「今回は中国、かつての唐だよ。まぁ、観測されたのは全然唐じゃないから、我々も混乱してるんだけどね!」
カルデア管制室のメインモニターいっぱいに、広大なユーラシア大陸の地図が映し出される。ダ・ヴィンチがコンソールを操作すると、長安を中心とした中国大陸から視線がぐっと西へ移り、山脈や砂漠の入り混じった一帯へ赤い反応が浮かび上がった。
「年代は七世紀、唐代でほぼ間違いない。ところが異常が出ているのは長安から遥か西だ。最初は年代か座標のどちらかを取り違えたかと思って何度か確認したんだけど、結果は同じ。どうやら、これで合っているらしい」
「しかも、面倒なのは場所だけじゃないんだ」
ロマンが困ったように眉を寄せ、地図上へ別の表示を重ねる。赤く強調されていた範囲の西側から、細い痕跡が東へ伸びていく。
「昨日まで強かった反応が、今日は少し東へ移ってる。かといって元の場所から完全に消えたわけでもなくて、薄い歪みだけが後に残るんだ。聖杯に近い反応も同じように動いているから、こっちとしても『ここへ飛べばいい』って座標を決められない」
藤丸はモニターへ顔を近づけた。点が増えているというより、一つの何かが西から東へ這っているようにも見える。
「これ、特異点そのものが移動してるってこと?」
「そこまで断言はできないけど、可能性はあるね。ただ、もう一つ厄介な事情がある」
ダ・ヴィンチが地図を拡大する。
「この辺りは、後世ならまとめてシルクロードなんて呼ばれる地域だ。でも実際には一本の大街道が西から長安まで真っ直ぐ伸びているわけじゃない。砂漠を避けてオアシスを繋ぐ道もあれば、高山を越える道も、平原を通る道もある。商人や使節はもちろん、僧侶や旅人だって行き来しているから、『七世紀に西から東へ向かっている誰か』だけじゃ候補が多すぎるんだよ」
一通り聞いたマシュが、手元の端末とモニターを見比べる。
「では、地域全体に異常が広がっているというより……誰か、あるいは何かの移動に沿って歪みが発生している可能性がある、ということでしょうか。反応が東へ移動し続けているのも、そのためだと考えれば説明はできます」
「今のところは、それが一番しっくりくるかな。もちろん、まだ仮説だけどね」
ダ・ヴィンチが肩をすくめた。
「だから今回は、いつものように聖杯反応の真上へ飛んで回収しておしまい、とはいかない。比較的反応の強かった地域へ入って、まずは現地で何が起こっているのか調べてもらう。それから聖杯を追おう」
「了解。だったら、できれば人が使ってる道の近くにしてほしいかな。この辺、砂漠も山もあるんだよね? 着いた瞬間から遭難はさすがに困る」
「もちろん。その辺りは抜かりないとも。反応が通ったと思われる地域の中から、人の往来がありそうな平原を選んである。現地へ着いたら、まず人里と情報を探してくれ」
「先輩、私も同行します。現地の環境が観測通りとは限りませんし、念のため防寒装備なども確認しておきましょう」
「うん。じゃあ行こうか」
話が決まり、藤丸とマシュはレイシフトへ向かう。
最終チェックを終え、転移が始まる。光が視界を満たし、身体から重さが抜けていく――そこまでは、いつもと変わらなかった。
違和感が生じたのは、その直後。
目的地へ真っ直ぐ落ち着いていくはずの感覚が、不意に横から引っ張られる。身体の向きも上下も分からないまま、何かに掴まれて無理やり別方向へ放り出されるような感覚に、藤丸は反射的に身を固くした。
『待って、座標がおかしい! こっちでは動かしてないぞ!』
通信の向こうからロマンの声と警告音が重なる。
『マシュ、藤丸君を――』
そこで光が弾けた。
次の瞬間、藤丸の全身を叩いたのは凄まじい寒風。
「――っ!」
足元が沈む。反射的に踏ん張ったものの、深い雪が崩れて身体が斜面へ流れた。すぐさま伸びてきた手が藤丸の腕を掴み、強引に引き戻す。
「先輩、こちらへ!」
マシュが盾を雪面へ突き立て、その陰へ藤丸を引き込んだ。視界いっぱいに雪が舞っている。平原どころか、周囲に見えるのは白く染まった斜面と岩肌ばかりだった。
「……山?」
「はい。それも、かなり標高がありそうです。先輩、お怪我はありませんか?」
「大丈夫。マシュは?」
「私も問題ありません」
互いの無事を確認してから、藤丸がすぐ脇を見ると、ほんの数メートル先の雪の間から、黒々とした岩が大きく突き出している。
あと少し着地点がずれていたら、雪の上ではなく、あそこへ直接叩きつけられていたかもしれない。即死する運命には勝ったようだ。
「……危なかったな」
「はい。本当に」
『藤丸君、マシュ! 聞こえるか!?』
ノイズ混じりの通信が戻る。
『レイシフトの途中で座標に原因不明の干渉が入った! 現在地を割り出してるけど、こっちの地図と現地の情報がうまく噛み合わない。少し時間がかかりそうだ!』
「こっちは二人とも無事。ただ、待ってれば助けが来るって場所でもなさそうだよ」
盾の外では風が唸り続けており、マシュも端末を弄りながら周囲を確認しつつ会話へ混ざる。
「一般的な遭難であれば、無理に移動せず救助を待つという選択もあります。ですが、今回は救助を期待できませんし、本来の目的地は人間の利用する街道付近です。標高を下げながら人の生活圏を探す方が、調査を続ける意味でも現実的だと思います」
『……そうだね。無理に現在地を維持しても状況は良くならない。下山するなら、二人とも慎重に。通信はできる限り維持するよ』
「了解。じゃあ、下りよう」
二人は盾の陰から出て、雪山を下り始める。
足を置くたびに雪が沈み、場所によっては靴ごと持っていかれそうになる。吹きつける風も容赦がない。藤丸は何度か姿勢を崩しかけながらも、そのたびに足を止めて踏み直し、マシュと歩調を合わせて少しずつ標高を下げていった。
どれくらい歩いただろう。礼装がなければ危険な状況だったが、景色にはまだほとんど変化がない。
雪煙の切れ間に黒い岩壁が見え、その根元にぽっかりと穴が開いている。完全に吹雪を防げるわけではなさそうだが、外よりは遥かにましだろう。
「あそこなら一度風を避けられそうです。先輩、少し寄って――」
マシュが言い終える前に、洞窟の奥から人影が出てきた。
二人が足を止めれば向こうも止まった。
数秒ほど互いを見つめ合った後、女性の顔がぱっと明るくなる。
「ああ、よかった! 人がいた!」
こちらへ駆け寄ってくる勢いに、藤丸とマシュは思わず顔を見合わせた。
「本当に助かったわ。さっきから外へ出ようか迷ってたんだけど、この吹雪でしょう? もう少し待った方がいいかなって思ってたところなのよ」
「ええと……あなたも、ここで遭難したんですか?」
マシュが尋ねると、女性は「あー……」と少し困ったように首を傾げた。
「それが私にもよく分からないのよ。普通に平原を歩いてたはずなのに、気がついたら雪山にいてね。悟空たちもいないし、吹雪はひどくなるしで、とりあえず見つけた洞窟に逃げ込んだの。御仏のお導き……にしては、なんか違う気がするのよねぇ」
「平原から、いきなり?」
「そう。歩いてたら山だったのよ」
藤丸とマシュが顔を見合わせる。
あまりにも雑な説明だったが、本人が分かっていない以上どうしようもない。そして、その現象自体は自分たちがたった今経験したものとよく似ていた。
『藤丸君、その人にも少し話を――』
通信に声が入った途端、女性が目を丸くした。
「今、誰か喋った?」
「カルデアという組織からです。遠くにいる仲間と通信していて――」
マシュが立体映像を表示すると、女性は一歩近づき、宙に浮かんだロマンたちの姿をまじまじと眺めた。
「……そこにいるように見えるのに、本当はいないのよね? 幻術でもないみたいだし……どうなってるの、これ」
『おっ、いい反応だね!』
「ダ・ヴィンチちゃん、今はそこじゃないから。遠くの人と話すための道具、くらいに思ってもらえれば」
「へえー。便利ねぇ。声だけじゃなくて姿まで見えるんだ」
完全に理解した様子はなかったが、それ以上追及する気もないらしい。女性は立体映像をもう一度覗き込んでから、改めて藤丸たちへ向き直った。
「そういえば、まだ名乗ってなかったわね。私は玄奘。玄奘三蔵よ。天竺で経典をいただいて、今は唐へ帰る途中なの」
『……玄奘三蔵?』
ロマンの声が僅かに変わる。
ダ・ヴィンチも先ほどまでの軽い表情を引っ込め、何かを考えるように目を細めた。
『七世紀、西方、東へ動いている異常。それで天竺から唐へ帰る途中の玄奘三蔵本人か。偶然にしては、ちょっと出来すぎてるね』
「私が何か関係あるの?」
『それをこれから調べるところさ。今の段階では、こちらも何とも言えない』
「そっか。じゃあ考えても仕方ないわね」
三蔵はあっさり納得すると、雪山の下を指さした。
「あなたたちも下りるんでしょう? 私もここにいたって悟空たちが来てくれる保証はないし、一緒に行きましょ。三人の方が心強いもの」
そうして、雪山を下る人数が一人増えた。
しばらく歩いて分かったことだが、三蔵はこの状況の割に驚くほど上機嫌だった。
理由は単純である。
彼女にとって、長い長い天竺への旅は既に目的を達成しているそうだ。今は苦難に満ちた往路ではなく、故郷へ帰る途中なのだと。
「唐へ帰ったら、しばらくはちゃんと屋根のあるところで寝たいわね。野宿ももう嫌ってほどやったから、多少のことじゃ困らなくなったけど、慣れたからって好きになったわけじゃないもの。それに故郷のご飯も恋しいし、何を食べるかは帰りながらずっと考えてるのよ」
足元の雪を踏みしめながら、三蔵は楽しそうに続ける。
「悟空たちはどうするのかしらね。八戒はご馳走のことしか考えてない気がするけど、悟浄はあの二人が何かしでかさないように見張ってそう。悟空は……大人しくしていられるかしら。唐へ着いた途端、どこかへ飛んでいったりして」
「かなり賑やかな旅だったんですね」
「賑やかなんてもんじゃないわよ、マシュちゃん。妖怪に攫われたり、騙されたり、食べられそうになったり……まあ、色々あったわね。でも、もう終わったことだし。ここまで一緒に来たんだから、帰るところまで一緒よ」
三蔵は当たり前のことのように笑う。
藤丸もその横を歩きながら、少しだけ口元を緩める。
「そこまで大変だったなら、帰るのも楽しみになりますよね」
「そうなのよ! しかも御仏から、帰り道は楽にしてあげるって言ってもらったの。だから私、もうすっかり帰った後のことばっかり考えてたんだけど――」
三蔵が足を止めかけ、周囲を見回す。
雪。岩。吹きつける寒風。人体に有害な属性攻撃が多段ヒット。
「……その割には、なんで私まだ雪山を歩いてるのかしら」
「そこは俺たちも知りたいですね」
「そうよねぇ」
首を傾げながらも、三蔵はまた歩き出した。
そんな会話を続けていた時、先頭を進んでいたマシュの足が止まる。
「先輩。前に何かいます。複数です」
藤丸も目を凝らした。
雪煙の向こうに、ぼんやりと大きな影がいくつも浮かんでいる。
最初は人間かとも思った。だが近づいてくるにつれ、その考えは消えた。人間より明らかに大きく、全身を白い長毛に覆われている。二本脚で立っているが、人とも獣ともつかない。
「……あれって、もしかしてイエティ? いたんだ…雪山の神秘……」
「妖怪……なのかしら。うーん、私が知ってる妖怪とはちょっと違う気がするわね」
マシュは警戒を込めつつ二人より一歩前へ出たが、相手も何か妙である。
低い唸り声を上げているところから、こちらを警戒しているのも間違いないのだろう。
ただ、その視線は藤丸でもマシュでもなく、なぜか三蔵へ集中していた。
一体が三蔵を見る。隣の個体と顔を見合わせる。
また三蔵を見る。
そして、三蔵たちが下ってきた方角――先ほどの洞窟があった方を見る。
「……なんか、すごく困惑されてない?」
「そうみたいね」
当の三蔵も少し不思議そうだったが、まだ襲ってこないと見るや一歩前へ出た。
「ねえ、私たちはこの山で道に迷ってるだけなの。あなたたちに何かするつもりはないから、できれば――」
毛むくじゃらの巨体たちが、さらにざわつく。
「……あれ? なんか私、ものすごく嫌そうな顔されてない?」
その直後。
ついに一体が耐えかねたような唸り声を上げ、三蔵へ向かって飛びかかる。
「三蔵さん、下がってください!」
マシュが大盾を構え、その前へ飛び出した。
□□□□□□□□□□□□□□□
数分後。
雪の斜面には、毛むくじゃらの巨体が何体も転がっていた。
一体は上半身を雪へ突っ込み、足だけを外に出している。別の一体は斜面の下で大の字になり、残る一体も頭を押さえながらふらふらと身体を起こそうとしていた。
「マシュちゃん、すごいわね! あんな大きいのが何人も一緒に来たのに、あっという間だったじゃない。悟空も強いけど、あなたも相当なのねぇ」
「いえ、私は先輩と三蔵さんへ近づけないようにしただけです。先輩のファーストサーヴァントですので、お忘れなく。それに……どうも、本気で私たちを殺そうとしていた感じではありませんでしたから」
やがて、雪まみれになった毛むくじゃらたちが一体、また一体と起き上がる。
もう襲ってくる気はないらしい。
肩を落として背を向け、そのまま来た道を歩き始めた。
「まったくだぜ……帰ってきたら知らない女が家から出てくるんだもんな。やたら薄着だしなぁ」
「俺たちだって驚くよな。しかも、こっちが何言っても全然話通じねえし」
さっきまで唸り声しか出していなかった毛むくじゃらたちは、何事もなかったように流暢な言葉を交わしている。
話せたのかよ。
そして、そのまま三蔵が休んでいた洞窟の方向へ歩いて行き、やがて消えていく背中が見えなくなる。
「いや……その……妖怪に狙われるのは体質というか……。いや、今回のはたぶん妖怪でもないけど……なんか、ごめん」
ごうっ、と寒風が三人の間を吹き抜けた。場の雰囲気もひえひえだぜ。
「……下りましょうか」
「……はい、先輩」
「うん……」
三人は再び山を下り始めた。
しばらくすると雪を運ぶ風も徐々に弱まり、積もる雪も目に見えて浅くなっていく。やがて周囲に木々が増え始め、三人は森林帯へ入る。雪山の上部ほど風も通らず、ようやくまともに歩ける環境になってきた。
それでも下山には相当な時間がかかるものである。森を抜ける頃には、西の空が赤く染まり始めてしまうほど。
その先には、雪山とはまるで別世界のような広い平原が続いている。
「先輩、あれを」
マシュが足元を指す。
踏み固められた地面には、人間の足跡がいくつも残っている。それだけではない。馬らしき蹄の跡や、二本の細い轍も続いていた。
三蔵もしゃがみ込み、しばらく道を眺める。
「荷車も通ってるわね。これなら、この先に村か宿場くらいはあると思うわ。人が使ってる道に出られたなら、ひとまず遭難は脱したと思ってよさそうね」
「やっと普通の道まで来た……」
藤丸は思わず空を仰いだ。
とはいえ、もう日は傾いている。
道の先を見ても人影はなく、家々から立つ煙も見当たらない。山を下るだけでかなり時間を使ってしまった以上、ここから暗闇の中を歩き続ける必要もないのだ。
「今日はこの辺りで休もう。明るくなってから道を辿った方が安全です」
「賛成。私も今日はさすがに歩いたわ。悟空たちが迎えに来てくれれば一番楽なんだけど…………まぁ、来ないわね」
その日は道から少し離れた平原で野営することになった。
三蔵はこうした生活に慣れきっているらしく、焚き火の準備にもごく自然に加わった。ようやく落ち着ける場所を確保すると、三人は火を囲みながら改めて互いの事情を整理することに。
まず藤丸たちから、カルデアについて。
遥か未来から来たこと。
歴史に大きな異常が起きた場所を調べ、元へ戻すために動いていること。
今回もこの時代で妙な反応を観測し、その調査へ来たこと。
そして、空中に姿を映していたロマンやダ・ヴィンチは、遥か遠くにあるカルデアから二人を支援している存在であることも。
三蔵は途中で何度か首を傾げたものの、最後まで一応は黙って聞いていた。
「……つまり、ものすごーく遠いところから来た旅人で、この辺りで何か変なことが起きてるから調べてるのよね?」
「だいぶ省略されましたけど、大体そんな感じです」
「なら大丈夫。細かいところまで聞いても、多分よく分からないもの」
今度は三蔵の番になる。
といっても、こちらは話す内容自体が少ない。
「私は天竺で目的を果たして経典をいただいたから、悟空たちと唐へ帰ってた。それで御仏にも、『帰りは楽にしてあげる』って言われてたのよ。そこまではいいんだけど、その後は本当に分からないの。平原を歩いてたはずなのに、次に気づいた時には雪山だったんだから」
「その時、何か変な音がしたり、誰かの姿を見たりは?」
「全然。だから私も困ってるのよ」
三蔵は両手を上げた。本当に何も分からないらしい。
「御仏のお導きなら、もうちょっとそれっぽい感じがすると思うし。かといって妖怪に襲われた覚えもないし……考えても答えが出ないわね」
立体映像の向こうで、ダ・ヴィンチが腕を組む。
『それでも、かなり重要な情報ではあるよ。こちらでは七世紀の西方から、東へ移っていく異常を観測している。その最中に、唐へ帰る途中の三蔵法師が平原から雪山へ飛ばされた。無関係と考えるには少し出来すぎてる。まぁ、分からないことだらけだが』
『ただし、三蔵自身が原因なのか、三蔵たちを狙って何かが起きているのか、それとも別の異常へ巻き込まれただけなのか、ということも付け加えようか』
『明日はその道を東へ進もう。人里が見つかれば現在地も絞れるし、三蔵さんの仲間について何か情報が得られるかもしれない』
「賛成。悟空たちも私がいなくなったら探してるでしょうし、私も唐へ向かって進んでた方が、そのうち会えると思うわ」
ひとまず翌日の方針は決まった。
三蔵は焚き火へ手をかざしながら、しばらく機嫌よく頷いていたが、その表情がふと止まる。
「……待って」
「どうしました?」
「悟空が来たら、今困ってることって大体解決するんじゃない?」
「だって悟空なら空を飛んで探せるでしょう? 山なんてあっという間に越えられるし、もし妖怪が何かしてるなら任せておけば大抵なんとかなる。私たちが歩き回って人里を探すより、あの子が一回来てくれた方がずっと早いじゃない」
それはまあ、そうかもしれない。
三蔵の眉が徐々に寄っていく。
「そもそも私、帰り道は楽にしてもらえるって聞いてたのよ。それなのに平原から雪山へ飛ばされて、悟空たちとはぐれて、知らない洞窟に逃げ込んだら住人に怒られて、半日かけて山を下りて……結局、今日も野宿じゃない!」
とうとう三蔵が勢いよく立ち上がった。
そして夜の平原へ向かい、両手を口元に添えて魂の咆哮が木霊する。
「早く来てちょうだい、悟空ーーーーー!」