マシュ・キリエライトしか分からない   作:ats376

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第4話  「反乱の火種」

南門の前にはすでに軍が並んでいる。

謁見室で出陣が決まってからそう長い時間は経っていない。

だというのにローマ兵たちは槍を揃え盾を列に組み補給台車と負傷者搬送用の荷車まで門の内側へ集めていた。

 

予備の槍束。水甕。麦袋。包帯を詰めた箱。

戦うために必要なものと生き残らせるためのものが粛々と積み込まれていく。

 

藤丸はその光景を少し離れた位置から見ていた。

歴史の授業で聞いたローマ軍。教科書の図で見た隊列。目の前に現れたそれはまるで別の熱を帯びている。

藤丸とマシュはその光景を眺めていた。

 

 

「……すごいな」

 

「装備や列の作り方だけではなく補給と後送の準備が早いです。前線で戦う兵だけではなく負傷者を戻す道まで最初から考えられています。これがローマ軍の基本なのだとすれば、やはり完成度の高い軍事組織といえるでしょう」

「こっちが前へ出たら逆に邪魔になりそうだ」

「その可能性はあります。私たちは客将として迎えられたばかりです。ローマ軍の指揮系統を乱さないよう介入の判断は慎重にした方がよろしいかと」

 

藤丸は短く頷く。

兵たちの視線が時折こちらへ向く。

大盾の少女。魔女。獅子めいた剣士。見かけない服装の女性。全身鎧の美女。

どれもローマ兵の常識には収まらない。警戒と好奇心。ほんのわずかな期待。

モルガンはその視線を気にも留めず門前に広がる軍勢そのものへ目を向けていた。

 

「実に秩序だった軍です。兵の配置、物資の置き方、伝令の動線。巨大な国家を動かすための軍として組まれています。だからこそ内側から切られた時の痛みも深いでしょう」

「街道と補給だったか。門の時もそこを狙われてたのかな?」

「ええ。敵はこの軍と正面から戦う前に動くための血管を締めている。よく考えられているようですね」

 

少し後ろでリチャードが腕を組み楽しげに兵たちを眺めている。巨大な剣を背負う姿は隠す気がない分余計に目立つ。

 

「良い顔をしているな。恐れもある迷いもある。が、兵とはこうでなくては! 戦場へ向かう者が皆快活な英雄である必要などないからな」

「楽しそうに言う話じゃないでしょう。内戦なんだからあの人たちは同じローマの兵を相手にするのよ」

 

ブーディカが横から諫めるが、その目はローマ兵の盾と鎧に釘付けだ。

かつての記憶を藤丸の戦いへ持ち込まないよう静かに胸の内へ沈めている。

『マスターがあいつらに手を出されたら同盟関係はなくなるって思っておいて?』

それとなくネロにしていた忠告が藤丸の脳裏を過る。

 

 

「分かっているとも。だからこそだ。敵が異国の者なら憎む理由は外へ向ければ済む。だが内戦は剣を向ける相手が自分たちと同じ言葉を話し同じ道を歩き同じ飯を食っているんだ。そこへ踏み込む覚悟は特別だ」

「その熱を喜ぶところが危ないんだって……」

 

ドレイクは二人のやり取りには入らず補給車の列へ目を細める。笑みを浮かべたまま頭の中で別の計算を回している。

 

「内戦ですか。実に懐事情に悪いですね。外へ出れば獲得できるものがありますが、内側で戦えば焼けるのは自分の畑。失うのは労働力。滞るのは物流。勝っても回収に時間がかかる。合理的に考えれば避けたいところです」

「でも避けられない時もあるんだろ?」

「はい。避けられない状態へ追い込むのが上手い相手ならばなおさら。こちらから刈りに行かねばなりませんね」

 

ドレイクの視線が南方街道へ続く門へ向く。

歓声に迎えられネロ・クラウディウスが現れた。

赤い外套が風を受けて翻る。謁見室で見た目元の影はもうない。姿勢と声と表情で兵たちに見せるべきものだけを完璧に作り上げている。

 

ネロが一歩前へ出る。

門前のざわめきが止まり多くの視線がひとつの場所へ集まった。

 

「兵たちよ顔を上げよ」

 

よく通る声が広場へと響く。

 

「これより余たちは南方街道へ向かう。そこで待つ敵は異国の蛮族ではない。ローマの道を知りローマの言葉を話しローマの麦を食らってきた者たちだ。そなたらの中にはかつて同じ陣で名を聞いた者同じ市場で顔を見た者同じ神に祈った者と刃を交える者もいるであろう」

 

「苦しい戦だ……余はそれを隠すつもりはない。今日の敵を倒せば明日はすべて元通りなどと軽々しくは言わぬ。我らの内で起きた戦はどのような勝利を得たとしても傷を残す。燃えた倉はすぐには戻らぬし倒れた兵は家へ帰らぬ。疑いは槍よりも深く人の胸へ刺さることになるだろう」

 

「だがそれでも進まねばならぬ。街道を焼かれれば民の腹は飢える。安寧を脅かされれば貴族は皇帝の名を疑う。余がこの丘に座したまま動かぬなら属州はローマが膝を折ったと見るであろう。貴族は勝つ方へ目を向け兵は次に掲げられる旗を探し始めるのみ」

 

「余はそれを許さぬ!!」

 

「ローマは玉座だけでできているのではない。ローマは城壁だけではない。道であり畑であり神殿であり市場でありそこに暮らす民でありその民を守る兵である。ゆえに街道を焼く者はローマを焼いている。井戸を壊す者はローマの喉を潰している。皇帝の名を二つに割ろうとする者はローマそのものを裂こうとしている」

 

 

藤丸はじっとネロの演説を見つめる。

兵たちを。そしてなにより自分自身を奮い立たせている皇帝の姿を。

 

「見よ! 余は今だここにいる。ローマ皇帝ネロ・クラウディウスはこれより征伐へ向かう。都の奥で震えるつもりはない! そなたらの前に立ちそなたらと同じ道を進むためにだ!」

 

「余の側には異邦の客将たちもいる。彼らの力は強い。余はその力を借りる。だが忘れるなこの戦はローマの戦である。ローマの道を守るのはまずローマの兵だ。そなたらの盾が道を支えそなたらの足が都と属州を繋ぎそなたらの槍がローマを二つに割らせぬと示す」

 

 

兵たちが盾を握り直す。金属と革の小さな音が列のあちこちで重なっていく。

 

「恐れるなとは言わぬ。恐れを抱えよ。迷うなとも言わぬ。迷いを背負え。その上で前を向け。余が先に立つ。そなたらは余と共に来い。ローマを割る火種を今日この街道より踏み消すのだ!」

 

 

一拍置いてローマ兵たちが盾を鳴らす。

列を崩さず足を踏み鳴らし盾を槍で打つ。音が揃い門前の石壁に跳ね返る。

藤丸の胸の奥まで重低音が震わせた。

 

ネロはその音を受け止め満足そうに頷く。

 

「出立である!」

 

重い門が軋みを上げて開く。

ついに南方街道へ向けてローマ軍が動き出したのである。

 

 

 

 

門の内と外では空気が変わる。

市内には人の声があった。市場の匂い。神殿の白い石。噴水の水音。商人の怒鳴り声。

門を抜けて進むにつれそれらは背後へ遠ざかる。

代わりに現れるのは畑と石畳の街道。分岐点に立つ道標。斥候が何度も往復する低い丘の稜線。

 

街道は文明を維持する血管そのもの。

兵が通る。麦が通る。水が通る。命令が通る。税も噂もここを通ってローマと外を繋いでいる。

そこを焼かれれば都市の呼吸は浅くなる。

 

道中、ふとした拍子にドレイクが口を開く。

 

「実に良い道ですね。物流の基礎。支配とはこういう道の上に成立するもの。だからこそここを狙うのは正しい。各地で似たようなことが起きているのでしょうね」

 

行軍に付き従うドレイクの淡々とした物言い。

耳に入ってしまったネロが馬上から振り返る。

 

「正しいと言われると腹立たしいな。だが否定はできぬ。これらはローマの手足だ。ここを断たれれば都の中だけ守っても意味がない」

「相手はそれを知っているのでしょう。少なくとも畑を焼いて満足する程度の相手ではありません」

 

藤丸は進む先を見る。

最初に見えたのは焦げた柵。

畑を囲っていた木材が黒く焼け半分残った柱が傾いている。近くには荷車の車輪。さらに進むと農家の屋根の焼け跡。戸口には急いで持ち出された籠。

 

人が暮らしていた形。パン窯の煤。庭先の割れた水瓶。滑車を刃物で切られた井戸。穀物倉だけを狙って焼かれ隣家は無傷。

 

「……ひどいね。村を焼いて井戸を壊して帰る場所を奪うのは違うでしょう」

「民を不安にさせれば皇帝つまり余の力の疑いになる。出来ることは少しでも多く仕掛けてきているんだろう」

 

マシュが焼けた倉の前で足を止める。中を覗き残った麦袋と地面の足跡を見た。

 

「大規模な虐殺等の跡ではありません。各地で起きた小競り合いが街道沿いの機能を削っているのかもしれません…」

「火種を点々と置いてるってことか」

「はい。ひとつひとつは小さくても同時処理しようとすれば兵を分散させられます。ローマ軍の動きを縛るには十分です」

 

 

兵たちの一部が無言で村を検分していく。まだ使える井戸はないか。逃げ遅れた住民はいないか。街道の残骸はどけられるか。

黙々と作業を手早く進める。その横顔に疲れが積もっていた。

 

藤丸は南方街道の先を見る。

焦げた匂いが風に残る。煙の向こうから一騎の斥候が戻ってきた。

馬の蹄が石畳を叩き兵たちの間を抜ける。ネロの前で手綱を引き息を整えるより先に声が飛んだ。

 

 

「陛下、前方反乱軍先遣隊を確認! 数はおよそ三百。歩兵中心。盾兵と槍兵を前面に置き街道を塞いでおります。装備は不揃いですが隊列は乱れていません!」

「来たか。母上の手か母上に乗った者の手かは知らぬが余を忙しくさせることに長けておる」

 

リチャードが歓喜の笑みを浮かべる。

 

「三百か。先遣隊としては悪くない。見た目は寄せ集めでも戦略次第だ。さて皇帝我らをどう使う?」

「まずは余の軍を見よ藤丸。余の兵が飾りではないことをそなたにも知ってもらわねばならぬ」

 

藤丸は力強く頷く。

 

「分かりました。必要になるまでこちらからは動きません」

 

マシュが盾を握り直す。

南方街道の先、低い丘の手前に反乱軍の隊列が見えてきた。

バラバラの盾紋。地方兵の槍。鮮やかな貴族の私兵布。

どれも統一されていないが槍の穂先だけが号令に合わせて同時に沈む。

 

皇帝軍が前列を整える。

藤丸たちはネロと将たちのいる側面の高みへ移った。

眼下で二つのローマが距離を詰め始める。

 

 

 

□□□□□□□□□□□□□□

 

 

 

最初の投槍が反乱軍の前列から放たれた。

 

乾いた空を数本の影が走り皇帝軍の盾へ突き立つ。

ガツンッ。

木と鉄が激突する硬い音が連なる。前列の兵たちは即座に膝を落とし盾の上端をわずかに傾ける。その隙間から後ろに控えた槍兵の穂先が毒蛇のように突き出された。

 

反乱軍も退かない。

 

盾紋はバラバラ。槍の長さも鎧の種類も統一感がない。革鎧鎖帷子金具を継ぎ足しただけの粗末な胸当て。

号令が飛べば前列の盾は一糸乱れぬ動きで腰の高さへ下がる。二列目の槍がその上から放たれる。右端の兵が半拍遅れれば後ろの兵が槍の柄で背を突き無理やり列へ押し戻す。

 

藤丸はネロや将たちが陣取る高みから眼下の戦場を見下ろす。

盾がぶつかり槍が入り乱れる。兵が膝をつけば後ろの者が肩を掴んで引きずり戻し空いた半歩の隙間へ別の兵が滑り込む。

わずか半歩の遅れ。盾の傾き。槍を繰り出す一呼吸。それだけの差異が無慈悲に人の命を刈り取っていく。

 

「前列半歩詰めよ! 槍兵盾の間を空けるな!」

 

将の短い号令。兵たちは一斉に盾を寄せる。革と金属が擦れる音が一本の線を引くように揃った。

そこへ反乱軍の前列が激突する。

 

盾と盾が噛み合い悲鳴のような木材の軋み音が上がる。

押し負けた反乱兵の足が土へ滑る。対する皇帝軍は後列が肩で前列の背を支え盤石の構えで押し戻す。槍兵が隙間から穂先を突き出すたび反乱軍の列に小さな穴が開く。

だがすぐに埋まる。負傷兵を二人がかりで後方へ下げ即座に予備兵が盾を掲げて穴を塞ぐ。

 

藤丸は喉の奥で息を止める。

 

「統率されてる。下がる順番まで完全に決まってるのか…」

「はい。装備は不揃いですが、負傷兵を後退させる動きが極めて迅速です。後列が前列の穴を埋めるための訓練を徹底して受けていますね」

 

リチャードが戦場を見下ろし瞳に愉悦と冷徹さを宿らせる。

 

「正規兵の脱走者。貴族の私兵。あるいは地方軍か。随分な混ざり物だな。だが混ざっていても命令に従う。盾を捨てて逃げ出す臆病者も少ない。この寄せ集めを軍として機能させている者がいるな」

 

「母上のもとへ集まる者がすべて愚か者とは限らぬ。余への不満を持つ者もいれば、勝ち目を見て乗った者もおろう。兵の中にはただ命じられたから進んでいる者もおるはずだ」

 

語られる言葉にブーディカが吐き捨てる。

 

「だから厄介なのよね。全員が救いようのない悪人なら斬る方も楽なんだけど」

「こちらの槍を向ける先もローマであるのよな……」

 

中央は皇帝軍が優勢。だが街道脇の左翼だけは様子が違う。

崩れた柵と低い斜面を巧みに利用し反乱軍が兵を厚く配置している。無理に前へ出れば足元の土が崩れ、横から回ろうとすれば丘の上から投槍が降り注ぐ。

 

「陛下。中央はこのままでも進めます。しかし左翼側で足を取られております。このまま強行突破も可能ですが、担架の数が跳ね上がることになるかと」

 

ネロは数秒だけ沈黙する。

やがて真紅の皇帝がこちらを向いた。

 

「藤丸」

「――はい」

「そなたらの力を見せよ。ただし、余の軍の戦いを壊すな。詰まっている場所だけを裂け。兵が進むための『道』を作るのだ」

 

藤丸は力強く頷く。

 

「分かりました」

 

視線をリチャードへ向ける。彼はすでに獲物を待つ獣のような顔で藤丸の命を待っていた。

 

「リチャード、左側に! 相手に隙を作ってほしい。深追いは厳禁で。皇帝軍が入れる穴を開けたらすぐに戻ってきてくれ」

「承知したぞマスター!」

 

リチャードの声が歓喜に弾ける。

 

「道を作ればよいのだな? ならば実に分かりやすい俺好みの仕事だ!」

「本当に追いすぎるなよ! 本当に!」

「もちろんだとも。君の戦を台無しにする趣味はあいにく持ち合わせていないのでね」

 

言い終わるより早くリチャードが動く。

高みから街道へ躍り込み崩れた柵を一蹴し皇帝軍の左翼後方をすり抜ける。味方の盾一枚槍一本にすら触れない。兵と兵の隙間を風のように縫い戦線の横腹へと躍り出た。

 

反乱軍が慌てて盾を向ける。が、遅い。

 

リチャードの大剣が横一閃に振るわれた。鉄壁を誇った盾列の前面が無残に歪む。盾ごと数人が後方へ吹き飛び槍の穂先がまとめて宙を舞う。

押し合っていた戦線の噛み合わせを暴力的な力で強制的に外した。

 

「な――っ!?」

 

 

リチャードが踏み込む。二撃目で前列の盾を粉砕。三撃目で後列の槍をまとめて叩き伏せる。

血飛沫は最小限。腕を打たれた者は剣を落とし足を払われた者は地面に転がり盾で受けた者は衝撃で肩から崩れ去る。もう二度と列へは戻れない。

 

皇帝軍の兵たちが息を呑んで足を止める。

時間をかけてじりじりと押していた戦線に、たった一人が巨大な穴を開けた。

 

「左翼止まるな!」

 

将の凛烈な声が戦場に響く。

 

「道は開いた! ローマの兵ならば進めッ!」

 

止まりかけた兵たちの足が再び駆動する。リチャードが開けた空白へ皇帝軍がなだれ込み槍兵が続き投槍兵が後方を制圧する。

藤丸は息を詰めリチャードの背中を見つめる。彼は止まらない。反乱軍の退路へ向かってさらに踏み込もうとしている。

藤丸は声を張り上げた。

 

「リチャード戻れ! 追撃なしだって!」

 

リチャードの足がぴたりと止まる。

振り返った彼の顔には清々しい笑みが浮かんでいた。

 

「了解だマスター。実に惜しいが命令通り道は作ったぞ!」

 

 

リチャードが撤退すると同時に皇帝軍がその場を制圧する。

左翼を失った反乱軍に維持する術はない。中央の兵たちも隣の列が崩壊したのを見て、盾を揃える指先を震わせる。

 

しかし反乱軍は総崩れにならず押し留まった。

後方で一本の旗が動く。横へ一度。斜めへ二度。

 

敵軍が驚くべき規律で後退を開始する。前列が盾を壁として残しながら下がり後列は丘側の道へ滑り込む。殿の投槍兵が放った最後の一斉射が皇帝軍の追撃を一瞬だけ足止めする。

逃げる背中にパニックの気配はない。

 

「追うな!」

 

将の制止で皇帝軍が足を止める。

戦場に残ったのは兵たちの荒い呼吸音だけ。反乱軍は丘の向こうへ消えていく。最後尾の旗がもう一度だけ小さく揺れた。

 

「この場の戦はここまでだ。街道を確保し負傷者を収容せよ。深追いは許さない」

 

兵士たちが即座に動く。兵たちは勝利の熱を飲み込み手慣れた様子で戦後処理へ移る。

負傷者を運び壊れた荷車をどかし再び軍を進める準備を整える。

 

藤丸はようやく肺の空気をすべて吐き出した。

隣に立つマシュが小さく眉を寄せる。

 

 

「先輩。今の撤退は少々早するのでは?」

「やっぱりそう思う?」

「はい。リチャードさんが介入した場所は崩れましたが、全体がパニックになる前に鮮やかな撤退合図が出ていました。こちらの動きを確認した時点で引くことを決めていたように見えます」

 

それまで黙って見つめていたモルガンも会話へ混ざってくる。

 

「敵は勝ちに来たわけではない…。我らを品定めしに来たのでしょうね」

「皇帝軍の練度、皇帝の判断、そしてマスターの隠し球。あの旗の合図は報告そのもの。我々の情報を持ち帰るための動きです」

「母上の手かあるいはその信奉者か。どちらにせよこちらを測ろうとする者がいるのは確かだな。面倒だな」

 

ネロは剣を鞘に納め敵の消えた丘を見据える。

ドレイクが小さくなっていく姿を眺めながら皮肉げに微笑む。

 

「損切りが早い相手ですねえ。勝てないと悟れば即座に得た情報だけを懐に仕舞って逃げ去る。極めて堅実で嫌なやり方です」

「褒めてる場合じゃないんだけどな」

「ええ。ですから厄介だと言っているのですよ」

 

ブーディカは戦場から目を逸らし街道脇の村跡を見つめる。

焼け落ちた穀物倉から細い煙が立ち上る。風が吹くたびに灰が舞い焼けた麦の匂いが鼻を突いた。

 

「ほんと嫌なことだらけなんだから」

 

皇帝軍は黙々と動き続けている。勝利の歓喜に酔う暇もなく次へ進むための準備をこなす。

リチャードもまた丘の向こうをじっと見つめていた。

 

「次はもう少し骨のある相手が来るだろうな。いや来て欲しい」

「楽しみにしないでくれ。こっちは命懸けなんだから。特に俺」

「努力はしよう。だが向こうがこちらを測ったというのなら次はこちらも測り返してやる番だ。戦場とはそうやって深くなっていくものだよ」

 

藤丸は小さく息を吐く。やっぱり、この面々は癖が強すぎる………。

オルレアンのサーヴァント達が懐かしい。

 

 

「街道を立て直すぞ! 負傷者を後送し動ける者は隊列を組み直せ。余たちはここで止まらぬ!」

 

ネロの号令が飛ぶ。

藤丸は最後にもう一度丘の向こうを見た。

敵の姿はない。最後に揺れたあの旗の残像が網膜に焼き付いている。

 

 

 

 

 

(うぉぉぉ……やはり人間ではないではないか! どうすんだ余! 下手したらこっちがやられそうでめっちゃ怖い! 今からでも入れる※コッレーギウムとかありませんか!?)




※コッレーギウムとは?→同業者組合・宗教結社・互助会のような団体があり、その一部は葬儀費用をまかなうための葬祭組合として機能したもの。ようは古代の保険に近い制度。

はえ~、すっごい
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