魔物使い、はじめました。   作:YTとりあえずぶん投げてみる

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第20話 優位になった途端イキる。それがモブ

 軽トラに戻って、荷台を漁る。

 金属バットを脇に抱えて、火炎瓶をリュックにガチャガチャ詰め込んで戦場へと急ぐ。

 

 肺が痛い。

 息がまだ苦しい。

 さっきのホブの連続腹パンで、内臓ごとひしゃげたかと思った。

 マジでジャ◯プが無かったら、腹に穴が空いていたかもしれない。

 ありがとう、ジ◯ンプ!

 いや、マジで!

 

「あの筋肉バカ、今度こそ膝を砕いてやる。そんで膝ごと燃やして、ホブの姿焼きだ!」

 

 

 駐車場に戻ると、ホブゴブリンは目から涙をダラダラ流し、膝を庇うように立ち上がっていた。

 ゴブ太郎と姉ゴブの猛攻をなんとか凌いでいるけど、あの筋肉野郎まだ余裕そうじゃねぇか!

 

「ゴブ太郎!」

「っ! ゴブ!」

 

 ゴブ太郎が血まみれの顔で振り返り、力強く頷く。

 満身創痍でボロ雑巾みたいなのに、目はメラメラと燃えてガンギマリである。

 ……こいつ、ほんと根性あるなぁ。

 

 ゴブ太郎が振り回されるホブの『鉄腕』を紙一重で掻い潜り、隙をついてナイフをズブっと膝に突き立てる。

 

「ほぶごぶぁぁぁ!?」

「ナイス! おら、おかわりだ!」

 

 俺は全力で駆けて、刺さってるナイフの柄目掛けて金属バットをフルスイング!

 

 ガキィィン!

 

 金属と刃が共鳴する甲高い音。

 ナイフがさらに膝にねじ込まれ、ホブが呻いた。

 

「ほぶぅぅっ!?」

 

 デカブツの顔が苦痛に歪む。

 よっしゃ! ざまぁみろ!

 

 ホブの膝がガクンと沈み、しゃがみ込んで動きが止まる。

 

「姉ゴブ、今だ! そっちから抑えろ!」

「ごぶっ……!」

 

 姉ゴブが溜まりに溜まった恨みを晴らすように、ナイフを握って執拗にグリグリと膝に押し込む。

 

「ごぶ、ごぶっ、ごぶぅっ……!」

 

 涙を流しながら刺さったナイフを捻じる姉ゴブ。

 正直、絵面が怖ぇ!

 

 ゴブ太郎といいコイツラといい、なんでこんな感じなん?

 

 ホブの膝から血がドバドバ吹き出し、その巨体が叫び声とともに傾く。

 そして、ホームランチャンスを逃さぬべく、俺は助走をつけて反対の膝にバットをフルスイング!

 

 ゴキーンっ!

 

「ほっぶぁぁぁっ!?」

 

 甲高い爽快な音とともに、ホブの悲鳴が駐車場に響き渡る。

 

「ははっ! いい音! 『鋼の肉体』が聞いて呆れるなぁ、おい!」

「ほぶぅ、ほぶぅ……っ!」

 

 ホブは溢れ出る体液で顔中ぐしゃぐしゃ、這うように逃げ出そうと藻掻く。

 

「んっんー? おいおい、さんざん人の腹殴りやがったくせに逃げんなよ! チュートリアル魔物に毛が生えただけの雑魚のくせによぉ! 逃げんなら、これもお土産に持ってけよ!」

 

 俺はリュックから火炎瓶をジャジャーンと取り出す。

 ライターで布に火をつけ――

 

「はは、ほら! これが俺の、火魔法だぁ!」

 

 這いつくばってるホブに投擲!

 

 ガシャーン! 

 ボッ!!

 

「フハハ、燃えろ燃えろぉ! 汚物は消毒だぁぁぁぁッ!!」

 

 火炎瓶が割れて、辺りが一瞬にして火の海だ。

 ホブの体を炎が舐め、赤黒い煙がモクモクと上がる。

 

「っ……!? ほぶ、ほぶ、ぼぶぅぅ!?」

 

 あ、これ……楽しっ!

 いやぁ、火炎瓶て一度投げてみたかったんだよなぁ!

 ゲームだと何回も使ったことあるけど、現実だとそうはいかんからな!

 うーん、爽快感!

 

「そぉーら、おかわりだ! 遠慮なく持ってけ!」

 

 ぽい、ガシャーン! ボォウ! 炎!

 ぽい、ガシャーン! ボォウ! 炎炎!

 

 ホブの全身が火達磨になる。

 派手な腰蓑は燃えつき、筋肉バカご自慢の立派な筋肉が赤黒く焼け焦げて見る影もない。

 

 ……うわ、臭っ!

 焼け焦げた肉の匂いがツーンと鼻にくるな。

 

「……ゴブぅ」

「ご、ごぶ……」

 

 横でゴブ太郎と姉ゴブが引いてる。

 目を丸くして、ブサイクな顔が「うわぁ……」ってドン引きだ。

 

「おい、なんだよその顔! 誰のせいでこうなったと思ってんだ! 俺だってな、魔物とはいえ生き物を火炎瓶で燃やすとか、そんな鬼畜なことしたくないの!」

 

 もう一本追加〜! そぉーれ!

 

 ぽい、ガシャーン! ボッ!

 

「ほぎゃぁっ!?」

 

「でもな、部下の尻拭いのために仕方なくやってんの! だから、お前らもドン引きしてないで手伝えよ!」

 

 ……なんだよ、火炎瓶なんて火魔法みたいなもんだろ? お前らファンタジー生物なんだから見慣れてんじゃねぇの?

 

「……ゴブ」

「……ごぶ」

 

 2体のゴブリンから気まずい視線を無視し、さらにぽいぽいと火炎瓶を投げつける。

 

 火達磨になりながらも、ホブはまだピクピク動いている。

 膝にはナイフが深々と刺さっており、反対の膝もホームランされて粉砕してるってのに、タフな野郎だ。

 この筋肉も見かけ倒しじゃないってことか。

 

「そろそろ、光になってくんねぇかな? 経験値よこせ経験値!」

 

 あんなに痛い目にあったんだ、たくさん貰わないと割に合わんぞ。

 

 そう叫んだ瞬間、ホブの目がギラリと光った。

 

「ほ、ほぶ……う……!」

 

 低く唸る声が、急に不気味な響きに変わる。

 やべぇ、なんか嫌な予感が――

 

「――ほぶぅぅぅぅぅぅぅぅぅっう」

 

 ホブゴブリンが突然、炎の中から雄叫びを上げた。

 バカでかい声とともに衝撃波が駐車場を揺らし、辺りまとめて吹き飛ばす。

 

「うぉぉぉっ!?」

「ゴブ……っ!」

「……ごぶ!?」

 

 俺、ゴブ太郎、姉ゴブ――3人とも吹き飛ばされて地面をゴロゴロと転がる。

 耳がキーンと鳴り、頭がクラクラしてくる。

 

「くっそ、なんだ!? ただの叫び声でこんなふっ飛ばされた!?」

 

 そういえば、こいつのスキル欄に『咆哮』ってあったけど、それか!

 

 地面に叩きつけられて、咳き込みながら顔を上げる。

 

 ホブゴブリンが立っていた。

 燃えながら、なお立ち上がってる。

 全身大やけどで、もう全身グチャグチャなのにまだ動くのかよ!?

 

「ゴブ!?」

「……ごぶっ!?」

 

 ゴブ太郎と姞ゴブも目を丸くしてホブを睨む。

 炎のせいで皮膚がただれてるのに、筋肉は膨れ上がったままだ。

 

「っ!」

 

 俺の目ととホブの血走った目が合う。

 こいつ、こんな状態でもまだ戦う気か!?

 そう思った

 だが違った。

 

 ホブは俺たちに襲いかかるどころか、フラフラと駐車場の外へ向かって走り出す。

 

「……は!? おい、逃げんのかよ!? 逃げんな、筋肉バカ! チュートリアルボスらしく最後まで戦えよ!」

 

 俺の叫びを無視して、ホブは炎をまとったまま駐車場の出口へ突っ込んでいく。

 

 くそ、まさか逃げ出すとはっ!

 このまま逃げられて回復でもされたら、経験値どころか逆恨みされて追っかけられるかもしれない。

 

 急いで立ち上がって、ホブゴブリンを追いかけようと駆け出すも、視線の先には――、

 

「……あ、やっべ」

 

 俺が置いてきた軽トラだ!

 荷台にはガソリンのポリタンク、ガスボンベ、食用油、小麦粉……とにかく燃えそうなもんがたらふく積んであるお手製軽トラ爆弾!

 

 火が付いたまんまのホブが、このまま軽トラに近づいたら……、

 

「……マズいぞ」

「ゴブ?」

「……ごぶ?」

 

 急に立ち止まった俺にゴブリンたちが駆け寄ってくる。

 二人はまだ気づいてないのか、「どうしたの?」ってブッサイクな顔で聞いてくる。

 

「マズい……マズいマズいマズい! おい、逃げろ!」

 

 ゴブ太郎と姉ゴブに叫びながら、俺は二人を抱えてアパートの陰に飛び込み、伏せる。

 鉄筋コンクリート造りのアパートなら大丈夫だろ!

 頼むぞ、家賃高いんだから!

 

 

 

 

 

 一瞬の静寂。

 

 

 

 そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カッ!

 

 

 

 

 

 

 

 閃光。

 爆音。

 衝撃。

 熱。

 

 

 

 

 俺お手製の軽トラ爆弾が、盛大に爆発した。

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