旧避難所を出て、松下の元へと急ぐ。
影山のけつあな確定のせいで、思いの外時間を食ってしまった。
「ほら、急ぐぞ影山」
「ま、待ってくださいよ! あ、お前コラ、変なとこに入るな! あ、ちょ、ハァンっ!?」
さっきからずっと影山が気持ち悪い。
キモいじゃなくて、純粋に気持ちが悪い。
身体をクネクネくねらせて、変な高い声をあげて悶えている。
「おい、だから急ぐんだっての。イチャついてないでさっさと歩け!」
「イチャついてませんよ! 誰のせいでこんなことに……っ、は、はふん!?」
「はぁ……ダメだこいつ」
俺はスライムと組んず解れつしている影山を一瞥して、ため息をついた。
影山の肩――いや、もう肩どころじゃねぇな。
首元から背中、時折腰へとぬるりと移動しているのが、服の上からでも分かる。
「……なんで雇用主の俺より懐かれてんだよ」
俺には淡々と業務的な対応しかしなかったくせに、このスライム。
「それは……さっきの話の続きじゃないですけど、望月さん、今
「それなぁ……」
思わず空を仰ぐ。
俺、魔物使いなのに。
仲間の魔物が
一匹は地雷女。
一匹はよく分からん爺さん。
今仲間にしたコイツは、掃除用。
「はぁ……いつになったら鎮火するのかね」
俺は今、炎上している。らしい。
詳細は分からんが、ステータスにそう表示されてる以上、事実なんだろう。
「
「全部で十五匹だな」
「でも、解雇できたのは少ないぞ? まぁ、半分くらいだな」
「半分くらい……?」
「俺が『魔物解雇』使う前に、キレた茜がクビ、斬ったし」
「あぁ……」
影山が身体をもぞもぞさせながら遠い目をする。
「そうでしたねぇ……。お局さん扱いされた挙句、メスの魔物が望月さんに手を出そうとしたから……性的な意味で」
「『あなた達、クビよ』ってひと言と同時に、血液魔法でスパーンとな」
まさに一瞬だった。
次の瞬間には首飛んでたし。物理的に。
さっきまで仲良く話してた同僚なのに、なんの躊躇いもなく。
まぁそれを言ったら、あいつらも同じか。いきなりクーデター起こしたわけだし。
「十五匹の内、茜がぶっ殺したのが八匹。俺が解雇してから始末したのが……三匹かな」
「逃げたのが三匹でしたっけ? 鈴木さん含めて」
「鈴木か……あのド腐れゾンビ女め」
未だにアイツの「や〜い、ざぁこ、ざぁこぱいせーん!」って煽り声が頭にチラついてムカつく。
あいつのせいで茜のヤンデレ具合が悪化したし、避難所を壊したとか謂れのない誹謗中傷受けるし。
おまけに『炎上中』とか意味分からんデバフまでついて、マジで商売上がったりだ。
「で、残った
「ああ、あの
エロじじいは、あのクーデターの時も鈴木に誘われたらしいが「ワシ、貧乳に興味ねぇもん」と一蹴してこっちに着いたからな。
残ったのがあれだけってのがなぁ……。
性格は終わってるが、信頼度もそこそこ高く俺との相性もいい。
強さも茜と……どっちが強いのかは分からんが、まぁ俺より強いことはたしかだ。
今は松下さんのボディガード兼茶飲み友達として、新しい避難所へそのままついて行った。
「それにしても……ブラック過ぎません? あの労働条件で、歯向かったらクビ。だから炎上なんてするんですよ。いや、言ってて意味分からないですけど」
「ブラックじゃねぇよ、全部合意の上だ! なんならうちは被害者だぞ。なんで炎上してんのかさっぱりだわ」
あとな、現在進行系でスライムに搾取されてる奴が何言ってんだ。
「やっぱり、一度にたくさん解雇したのと雇用期間内に殺しちゃったのがダメだったんですかね?」
「……たぶんな。まぁ、普通の会社だったら一発アウトだしなぁ」
いや、普通の会社ってなんだよ。
俺、魔物使いだぞ。
俺はちゃんと円満退社を勧めようとしてたんだ。
でも先に手を出したのはあっち。
クビも懲戒解雇で俺は悪くない。
まだ立場的には仲間だったアイツラを殺したのも茜。
うちとしては社員同士の揉め事でとばっちりだろ。
それにクビにしたら……もううちの社員じゃない。ただの魔物だ。
――だったら、経験値にしてもいいよね?
ほら、俺は悪くない。
「というか、炎上状態でもスライムは雇用できるんですね。ますます意味が分かりません」
「最初はすげぇ渋られたぞ。でもそいつ……」
ちらりと影山を見る。
そいつ――スライムはというと
「ちょ、だからそこダメだって! そこは入口であって出口であって……あっ、あぁぁっ!?」
「……餌が優秀だったから」
「餌って言うな!! ど、どんな条件出したんですかぁぁハンっ!?」
「いや、まぁ……」
スライムとの雇用条件。
報酬として――毎日、影山の一部を提供すること。
流石に動けなくなるような部分は無理だから、髪の毛や爪でなんとか手を打った。
「良かったな、こんな安い条件で」
「や、安くないっ! せめて事前に言ってくださいよ!!」
いや言ったわ。
でもお前、そいつとイチャイチャしてたし。
「最初はもっとエグい要求だったんだぞ? それをその程度になるよう交渉したんだ。むしろ俺に感謝してほしい」
「なんで僕を提供する前提なんですか!? もっと他にあるでしょうよ!」
「最悪ツルッパゲになるか、爪全部なくなるかの二択だ。軽い軽い」
「重いわ!! 人生終わるわ!!」
お前は始まってもないんだからいいだろうが。
なお、契約自体は既に完了している。
今更影山が何を言っても意味はない。
昔から言われてるだろ、契約はちゃんと確認しろって。
影山は最後までゴネていたが、
「じゃあ茜に刺《アレ》されるの、俺庇わないぞ。むしろ煽るけど」
の言葉で陥落した。
さすがの変態でも、めった刺しにされるのは嫌らしい。
分かりやすいやつで助かるわー。
「……ああもう……絶対後悔する……」
「はは、何言ってんだ。してるだろ、もう」
「してますよ! うるさいな! イャン!?」
うん、楽しそうで何より。
純粋に気持ち悪いが。
☆
そのまましばらく歩き――
「……見えてきたな」
視界の先に、それは現れた。
「……うわぁ、前よりも凄くなってる」
影山が間抜けな声を漏らす。
無理もない。
「……これ、避難所か?」
俺も思わず足を止める。
そこにあったのは――
もはや、要塞だった。
元は市役所だったであろう建物。
だが今は、外壁は鉄板やコンクリートで無理やり補強され、見るからに分厚い防御構造へと変貌している。
上には見張り台。
周囲にはバリケード。
対空用にバリスタっぽいのも設置してある。
でも、ところどころ継ぎ接ぎだらけ、統一感ゼロ。
「……たかが一ヶ月、だよな」
「……たかが一ヶ月です、よね」
どう見ても普通じゃない。
スキル、ジョブ、身体能力。
それら全部をフル動員して、
だが――
「……なんか逆に、アリだな」
「そうですね……終末感っていうか……フォールなアウト感が」
「語彙が雑だな。でも言いたいことは分かるぞ」
俺も影山もゲーマーだからな。
まんまあのゲームに出てくる拠点って感じで、俺の心の中の中二が騒いでいる。
秘密基地って感じでワクワクがやべえ!
あのトゲトゲのバリケードとか、どうなってんだろ。
「見た感じ綺麗じゃねぇし」
「整ってもいないです」
「「だが、それがいい!」」
ニコニコで顔を見合わせる。
テンション上がって、思わずハイタッチまでしちゃった。
「さすが松下さんだ!」
「はい、ツボを押さえてますね!」
さす松。
あの人、ああ見えてゲーム好きだったらしいからな。ドラ◯エの話で盛り上がったのはいい思い出。
「さて、松下さんが俺たちを待ってる。行くぞ、影山!」
「はい! 望月さん!」
俺たち二人……いや、二人と一匹。
溢れるワクワク感はそのままに、要塞の入口へと足早に向かった。
☆
「帰れ望月っ! いや、疫病神!」
「お前のせいでっ……ここは通さんぞ!」
――なんでだよ。
凄い勢いで門番に止められた件。
おい影山、こっち見んな。
俺は悪くない。