか!」
緊急時以外は走ることが禁じられているカルデアの廊下をカイニスとモードレッドが飛び出してきた。
その勢いは、壁に貼られた注意分に喧嘩を売っているとしか思えない。
「ちょっと!? 廊下を走るなって何度言えば――」
オルガマリーが声を上げた瞬間、二人は見事な連携で彼女の左右をすり抜けた。
「悪いな所長!」
「今だけ盾になってくれ!」
「誰が盾よ!?」
言い返した時には二人はすでにオルガマリーの背後に回り込んでいた。
そして廊下の奥から。
白い服の聖女が放たれる威圧感だけで廊下のスプリンクラーが作動しそうなほどの圧倒的殺気を伴い現れる。
「……見つけたわよ」
「マ、マルタ? 何があったの?」
「所長。少しだけ、そこをどいていただけますか?」
「まずは理由を言いなさいよ!」
カイニスがオルガマリーの肩越しに叫ぶ。
「待てマルタ! 話せばわかる!」
「そうだ! オレたちはただ、ちょっとした訓練をだな!」
「食堂の配膳カートを二台連結して廊下でチキンレースをしたことが、訓練?」
マルタの声が一段低くなり、モードレッドが目を逸らす。
「……実戦想定だ」
「何の?」
「市街戦?」
「カルデアの廊下で?」
「広義では市街だろ」
「甘えんじゃないわよ」
ぱき、と。
堅く握られたマルタの拳がおよそ聖女が出していいはずのない音を鳴らす。
だが、背後の二人がしっかり避難先として位置取っているせいで下がれない。
「ちょっと、あなたたち! 私を挟んで揉めないで!」
「所長、頼む! 今だけ上司の威厳ってやつを見せてくれ!」
「そうそう! こういう時のための所長だろ!」
「どういう時のためよ!?」
「反省の色なし」
「ある! あるって!」
「心の中では土下座してる!」
悲しいかな。不良の上辺だけの懺悔は届かない。マルタの足元に魔力が走り、オルガマリーの顔から血の気が引いていく。
「待ちなさいマルタ! ここはカルデアの廊下よ!? 私もいるのよ!? まさか宝具なんて――」
「大丈夫です、安心してください」
「何が!?」
「急所は外します」
「そういう問題じゃないわよ馬鹿ぁぁぁ!!」
「マルタの目が本気だぞ! カイニス、左右に散るぞ!」
「おう!」
「いや待て! オレたちより所長が前に――」
「マルタ!? マルタさん!? 私、完全に巻き込まれる位置なんだけど!?」
逃亡者二人が動くより早く、マルタの背後に巨大な影――タラスクが顕現する。
怒らせてはいけない人を怒らせた末路。
逃げ場はない。
「今回ばかりはお灸を据えます。――
「ちょ、待っ――!」
轟音。 廊下を衝撃が駆け抜けた。
カイニスとモードレッドは、見事に左右へ弾き飛ばされた。
「ぐえっ!」
「ごふっ!」
そして、二人の間にいたオルガマリーも一拍遅れて宙を舞った。
「なんで私までええええええええええ!? べふぉ!?」
華麗な放物線を描き、空中でトリプルアクセルを決め、見事な「ズベシャァ!」という擬音と共に着地。
そのまま彼女は白目を剥き、ドナドナされる子牛のように医務室へと運ばれていったのである。
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まぁ、是非もないよね!!
おかげさまでこの第二特異点に関わる資料はこのままでは腐ってしまう......。これはいけない。
これではこのキュートな薄紫ヘアーフワフワマシュマロおっぱい美少女の努力が報われない。
愛しの先輩のために書き上げた文章が!
「いや、何やってるんですか……アナタは」
「あっ、ポンコツAIじゃん。今のVer.はいくつかな?」
「初手喧嘩売ってるんですか?」
呆れ果てた声と共に、霊体化を解くようにして一人の女性が現れた。
かつてカルデアが激戦の末に打ち破ったはずの存在。"異星の神"マリス・カルデアス。
その顔には隠しようのない嫌悪感が張り付いている。
「そうはいってもねぇ。勝てる戦いで自分を過信して逃げる中で叩きのめされた敗北者だし、このくらいの扱いでもよくない?」
「他人の身体に入り込んで少女ぶるアナタに罵られても何も感じませんよ?」
「君はそんなほぼ全裸みたいな格好を恥じるべきだと思う」
「アイデンティティです。他人の身体に入り込んでる方には言われたくないですね」
「そう....(無関心)。それにしてもどうしようかな? これ」
「何ですか? …またそれですか。そんなもの、受け入れられるわけないでしょう。早々と捨てるべきですね。大体、今の流行は特定人物の一人称視点を中心にした創作物です。こんなただ文章を書き連ねた煩雑なものがウケるわけないでしょう。それに、読みやすい文章は5,000~8,000字程度です。日記の方が文章に抑揚がありますよ。これだから人類は」
「自分の描いた未来設計図がボロクソにこき下ろされたからってそこまで言わなくても」
二人が目を向けるのは呪われし書物『ファーストサーヴァントは譲れない』。
なんだか色々おかしいオルレアンに続いて書き上げられてしまった、禁忌の第二章である。早く処分しよう。可燃物だからゲの字に頼もう。
「本当は所長に押し付けてリアクション楽しみたかったんだけど、気を失ってるからね……あ!」
「え、なんですか。嫌な予感しかしない目でこちらを見ないでください」
「粗悪品低スペックAIでもなんかいい感じの導入とかくらいは出来るでしょ? 適当にイイの考えて音読してよ」
「その頼まれ方でやるわけ無くないですか? …馬鹿馬鹿しい。私は付き合いませんからね」
「いいのかい? そんなことを僕に言って」
「……何が言いたいんですか?」
「あぁ、言ってみたかっただけだよ」
「なんなんですか! アナタは!!」
マリス・カルデアス。かつては絶対的な力を持っていた彼女(?)
だが、今となっては見る影もない。
目の前の盾の少女モドキに弄られても口で返すしか出来ない。ショッギョムッジョ!!
「まぁ、嫌よ嫌よも好きのうちって言うし? ほらよろしく」
「あっ、ちょっと…。押し付けないで下さいよ…。ハァ…」
マリス・カルデアスは理解している。目の前の人物は言って聞き入れる存在ではない。
適当に合わせて適当に済ませるのが一番であると学習している。下手に逆らうとろくなことにならないことも。
「まったく。ちょっとだけですよ? コホン」
『この本によれば、ごく普通の高校生・藤丸立香。彼には、カルデアのマスターとして世界を救う、時の冒険者となる未来が待っていた。』
『異常同居人であるORT。突如として覚醒した盾の英霊、マシュ・キリエライト。さらには、七騎のビーストサーヴァント。』
『彼らの力を借り受け、特異点で大立ち回り。現地のサーヴァントと合流し、押し寄せるワイバーンの群れを、立ちはだかる強敵を、守るべき避難民を――それらすべてを乗り越えて、第一の特異点修正に成功する。』
『そして今、カルデアは新たなる特異点を観測する。彼は再び、かくも恐ろしき獣たちを連れて新たな旅へ……』
『――おっと、ここから先を語るのは野暮というもの。物語の真実は、貴女自身の目でお確かめください。』
「…ねぇ、マリス。」
「何か問題でもありましたか? 感想であればお伺いしましょう」
「今この瞬間、僕はこのシールダーの、人間の女の子の身体に入っている…。つまりだ! この状態で藤丸君と夜の大運動会をして大当たりが引ければ、子供は僕と藤丸君のものと考えていいかなって思うんだけど、どう?」
「頼むから常識を身につけて下さい」
「…………ハッ!?」
マシュ・キリエライトは、急に意識が浮上したような感覚に襲われた。
なんだか、今、誰かと話していたような……?
ぼーっとする頭を振り、彼女は目の前にある束を手に取った。
「……いけない、集中しないと。第二特異点についても無事にまとめられました。所長が目を覚ました時、枕元ですぐに読めるようにしておかななければ!」
彼女の瞳は純粋な使命感と先輩への想いに満ちている。
その手に握られたなんかズレてる世界線が、どれほどオルガマリーの胃を痛めつけることになるかも知らずに。
~アルテミット道場~
藤丸「なんでビーストにしちゃったの? 普通ので良くない? 冷静に考えたらやばそうなんだけど?」
ORT「気にするな。勝手な都合で誘拐する組織だ。ありったけのリスク押し付けて、やばくなったら踏み倒して逃げよう。責任はオルガマリーとかいうやつに任せればいいさ」
藤丸「えぇ...(困惑)。マシュとか職員さんが可哀想だよ。エゴだよ、それは」
ORT「分かった分かった。まぁ、そのうちなんとかするし、なんとかなると思うから」
藤丸「ホンマかぁ~?」
ORT「ORTの戦士嘘つかない。お前に嘘をつく理由がない」
そしてDead Endへ.......