魔物使い、はじめました。   作:YTとりあえずぶん投げてみる

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第24話 チュートリアル終わり

 部屋に戻ると、ようやく息を吐いた。

 ドッと疲れが押し寄せてくる。

 

「……ふぅ、疲れた。けど、うまくいった。ほんっとに、うまくいった!」

 

 なんかゴブ太郎も姉ゴブも泣いて去ってくれてたし。

 あいつらが暴れずに出て行ってくれて、心底ホッとした。

 

「やっぱり人間も魔物も、円満退社の方が面倒臭くなくていいな。あとあと揉めないし精神的にも楽だ。うん、今回は誰が見てもこれ以上ないくらい『円満』だったな!」

 

 俺はベッドの端に腰を下ろし、ホッと胸を撫で下ろす。

 

 で、だ。

 問題はここからなんだよな。

 さっき、戦闘後の後始末でバタバタしてたから確認できなかったアプリの通知。

 意気消沈ゴブリンたちが夕飯を食っている間にコソッと確認したら、レベルが上がりスキルが増えて……いや、強化されていた。

 

 それが、これだ。

 

============

 

《レベルアップ! レベル11→13》

 

《スキル強化:魔物解雇+1》

 

============

 

 

 なんと、レベルが2つも上がっていた。

 そして、『魔物解雇』の強化だ。

 ホブの経験値が高かったのかどうかは分からないが、それよりも重要なのはスキルだ。

 

 最初見た時は笑った。

『解雇』がレベルアップってなんだよって。

 でも、詳細を確認して目を疑った。

 

 

==============

 

・魔物解雇+1

 雇用した魔物を解雇できる。解雇時、対象魔物のスキルを搾し……承継できる。合意の上で解雇した場合は全スキルを未強化状態で取得。一方的な解雇なら、ランダムで一つのみ未強化状態で取得可能。ただし、どちらの場合でも魔物側は強化済みなら未強化に、未強化ならスキルが消失する。

 離職率が高い会社、それはつまり……。

 首切りもほどほどに。

 

===============

 

 

 

 会社とは?

 これ、完全にブラック上司専用スキルじゃねぇか。

 上司による搾取だろ、コレ

 

 「誰がブラック上司だっての。どっからどう見てもホワイトだろ、うちは!」

 

 あと、最後の思わせぶりな文はなんだよ。

 何かデメリットがあるのか?

 信頼度下がるってのは前に書いてあったけど……。

 

 

「このタイミングでこれを覚えるってどうなんだ? つか、いまだにスキル取得のラインが分からん!」

 

 いや、でも、これを見た瞬間に俺の中の天秤が一気に傾いた。

 

 ――ゴブ太郎を切る方向に。

 

 もちろん、少しは悩んだよ?

 

 うまく言いくるめて自己都合退職……じゃなくて合意解雇に持っていければ、未強化になるとはいえ全スキルを承継できる。

 

 会社都合……いや、俺都合の一方的なクビだと、スキルを一つだけゲット。でもランダム。

 

 考えるまでもない。

 どうせやるなら全部欲しいだろ。

 このチャンスを棒に振るわけにはいかない。

 

 

「だからさっきの茶番劇になった、というわけだけど……」

 

 ベッドに寝転んで改めて考えてみる。

 この終末世界でこのままゴブ太郎たちとやっていった場合と、解雇した場合のメリットとデメリットを、だ

 

 

《終末、ゴブゴブっとはじめました》

【メリット】

・単純に強い。

 ゴブ太郎の個体としてのポテンシャルは、間違いなく普通のゴブリンより上。素質なのかレア種なのかは分からんけど、他の奴より根本的にスペックが違う。

 

・信頼度が高い。

 何故か最初から異様に高い。つまり、信頼ポイントの稼ぎが馬鹿にならない。今後新しい仲間を教育する際のリソースにもなる。

 魔物教育の観点で言えば、「それを手放すなんて、とんでもない!」ってとこか。

 さらに、信頼度の高さから裏切りのリスクも低い。たぶん。

 

・姉ゴブ

 あんなに強いゴブ太郎の血の繋がった姉だ、コイツも潜在能力は高めだろ。しかもコイツも謎に信頼度が高い。この二匹がいれば信頼ポイントもガッポガッポだ。

 

 

 メリットを見れば、ゴブゴブっと始めたほうが良い気がする。

 よし、次だ。

 

【デメリット】

・命令無視

 度重なる突撃、勝手な単独行動。いくら忠告しても直さない、直す気配もない。一番でかいのは他の魔物を仲間にできないかもしれないことだ。コイツ今日だけで俺の指示無視して何体ゴブリン殺したんだよ。

 信頼度が信頼できないのが地味にヤバい。

 

・セクハラ、スメハラ

 マジでキツイ。ブサイクなゴブリンが自分に対して並々ならぬ好意を抱いているってのもキツイし、最初から信頼度高いのもキツイし、それに加えてあの臭いだ。このコンボは強烈すぎる。

 見知らぬカメムシに好意持たれて纏わりつかれたら、誰だって嫌だろ? 俺だって嫌だ。

 ただただ不快。

 

・ゴブリンに対しての解釈違い

 一人称が「あーし」ってなんだよ。なんで性格がギャルっぽいんだよ。確かに俺はギャルが好きだ。オタクに優しいギャルがな。

 でも、ゴブリンにそんなの求めてない。ゴブリンなら「お、おで、虫食べるぅ……」とか言っててほしい。もしくは喋んな。「ギャーギャーゴブゴブ」だけ言ってろよ。

 趣味じゃないAVに金払って抜けって言われてるみたいで、ただただ不愉快。

 

 どれか一個でも面倒なのに、全部フルセット。まるで扱いきれない問題社員だ。

 このまま連携取らずに暴走されたら、次こそ本当に死ぬ。俺が。

 物理的にも精神的にも。

 

 それに、ホブみたいな強いのがまた出てきた時、あいつらの暴走で全滅なんてのはゴメンだ。

 アイツラだけが死ぬなら全然いいが、俺が死ぬのはごめんだ。俺を巻き込むな!

 

 

 チームとしての統率が取れないなら、どれだけ優秀でも切るしかない。

 優秀な自己中より、それなりで素直な奴のほうが俺はいいんだ。

 

 

 じゃあ、解雇した場合のメリット・デメリットはどうだ。

 

 

《終末、お一人様はじめました》

【メリット】

・精神的に楽。

 俺の指示に逆らう奴がいなくなり、リスクの芽を早めに摘める。

 しかも『魔物解雇+1』の効果でスキルを“承継”できる。

 

 これはデカい。

 つまり、優秀な社員のノウハウを弱体化するが俺が吸収できるってことだ。

 しかも今回は、ちゃんと円満退社。

 合意の上の解雇だ。

 

 だから、ゴブ太郎の持ってた全部のスキルが承継されて、俺がメッチャ強化されたのだ。

 

 

 次、

 

【デメリット】

・人手不足

 零細企業の辛いところだ。戦力的にも一時的にダウン。でも、それは一時的なもんだ。俺が強くなれば、いずれ補える。それまでが踏ん張りどころだ。

 

・解雇の影響が怖い。

 一回だけならセーフ感があるけど、離職率が高くなるとどうなるんだ? 普通だったら人員を募集しても人が来ない、とかか?

 つまり、『魔物雇用』が成功しにくくなる? うーん、あり得るな……。

 でもまぁ、まだ大丈夫だろ! 知らんけど。

 

・ゴブ太郎との再会

 面倒臭い。あの感じだとアイツ、いつか俺を探しそうなんだよな。その時の俺の状況次第ではどうなるか分からない。だが、好感度がそのままでまた雇用できるようなら……。

 いや、無いな。もうあのダル絡みはいいや。

 次会うときまでにアイツより強くなっておけば大丈夫だ。きっと。

 

 

 

 正直、こうして冷静に並べると結論は明白だった。

 手間がかかる部下より、リスクのない単独行動。

 

 

 そして何より──俺自身が強くなりたい。

 

 

 頼らずに、生き残れる力が欲しい。

 仲間なんて、いつ裏切るかわからないんだから。

 現に、『信頼度』なんて当てにならないし。

 

 俺はスマホを取り出してステータスを開いた。

 

 

============

 

 名前    : 望月 友人

 種族    : 人間(♂)

 レベル   : 13

 ジョブ   : 魔物使い

 能力    : こうげき ☆☆☆

         まもり  ☆☆☆

         すばやさ ☆☆☆

 状態    : 健康

 スキル   :『魔物雇用』+1

        『魔物鑑定』

        『魔物教育』+1

        『魔物通話』

        『魔物解雇』+1

 承継スキル :『戦士の心得』

        『先制斬り』

        『剣術』

 雇用魔物  : なし

 

《備考》

魔物がいないのに魔物使いとは?

 

============

 

 

 なぜか俺にも備考欄がついた。

 一言だけだけど、なんか、地味に刺さる。

 

 スルーだ。

 

 ゴブ太郎との信頼によって得られたスキルが、俺の中で息づいている。

 これならそこらの雑魚魔物くらい、一人でも倒せるだろ。

 

 「部下の成果は上司のもの、ってか……」

 

 思わず口元が歪んだ。

 

 「……いや、ブラックかよ。俺、嫌な上司みたいじゃん」

 

 自嘲気味に笑いながら、俺は荷物をまとめた。

 まぁ、俺がもっと有能な上司なら――、

 

 本当の意味で『部下の成果は上司のもの』にできたかもしれない。

 ゴブ太郎の力を御して、思う存分働かせてやれたかもしれない。

 

 でも、残念ながら俺は凡人だ。

 どこにでもいる普通のおっさん。

 

 ああいうのをうまく扱うのは無理だわ。

 てか、そんなこと考えるの、単純にめんどいしダルい。

 そこまでやってやる義理も義務もない。

 

「あっちは目的を達した、俺は強くなれた、それでいいだろ」

 

 円満退職になったんだ、文句を言われる筋合いもないしな。

 

 さて、余計な情を残しても仕方ない。

 俺は立ち上がり、散らかった部屋をざっと片付ける。

 ゴブ太郎たちが気が変わって戻ってきても困る。

 

 「よし、気を取り直して……そろそろ俺も動くか」

 

 このスキルの使い勝手も試したいし、新しい仲間も探さないと。

 

 リュックに物資を詰め込み、玄関から外へ出る。

 

「……今度は、ちゃんと言うことを聞く奴がいいなぁ。自分の思い通りに動かせる、ちゃんとした魔物《道具》が」

 

 崩れかけた街、灰色の空、遠くでまだ聞こえる断末魔の叫び。

 それでも、不思議と心は軽かった。

 

 ――あれだ、チュートリアル終了ってとこか。

 

 

 

 さぁ、俺の冒険は、ここからだ!

 

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