マシュ・キリエライトしか分からない   作:ats376

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□一章補完

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「ファーストサーヴァントは譲れない」。

オルガマリー・アニムスフィアを苦しめる謎の書物。

マシュ・キリエライトが経験した物語の概要、現時点ではその始まりが語られてきている。

だが、この物語が確実に発禁処分を受けるであろう原因にして、あまりにも理解不能な要素。

それに触れなければならない。

目を通したオルガマリーが至った感想、「なんでORTがいるのよ!?」。

この疑問を解消しなくては話が誰にも分からない。私にも分からない。

 

 

そもそもORTとはなにか?

 

ORT(One Radiance Thing)

異なる世界線によっては死徒二十七祖第五位の称号を持つ異形の蜘蛛。

遠い未来の話に現れるべきであるにも関わらず西暦以前に南米へと墜ちてきた、とされる謎の存在。

 

以上である。

 

 

 

 

というのはあまりにも中身がなさ過ぎる。

本来の予定よりも早く。それも5000年ほど早く地球へ来てしまった。興味が無いのかやる気が無いのか、勢力的に活動せずに黙って南米の水晶渓谷に閉じこもっていた。

魔術協会はこのような存在を放置しない。

16世紀には当時の冠位魔術師率いる調査団を派遣する。

散々な結果に終わるこの調査は、冠位魔術師アステアが「現在の紀における地球の生命では何一つ及ばない。」

その言葉と水晶と成り果てた己を残して終わりを迎えた。

今となっては怪談のようなもの。恐ろしくも在り、興味の対象。それがORTという存在。

カルデアにとっては第7の異聞帯にて亜種個体と想像を絶する戦闘を味わった圧倒的な存在。

 

だが、最大の「なぜ?」という疑問が残る。

藤丸立香___、日本の一般人になぜこの怪物が執着しているのか?

どうして当たり前のように同居しているのか。

 

それらは語られなければならない問題である。

 

 

 

 

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藤丸立香。

彼は普通の高校生であった。

短期アルバイトに応募したはずがそのままカルデアに来ることになるという憂き目にあったが、人生そのものは順風満帆であった。

幼少期の大事件を除いては。

 

 

 

藤丸家。

父と母。そして幼い妹。首都東京の渋谷に家を持つささやかな家族。

かつての縁によって中南米への家族旅行。年末年始の旅行シーズンとして何もおかしくない幸せな光景。

しかし、どうしようもなく運が悪いことと言うものはある。

 

 

「こら、立香。そんなにはしゃいじゃ駄目よ。近くに居なさい」

「まぁ、少しくらい良いじゃないか。君は下の子の面倒を見ていてくれ」

「あのバスにのるんでしょ? 俺が先に行ってお母さんが座れるようにイス探してくる!」

「あぁ、もう。あの子ったら」

 

 

幼き日の立香が飛び乗ったバスはお客がそれなりに入っている。市街地から遠い観光地。

国際色豊かな乗員だったが、観光地からの乗り合いバスの席にはまだ空きがある。

立香は無邪気に手前の席に飛び乗り、周りの大人は少しムッとする人も居れば微笑ましいものを見る人も居た。

だが、このバスに家族が乗り込むことはなかった。

バスのドアは他の客を待たずに閉まり走り出すと同時に、車内の複数箇所で男達が武器を持って立ち上がる。

 

『Vamos a secuestrar este autobús!!

Lo conduciremos hasta nuestro destino. Ustedes servirán como rehenes.

Lo lamentamos profundamente, pero por favor entreguen sus pertenencias y mantengan la calma.

Sus vidas serán respetadas.』

 

 

車内が騒然とする中、藤丸には何が起こっていたかは理解できなかった。なんとなく、周りの大人の雰囲気から怖いことが起きているということだけが伝わり、漠然とした不安に駆られていた。

バスは静かに発進し、人の気配の少ない山間へと向かう。

道路は舗装されず街灯もない。

いつまで続くか分からない恐怖が車内を支配していた。

人々はお互いに励まし合い、初めて会う人間でも共同意識が芽生えていた。

その中には一つの共通した思いもあった。

このバスに運悪く乗り合わせた少年。この子だけでも逃がせないかと。

 

大人達の交渉の結果。少年は水と僅かな食料を与えられて山脈沿いの道へ降ろされる。

心配そうな乗客の中には励ましの言葉を贈るものや上着を着せてくれるものもいたが、バスはそのまま走り去っていった。

 

 

少年には言葉が分からなかった。小さいカバンを持って歩いていた。寒い夜を過ごし、食料を少しずつ食べた。

ふらふらと歩き、いつのまにか道路から逸れて山道へと。

子供心に近道をしようとしたのかもしれない。山を沿って歩くよりも直線で歩いた方が近いと。

これによって少年は捜索隊に見つかれることはなかった。

 

 

 

子供の体力では到底山越えなど出来ず、ただ数日歩き、水も食料も尽きた頃。

疲労により少年は偶然見つけた洞窟で倒れるように寝込んだ。

何で自分がこんなことに。そんなことを考えていたかもしれない。

呆然としていたとき、少年は洞窟内で奇妙なものを見つける。

「なんだろうあれ...?キラキラしてる....」

 

這うように壁に手をついて歩き、洞窟を少し進むと淡く輝く水晶のようなものがそこにはあった。

「きれい..。あっちにもたくさんある」

 

まるで誘蛾灯に誘われる羽虫の如く、立香は奥へ奥へと歩いて行った。

いつの間にか周りは水晶だらけの空間となり、無機的な水晶だけでなく人間大のものもいくつかあった。

「すごいなぁ....きれいだ...。でも、お腹すいた...。疲れた....」

 

ポツリポツリと呟きながらひときわ大きく堅いナニカへ背中を預けて休もうとしたとき、立香は意識を手放した。

それまでの疲れや飢えではない。

全身から何かを吸われるような感覚の伴う不快なものだった。

 

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淡い光が漂う洞窟深部。

立香は顔に水滴が当たる感覚で再び意識を取り戻した。

「う...うぅぅん...?」

転んで出来た怪我が治り、そばにあった大きな岩のようなものが無くなっていたのが不思議だったがお医者さんが来てくれたのかと

妙に納得していると、何かが動くことがする。

そちらへ視点を向けると人間代の昆虫のような人間のような。全身から周りのそれとよく似た水晶を生やした何かが立香へと語りかけてくる。

 

「アナァタ、トトテモ美縺励>い。縺れかi縺っと▲緒に暮ラ邱シた↓い?◆。遘√?シの言葉???壹テます吶?」

機械のような、何かを無理やりすりあわせるような、なんとも言えない鳴き声を少年は耳にした。

恐怖は不思議と感じなかった。このときの立香はこれまでの孤独感に耐えきれなかったのだろうか。

言ってはならない言葉を口にしてしまう。

「俺を助けて....。お父さん達のところに行きたい。ここから帰りたい.....」

「蜷否定壼否定、螳壼否螳定、凄否定否定否定否定否定」

 

「どうして....?」

「あな縺溘?縺とがとテも気に入った。もう、ワタしのもの」

「違うよ、.....帰りたい..」

 

立香はあくまでも対話をした。このとき立香は気づかなかったが、無数の触手が立香を狙って展開されていた。

目の前の怪物は何かが琴線に触れたのか、逃がさないと決めたのか話し合いが平行線になりかけたとき。

「ピカピカの虫さん、俺を助けて....」

「助けタラ、おマえ、立香とイつショにイられル?」

「多分、出来ると思う、お母さん達に頼まないと....」

その言葉を完全な了承と受け取ったのか。

目の前のナニカは腕(?)のようなもので立香を抱き込んだまま輝く。

立香は再び意識を失っていたが、洞窟が何かに押し出されて崩れるような音だけは最後に聞こえた気がした。

 

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例のバスハイジャック犯達は既に検挙され、人質達は解放されていた。全員無事に救助され、犠牲者はいなかった。

....皮肉にも、善意で降ろされた一人を除いて。

 

「あなた...あのこは!あの子はまだ見つからないの?!」

「落ち着くんだ! 警察の人達も必死に探してくれてる。俺もそろそろまた探しに行くよ」

残された家族は悲痛な面持ちで居た。

人里離れた場所。いかに観光地化されていて車通りがあるとはいえ、野犬などがいればそれだけで絶望的になる。

行方不明になってもう1週間。生存は絶望的という意見も出始めた頃。

地元警官達がなにやら騒ぎ始める。

 

捜索班に出発しようとした父親も呼び戻され、妻と共に警官とパトカーへと乗り込み走る。

簡単な説明では、『息子さんが見つかりました。ただ、その....場所というか、状況が....』

 

一行が向かったのは山が深くなり始める都市から遠い場所。

黒煙が立上り、何かが燃えている。砕けた翼。散らばる荷物。

そこには_____小型飛行機が墜落し炎上していた。

 

 

両親は保護されていた立香と再会を果たして抱き合いながら状況を警官から聞く。

小型飛行機が突然ロストし、捜索のために来た部隊が近くで見つけたと。

木々がなにか大きなものになぎ倒されたような跡地で1人倒れているところのが見つかったと。

衰弱こそしているが命に別状はなく病院へすぐに搬送するとして、一家はその場を離れた。

 

飛行機事故は生存者はいなかったが行方不明の少年は見つかった。

一つの謎の事件が生まれ、一つの事件が解決した。

立香は短期間入院し、家族とともに祖国の日本へと帰国した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立香が見つかるまでの数日間で、周辺の山岳地帯からは数十名が行方不明になっていたことが後に判明。

異常な放射線値、溶けた車。

生きたまま突然発火したような死体や、ミイラのようになった死体も見つかった。家畜たちが白骨化した死体も。

市民は宇宙人が現れたのでは、と囁き地元の都市伝説として語られるようになる。

 

 

 

□□□

 

 

立香は成長した。

悲劇を生きた人物としてではなく、真っ当な少年として。

中学校ともなれば、部活に勉強、これまでと違うコトへの関心も湧いてくる年頃。

幸い思春期が来ても家族仲は極めて良好。

両親からすれば自慢の息子、妹からすればかっこいいお兄ちゃん。

 

だが、本人目線では気になることもある。

「あの..ORT。家族の前では姿を見せないでっていう約束を守ってくれてるのは嬉しいよ。でも俺ももう大きくなったし、ベタベタしてくるのはちょっとやめてほしいかなって」

「何を言う立香。お前を助けるのが私だ。常に側に居るぞ」

「そうは言ってもこれは...」

 

藤丸は男である。

小学生時代は例の奇妙な人型だった謎の存在は、立香がある日零した言葉に反応したのか人間の女性の姿を取るようになった。

なんか妙にエロイ体に。

 

【挿絵表示】

 

それだけならまだよかった。風呂に入れば全裸で体を洗おうとしてくるし、夜も布団に入ってくるようになった。

 

「意識するから!頼むから距離感もって!」

「意識しているのか?学習しているぞ、人間は異性であれば発情すると。そして交b」

「そこから先はいけない」

「なぜだ?私はまるで構わないぞ」

「気にするんだよね!俺が!」

 

これだ。

書籍やテレビ、さらには電波などを介して学習したのか、流暢に話して文字でコミュニケーションを取り、立香の勉学のサポートすらするようになった。

余計な知識もついて苦労する羽目にもなったが。

人目のある場所では姿を消しているらしく、気配は感じるに留まっている。それについてはしっかり約束を守っているだけにあれこれ強く出づらいのが立香の悩みだった。

藤丸と立香という名前の呼び分けすらこなしてくれるあたり結構話は通じるという認識を持っているが、たまにぶっ飛んだこともするのは気疲れの元となっていた。

時たま姿を消すときもあるが、一人になりたいときくらいあるだろうと気にしなかった。

 

「つれない奴だな。...あぁそうだ。今度の土産だ」

 

そう言いながら目の前の女性は立香へどこから取り出したのか古びた時計や立派なナイフ、何とも言えない骨董品や変な文字が書かれたお札をあれこれ差し出す。

 

「またなの~? 父さんに頼んで買って貰った物置もいっぱいになっちゃうよ....」

「気にするな。(多分)いいものだ。お前に貰って欲しい」

「まぁ、貰うけど...。毎度毎度どこから拾ってきてるの....警察に届けるのも怖いからしまうしかなくて....」

「安心しろ。立香。お前は私が守るぞ」

「そういうことじゃ...はぁ...」

 

二人が中身のない話をしていたとき、つけていたテレビのニュース番組から聞き慣れた内容が耳に入る。

 

 

女性キャスター『関東圏で連続で発生している身元不明の遺体発見については度々報じていますが、また見つかるとはどうなっているのでしょうか?』

専門家A『連続殺人事件で捜査をしているようですが、なにより被害者に一貫性がありません。老若男女問わず、国籍も問わないようです』

女性キャスター『そうですね、場所もバラバラで...。犯行時刻が夜間というのは共通しているようですが』

専門家『はい、私も現役時代は多くの事件に触れましたが、ここまで全国的で規模の大きいものは未知数です。それに、関東圏外でも_____』

 

 

「物騒だよなぁ....、この辺でも多いんだよね」

「そうらしい。たくさんテレビの映像で赤丸がついてるな。あんなにたくさん事件が」

「俺は静かに普通に生きたいね」

「任せろ。おはようからお休みまで私が完璧にエスコートだ」

「話聞いてた?」

 

 

「お兄ちゃーん!!ご飯できたってーーーー!!」

「分かったよ!今降りるとこ!じゃあORT、ご飯食べてくる」

「ポンポンいっぱいにするんだぞ」

「今の時代そんな表現しないなぁ...」

 

 

 

□□□

 

 

私は家系にも恵まれた魔術師。

この極東のとある地域を中心に奇妙な噂が立っている。

曰く、_____魔術師達が行方不明になると。

 

そして行方不明になった魔術師達の遺体からは彼らの持つ礼装などが失われているらしく、誰かが見つけたという話もない。

これはチャンスだ。

この島国のどこかには命を落とした者達の貴重な魔術の財産が眠っている。

時計塔で成り上がるためにこれ以上無い宝探しが出来る。

使い魔などを利用して首都の東京都、その中でも渋谷区が怪しいと突き止めた。

延々と都市が広がるこの都市群であれば成る程、何かを隠すにはこれ以上無いほど好都合だ。

 

日が沈んだ後の街を私は歩く。

狙いは例の家。

 

「藤丸家か...。聞いたことのない家柄だな。魔術師として成り上がりか?」

正面から行く必要は無い。家族構成も調べている。

使える手段などいくらでもある。

 

「そろそろ動くか。人通りも減った時間だ。目的地まで隣接したこの区であればすぐに----」

「お前が連続殺人犯か?」

 

急に背後から声をかけられる。

思わずドキリと心臓が脈打ち振り返るとそこには鎧に身を包んだ女性が立っていた。否、宙に浮いていた。

「な、なんだ?サーヴァント...?他にも同じ事を考えている奴がいたか...!!」

 

戦闘用の魔術を起動しようとしたその時。

「藤丸の邪魔をするな。殺すぞ」

 

一瞬で伸びてきたエネルギーの触手のようなものに心臓を貫かれ、力なく倒れる。

「あ....、が..ぁぁ...」

「お前、色々持ってるな。貰っていくぞ」

 

男の持ってきた礼装が、自身の家の神秘の象徴が無造作に回収される。

慣れた手つきの作業のように淡々とした動作。

これまでに幾度も繰り返されてきたことが伺えた。

 

「や、、やめろ...!私のものだぞぉ...!」

「あぁ、『これ』も貰う」

 

瞬間。男の体内を何かが這いずり回る感覚に襲われる。

全身をくまなくかき混ぜ、引き剥がすような感覚が。

「あいjgmrjんbdんjsjんvjbんffvbvfんjgkf!?」

 

「よし...、お前の魔術回路も貰っておく。使い道があるんだ。じゃあそういうわけで」

 

銀の鎧を纏う女性は闇へ紛れるように消えていく。

虫の息となった男をその場に取り残して。

 

 

 

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翌朝、藤丸は穏やかな土曜の朝を過ごしていた。

 

「立香、パンが焼けたぞ。お前の好きな厚切りトーストだ」

「ありがとうORT。昔みたいに変な光で焼かないようになってくれてよかったよ」

「あれから練習したんだ。もう黒焦げにはしないぞ」

「いや普通にトーストしてくれたら良いから」

 

 

その時、リビングのテレビではニュースが流れていた。

 

女性キャスター『昨日もまた変死体が見つかりました。犯人は依然不明であり、警察は尽力するとのことです』

専門家C『警察に対する不満の声も上がっています。今回は周囲への被害こそありませんでしたが、事例によっては建築物などへ被害が出るケースも____』

 

 

 

「うわぁ、またかぁ...。それも隣町じゃん」

「あぁ、物騒だな。不審者が多い世の中だ」

「ORTも気をつけてね?」

「私はこう見えてかなり強い。お前との運命の出会いの時よりもずっとな。多分だけど」

「不安だなぁ....」

「あぁ、それからな。立香」

 

 

 

「今回も色々持ってきたぞ。部屋を飾ったりするか?おしゃれな時計もあるぞ」

 

 

 

藤丸立香はわからない。

己の側に近づいている脅威や危険が己の知らぬ間に排除されていることに。

藤丸立香は分からない。

魔術について人並以上に触れているのに、その真価を理解する機会はないのだから。

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