魔物使い、はじめました。   作:YTとりあえずぶん投げてみる

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第43話 お人好し

 それから、吸血鬼の話を聞くこと、かれこれ1時間。

 途中で「喉が渇いた、ココア飲も」とか、「お腹すいた、お菓子食べよ」とか、彼女が自由奔放に振る舞うせいで何度か話は中断した。

 

 話の内容もあっちへこっちへ何度も話が飛んだりしたが、おおよそ竹原と吸血鬼の状況は理解できた。

 

 ちなみに、俺はいまだに椅子に縛り付けられたままだ。

 しかも、全裸――いや、一箇所だけは隠れている!

 いや、寒ぃよ。服くれよ。

 

「じゃあ、なんだ? つまり、竹原の目的はあの避難所を自分のものにするってこと? 自分の国を作るとか……いや、ショボくね?」

 

 アイツ、思ったより馬鹿だった。しかも結構な馬鹿。

 ラノベの読みすぎか?

 俺TUEEEハーレム夢見てんのかね。

 いや、ガキかよ。いい歳こいて何やってんだ。

 

 吸血鬼はこくりと頷いた。

 湯気の消えかけたマグカップを両手で包みながら、うっすらと笑う。

 

「……そうね、王様ごっこみたいなものね。あの人、自分が一番上に立ってないと気が済まないの。誰かの下で指図されるなんて、絶対に我慢できないタイプよ」

 

 あー……めっちゃ分かる。

 アイツそんな感じするな。

 今日ちょっと話しただけでも「俺が正しい」って感じガンガン出てたし、上司に逆らって干されても「見る目がない」とか言ってそう。

 

「確かに、人の話まるで聞いてなかったもんなアイツ。いい感じに拗れてんのな。めんどくさ」

 

 昨日今日と会う奴ら、魔物も含めて一癖も二癖もある奴らばっかだ。

 もっと普通の奴はいねぇのかよ、マジで面倒くせぇ。

 

「……ねぇ、それで、貴方はなんで私を見てたの?」

「え、俺? 普通に仕事だけど。頼まれたんだよ、避難所の人に」

 

「……どういうこと?」

 

 吸血鬼がマグカップを置いて、ちょっと首を傾げる。

 銀髪に紅い瞳、魔物とは言えぱっと見は美人だから、こう……ジッと見つめられるとちょっとドキッとする。

 顔、めっちゃ可愛いからなコイツ。

 中身はポンコツ臭プンプンだけど。

 ギャップが激しすぎる。

 

「あー、別に言っても大丈夫か……」

 

 俺は吸血鬼に事情をサクッと説明する。

 要点だけバシッと言って秒で終了。

 やっぱり報連相はこうでなきゃいけない。

 ダラダラ関係ない話で脱線するのはNG、そういう雑談はプライベートでやってくれ。

 

「なるほどねぇ……貴方、良い人ね」

「はぁ? 俺が?」

 

「そうよ。だって、そんなの放っておけばいいじゃない。別に貴方に関係ないでしょう? 避難所の人たちがどうなろうと」

「それは……」

 

 うん、マジでそう思う。

 なんで俺こんなことしてんだろ……。

 

「今日少し話しただけの赤の他人のお願いを、身の危険を顧みず聞いてあげて、見返りもない。……良い人、というかお人好し?」

「……そんなんじゃない。俺は損得で動いてるつもりだよ。今回はたまたま、だ。たまたまメリットがあっただけ」

 

「ふーん……メリットねぇ。あ、分かったわ。ズバリ、女でしょ?」

「えっ!? ち、違うし。そんなんじゃねぇし」

 

くっ、鋭いなコイツ。

いや、それじゃまるで俺があの神乳に釣られたみたいじゃないか!

 

「やっぱり。貴方みたいな人って女関係に弱そうだし。男っていくつになってもカッコつけたがるのよねぇ。……それで、ウメノっていうの? 貴方の想い人は」

「はぁ? 想い人じゃねぇし、たまたまちょっと、目一杯セクハラしちゃったから引け目があるだけだし」

 

「目一杯って……。ねぇ、何したの?」

「あ、 いや、別に大したことじゃ……!」

 

 やべ、墓穴掘った!

 紅い目がキラキラ光って、めっちゃ興味津々で見てくる。

 

「いや、ほら、ちょっと彼女の……その、おっぱ…………スタイルに目が行っちゃって、軽く口滑らせただけ! 悪意はゼロ! うちはクリーンな職場だから!」

「ふ〜ん、スタイルねぇ。その子、どんな子なの? 私より可愛いかしら?」

 

「は? 比べる対象が違ぇよ。お前はなんか……ジャンルが異次元だろ。そういうのは反則」

「つまり、私の勝ちね」

「だから勝ち負けじゃねぇって! てかなんでそんな興味あんだよ!」

 

 紅い瞳を細めて、にやにやと笑う吸血鬼。

 やめてくれ。そういう顔で聞くな。なんか負けた気になる。

 

「だって気になるじゃない。貴方がつい見とれちゃうくらいなんでしょ? 私とどっちが大きいかしら……おっぱい」

「いや、それは……まぁ……反射的に……。いや、お前その顔でそういう事言うなよ! 反応に困るわ!」

 

 胸部装甲だけでいえば、勿論だが神のほうが勝る。

 しかし、だ。

 それはそれとして、反射的に吸血鬼の胸元を見つめてしまう。

 黒いコートに包まれた吸血鬼の()()

 あの膨らみ、低く見積もっても9……いやいや、マズい!

 息子が、寒くてしょぼくれていた息子が立ち上がろうとしている!

 

「あら? あらあら? ふふ、そんなこと言って、素直に反応してるじゃない。……男ってほんと正直ねぇ」

 

 吸血鬼が唇を押さえて笑う。

 銀髪がさらっと揺れて、照明の光を受けて柔らかく光った。

 くそ、こういう仕草だけやたら綺麗なんだよな。

 でも、スマホで隠れているとは言え、俺の息子をまじまじと見つめないでほしい。

 ちょっと顔が赤くなってんぞ!

 

「……で、そんな可愛い子のお願いを聞いて、危ないことまでしちゃう。ふふ、ほんとに良い人ね、貴方」

「違ぇし。俺はお人好しじゃねぇ。たまたまだっての」

 

 こいつ、絶対わざとやってる。

 くすくす笑いながら、楽しそうにマグカップをくるくる回してやがる。

 ……ほんとに悪気なさそうなのが余計タチ悪い。

 

「でも……意外ね。貴方みたいなタイプ、もっと冷めてるかと思ったのに」

「どんなイメージだよ」

 

「ほら、最初見た時から『面倒くせぇ』って顔してたじゃない」

「まあ、実際面倒くせぇからな、いろいろ」

 

 吸血鬼が笑う。

 それから少し、視線を落として言った。

 

 

「ふぅん。じゃあ――私も『たまたま』だったのかしらね」

 

 その言い方が少しだけ寂しそうで、俺は思わず黙った。

 吸血鬼は、マグカップを見つめたまま、静かに続ける。

 

「……ねぇ、私がなんであの人――タケハラに協力してるか、知りたい?」

 

 さっきまでの調子とは違う、落ち着いた声。

 

「いや、まぁ……正直気にはなるけど」

「単純な話よ。私、昼間は力がほとんど出せないの。吸血鬼は夜の眷属だから。それに、今は怪我もしてるし……でも、それだけじゃないわ」

 

 吸血鬼はマグカップを軽く回し、溶けかけたココアの表面を見つめる。

 

「彼は、たぶん、人として最低な部類の人だわ。出会ってまだ2日だけど、それは分かるの」

 

 俺もそう思う。

 控えめに言ってもアイツはクズだ。

 梅野《おっぱい》さんに対するモラハラなんて、俺のセクハラなんか霞むくらいに酷かったし。

 

「でも……でもね? ……あんな人でもね、助けてくれたのよ。太陽の下で焼けて、意識が遠のいて……もうダメだって思った、その時、手を伸ばしてくれたのは彼だった。どういうつもりであろうと、助けられたことに変わりはない。……私は、死にたくなかった。ただ、生きたかった。それだけ」

 

 その声には、どこか強い決意と、少しの痛みが混ざっていた。

 

「だから……恩を返したかったの。どんな人でも、命の恩人には変わりない。……それが、私の生き方なの」

 

 ほんの一瞬、紅い瞳が揺れた。

 

「それに――あの力、『魅了の魔眼』はね……使うたびに、心が削られていく気がするの。相手の心を縛るほど、自分の中の何かが壊れていく。だから、できるだけ使いたくない。あんなの、人を信じる力の正反対だもの。だから……」

 

「……そうか」

 

 だから、か。

 だから、竹原に使わなかったのも、使えなかったんじゃなくて、使いたくなかったのか。

 

「はぁ……どっちがお人好しだよ」

 

 思わず呟くと、吸血鬼が少しだけ微笑んだ。

 その笑顔はさっきまでの軽口のそれじゃなかく、ほんの少しだけ、暖かかった。

 

 

 

……でも、服はまだくれねぇのかよ。

寒いよ。暖かくねぇよ。

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