魔物使い、はじめました。   作:YTとりあえずぶん投げてみる

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第103話 融合した世界

「……初めて食べたけど、なかなか美味かったな」

 

「……味はまるっきりアレですけど」

 

 結局、朝飯は時間がなくてゆっくり食べられなかった。なので、買ってあった保存食で済ませてしまった。

 

 アプリ「終末はじめました」内にあるショップ機能、『終末ストア』。

 そこでポチった「カロリーの暴力」という名の、カロリーメ◯ト的な何か。

 

「何種類か買ってストックしてあるから、忙しい時はあれで済ますか」

 

「良いですね、チョコ味は僕にください」

 

「ダメだ。チョコ味は茜がおやつで食べるらしい。あいつチョコ好きだから、勝手に食べるとめちゃくちゃ怒るぞ」

 

 前に、冷蔵庫に入ってたチョコプリン食べたら死ぬほどキレられたんだ。

 何も言わず、ただただ至近距離でジッとあの紅い瞳で見つめられる恐怖。

 

「知ってます。よく自作のチョコの歌、歌ってますもんね。もちろん録音済みですけど。チョコは僕も好きなんで、推しと一緒なんですよねぇ……デュフデュフ」

 

 いや、知ってんのかよ。しかも録音て……こいつ、普通に気持ち悪いな。

 たぶん、欲を満たすためにわざと怒られに行ってんだよなぁ……。推し活という名のストーカー、これが元警察感ていう。世も末だ、こっわ。

 

 

 そんな不毛なやりとりをしながら、影山と一緒に拠点を出る。

 

「つーかお前、今どき裸見たくらいで鼻血出して倒れる奴なんていねぇぞ。純粋かよ」

 

 朝飯が保存食になった理由。

 影山が、トイレに起きてきた裸の茜とバッタリ鉢合わせしたせいだ。

 

 だからって気絶はないだろ。

 これだから童貞は女に夢を見すぎる。

 

「しょ、しょうがないじゃないですか! だって推しの裸ですよ!? 御神体を直接拝むなんて僕にはとても……!」

 

「御神体ってお前……。ただの裸だろ? そりゃまぁ、めちゃくちゃエロいけどな。毎度毎度気絶したお前の世話するこっちの身にもなれ」

 

 こいつは俺のとこに転がり込んで来てから、ずっとこんな調子だ。茜がただそこにいるだけで挙動不審になって、本当にうるさい。

 まぁ……あいつ、家の中を平気で裸でうろつくタイプだし。しょうがないっちゃしょうがないが。

 

「逆になんで望月さんは平気なんですか!? あの身体で誘惑して迫ってくるんですよね!? 一ヶ月も手を出さないなんて、まさか……不能?」

 

「違うわ! 誰が不能だ、誰が!」

 

 人を勝手にEDにするんじゃねぇよ。

 第一、もし不能だとしても、前に勇者に貰ったポーションで治ってるはずだ。

 だから俺は不能じゃない。ないったら、ない。

 

「いや、あいつ確かにエロいけど、なんつーか……これ見よがしに全裸っていうのもなぁ。恥じらいが欲しいんだよ俺は。隠すエロスっていうのか?」

 

「うわぁ……望月さんって、結構変態ですよね。ガチっぽいのがちょっと……」

 

 うるせぇな。生粋の変態はお前だろうが、覗き魔のくせに。

 

「こっちがちょっと攻めると、途端に恥ずかしがるけどなアイツ。それはかわいいんだけどなぁ」

 

「……あー、あー、何も聞こえなーい。リア充爆発しろー」

 

 影山が耳を塞いでイヤイヤしてる。

 お前、今更何言ってんだ。知ってんだぞ、たまに『地獄耳』で俺たちを盗聴してんのは。変態め。

 

 とはいえ、毎晩の茜との戦いは常に防戦一方だけど、鋼よりも固い意志で耐えてるんだ。

 

 ……まぁここだけの話、一線を越えてないだけで他は色々とやってたりするんだが。

 しょうがないじゃん。まったく手を出さないなら出さないで、茜の俺への信頼度下がるんだから。

 

「そんなのはいいんだよ。それよりも影山。オーク肉の相場、見たか?」

 

「あ、『マモカリ』ですよね? 少し……いえ、だいぶ安くなってましたね。昨日、茜さんが頭抱えてましたよ。悩める推し、尊かったです」

 

「いや、お前の推し活の感想なんて聞いてねぇ」

 

 影山が何かを思い出すようにしみじみと頷いてる。鼻息が荒いので情緒というより、「ふんすふんす」って擬音のが相応しい感じだが。

 そんな影山を横目に、俺は溜め息を吐く。

 

「それでな、今回の松下さんからの依頼――『オーク肉の納品』も、たぶん予想より買取金額が下がるよな」

 

「そうですね……松下さんのことだから多少は見てくれると思いますが……あそこもギリギリですからね」

 

「だよなぁ……」

 

 歩きながらスマホを取り出し、『マモカリ』の画面を開く。

 

 そこに並ぶのは、世界中のプレイヤーが出品したオーク肉のアイコン。

 

「まさか昨日のあのタイミングで、世界的にオーク狩りイベントが被るとはなぁ……」

 

「突発イベント、最近多いですよね」

 

「多すぎだろ。手当り次第やりゃいいってもんじゃねぇぞ、あの神運営。テストプレイくらいしろよな」

 

 ボヤきつつ画面をスワイプ。

 自分のアイテム欄を開く。

 

 =========

《もちもの》

 ・オーク肉    ✕ 25

 ・オーク上質肉  ✕ 5

 ・オーク毛皮   ✕ 4

 ・オーク上質毛皮 ✕ 1

 =========

 

「改めて見ると……結構あるな」

 

「あれだけいたオークが、今やこの小さいスマホに収まってるんですもんね……しかも四行」

 

「あのアプデから、全部が便利すぎで怖いわ」

 

 魔物を倒すと、基本は光の粒子化してスマホへと吸い込まれる。

 その際、ドロップアイテムがあった場合は勝手に「もちもの」、つまりアイテム欄に追加。

 

 オークは確定で「肉」をドロップするので、数=成果。倒した分だけ手に入るってわけだ。

 

「アイテムもそうだけど――」

 

 また画面をスワイプし、トップ画面へと戻す。

 

「ほんと、全部ここに集約されてんの……頭おかしいだろ」

 

 見慣れた、どころではないアプリ――『終末はじめました』。

 

「ステータスに始まって、所持品に通貨……」

 

「フリマサイトに掲示板に、SNSみたいなもんまでな」

 

 他にもまだあるが、現代日本にあった便利機能はだいたい全部揃ってるんじゃないか?

 でも……

 

「そのくせ説明が雑なんだよなぁ……」

 

「……それは、僕も思います」

 

 頷く影山。

 アプデで追加された内容は、ユーザーフレンドリーとは程遠い設計だ。

 

「で、そのフリマなんだけど」

 

「はい?」

 

「お前アレ、使ったことある?」

 

「使ってますよ。というか常用してます」

 

 マジかよ。こいつ怖くないのか。

 

「お前大丈夫なのか? 変なもん掴まされたりしない?」

 

「今のところ、僕は大丈夫ですけど……でも、『Z』を見る限り、詐欺が多いようですね」

 

「あぁ、『Z』な……」

 

 融合前のこの世界にあった同じアルファベット一文字のSNS、そのまんま同じ仕様のアレ。

 

 終末だから『Z』らしいが……ネーミングセンスもそうだけど、丸パクリはどうなんだよ神運営。神を自称するなら、ちゃんと一から考えて作れと言いたい。

 

「……詐欺って、例えば?」

 

「『サキュバスの卵』を買ったら『ゴブリンの卵』が送られてきたとか」

 

「……卵?」

 

「『聖なるゴリラの白い毛』を買ったら『ゴリラによく似たただのおっさんの白髪』だったりとか」

 

「……ゴリラ?」

 

「『鑑定』されて一発でバレたらしいです。『大魔導士』って名乗ってるらしいすけど、そもそもジョブが『山賊』っていう。その人のアカウントが炎上してましたね」

 

「……大魔導士? 山賊?」

 

「しかも『魔物保護団体』もそれに便乗しちゃって。『Z』じゃ軽くお祭り騒ぎですよ、今」

 

「……そうか」

 

 ……うん、どこからツッコめばいいんだろ。卵? 大魔導士? ゴリラ? 山賊? なにが? なんで?

 

「アカウントは本名しか認められないのに、詐欺なんてよくやりますよね」

 

「……あぁ。詐欺する方も、買う方もな」

 

 サキュバスの卵欲しいって、つまりそういうことだろ?

 ゴリラは……勇者が言ってた奴だよな、たぶん。異世界だと聖獣だったらしいから、そういう層に需要があった……のか?

 ……いや、意味分からん。

 

 ただ、だとしても……おっさんの白髪を買わされた奴の気持ちを考えると、乾いた笑いしか出ない。

 

「レビュー機能とか欲しいですよね……」

 

「……まぁ、そうだな」

 

 終末でまで炎上とか低評価レビューとか気にする世界、嫌すぎるんだけど。

 ……ファンタジーとは?

 

 苦笑いしながらスマホをタップして、今度は残高を表示する。

 

「『М‐Pay』もこれだしなぁ……」

 

「うわ、結構減ってますね。『十万G(ゴールド)』切ってるじゃないすか」

 

「そりゃ減るだろ。生活費も何もかも、全部これだし」

 

 この世界じゃ、もう円なんて紙切れだ。

 物資の売買も、サービスも、全部この『M-Pay』。

 

 魔石をチャージして使う電子マネー。

 単位は「G(ゴールド)」。

 「1G=1円」なのが、唯一の救いか。

 

「稼がないと普通に詰むな、これ」

 

「リアルですねぇ……」

 

「ほんと、ファンタジーどこ行った……」

 

 ☆

 

 影山と愚痴を言い合いながら、道を進む。

 と言ってもダラダラとお喋りしながら、だが。

 

「この辺も、すっかり景色が変わっちゃいましたね」

 

 影山が辺りの景色をキョロキョロと見回す。

 

「ああ、文明が滅びた跡……て感じでちょっとときめくよな」

 

「いえ、普通に怖いんですけど……」

 

 俺たちの足元には、ヒビ割れたアスファルト。

 その隙間から雑草――どころか見慣れない謎の蔓のような植物が自由奔放に生えまくっている。

 

「お、見ろよ影山。あいつ、また育ってんなー」

 

 かつてコンビニだった建物の屋上に鎮座している、巨大な食肉植物。見た目はウツボカズラにハエトリソウを足した、そんな感じだ。

 

「大きくなりましたねー、ラウネちゃん」

 

「ラウネ? なんだそれ」

 

「『アルラウネ』の『ラウネちゃん』ですよ。まぁ、僕が勝手に名付けたんですけど」

 

「アルラウネってアレだろ? よくゲームとかに出てくる植物系モンスター。いや、まんますぎだろ。名付けってのはな、そいつを定義するらしいぞ。あかね曰く」

 

「……茜さんに『花子』って付けようとしてた人に言われたくないです」

 

 なんだと? いい名前だろうが「花子」。

 日本人らしくて親しみあるし。

 お前の推し、『花子』だった可能性あるんだぞ。

 

 話を聞けば、あの「ラウネちゃん」。

 栄養不足で枯れそうなところを、影山が見つけて保護したらしい。種族が本当にアルラウネなのかは知らないそうだ。そこはちゃんとしろよ。ノリで名前つけんなノリで。

 

 鉢に植え替え、魔石を与え、ちまちまと世話を続けたところ、一ヶ月もかからず……

 

「こんなに大きくなりました!」

 

「何やってんだお前は……」

 

 時々姿が見えないと思ったら……。

 魔物使いの俺を差し置いて、魔物育ててんじゃねぇよ。

 

「危なくねぇのか、あれ」

 

「大丈夫です。()()()魔石を与え続けてたら、それしか食べなくなったんで」

 

 だから、人間は喰わないらしい。

 

 ドヤ顔でそんなことを言う影山は、「ちょっと魔石あげてくるんで、ここで待っててください」と言って、姿を消した。

 

 人間は喰わないが、近づけば襲われるそうだ。

 ……だから『透明人間』使って近づいてんのか、あいつ。

 

 

 ☆

 

 

 融合から一ヶ月。

 見慣れた街並みが、未知の生態系に食い荒らされていく光景。

 それは恐怖を通り越して、どこか退廃的な美しさすらあった。

 

 電柱はところどころ傾き、半ばから折れてるものもある。切れた電線がダラリと垂れ下がって、風に揺れていた。

 

 信号機はとうに沈黙し、色あせた看板は風に軋んで、ギィギィと耳障りな音を立てている。

 

「……融合、ねぇ」

 

「地形とかも、いろいろ変わっちゃいましたね」

 

 影山の言葉に、俺は軽く頷いた。

 ちらりと横を見る。

 

 そこには――本来、この場所にはなかったはずの建物の残骸があった。

 

 見慣れない構造。

 歪んだ石造りの壁。

 入口らしき場所には、見たこともない文字が刻まれた看板がぶら下がっている。

 

「何かの店、ですかね?」

 

「異世界の店……ってやつかもな」

 

 少しだけ興味を惹かれて、崩れた壁の隙間から中を覗く。

 

 中には、棚らしきものがいくつか置いてあるだけで閑散としている。

 

 商品も、人の気配も――なにも、ない。

 

「空っぽだな」

 

「もう漁られた後っぽいですね」

 

「だろうな」

 

 使えそうなものは、もうとっくに誰かが持ち去っているだろ。

 

 あるいは、

 

「そもそも、最初から()()()()()()()可能性もあるな」

 

「え?」

 

「融合した時点で中身ごとどっか消えた、とかな? ほら、あの運営、そういう事平気でしそうだろ。だって、雑だし」

 

「あぁ……ありそうですね、それ」

 

 影山が納得したように苦笑する。

 俺もつられて肩をすくめた。

 

 説明もない、理屈なんて通じない。

 気づいたら世界がこうなってた。

 ただ、それだけ。

 

「……行こう。取引の時間に遅れる」

 

「はい……」

 

 俺達はまた、ゆっくりと歩き出す。

 

 

 ☆

 

 

 歪な異世界の残骸を通り過ぎて、しばらく歩くと。

 

「あ……望月さん。あれ……」

 

 影山が指をさした先。

 見覚えのある、だが――()()()()()()()場所が、視界に入ってきた。

 

「……こう見ると、酷いな」

 

 足を止めて、もうすでに()()()()()人っ子一人いないその建物を見上げる。

 

 入口付近では、燃やされて真っ黒に焦げ付いた巨大なペンギンのオブジェが、恨めしそうにこちらを見下ろしている。

 

 その足元には、必死に積み上げられたカートや棚の残骸がバラバラに砕けて転がっていた。

 

「よくもまぁ、派手に壊したもんだな……」

 

 駐車場には、巨大な質量を叩きつけられたようなクレーターがいくつも穿たれている。

 外壁は焼け爛れ、魔法の痕が鋭く抉れていた。

 

 俺が。

 

 俺達が、あの日――守るために戦った場所。

 

「たったはず、なんだけどな」

 

「望月さん……」

 

 影山がしょぼくれた顔でこちらを見る。

 

「あの時は、あれしか方法がなかった、んですよね?」

 

「ああ、少なくとも……俺はそう思ってる」

 

 ぽつりと、そう呟く。

 それ以上は、何も言わなかった。

 

 かつて、避難所と呼ばれたこの場所は、今や見る影もなく破壊されている。

 

 目の前にあるのは――

 

 

 ()()()()()()、ただの建物となったものが、そこにあった。

 

 

 

 

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