魔物使い、はじめました。   作:YTとりあえずぶん投げてみる

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第36話 そんな装備で大丈夫か?

 避難所の隅っこ。

 会議のあと、俺は避難所の奥にある倉庫の一角を間借りして、一人で装備の点検中だ。

 

 まあ「装備」なんて言っても、ここのアウトドアコーナーで買えるレベルの代物ばっかだけど。

 

「……やっぱ、限界だな」

 

 手に持った金属バットはボコボコに凹んでいて、表面はひび割れてボロボロ。

 何度も血を浴び、骨を砕き、魔物の頭を凹ませてきた相棒だ。

 

 よくぞここまで頑張ってくれた。

 でも、さすがにもう寿命かな。

 振る時に微妙に重心がズレててやり難かったんだ。

 

「確か……これもド◯キで買ったんだっけ?」

 

 相棒に別れを告げ、壁に立てかける。

 次の武器候補を見渡す。

 

 机の上には松下さんが用意した物がいろいろ並んでる。

 工具売り場のハンマー、包丁、キャンプ用の鉈、登山杖、伸縮式の警棒、スチール製フライパン、デカいハリセンなどなど。

 

 いや、最後のなんだよ。

 ネタか?

 あの人、微妙にボケるのやめてほしいんだけど。

 ネタなのかマジなのか、判断できん。

 

 あと、防具として登山用ヘルメットと肘膝プロテクター。それとジャ◯プ。

 いや、だから最後の……。

 

 まぁ、どれも「ギリ現実的な武器」ってラインナップだ。

 

 「松下さん、『ただでくれる』って言ってたけど太っ腹だな。でも、くれるなら警察の装備くれればいいのに。ケチだな」

 

 だけど、俺に耐性系のスキルなんてない。

 つまり、装備を整えたところで()()()()()()()()

 そのまま誰かの操り人形になるってわけだ。

 

「目を見なけりゃいいって言うけど、それも確定じゃないんだろ? つーか、耐性もクソもねぇんだよなぁ。スキルで『精神耐性』とか出ねぇかな。……こんな事なら、ゴブ太郎に耐性系の教育しときゃ良かった」

 

 今さら後悔しても遅い。

 あの時はアレが最善だと思ったんだ。

 まさか、こんなことになるとは思わないし。

 

 ぼやきながら、鉈を手に取る。

 重さはちょうどいい。

 でも、リーチが短い。

 うーん。

 

 結局、次の武器も前と同じ、金属バットに決めた。

 刃物を振り回すのは自爆しそうでなんだか怖いし、俺は鈍器の方が良い。……ドンキだけに。

 

「よし、今日からお前が俺の相棒、『エクスカリバット2号』だ! 頼むぞ!」

 

 そう呟いて、バットを構える。

 うむ、やはりこれだな。

 今ならゴブリンの頭、何匹でもかち割れる気がする。

 

「でも、やっぱり……超面倒くせぇぇぇ……!」

 

 

 

 

 

 

「すみませんね、その超面倒くさいことをお願いしてしまって」

 

「うぉおいっ!? びっくりしたぁ!?」

 

 背後から声。

 振り向くと、松下さんが扉にもたれかかっていた。

 

「……ノックくらいしてくださいよ。心臓に悪い」

「これから偵察に行くという者が、このくらいで動揺するようでは困りますね」

 

 低く落ち着いた声で、穏やかに笑う。

 だが、その眼がこちらを射抜くように観察している。

 

 松下さんのスキル、『魔眼』。

 

「感情の揺れを見抜く」とか言ってたけど、俺の嘘も誤魔化しも、全部バレるってことか?

 ベテラン警察官らしいスキルだな、と思う。

 

「失礼しますよ。ふむ、支給品のチェック中ですか?」

「ええ、まあ。選び放題って聞いたんで、夢のサバイバルごっこ中です」

「……ごっこと言える余裕があるのは、悪くないことですね」

 

 軽く笑って、彼は倉庫の中へ入ってくる。

 整った背筋、まっすぐな視線。

 その姿はやっぱり警察官って感じだ。

 

「……本当に()()で戦うんですか」

「ええ。バット一本でも十分ですよ。素人が刃物を振り回すより、鈍器の方が安定しますし」

「なるほど。……しかし、随分と使い込まれたバットですね」

 

 松下さんは小さく頷き、視線を立てかけられたバットに落とす。

 

「まぁ、こいつにはいろいろ助けられましたから。……戦い方も、バット基準になっちゃってるんで」

「ふむ、慣れた武器を選ぶのはいい判断ですよ。命を預ける道具ですから」

 

 松下さんはそう言って、小さく笑った。

 その笑みには、どこか現場の人間らしい温かさがある。

 

「会議で決めた作戦――もう一度、確認だけさせてください。頭には入ってますね?」

「大丈夫ですよ。無理はせず深追いはしません。頼まれはしましたけど、命までかけるつもりなんてないですし」

 

「結構。それでいいです。危険だと感じたら、その時点で撤退してください。命に勝るものはありませんから……」

「でも、もし、俺が魅了されたらどうするんです? ここで暴れろ、なんて命令受けるかもしれないですし」

 

「そうですね……。そうなったら私の責任で何とかしますよ。勿論、誰も死人は出させずに」

 

 へぇ、レベルが低いと言っていたけどそんなことが可能なのか。

 

「ええ、奥の手、切り札、何でもいいですが、手段はちゃんと残してます。ただ、それを切るには少々リスクがある、というだけで」

「なるほどね。保険があるならそれに越したことはないですね。こっちとしてもそう言われれば幾分か気が楽ですし」

 

 だからといって、魅了にかかるようなヘマはしないつもりだが。

 

「なので、心おきなく偵察してきてください。それと、一つだけ忠告です」

「はい、何でしょう?」

 

「敵が魅了を使うなら、心理的な揺さぶりもあるはずです。……目だけでなく、言葉にも注意してください」

 

「言葉?」

 

 俺が問い返すと、松下さんはわずかに目を細めた。

 

「はい。耳から入る情報も、同じく危険だと思うんです。たとえば、催眠や精神系のスキルは視覚だけではない。魅了と似た効果を言語に混ぜてくるケースもあるかもしれません」

 

「……つまり、話しかけられても返すな、と」

 

「はい。返さず、聞き流してください。人間はもちろん、魔物の言葉も。あなたのジョブは魔物使い、魔物と意思疎通ができるジョブだ。相手が人間であれ、魔物であれ、他者に危害を加えようとするものに理屈を見出そうとすると巻き込まれます」

 

「なるほど……。理屈じゃなく反射で動け、ってことか」

 

「ええ。理屈は戻ってきてからでいい。今夜は、それよりも無事に戻ってくること。情報は二の次でも構いません」

「……了解です。ちゃんと、帰ってきますよ」

「ええ、お願いしますね」

 

 そう言って松下さんは敬礼のように軽く顎を引き、背を向けた。

 静かな足音が遠ざかり、扉が閉まる。

 

 ……プレッシャーがヤバいんだけど。

 何なの、俺、魅了されたらあの人になんかされんの?

 超怖いんだけど。

 行きたくねぇええ!

 

「でも、頼まれて了承したからには行くしかないよなぁ……約束とか納期は絶対だからな。守らんと……なんかドキドキしちゃうし」

 

 社畜時代に築かれた賜物である。

 

 

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