魔物使い、はじめました。   作:YTとりあえずぶん投げてみる

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第14話 Gは一匹いたら……

 俺のアパートがゴブリンでワチャワチャだ。

 まるで「ゴブリン祭り開催」って感じで、ギャーギャーと騒がしい。

 

「な、なんでこんないっぱい……!?」

「ゴブ!」

「っ、そうだな、まずは隠れて情報収集だ!」

 

 近くに停まったボロいワゴン車の陰に身を潜め、アパートの様子を窺う。

 視線の先では、ゴブリンに追われてパニックに陥るアパートの住人たちが目に入る。

 どうやら俺みたいに終末が始まってすぐに行動に移ったタイプじゃなく、部屋に引き籠もってた連中みたいだ。

 誰もゴブリンと戦おうって感じではなく、泣き叫んだり恐怖で固まったりしてるだけだ。

 

「一度見たとはいえ……目の前で人が殺されてるのを見るのはキツイな」

「ゴブ」

 

 一階の部屋から飛び出してきた小太りのオッサンが、追いつかれてゴブリンたちに群がられている。

「助けてママー!」と泣きながら生きたまま身体をガジガジと齧られている光景は、さすがに目を背けたくなる。

 これがゲームやラノベではない、現実なんだと嫌でも認識させられる生々しい絶望感。

 

「ゴブゴブ?」

「助けなくていいのかって? いや、無理だろろ……」

 

 これが1体2体なら助けないでもない。

 ゴブ太郎に「行け! ゴブ太郎!」って言うだけな簡単な仕事だし。

 ゴブ太郎なら見つけた瞬間に斬りかかってるだろうし。

 でもこれは……

 

「いくらなんでも数が多すぎるだろ……」

「ゴブぅ」

 

 ここから見る限り、アパートに殺到しているゴブリンは30体はきかない。

 ゴブ太郎がいつもみたいにノリノリで突っ込む気配がないってことは、こいつも「ヤバい」って感じてるんだろ。

 

 もちろん俺も行かない。

 ゴブ太郎がいなかったら1、2体でも躊躇するぞ、俺。

 

「ん? どうした、ゴブ太郎?」

「……ゴブ」

 

 なんだか、ゴブ太郎の様子がおかしい。

 さっきまで同族をバッサバッサ斬ってサイコパス味全開だったのに、今はなんか……暗いな。不細工な面がさらに不細工になってる。

 ナイフを握る手も、開いたり握ったりで落ち着かないみたい。

 

「ゴブ」

「なんだ? あいつがどうかしたのか?」

 

 ゴブ太郎の視線は、アパートの入り口前に立つ1体のゴブリンに固定されている。

 他のゴブリンより一回りデカいそいつは、周りのゴブリンに指を差して「ギャッ!」と叫び、まるで指揮官みたいに振る舞ってる。

 なんか、妙に筋肉ムキムキだな……なんだ、あいつ。

 

「あいつが気になるのか?」

「……」

 

 ゴブ太郎が無言だ。

 珍しいな、いつもなら「ゴブゴブ〜♡」とかキラキラしてるのに……気色わる。

 いや、気色悪いのは変わらんけど、なーんか嫌な予感がするぞ。

 

 スマホを取り出し、そいつにカメラを向けて『魔物鑑定』を発動。

 

 カシャ、ピロン!

 

 ============

《鑑定成功》

 

・ホブゴブリン(♂)

 能力   : こうげき ☆☆☆

        まもり  ☆☆☆☆

        すばやさ ☆☆

 状態   : 健康

 弱点   : 頭 膝

 好み   : 最愛の妹

        筋トレ

        良質なタンパク質

 性格   : お兄ちゃん(意味深)

 スキル  : 『咆哮』

        『鉄腕』

        『鋼の肉体』

        『指揮』

 

《備考》

 ゴブ太郎の兄ゴブリン。筋トレ命。過剰な追い込みで限界を超え、やがてホブゴブリンへと進化した個体。追放先の群れから逃亡した妹・ゴブ太郎の匂いを辿りここまでやってきた。妹に異常な執着を見せるシスコン。

        

 ============

 

「ホブゴブリン!?」

「ゴブ」

 

 しかも、ゴブ太郎の兄貴かよ!?

 お前、兄ちゃんいたのか……!?

 

「そうか、良かった(?)なぁ、家族に会えて。って、なんでそんな微妙な顔してんだよ。嬉しくないのか?」

「……」

 

 ゴブ太郎が俯いて黙り込む。

 さっきまで「♡ゆうと♡」なキラキラ目線だったのに、今はガチで嫌そう。

 

 ……考えてみりゃ、そりゃそうか。

 ゴブリンに家族って概念なんかないわな。

 しかも、よく分からんが群れで村八分にされて繁殖を拒んで逃げ出した過去があるってのに、こんなムキムキのシスコン兄貴が追ってきたら誰だって嫌だ。俺だって嫌だ。

 

 ゴブ太郎が無言で、ホブゴブリンの横にいる普通っぽいゴブリンを指差す。

 

「なんだ? あいつも鑑定してみろって?」

「……(コクッ」

 

 心底面倒くさそうな顔で頷くゴブ太郎。

 なんか、これもめっちゃ嫌な予感がするな……。

 とりあえず、スマホを向けて『魔物鑑定』。

 

「どれどれ……」

 

 カシャ、ピロン!

 

 

 ============

《鑑定成功》

 

・ゴブリンA(♂)

 能力   : こうげき ☆☆

        まもり  ☆☆☆

        すばやさ ☆

 状態   : 健康

 弱点   : 頭

 好み   : 最愛の妹

        筋トレ

 性格   : 粘着質

 スキル  : 『ちからこぶ』

       

 

《備考》

 ゴブ太郎の兄ゴブリン。筋トレ大好き。過剰な追い込みでホブゴブリンへの進化を夢見る個体。妹であるゴブ太郎を探すシスコン。

        

 ============

 

「おい、こいつも兄貴かよ! しかも、またシスコン。ゴブ太郎、お前愛されてるんだな」

「……」

「……ごめんて。怒んなよ」

 

 死んだ目でこちらを睨んでくるゴブ太郎。

 完全に無言だ。

 そして、また別のゴブリンを指差す。

 

「おい、待てよ。まさか、あいつもか?」

「……」

 

 カシャ、ピロン!

 

 

 ============

《鑑定成功》

 

・ゴブリンB(♂)

 能力   : こうげき ☆☆

        まもり  ☆☆

        すばやさ ☆

 状態   : 健康

 弱点   : 頭

 好み   : 最愛の妹

        筋トレ

 性格   : かまってちゃん

 スキル  : 『我慢』

       

 

《備考》

 ゴブ太郎の兄ゴブリン。筋トレ好き。筋トレでホブゴブリンへの進化を夢見る個体。シスコン。

        

 ============

 

「……おい、お前何人兄弟いるんだよ。はは、まさか、これ全部兄貴って言わないだろうな?」

「……(コクッ」

「は?」

「ゴ、ブ!」

「え、マジ? ……これ全部?」

「ゴブゥ……」

 

 ゴブ太郎は力なく頷いている。

 ここにいるだけで30体くらいいるんだけど、これ全部兄貴なの?

 親御さん頑張ったな、おい!

 

「信じないわけじゃないけど、一応、念の為全部確かめてみるか……」

 

 あ、そうだ。

『魔物鑑定』の有効範囲を試すチャンスだ。

 カメラを広角にして、アパート全てを収めてシャッターを切る。

 

 カシャ、ピロン!

 

============

《対象多数、簡易鑑定モードへ切替》

《簡易鑑定成功》

 

・ゴブリンC(♂)         

《備考》

 ゴブ太郎の兄ゴブリン。以下同文。

 

・ゴブリンD(♂)         

《備考》

 ゴブ太郎の兄ゴブリン。以下同文。

 

・ゴブリンE(♀)         

《備考》

 ゴブ太郎の姉ゴブリン。兄弟の慰み者。

 

・ゴブリンF(♂)         

《備考》

 ゴブ太郎の兄ゴブリン。以下同文。

 

 ︙

 ︙

 ︙        

 

・ゴブリンZ(♂)         

《備考》

 ゴブ太郎の兄ゴブリン。以下同文。

 

 ============

 

「……」

「……」

 

「……お前、大家族すぎるだろ」

 

 ゴブ太郎の微妙な顔も納得だ。

 家出したら兄弟総出で探しに来られて、そりゃそんな気分にもなるわ。

 ガチムチシスコン軍団に追われるとか、俺なら発狂しそう。

 

「ゴブ〜?」

「どうしたらいいって? どうもこうも……こいつら全部雇用してみるか? 家族で働けるアットホームな職場になるぞ……って睨むなよ。雇用は駄目なのね」

「ゴブ!」

 

「そうなると殺すか放置しかないけど……お前、あいつら殺せる? 肉親を手にかける的な意味で」

「ブ……ブブ、ゴブ!」

 

「ダーリンが殺れって言うならあーし殺るし、だと? あのなぁ、お前こういう時だけ俺任せかよ。まぁ、最初から殺しに行かなかった理由は分かったよ」

「ゴ、ゴブ」

 

「はぁ、どうすっかな」

 

 ゴブ太郎が少しでも気にしてんなら、無理に殺させようとは思わない。

 こっちだって命かかってて、リスクのある戦闘はなるべく避けたいわけだし。

 襲われている住民には悪いけど、正直、ただのモブの俺がヒーロー気取りで助けてやる義理はないし。

 

 ただ、こいつらよく分からん匂いを辿ってここを突き止めたわけだろ?

 どんな嗅覚してんだって話だけど、ここでスルーしたらきっとまた追ってくる。

 

 だったら。

 

「ゴブ太郎、こいつらはここで倒そう」

「ご、ゴブ」

 

「ここで放置しても、どうせまた追っかけてくるぞ? 奇襲とか不意打ちされたらたまらんからな。こっちが先手を取れる今、殺しとくべきだ」

「ゴブ、ゴブ!」

 

「……悪いな。よし、じゃあ作戦を練ろう」

 

 ヤバくなったら逃げればいい。

 ゴブ太郎を狙ってるなら、最悪、囮にすれば……。

 いや、さすがにそれは冗談だ。たぶん。

 

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