マシュ・キリエライトしか分からない   作:ats376

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8(+).おまけ編  地獄に落ちた女

東京。

それは世界屈指の大都市である。江戸時代から現代に至るまで、天災や戦火に見舞われながらも発展を続けた土地。

都心部は夜でも明かりが絶えず、不夜城となる。

宙から見ればこの関東平野はまるで星をちりばめたように映るだろう。

 

 

そして、その一地域である渋谷区。

閑静な住宅街が立ち並ぶエリア。人々の眠りを静寂が包み込む時間。

とある女性は息を切らして駆けていた。文字通り全身全霊、命を懸けて夜を駆ける。

 

 

 

□□□

 

 

「うあぁぁぁぁあ!!ばか!!ふざけんな!!!本当にばかあぁぁぁ!!!」

 

白いドレスを振り乱しながら全力で逃げる人物。

彼女の名はフランチェスカ・プレラーティ。長い時を過ごしてきたレディである。

あっちこっちにちょっかいをかけて回る荒らし迷惑混乱のもとの彼女がなぜ汗まみれになり、必死の形相で逃げているのか。

 

時計の針を少々巻き戻す必要があるだろう。

 

 

 

-------------------

 

 

「魔術師が行方不明になる街」、「宝の山がある」

そんな噂を知り合いの魔術師から聞かされた。

荒唐無稽と一蹴したが真面目そうな彼は深刻な顔で語っていた。

 

「真面目だなぁ、自分も参加する! ってならないわけ? 私は気になるなぁ」

ニヤニヤ笑いながら仕事机を占領するように座る。めんどくさそうに眺められるが、まるで気にせずに言葉を続ける。

「だってさ、根源に辿り着きたいとか思う連中が犬死にしてるとか、最高じゃない? 血筋が~とか普段は言うくせにやってること命投げ捨てるとか馬鹿すぎでしょ」

 

目の前のいかめしそうな男が提案してくる。ならば自分で行って確かめたらどうだ、と。

「いいね! それ。あ、旅費はよろしくね」

 

そんなこんなで旅費をふんだくってやってきた日本。

彼女は目標の居るであろう街に仮の魔術工房を設置。観測しつつ、借りた使い魔を放って様子を見ていた。

 

が、しかし。

 

 

「全然おかしいことないじゃん! もしかして騙された!? なーんか腹立つなぁ。町歩きでもするかな」

彼女は頭おかしい人間(?)ではあるが、流石に目立ちすぎることを自覚してなのか、現代的な普通の服で出歩いた。

 

 

「なんでもあるけど満たされない現代人達が暮らす街ってかんじだなぁ。いや、いいんだけどさー」

一通り街を出歩いてから戻ってきた彼女はその辺のスーパーで買った菓子を食べつつ自身が借りているマンション兼魔術工房から街並を眺めていた。全裸でベッドに寝転んで町歩きを思い出す。

「う~ん。噂の検証のために来たけど、やっぱ平和そのもの。これじゃ2週間だらだらしてただけだよ!もっと想定外なこととかないと骨折り損じゃん!」

全裸で部屋をうろうろしていると、ふとあることを思い出す。

 

「そうだった。なんか怪しい家があるんだった。私ってばうっかり☆」

彼女の行動は早かった。場所の特定、家人の把握。そこに居たのはまさに魔術師らしい顔つきとなったフランチェスカ。

慢心はない。夕暮れ時に移動ルートを再度確認に向かうことを決めるのも早かった。

 

「さてさてさて。変装は完璧。決行日は近いし、最後のルート確認、っと。・・・夕暮れが良い景色だね...。兄弟が公園で遊んでて、いかにも平和って感じ。退屈ダネ~」

チラリと公園を見ると、そこでは男子学生と思われる制服を着た少年が妹をブランコで揺らしている光景が目に入る。

人畜無害な平和ボケだらけ。噂なんて眉唾に思えてきたが、退路を確保するために街路に沿って万が一の逃走用ルートの仕掛けを施す作業に戻る。

 

 

 

 

その翌日の夜。明日が突撃の決行日だと意気込んで、お気に入りのドレスを着込んでベッドでくつろいでいた。

「あ~、明日何もなかったらどうしよ? まぁたまにはこんなこともいいかな!退屈しのぎにはなったし」

「そういえば、都市伝説では他にはORTが日本にいる、なんてのもあったっけ。そっちの方が気になるなぁ」

そうポツリと呟いた後、

 

「ク、フ、キハハハハ! あるわけナイナイ! あれがわざわざこんなとこに来るわけナイ! 南米のどっかで引きこもってるんだって!」

「あー。笑った笑った。使い魔と仕掛けの様子でも確認しますかね-」

 

そう言いながら何の気なしに自身が用意した祭壇を眺める。

....そして、数秒固まる。

 

「・・・え? なんで、全部の反応がなくなってるの」

バッと起き上がり祭壇を確かめる。何も異常は無い。正常に稼働してる。これが意味するのは自身の仕掛けが何らかの理由で解かれ、使い魔達が全て潰されたということ。

「アハッ、ようやく動いたんだ。面白くなってきたよ! 最ッッ高の展開だよ!」

 

 

 

その時、祭壇近くの鏡に何かがチラリと。淡い緑の光が映った気がした。

「____?」

フランチェスカが何の気なしに振り返ると部屋の中央には先ほど見た光を放つ異様な力を放つ「ナニカ」がいた。

なぜだろうか。長い時を過ごしてきた自身の魂が全力で警戒を発している気がした。

 

「な、な、い、誰!?」

「私か。まぁ、あれだ。一般人だ、よろしく頼む。それで____お前が犯人か?」

 

フランチェスカの脳がフリーズする。この数秒で情報量が多すぎる。

「は、え...? いや、多分どっかの使い魔とか魔術師もどき、それとも何かのサーヴァントってトコでしょ?たいしたことなんて....」

言い終わる前に顔の横をヒュッと何かが過ぎる。それは輝く触手のような何か。それは自身の部屋においていた使い魔に突き刺さり、そして____

 

使い魔は水晶となって砕けた。

 

 

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

無言で見つめ合う二人。フランチェスカは部屋の中央の人物と距離を保ちつつ、ジワジワと壁に沿って窓際へ移動する。

 

「いや~、急に用事思い出しちゃってぇぇ....。もういれなくってぇ....」

「そうか、私はお前に用事がある。死んで欲しい」

 

その一言にフランチェスカは耐えきれなくなり、窓を突き破って5階の高さから逃げ出した。

一張羅を着たまま華麗に着地。急いで着地点から離れて振り返るとそこには、緑の光を放つトラック程度の大きさの蜘蛛のようなナニカが佇んでいた。

これを見たフランチェスカは無言で背を向けつつ自身にできる限りの強化を施して

 

 

脱兎の如く逃げ出した。

 

 

 

 

 

----------------------------

 

 

そして今に至る。

 

「うあぁぁぁぁあ!!ばか!!ふざけんな!!!本当にばかあぁぁぁ!!!」

 

夜の街に響く絶叫。

車の通りが少なく、道路はマラソンコースのようになった。

 

フランチェスカは全力疾走するが振り返らない。

ナニカが猛烈な速度で迫っている感じだけはする。

振り返る余裕があるなら全力で逃げる方が良い。建物の屋根を伝うとか、魔術で隠蔽して逃げるとか。そんな小細工は寿命を縮めるだけだと本能が告げている。

というか考える余裕なんて無い。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!なんで、なんで、なんでぇぇ!!!」

 

 

 

事前に描いていた万が一の逃亡ルート。そんなものはもう記憶にない。

フランチェスカは人外の存在である。

だが、化け物とよろしくやりたいわけではない。得体の知れない存在とのふれあいを求めるほど刺激に飢えているわけではないのだ。

 

生きるための戦いというリアル鬼ごっこが続いているが、心の余裕のなさが仇となったのだろうか。

必死の思いで走り続けるものの、やがて足がもつれ倒れ込んでしまう。

「あっ」

姿勢が後ろを眺める形になるとそこには________

 

先端が棍棒のように変形した触手が音より早く迫っていた。

思い切り胸を殴り飛ばされ、血を吹き出しながら宙を舞うフランチェスカ。

 

ORTはそんな彼女を掴み上げ、遠くに見える高層マンションまで飛び去る。そこでフランチェスカの意識は途切れた。

 

 

 

 

□□□

 

 

 

 

夜風が肌をなでる感覚にフランチェスカは意識を取り戻す。

「う、うん?」

「目を覚ましたのか。死んでないとはアタリ個体か?」

 

目の前に先ほどの怪物が人間の姿で居た。

反射的に逃げようとするが、手足が動かない。目をやると手足だけが結晶と成り果てている。

逃げることが出来ないと悟り、必死に提案する。

 

「ね、ねぇ! 何か欲しいものとかある? もしかしたら渡せるかも知れないよ! 」

「これからもらうから別にいいぞ」

そう言いながらORTはフランチェスカの服を破る。一張羅は布ゴミに成り代わった。

 

「なんだこれは。腹に口? 開いてみるか」

「ま、待って____」

 

懇願にも関わらず、無数の触手が腹の口を破り始める。

細腕からは信じられない馬鹿力で歯がむしり取られ、殺到した触手に内部がかき混ぜられる。内部に収納されていたものが次々取り出されていく。

 

「あ、ががぁ! 痛い痛いいたいぃぃ!!!!? ぎ、、ぐいぁいあぁ!?」

手足が動かないため必死に身をよじって苦痛から逃げようとするが、なにかが流れ込んでくるような感覚と共に自分の体の自由が失われていく感じがする。

内部を侵食する触手によって与えられる感覚は常軌を逸しており、フランチェスカは敗北以上の悍ましい経験を刻み込まれ続けた。

激痛により目は見開かれて白目を剥き、口からは泡が吹き出す。

 

 

「ん?なにか違うのがあるな」

「ぎょぴっ!?」

ORTが何かを探り当てる。フランチェスカは余裕はないものの、その刺激で逆に意識を取り戻す。自分を成立させる何かをなぞられた。

ぞわりと悪寒が走り呼吸が荒くなる。

「ま、待って! 本当に!! なんでもするからそれ以上は、ガっ!?」

 

ORTからすれば耳障りなものを黙らせる程度に振るわれた歩脚は、フランチェスカの顔面をいとも容易く粉砕して赤い花を咲かせた。

 

だが、この期に及んでフランチェスカは死んでいなかった。いや、死ぬことを許されなかっただけかもしれないが。

余計な感覚が消えてより鋭敏にすらなっていた。

全身を浸食される感覚は残り続け、体が内側から食い尽くされる感覚に手足と顔を失った体は芋虫のように跳ね続けた。

魔術回路を引き剥がされ、内臓や血管を隅々まで。いたるところをあらゆる箇所を刺激され続け、女の子の大事な内臓どころではない状況になっていた。

地獄は日が昇る頃になってようやく解放された。

 

 

 

 

 

生きることから解放されるという結果を伴って。

朝焼けの中には死体の一片すら残っていなかった。彼女の繰り返してきた新たな肉体を獲得する複製のからくりごと食い尽くされた。

フランチェスカという仕組みが時間をかけてむさぼり尽くされた。

 

他人を食い物にしてきた女は消え去った。破かれた衣服のボロ切れだけを残して。

 

 

 

 

 

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~~藤丸宅~~

 

「立香、面白そうな本だぞ」

「なにこれ。読めないんだけど。あと表紙気持ち悪!」

「枕元で読み聞かせようか?」

「もうそんな歳じゃないし、その本そういうのじゃないでしょ、多分」

 

 

休みの朝。

一人遅めの朝食を取る藤丸はテレビをつけていた。

 

女性キャスター『昨夜、渋谷区において女性の叫びが響き渡るという通報が相次ぎました』

       『何かが衝突するような音を聞いた、という通報も入っていたそうです』

       『しかし被害届などは提出されておらず、市民には不安が広がっています』

 

 

「えぇ....普通に事件の気配がするんだけど」

「立香も変な奴には絡んだら駄目だぞ。世の中には平気で人間を殺す奴だっているんだからな」

「そんなのが身近にいたら怖いよね」

 

 

 

 

 

 

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