魔物使い、はじめました。   作:YTとりあえずぶん投げてみる

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第16話 ゴブ太郎

 ガレージの周辺を一通り見回してから、シャッターを開けて軽トラのエンジンをかける。

 人がいなくなって静まり返った住宅街に、軽トラ特有の乾いたエンジン音がやけに響く。

 魔物が音に引き寄せられるかと身構えたが、しばらく待っても何も起きない。

 

 ここに来る途中も魔物――というかゴブリン――に遭遇しなかった。

 たぶんこの周辺のゴブリンは、俺たちが片っ端から狩り尽くしたのだろう。

 いや、正確にはゴブ太郎が狩り尽くした、か。

 

 スマホを取り出してステータスを確認する。

 

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 名前   : 望月(もちづき)友人(ゆうと)

 種族   : 人間(♂)

 レベル  : 10

 ジョブ  : 魔物使い

 能力   : こうげき ☆☆

        まもり  ☆☆

        すばやさ ☆☆

 状態   : 健康

 スキル  :『魔物雇用』+1

       『魔物鑑定』

       『魔物教育』+1

       『魔物通話』

       『魔物解雇』

 雇用魔物 : ゴブリン

 

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 レベル10。

 ゲームならこの辺りでチュートリアル卒業ってやつかな。

 

 新スキルは『魔物通話』と『魔物解雇』、それに『魔物雇用』『魔物教育』が強化されて『+1』になり、『教育メニュー』に『再教育』が追加された。

 

 レベルが10になったおかげか、ステータスに『種族』と『能力』という項目も追加されている。

 レベル9のときは無かったから、キリのいい数字で解放される仕様なのだろう。

 理由は謎だ。

 アプリだし、サイレントアプデかもしれない。

 

 ゴブ太郎たちを鑑定した時と同じく、自分の強さが☆マークで示されるのはモチベ的に悪くない。

 けど「☆」が2つだからって、実際どの程度強いのかはさっぱり分からない。

 ドラゴンの「☆」ひとつが俺の「☆☆」より弱いわけがないし、種族補正とかもあるだろう。

 要は自己満足の指標ってことだ。

 

 まあ、レベルアップのたびに☆が増えて「俺つえー」って実感できるなら、それはそれで価値がある。

 

 スキルの詳細をタップする。

 

=============

 

・魔物雇用+1

 『魔物雇用』が強化され、より高度な交渉・勧誘を試みることができる。成功率はお互いのレベル・会話内容・魔物の精神状態に左右される。物理的にある程度ボコってから交渉すると成功率が上がるが、やり過ぎると「ただの脅迫」と判定され、仲間になっても信頼度が最低になる。後ろから刺されないように。

 

・魔物教育+1

 『魔物教育』が強化され、教育メニューに「再教育」が追加される。仲間にした魔物のスキル構成・成長方針を「再教育」し、ジョブ、能力や習得スキルをリセットして振り直す。本人の同意無しでも「再教育」できるが、魔物権は大切に。

 

・魔物通話

 仲間にした魔物とスマホを通して通話ができる。距離は関係なく、どこにいようが何をしていようが相手の脳内に直接繋げる。応答するまで頭の中で黒電話のベルが鳴り止まず、しかも徐々に音量アップ。上司からの電話は絶対逃げられない、あの地獄を体験できる優れもの。

 

・魔物解雇

 雇用中の魔物を契約解除し、仲間リストから外す。再雇用は可能だが、一度クビにした者が雇用に応じる可能性は低い。信頼度は限りなく最低になる。逆恨みに気をつけて……。

 

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 覚えるスキルと説明文が相変わらずおかしいのは、もう仕様として受け入れている。

 

『魔物雇用』が強化されたことで、雇用しやすくなったらしい。

 しやすいもなにも、ゴブリンしかエンカウントしない俺には関係ないのが悲しい。

 なお、そいつも発見次第ゴブ太郎に消される模様。

 

 まぁ、現状ゴブ太郎だけでもそこそこやれてる。

 将来を考えるなら早めに試したいけど、ゴブ太郎をなんとかしないとな……。

 

 ドラ〇エやポ〇モンのように「物理で交渉すると成功率アップ」機能が追加された。

 でも、現実でそれって、どうなんだろ。

 ボコってからスカウトってやり過ぎも何もないのでは?

 普通、ボコってきた相手に従うか?

 あれか? DV彼氏みたいなもんか?

 共依存的な。

 

『魔物通話』はさっき使ったスキルだ。

 脳内に直接繋げて話せるから、スマホを渡すよりはコスパは良い気がする。

 魔物にあの地獄を味合わせるのは気が引ける。

 でも何かあったら嫌がらせに使ってやろう。

 

 次に『魔物解雇』だ。

 この先、仲間にした奴をクビにすることなんてあるんだろうか。

 言うこと聞かない奴とか出てきたら使うのかも?

 まぁ、その前に話し合いは必須だな、逆恨みされたくないし。

 

 そして『再教育』。

 要はスキルリセットだ。

「これからは好きなビルドを組めよ」ってアプリ開発した奴の声が聞こえる気がする。

 

「はいここで選び直しできまーす。後から弱スキル掴んだって言い訳するなよ?」

 みたいな。

 

 ゴブ太郎を鍛え直したり、新しい方向に育てたりできる。

 本人の同意が必要って注意書きがあるのは、倫理的にギリギリを攻めてるからだろう。

 

 魔物からしたら、勝手に自分の生き方を変えるなって話だ。

 ゲームなら「やっぱり初期振りミスったわ」ってプレイヤー救済処置だけど、現実でやるとなると軽くトラブルの元になりそ。

 

 まぁ、ゴブ太郎が「もっと強くなりたいゴブ♡」って言い出したら即やるけど。

 本音としては、あまり言うことを聞かない暗殺者ムーブは怖ぇから問答無用で変えてやりたい。

 アイツ、チョロいからこっちから誘導してやればすぐできそうだし。

 

 

 俺はスマホを閉じ、深呼吸した。

 ステータス確認を終え、今回の作戦を頭の中でおさらいする。

 

「ゴブリン殲滅作戦」

 1、ゴブ太郎が囮になり、アパートの駐車場にゴブリンを集める。

 2、俺特製ゴブリン殲滅爆弾(軽トラ)を突っ込ませて爆発炎上させる。

 3、駆除完了。

 4、俺たちの戦いはこれからだ!

 

 以上、シンプルかつ危険なプランだ。

 

 意気揚々と爆弾なんか作ったけど、本当に成功するのか微妙なところだ。

 

「失敗する未来しか見えない……」

 

 まぁ、ダメで元々だ。

 素人が考えたにしてはいい線行ってるだろ。

 失敗したらゴブ太郎に頑張ってもらう。

 最悪、あいつを犠牲にすればいいし。

 ……最初の仲間だけど、自分の命には代えられないからな。

 

 そうならないように、できるだけ頑張ってみるけどな。

 

 

 ★

 

「……ゴブ!」

 

 その頃、ゴブ太郎は愛しの♡ゆうと♡との通話を終えると、意を決してアパートの駐車場へ姿を現した。

 手に持ったナイフをクルクルと回し、挑発するようにゆっくり歩く。

 

 ゴブ太郎は昨日までの自分を思い返していた。

 

 ゴブ太郎……愛しの♡ゆうと♡が名付けてくれた新しい自分の名前。

 

「ゴブブ♡」

 

 ゴブ太郎は自分の身体を見下ろす。

 かつて群れの姫として蝶よ花よと育てられ、いずれ女王となるはずだった身体。

 兄に王座を奪われ、仲間に虐げられ、屈服を強いられた日々。

 

 恐怖を怒りに変え、隠れて研鑽を積み、力を蓄えて逃げ出した。

 しかし、追っ手に追跡され、見知らぬ土地を歩き、さらに襲い来る他種族の魔物。

 疲れて休憩したところに追っ手に追いつかれて捕まる。

 

 その果てに出会った、優しくビビりで優柔不断、少し草臥れてるがやる時はやる人間――ゆうと。

 ゴブ太郎にとって唯一信じられる相棒であり、脳内では白馬の王子に昇格済みだ。

 乙女なので。

 

「……ごぶ?」

「ご、ごぶぶ!」

「ごぶごぶぅ!」

 

 アパート周辺に屯していたゴブリンたちが、一斉にざわめいた。

 

 先頭に立つのは王族の長兄、ホブゴブリン。

 ムキムキの胸板を誇示するように胸を張り、妹を睨み下ろす。

 鍛えられた筋肉に埋もれた華美な腰ミノ、それは王の証。

 女王を殺し奪い取った、ゴブ太郎が付けるはずだったもの。

 

「ゴォブ」

 

 ゴブ太郎は簒奪者を前にして、興味無さげにナイフをちらつかせ、あくび混じりの視線をホブへ向ける。

 

「さっさと帰れ」と言わんばかりの冷ややかな目。

 かつての弱々しく可憐な姫とは思えない、堂々たる態度。

 

「――ゴブ!」

 

 一喝。

 ざわめいていた群れが息を呑む。

 

「……ほぉぶ?」

 

 兄がニヤリと歪んだ笑みを浮かべ、筋肉がピクピクと躍動する。

 だが、ゴブ太郎は冷ややかな目を崩さない。

 その奥にあるのは、奪われた居場所への憎悪と、いま自由を得た戦士の誇りだった。

 

「ほぶ、ほぶぶ」

 

 やがてホブゴブリンが妹を見据え、かすかな執着を滲ませて言葉を投げかける。

 その視線は血の繋がった妹へのものとは思えない、歪んだ光を宿していた。

 

 ★

 

「……あいつ、電話でねぇな」

 

 俺は軽トラを住宅街の影に止め、最終確認のためにゴブ太郎に通話した。

 だが、いくらかけてもゴブ太郎は電話に出ない。

 

「おい、上司の電話に出ないっていいの? ……いや、何かあったのか?」

 

 軽トラを降り、物音を立てないようアパート近くまで移動する。

 コソコソと物陰から駐車場を覗くと、ゴブ太郎が兄貴ゴブリンたちの間を縦横無尽に駆け回り、次々とゴブリンを光の粒に変えていた。

 

「はぁ!? 何やってんだ、アイツ! マジか、普通に殲滅してるし」

 

 なんでよ?

 話が違うじゃん。

 

 「……俺の努力を返せ」

 

 ガックリと肩を落としてその場に座り込む。

 一人で行動して、爆弾まで用意した俺の立場はどうなるんだ。

 オタク知識総動員で爆弾作ったんだぞ。

 失敗したら俺が吹っ飛ぶ覚悟までしてたのに――!

 

『魔物通話』をもう一度起動し、首刈り真っ最中のゴブ太郎に通話を繋ぐ。

 数回のベルの音、

 

《ゴブ?》

 

「あ、やっと繋がった! おい、なんで戦ってんだ! 俺の指示は――」

《ゴブブ!》

 

「は? なんかコイツラ目の前にしたら殺る気になった? お前、あんなに意気消沈してたくせに急にどうした!」

《コッブー!》

 

「あーし忙しいから切るね、ヤバくなったらよろー! だと? って、おい!」

 

 ツー、ツー、ツー――。

 

「……マジか、あいつ切りやがった」

 

 ……やる気になったのはいいよ。

 でも、軽トラ爆弾どうしよう。

 

 

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