マシュに異変が生じる数分前。
おぞましき来訪者は藤丸の目を通して少女達の戦いを見ていた。
自身をORTと称するその存在は形や言動こそ人類を真似てこそいる。
が、本質的には怪物のまま。
物事の関心事は藤丸が中心で、人類にも人間社会にもそれほどの関心は持っていない人外。
家では本や映像資料、電子機器で多くのことを学んでこそいたものの、それは好奇心由来の物ではなく「藤丸とより深い関係になるための資料集め」という意味合いが強かった。
歴史、経済、文化、娯楽、学問.....人間であれば情報量に押しつぶされて蓄積しきれないこともセキュリティや物理的理由、魔術的な事情があるものも。
彼女にとっては些細なことばかり。
貪欲な彼女は自分の立香が謎の人物達によって故郷より遙か遠い場所へ連れてこられてからは「カルデア」なる奇妙な施設を観察していた。
これまでに何度も喰らってきた魔術師達が闊歩する施設。
自分でも知りえないような様々な設備に聞き慣れない単語の数々。
明らかに尋常ならざる場所であるが、誰が何をしようともそれほど関心は無かった。
(断り無く)カルデアスとかいう大きな球体や重要そうな設備を侵食してやりたい方題していた程度。
だが。彼女にとって最も興味が湧いたのはマシュ・キリエライトという少女だった。
死徒と呼ばれる存在でないのにも関わらず、独自な形での永遠の命を持っている。
ORTはカルデアに来てから英霊の座への侵食に成功していたが、この冬木の街に来てからは裏道のようにして英霊マシュ・キリエライトにもアクセスすることに成功し、そして。
「興味深いな。他にはないオンリーワンだ。折角だ。藤丸が喜ぶようなことをしよう」
戦闘中にも関わらず、躊躇いなくその記録を引き剥がした。
それが切っ掛けなのか、運命の悪戯なのか。
マスターである藤丸の魔力と深く結びついたマシュへ異変が起こる。
□□□
白い光の中で、マシュは走っていた。
どこへ向かっているのかは分からない。
足元も見えないけれど、進まなければいけないことだけは分かる。
いくつもの景色が流れていく。
燃える街。
竜の咆哮。
見知らぬ都。
青い海。
霧に沈んだ都市。
熱砂。
白い城壁。
冥界の暗がり。
星の海のような場所。
その全てに自分がいた。変わらず盾を持っていた。
誰かの前に立っていた光景もあった。
誰かを守れた光景もあったし、守れなかったものもある。
何度も泣きそうになった。何度も立ち止まりそうになった。
それでも、隣にはいつも手を伸ばしてくれる人がいた。
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マシュ・キリエライトは闍ア髴である。
デザイナーズベイビーとして産まれ、身の丈に合った人生を送り、そして2015年を迎えた。
尊敬できる医師と英霊と出会い、信頼できるマスターと出会った。
カルデアの優秀なスタッフに支えられて、役目を果たせなくなってしまった「本来のマスター達」に代わり世界を救った。
7つの特異点を巡り、たくさんのサーヴァントと交友を深めた。
お別れも経験した。心がとても寂しかった。
でも、最後には魔神王を倒して先輩達はあるべき未来へと帰ることが出来た。
私は2015年に取り残された。
何度も何度も。
私は世界を駆け抜けた。助けて欲しいと打ち明けたこともあった。
もう疲れたと自棄になったこともあった。
ゲームのNPCのように同じ事をひたすら繰り返した。
私だけが『今』に在り続けているという現実に、心が壊れそうになった。
たくさんの心に触れて、お別れも何度も経験して、人の世界の鮮やかさと切なさを知った。
未来は一つだけ。永遠なんか欲しくなかった。
何度も何度も見る同じ夢。
繰り返された全てが、私にあらゆる色を与えた。
そして、こんな自分に対する失意と私を産んだ人々へのドス黒い黒が染み始めた頃になって、再び世界は暗転した。
また旅の始まりに戻る。
人理焼却の始まりへ。
しかし今回は何か違うようで、どこかから何かが歪むような音がした。
「....?」
死んだ眼で見渡すが何もない。見当たらない。いつもならそうだった。
「なにか…あれは?」
小さな小さな光。呼ばれているような気がする。無意識のうちにふらふらと光へ吸い寄せられるようにマシュは歩く。
一歩、また一歩。
弱々しい足取りは近づくごとに力を得ていく。
いつだったか、ロマニと交わした会話が頭をよぎる。
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「うん、体調は問題なし。マシュ、今日の検査もお疲れ様」
「ありがとうございました、ドクター」
「マシュ、何か聞きたいことでもあるのかな? 顔にそう書いてあるよ」
「えっ? えぇと、その本を読んでいて気になったことがありまして…。お伺いしても?」
「もちろん、あ、でもシャーロキアントークはついて行けないからそれはちょっと勘弁かな」
「いえ、そういうのではなくてですね。その、『縁』とはなんでしょうか?」
「縁? サーヴァントの召喚に関わることかな?」
「はい、条件さえ揃えれば確実に望む英霊の方とあうことも出来るのでは、と思いまして」
「まぁそうだね。遺物に土地、血縁。色々ある。まぁでも君の考えはあながち外れでもないだろうね。会いたい人を呼べる確定ガチャ、なんてね」
「それは…流石に失礼では…?」
「ははは、そうだね。でも、サーヴァントの召喚か。そうだなぁ、ある意味それは縁だけじゃなくて運命も絡んでくるかもしれないね。」
「運命ですか? それはむしろ非常に不確定要素なのでは?」
「その言葉はもっともだよ。でもね、マシュ。本来なら混じり合うはずの無い人々が出会うことになる。そして友情を育むこともあるあるだろう」
「世界は広く歴史は長い。可能性だけなら数え切れないほどあるのに特定の人間だけが引き合わされるんだ。違う国、違う文化…差異はそれこそ語り尽くせない」
「でも、出会うんだ。まるで最初からそうなるのが当然のようにね。ちょっととがった表現かもだけど、それは縁ではなくてきっと運命なんだと思うよ」
「私にもそういうものはあるのでしょうか」
「マシュ!? まだそういうのは君には早いよ、僕は認めないからね!」
「何仰ってるんですかドクター...、私の運命ですか、どんなものなのでしょうか」
「そうだなぁ、君を外に連れ出して、どんなことがあっても恐れずに手を取ってくれるような人、とか? 心を託せる人とか....色々思い浮かぶね」
「外の世界ですか。資料ではなく、この身体でいつか体験してみたいです!」
「きっと出来るさ、君という人間もそうあるべきだからね」
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マシュは涙を流しながら虚無に彩られた世界を走っていた。
小さな小さな光。
それを目指してひた走る。
終わりの見えない世界から逃げたいという思いからではない。
彼女はそれが何かを知っていた。苦しみに負けず、悲劇に膝を曲げても立ち上がり、「生きる」ことを証明した人間を。
色彩に溢れる切っ掛けになった人物を。
息を切らしながら光の前に立ち、涙を拭う。
そして彼女は光の中の手を掴んだ。
□□□
視界が白く染まる。
タチエの宝具を受けた宝具の防壁が音を立てて軋んでいた。
マシュの身体から漏れる光が強くなる。
最初に見えたのは冬木で目覚めたばかりの姿。
大きな盾を抱え、自分が何者かも分からず、それでも藤丸の前に立ったマシュ・キリエライト。
次に光が変わる。
鎧が重なり、外套のような装備が熱波に揺れた。
腕に、脚に、胸元に、旅を経た守り手の輪郭が宿っていく。
それは、いくつもの特異点を越えたマシュの姿。
守ることを知り、別れを知り、それでも前へ進むことを選んだ盾の騎士。
荒れ狂う魔力の光を受けながらマシュの鎧は再び変化する。
黒い重厚な鎧が輝くような白銀のものと生まれ変わり、盾はより大きく神々しいものへと。
展開された防壁はさらに強大に、分厚く。
「マ、マシュ?大丈夫!?その、姿は……?君は一体……?」
白い光の中心にマシュが立っている。
先ほどとは姿が違う。
それでも、藤丸を見た時の表情はよく知っているマシュ。
「ご安心下さい。先輩。もう大丈夫です。私はマシュ・キリエライト_____あなたのサーヴァントです」
聖光が周囲を吹き飛ばした後に立っていたのは無傷のマシュと藤丸だった。
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タチエは愕然としていた。
自分がほんの少し前まで戦っていた相手は弱小サーヴァントと言って差し支えない存在だった。
似た気配を纏っていることは気になった。盾を持つことも、こちらと何かが近いことも分かっていた。
けれど、戦力としてはキャスターに及ばない。
そう見ていた。
なのに今目の前の少女から伝わるものがまるで違う。
手が震える。
否、自分はこの聖杯戦争に勝つ。勝って聖杯を手に入れて、願いを叶える。
そうしなければならない。
「負けない、負けたくない!!」
「あぁぁぁぁ!!!」
タチエは防御よりも攻撃を選んだ。
盾を振るう。身体を低くし、足を払う。
盾の縁を刃のように使い、そこからさらに手足の打撃を織り交ぜる。
マシュはその全てを受けた。
受けて、流して、退かない。
藤丸の前に立ち、オルガマリーやキャスターのいる方向へ衝撃が抜けないよう、身体ごと盾の角度を変え続ける。
「届きません!」
マシュが一歩踏み込めば、タチエの盾が横から打ち込まれる。
それをマシュは自分の盾で受け、衝撃を殺したまま前へ出た。
「っ!?」
盾と盾の距離が詰まり、見開かれたタチエの目が大きくマシュの瞳にに映り込む。
さっきまで押せていたはずの相手が今は一歩も動かない。
「押し切ります!」
マシュは盾を構えたまま、タチエとの距離を一気に潰した。
「う、っぐぅ!?」
盾の一撃がタチエの体勢を崩す。
マシュはそのまま瓦礫を蹴り、近くの壁面へ足をかける。
一瞬だけ身体が浮き、回転の勢いを乗せた盾の一撃が黒髪のシールダーへ叩き込まれた。
その加速と衝撃によってタチエの身体が吹き飛ぶ。
燃え残った店舗跡の壁を砕き、瓦礫の中へ転がった。
「マシュ!!」
「大丈夫です、マスター。そんなに心配そうな顔をせずとも、無傷です。この通り!」
そう言って、彼女は軽く胸を張った。
藤丸は足を止める。
姿は変わった。力も変わった。さっきまでとは、明らかに違う。
それでも、話し方はマシュのままだった。
「マシュ、ごめん……君がこんなに強くなったのに俺、何も出来てない」
「いいんです。自分で判断して動けなければ、戦闘中もやっていけませんし、それに」
「先輩は、私のマスターです。後ろにいてくださるだけで、私は頑張れます」
「……それ、俺がすごいんじゃなくてマシュがすごいだけでは?」
「そうでしょうか?」
「そうだと思う」
「ですが、とてもやる気が出ます」
「そっか……なら、よかった。…よかったのか?」
「はい!」
だがそんなやりとりは続かない。タチエはまだ立っているのだ。
とはいえ、その様子は先ほどまでとはまるで違う。
タチエは狼狽えていた。
基本スペックで追い抜かれた。切り札も防がれた。
この場所に呼び出されてから戦い続け、あと少しで聖杯に届くと思っていたのに。
逆に自分が追い詰められている。
目の前にいるマシュを見る。
分と同じギャラハッドの雰囲気を纏う目の前の盾使い。何もかもが今となっては真逆に映る。
命をかけるときに側に誰かが立ってくれているか?
辛い道を歩んだときに引き戻してくれる存在はいるか?
死を目前にして足を留めてくれる人は居るのか?
未来ある命を持っているのか?
還るべき場所が今も残っているのか?
タチエはこちらを眺めてくるマシュの顔を見る。自信を持ち、憂いなど無いという顔。
己を奮い立たせ続けて、自分に言い聞かせて、他に道はないと言い聞かせる自信を持てない自分とまるで違う表情から目をそらせない。
これまではやり場のない憎しみと、死にたくないという願いを胸に戦い続けた。
だが、タチエの死人の心には確かに感情が新たに芽生えた。
「……ずるい」
そう口にすることもなく、魔力を滾らせてマシュへと挑む。
盾を振るい、身を翻し、ひたすらぶつける。
「っこの!! 私は、まだ...ぁぁああ!!」
「当たりません!」
思い切り叩きつけられた盾をマシュが躱し、民家が倒壊する。
舞い上がる粉塵の中から襲いかかる。しかし、
「シールド・パニッシュ!」
強烈なカウンターを受けて、とうに死んだ身体の内側が悲鳴を上げる。
骨が衝撃に軋み、意識が一瞬揺らぐ。
そしてその隙を逃すほど今のマシュは優しくない。
「右! 左! 正面!!」
「っが! うっっぐぅ、あぁぁ!!」
防御を崩されたタチエは満足に防ぐことも出来ずその全てを受け、
「キリエライトー、ウルトラ―、ターックル!」
奇妙なかけ声と共に放たれた突撃により弾き飛ばされる。
地面へと叩きつけられ、瓦礫をいくつも砕きながらゴム鞠のように弾み、半壊したビルへと叩き込まれ
──タチエの意識はそこで途切れた。
□□□
「....で?、俺がなんとか回復してノビてた所長さんを担いで戻ってきてみたら、なんかとんでもないことになってんな...」
キャスターがマシュを見ながらそう語りかける。
「え、えへへ....。その、私も、その。言いづらいんですが。きっとこれは運命です!!」
「運命って、マシュ。怪我がほとんど無いからよかったけど、俺もいろいろ聞きたいよ」
「え!? それは...その・・・、ま、まだ言えません!!」
「えぇ~?」
藤丸の抜けた返事を聞き流しつつもキャスターは淡々と事を進める。
「ま、無事に済んでよかったがよ。所長さんも起こさなきゃな。なんかルーンでいいのあったか?」
頭をかきながらキャスターはオルガマリーに魔術を行使する。色々試しているのだろうか、いくつかの光が見える。
「はぁ…なんとかなった。本当によかった!!」
大の字でごろんと藤丸は寝転がる。心から安堵して緊張の糸が切れたのか思わず本音が漏れる。
「ここを無事に切り抜けたらマシュはもっと良いマスターと出会えれば良いね」
「は? 何言ってるんですか。許しませんよそんなこと。逃がすわけないじゃないですか」
「え?」
「...オホン! 失礼しました。私は先輩がマスターとして一緒に居て下さると大変モチベーションが高まりますので、どうかこのままでお願いします」
「お、所長さんが目ぇ覚ましたみたいだな」
「う、う~ん?」
「所長、大丈夫ですか?」
「....っは!? そうよ敵は、敵はどうなったの藤丸、報告を!」
「ご安心下さい、オルガマリー所長。無事に倒せました」
マシュの声に反応しオルガマリーが振り返り一言
「ど、どなた!?」
□□□
「なるほど、マシュ。あなたは気がついたらその姿になっていたと」
「はい、私のこれまでの集大成です!」
「いやいやいや!! どうなって、いや本当にどうなってるのよそれ!? 霊基が信じられないくらい強くなってるし! 本当にシールダー、よね? そもそも集大成って言えるほど戦ってなくない!?」
「あ~俺も思ってた。なんかシールダーとも違う気がするんだよ。本当にどうなってんだ?」
気まずい雰囲気の中でマシュは藤丸におずおずと振り返る。
「先輩はどう思われますか? このマシュ・キリエライト。先輩のファーストサーヴァントとして相応しくなったと思うのですが...」
「俺はマスター初心者だから自信は無いけど、きっとNo.1サーヴァントだと思うよ!」
「!! その言葉は何にも勝る言葉です、マスター!」
「((はぐらかしたな…))」
その時、近づいてくる足音と共に一つの声が面々へ投げかれられる。
「和気藹々としているところすまないが、いいかな? 少し話をしたいんだ」
身体を引きずるように現れたのは先ほど倒されたはずのシールダー。だが、その気配は先ほどまでとはまるで異なるものだった。
警戒感が場の空気を満たす中、キャスターが切り出す。
「お前さん、さっきの奴とは違うな? 誰だよ。話するんならまずは自己紹介だろ?」
「そうだね、それはその通りだ。失礼したね。僕はギャラハッド。円卓の騎士の一人だ」
「円卓の騎士...!? なんでそんな英霊が....」
「所長と呼ばれていましたね? 僕もそれに習ってそう言わせていただきます。僕が宿るこの子は元は普通の人間です。名はタチエ。魔術師により死体へ僕を召喚され、道具にされた存在。断片しか喚ばれなかった僕を埋め込まれたと言っていい」
マシュは黙って聞いていた。まるで人ごとには思えなかったから。
ギャラハッドは続ける。
「彼女の物語はもう終わって…、いや違うな。もう語られることはないものだった。しかし、彼女は縁のあるこの冬木へと来てしまった。抱いていた願いをそのままに」
「死にたくない。苦しみから解放されたい。人間的な願いだ。瓦礫に潰され命を失い、燃える街に取り残された。家族も故郷ももう無い。それでも願わずには居られなかった」
「ギャラハッドさん、その、タチエさんという方は…」
藤丸が問いかける。たとえさっきまで敵であっても、思うところはあったのだろう。ギャラハッドへ問いかける。
「ぼくが退去するさ。そうすればこの子の身体を維持する力も失われあるべき形に戻る。前は僕が優先して貰ったからね。今回は彼女の行動に付き合ってたんだ」
「タチエは納得しないかもしれない。でも、死者が過去にしがみついて今を荒らすべきじゃない。それに『サーヴァントとの戦いに負けたら身を引く』と約束してたしね」
「潔いな。さっきまでとは大違いだぜ」
「だろうね。なにせこちらにはもう戦う理由がない、あぁ、それからそこの…僕の力を宿してたそちらの方」
「私ですか?」
「少し二人で話したいんだ、いいかな?」
「いや、駄目でしょう。いくらなんでも、そんな....」
「マシュはいいの?」
不安がるオルガマリーに対し、藤丸はあくまでもマシュの意思を尊重する道を選んだ。
それに対して何かを言おうとしたが、藤丸の何かを受け入れたような態度に黙るしかなかった。
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「君が振う力は僕のものとはまた少し違うね? 急に強くなったあのときはごく短い間だけ僕と同じ力を感じたが、今はなんだか違う感じだ」
「君の振るまい次第では君の中からギャラハッドは立ち去るかもしれない。君に与する理由なしと判断すれば特に。自分だからね。そんな気がする。なんならこの特異点から立ち去った後はいなくなるかもしれないほどさ」
「それは…分かりました。心得ておきます。今の私はきっとあるべき本来のものとは違うのでしょう。私の中に宿る方の名前は、この姿になってようやく思い出せて…」
その言葉に目の前のシールダーは自嘲気味に笑いながら答える。
「公平、平等。それを君は無意識的に大切にしてきたのだろう。君の中の僕も同じようなことを考えたりもしているのだろう。そして君は今内心では力を失うかもしれないと恐れているのではないかな?」
「私は、前に進む道を見つけたのです。ですが、ふとした拍子にまたあの繰り返しの日々へ巻き戻るのではないかというのは…懸念とした確かにあります」
「でも心配はいらなさそうだ」
「どうしてですか?」
「君は平等性と異なる考え方をもう大切にしているんじゃないかな? 君の言う日々というものにおいて、大切にしたいものには優先順位を作ったり、選んでいたんじゃないかな?」
「わ、私は。私はそうあれかしと求められて作られたデミ・サーヴァントです。そんなことは……それにかつてはあなたの名前を。公平を重んじるあなたの名前に価値と意味を確かに感じていました」
「盾が軋んだり錆び付いたことは?」
「______」
マシュは思い出す。あの繰り返され続けた世界で起きたわずかな変化、盾が褪せてひび割れたことは何度もあったと。
「それでも盾を使ったんだろう?何のために?」
「それは、マスターを守るために…カルデアを、人理を…」
「繰り返されるだけならばそれに身を任せてそんなふうにあれこれ考えなくてよかったんだ。でも、君は選んだんだろう? あくまでも自分で盾を振うことを」
マシュは振り返る。繰り返しであっても真の意味での孤独ではなかった。カルデアの人々がいて、英霊が居て…マスターがいた。
だからこそ、この自分がいるのだとも。
「君はもう選んだんだろう。自分自身の気持ちを優先して、ギャラハッドの力を借りて戦う存在ではなくて己の願いで戦うことを。無意識でも構わない。そうしたいからそうした。人間らしいじゃないか」
マシュ・キリエライトは英霊であった。
境界記録帯に取り残され、終わりのない現代に置いてけぼりとなって尚、大切な人々を守ることを選び続けた。
心が摩耗しても、精神が疲れ果てても、魂がすり切れていっても選び続けた。
公平だから、正しいから、ではない。義務感でも責任感でもなく。
自分はそうしたいと願うようになったから。
欲しかったのは盾ではなく守る力だった。
いつの間にか自分は盾そのものは手放して、己自身で戦う力を手に取っていたのだろうと。
「そろそろ時間だ。自分は立ち去ろう。…そうだ」
「もう今のうちに退去しても良いんじゃないかな? マシュの中にいる僕」
「え?」
マシュの心に声が響く。目の前の男性と似た声が。
そして何かを語り合った後に、マシュは小さな声で「さようなら」を呟いた。
それを見届けてタチエ/ギャラハッドもまた塵となって消えていった。
「マシュ、君を守り切れなかった自分を恥じよう」
「ずっと側にいて下さったのですよね? 感謝の言葉しかありませんが」
「君は後悔しないのか? 必ずいつか自分の判断に悩むときが来る。『正しい』を意図して放棄するというのは後悔の元だ。恣意的な選択には、タラレバが付き纏うぞ」
「公平さを捨てて私に力を貸して下さっていたあなたは後悔しているのですか?」
「…………」
「私はきっとこの先も後悔をたくさんします。失敗もします。それでも。後悔で終わらせるような生き方は決して歩みません。人類の歩みがそうであるように」
「ならば何も言うことはあるまい」
「はい、私を信じて下さい」
「自分は君の元から立ち去る。英霊ギャラハッドの力を持ったデミ・サーヴァントはここで断ち切られる」
「新たな盾の英霊の誕生を祝おう。君に相応しい称号を贈ろう。そしてこの先の旅路において、君達の歩みが価値と意味があるものであることを願おう」
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「マシュ、話は終わった?」
藤丸がマシュへ話しかける。ちょうど休憩も終わったようだ。
「はい、お待たせしました。先輩。…………」
「マシュ?」
「あの、改めて自己紹介して良いですか?」
「いいけど、なんで?」
「なんだかとてもそうしたいのです」
すぅ、と息を吸い込んで胸を張って藤丸の方を向いて声を張る。
「私はマシュ・キリエライト。カルデアの騎士たるシールダー・パラディーンであり、あなたのファーストサーヴァントです!」
「どうかこれから末永くよろしくお願いいたします!!」
「...うん、こちらこそよろしく!」
キャスターがやりとりが終わったことをくみ取って話しかけてくる。
「仲がよろしいことで。お二人さんもこっちだ。敵も片付いたし案内してやるよ」
「セイバーの奴が陣取ってる場所。大聖杯の在りかにな」
一般同居人「なんか強くなってるしまぁいいか」
後輩「やはり先輩、先輩は全てを解決する....!! ビッグラブ...!!」