魔物使い、はじめました。   作:YTとりあえずぶん投げてみる

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第22話 現場指示命令不履行による懲戒解雇

 ホブゴブリンを倒して、俺たちはアパート三階の俺の部屋へ帰った。

 

 軽トラ爆弾のせいで外壁はバキバキにヒビが入っていたが、部屋の中は何の変わりもなく快適だ。

 うちが3階だったってのもあるけど、さすが鉄筋コンクリート、安心感がパない。

 

 お湯が出ないので、風呂に溜めてあった水で身体を拭き、改めて傷の手当てをした。

 腹も減ったので三人で軽く夕食を取り、今に至る。

 

「ゴッブゥ♡」

「やめろ! くっつくな、汚ねぇんだって! おい姉ゴブも近い! なんでお前までくっついてくんだよ!」

「……ごぶ♡」

 

 ゴブ太郎はまだ分かる――いや、分かんねぇけど。

 なんで姉ゴブまで語尾に♡が付きそうな感じで体を預けてくるのか。

 今だって歴戦のキャバ嬢みたいにしなだれかかってきている。

 

 信頼度が上がったせいか、カタコトだった言葉も今ではハッキリと分かる。

 一人称が「妾」とか、どこの姫様だよ。

 

 そしてこの姉妹、臭い。

 とにかく、臭いんだ。

 

 左には血塗れのゴブ太郎。

 今日イチのブサイクで、絆創膏をずっと貼りっぱなしにしたような、あの独特な臭いがする。

 

 右には全身痣まみれの姉ゴブ。

 ツーンと鼻を突くカメムシ系の匂い。

 ゴブ太郎とは角度が違う臭いだ。

 

 なんだこれ、左右から嗅覚に直接ダメージ入ってくる。

 

 そういやホブゴブリンも臭かった。

 腐った油みたいな、職場の給湯室でドロドロになった天ぷら油のような臭い。

 あの爆炎の後、ゴブリンたちに香水だって言ってファ◯リーズしまくったのにまだ臭ぇ。

 

 ……ゴブリンって、種族的に発臭機能でも持ってんのか?

 

 ゴブ太郎なんて昼間お風呂に入れてやった――貴重なお湯をしこたま使って、流れた水が真っ黒だったのを見て軽く引いた――のに、もうこの有様だ。

 

 もし「ゴブリンは全員くさい種族」なんだとしたら、雇用をちょっと考え直さなきゃいけない。

 体臭で差別とかはしたくないけど、職場における体臭問題ってのは意外と深刻なんだ。

 当事者になってみれば分かる。

 

 前の職場にもいたんだよ、体臭ヤバいやつ。

 あれはマジでとびっきりだった。

 

 その子が部屋に入るとすぐ分かるし、いなくなっても「あ、さっきまでいたな」って分かるレベル。

 

 でも、誰も注意できなかった。

 見た目も性格も良くて、気遣いもできるとても優秀な子だったから。

 

 誰も言えなかった。

 言ったらきっと傷つくって分かってたから。

 あんなに良い子が泣くとこなんて、誰も観たくなかったから。

 

 だからみんな我慢してた。

 で、その我慢の矛先が俺に向いた。

 結局みんな、自分が悪者になりたくなかっただけ。

 当時、名ばかり係長だった俺に、みんながどうにかしろよと言ってきた。

 

 ……いや、どうしろと?

 

 注意したら傷つける。

 黙ってたら俺だけが悪者。

 

 結局、会社辞める時に決心した。

 ファミレスに呼び出して、二人きりで話した。

「プライベートな話がある」って言ったら、なんか妙に気合い入った服と化粧で来たんだよ。

 

 あのきっつい臭いを撒き散らして。

 

 で、俺はなるべくオブラートに包んで言った。

 もちろん、この子を泣かしたくないから……できる限り優しい言葉を選んで。

 

 

 ――「君、マジでくさいよ」って。

 

 

 駄目だった。

 ガッツリ濃い目の化粧の臭いと、あの子の体臭、そして俺がオーダーしていたエビドリアの匂い。

 それが、奇跡的な混合率で混ざり合い、今まで嗅いだことのない刺激臭となって俺を襲ったんだ。

 

 俺は口に含んでいたエビドリアを盛大に吐いた。

 なんなら胃の中のエビも。

 

 で、気付いたらストレートに「マジくっせえ」って言ってた。

 

 今頃どうしてるかな、鈴木さん。

 自殺だけはしないでねって言っといたから生きてるはずだけど。

 この終末世界でも、あの芳醇な香りを撒き散らしてるかな。

 あれなら魔物も即死すると思う。

 

 ……いや、懐かしんでる場合じゃねぇ。

 

 あまりの臭さに、過去のトラウマを思い出しちまった。

 

 何が悲しくてこんなブサイク共に両脇を固められてんだ俺。

 命懸けでホブ倒して、死ぬほど痛い思いして、結果がこれ?

 

 ひどい。

 ひどすぎる。

 

 ――気づいたらテンション上がって、ノリで戦って、ノリで助けて、ノリで一緒に帰ってきたけど……冷静になったら、なんだこれ。

 

 ぶっちゃけて、ホブが兄とか知らんし。

 

 ゴブ太郎の生い立ち?

 姉ゴブの葛藤?

 

 うん、正直、心の底からどうでもいい。

 

 ステータス画面や鑑定で「こんなに辛いことがあったの〜」とか書かれてもさ。

 いや、知らんて。

 

 そりゃね、大変だったろうよ。

 親殺されて、兄に裏切られて、奴隷にされて、悲劇のヒロインだわ。

 辛かったね、悲しかったね。

 

 でもそんなの俺には関係ねぇ。

 おっぱっぴーじゃねぇんだよ。

 

 だって、ゴブ太郎と出会って一日も経ってないし、姉ゴブなんてほんの二時間くらいだぞ?

 

 人間同士でもそうだろ。

 他部署のやつとか、たまたま社外の人間と一緒に仕事しただけで、「実は俺、昔……」とか過去語られても、普通に困るだろ。

 

 それと同じ。

 いや、相手は魔物だしそれ以下だ。

 

 確かにゴブ太郎のおかげでレベルアップは順調だった。

 でもそれも「たまたま」だろ。

 

 ただの業務提携だ。

 それなのにいきなり「母の仇……」とか言われても困るんだよ。

 ゴブ太郎、重いってぇ。

 

 人間相手でもめんどいのに、魔物でやられるとさらにキツい。

 

 ……で、まあ仕事さえちゃんとしてくれりゃ何も言わねぇんだけどさ。

 

 

 お前、ダメだわゴブ太郎。

 

 命令無視、報告連絡相談ゼロ、勝手な判断で現場を混乱させる。

 こっちはね、現場監督として全体見てんの!

 それなのに、いきなり自分の判断で突っ込むなよ!

 

 安全確認も取らずに単独行動とか、マジで新人教育からやり直せってレベル。

 いや、新人なんだけどね。

 

 あとセクハラな。

 あれは完全にアウト。

 上司にボディタッチとか、職場の空気ぶっ壊すから。

 今の時代うるさいんだから。

 昭和、平成の考えは捨ててくれる?

 意識アップデートしてもろて。

 分かったなら、たとえゴブリンでもコンプラは守れ。

 

 ホブと戦ったのだって、下手すりゃ死んでたぞ?

 お前は死んでも代わりはいるけど、俺はいないんだぞ?

 死んだらどうすんだよ。

 業務滞るぞ?

 誰が責任取るんだ?

 

 うちは契約制なんだよ、勝手なことされちゃ困る。

 俺だって死にかけたんだぞ。

 

 ……というわけで。

 

 なんかホブ倒していい雰囲気になってるけど――

 

 

 

「ゴブ太郎。お前、クビな」

 

 

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