魔物使い、はじめました。   作:YTとりあえずぶん投げてみる

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第44話 眩しい夜

 さて……適当に話しを合わせて情報をゲットできたけど、だいたい分かった。

 

 この吸血鬼、敵の親玉だと思いきや、正体は竹原に利用されてるだけのただのお人好しポンコツ吸血鬼だ。

 

『魅了の魔眼』なんて便利なスキルを持ってるくせに「心が削れる」だの「人を支配するのは嫌」だの……ワケ分からんこと言って使うのを躊躇ってる。

 そのせいで捕まったり利用されたりしてるらしいってのに、マジで面倒臭い魔物だ。

 

 正直、バカじゃねぇの、と思う。

 使えるもんはガンガン使えばいいのに。

 お人好しはどっちだよ、もったいねぇ。

 

 ……とはいえ、俺に魅了が効かなかった理由も気になるんだよな。

 

「なぁ……ところで、その『魅了の魔眼』だけど、なんで俺には効かないんだ?」

 

「あぁ、それ? たま〜にあるのよ。魔力の相性とか、体調とか、色々ね。簡単に言うと、貴方のほうが強いってことよ。そうね……()()()()ってことにしときましょうか」

 

 言い方が気になるが、ここでもレベル差か。

 梅野さんの鑑定も弾いたし、やっぱレベル上げといて正解だったな。

 いやぁ、ゴブ太郎様々だわ。

 

「へぇ、俺のほうが強いのか」

 

「今の私は弱ってるから尚更ね。一応言っとくけど、夜なら分からないわよ? それに、貴方が()()()()()()()()、多分今でも魅了が通るわ。……やってみる?」

 

「え、ヤダよ、そんなの。つうか、『魅了の魔眼』なんか使わなくてもアンタ美人でかわいいんだから、それで十分誰でも落とせるだろ」

 

「ちょっ……、あ、貴方ね、だからいきなり口説かないでって言ってるでしょ! 顔は好みだけど……裸で言われても困るのよ!」

 

「いや、口説いてねぇし」

 

 裸なのはお前のせいだ。

 人をからかって遊んでたくせに、自分がやられると弱いんだな、コイツ。

 

 ……にしても、もしコイツの言葉が正しいのなら。

 俺のレベルが低かったり、コイツが万全の状態だったら――俺も魅了されてた可能性もあるのか。

 

 つまり、「デバフはレベルを上げれば防げる」ということ。

 こりゃ、今後もレベル上げは必須、最優先事項だな。

 

 

 そして、俺のスキル『魔物雇用』も格上には通じにくいらしいし、そこは似ている。

 

 てことはだ、俺のほうが強い今なら……コイツにも『魔物雇用』が効くってことか。

 なるほどなぁ……。

 

「あと、もう一個聞いていいか?」

 

「なぁに? 私の胸のサイズでも聞きたいの? さっきからずっとチラチラ見てるものね」

 

「ああ、それは是非とも聞きたい。……じゃなくて!」

 

 いちいち話の腰を折るなよ。

 でも、できればコート脱いで欲しい!

 

「アンタは、何で俺と仲良くお喋りしてるんだ? さっきの話でも今回でも、人間に利用されてるよな。それなのに……なんで人間に対してそんなフレンドリーなんだよ」

 

 吸血鬼はマグカップを持ち直し、ふっと笑う。

 その笑いが、どこか寂しげだった。

 

「……そうね。人間って、面倒だけど嫌いになれないの。すぐ嘘つくし、醜いこともするけど、どこか……眩しいのよ」

 

 その一言のあと、短い沈黙。

 カップの縁に溶けたマシュマロが沈み、ほのかに甘い香りが漂った。

 

「……吸血鬼って、夜の生き物でしょ? だからかもしれないけど。眩しい場所には、惹かれるものがあるのよね」

 

 ……急に何言ってんだ、コイツ。

 いきなりポエム読み出して。

 眩しいのに惹かれるって、虫かよ。

 なんか、コイツも拗れてんなぁ。

 だいたい、そういう甘い考えだから利用されるんだろ。

 

「……ふーん。眩しい、ね。俺にはそういうの、よく分からんよ」

 

「ふふっ、らしいわね。あなた、どこか冷めてるもの。……でも、その冷めた優しさが、私はちょっと好きよ」

 

「いや、どんな評価の仕方だよ」

 

 吸血鬼はくすっと笑って、ふと壁に掛けてある時計を見た。

 紅い瞳が少しだけ鋭くなる。

 

「……で、あなた、これからどうするの?」

 

「は?」

 

「もうすぐよ。タケハラが動く時間。魅了された男たちを避難所へ突っ込ませる予定。……たぶん、そろそろ」

 

「は? もうそんな時間!? そう言えば外も暗くなってる……ちょ、やべ、完全に話し込みすぎたじゃねぇか!」

 

「ふふっ、楽しかったから、ついね」

 

 吸血鬼は立ち上がる。

 白い足が床を踏みしめ、ゆっくりと窓際へ歩く。

 

「早く行ったほうがいいわ、手遅れになる前に。……想い人、助けなきゃ」

「だから想い人じゃねぇっての。今日顔合わせたばっかの、ただの女の子だよ。ほら、今の俺とアンタみたいなもんだ」

 

「ふーん、そういうことにしとく。でも、だったら私も……いえ、それより――」

 

 吸血鬼がくるりと振り返り、楽しそうに笑った。

 

「貴方の服、どこに置いたかしら?」

 

「は?」

 

「だって裸の方が、話してて楽しいじゃない」

 

「最初から返せよっ! つーか、わざとだろ!」

 

「ふふふ、裸で真面目な話してる貴方……面白かったわよ」

 

「そのスマホが言い味出してるわ」なんて良い笑顔で言いながら、手足の縄を切って俺の服を手渡してくる。

 ああ、もう! この女、絶対わざとだ!

 

「……いいのかよ。俺を解放して。お前の命の恩人に逆らうことになるんじゃねぇの? 竹原にとっちゃ、俺は邪魔だろ」

 

 吸血鬼は少しだけ目を伏せた。

 悩むように唇を噛んでから、静かに言葉を紡ぐ。

 

「……確かに、彼は私を助けてくれた。だけど私は、人を傷つけたいわけじゃない。貴方を解放すれば、きっと貴方は彼を止めてくれるでしょう? それなら、それでいいと思う。さっき、『あとは勝手にしろ』――って言われたしね」

 

「……他人任せかよ。結局無責任だな、アンタ」

 

「……そうね。自覚はあるわ」

 

 その声に、どこか苦さが滲んでいた。

 たぶん、本人も分かってるんだろう。

 自分が誰かに、委ねてばかり、だってことを。

 

 だからこそ、今この瞬間だけは――少し真っ直ぐに向き合いたかった。

 

 俺は一つ息を吐いて、静かに言った。

 

「なら――俺の仲間にならないか?」

 

「……仲間?」

 

「そう。俺は魔物使いだ。魔物を雇って戦う。俺がアンタを逆に支配したってことにすれば、竹原も文句は言わねぇだろ」

 

 吸血鬼は紅い瞳を細め、口元にいたずらっぽい笑みを浮かべた。

 

「ふふっ……いいけど、それ、私に言っちゃダメなんじゃない? 私を使いたいなら、何も言わずに勝手に支配すればよかったのに。……他の人間と同じように」

 

「……そりゃ、そうかもな。でも、ダメだ。俺はアンタを支配したいんじゃない。一人の人として――仲間にしたいんだ」

 

「……人として、ね。そんなこと、信じろって言うの?」

 

 吸血鬼はわずかに眉をひそめる。

 その顔には、警戒よりも疲れが浮かんでいた。

 

「警戒するのも分かるよ。信じろなんて言葉、口が裂けても言えない。ただ、うちは適材適所がモットーでな。アンタが気にしてる『魅了の魔眼』も、別にどうでもいいし」

 

「……そういうこと言って近づいてきた男が、今までいなかったとでも?」

 

 ほんの一瞬、吸血鬼の瞳が揺れた。

 何かの地雷を踏んだような、複雑な沈黙が流れた。

 

「いや、いるだろ。人間ってのはクソばっかだからな。ちなみに、それどうなったん?」

 

 その問いに、吸血鬼の唇がわずかに震える。

 

「……利用されたわ。人間の、若い錬金術師の男だった。……最初は優しかったのに、途中から実験だのサンプルだの。最後は、私の血を瓶詰めにして商品にしようとしたのよ。私は彼を信じてたのに」

 

「うわぁ……意外とエグいの来た」

 

「ええ。だからもう、私も人間を信じたいけど、人間の言う仲間とか信頼とか、ちょっとお腹いっぱいなの。貴方がどういう人でも、同じことを繰り返すだけ。そうでしょ?」

 

「かもな。でも俺は、そういうクソ共とは違う。俺が欲しいのは使える戦力であって、搾取できる道具じゃねぇ」

 

「……どっちも似たようなものよ」

 

「違うさ。俺は、必要とされた分だけ、報酬を払う。働いた分だけ対価を渡す。うちのチームは、それがルールだ。要するに――労働契約だな。対等なやつ」

 

 吸血鬼が、ぽかんとした顔をする。

 

「……吸血鬼と、労働契約?」

 

「そう。報酬は何がいい? お金……はもう価値がないしな。……あ、血か? 吸血鬼だし」

 

「はぁ……貴方って、本当に変な人ね」

 

「しょうがないだろ。だって俺のスキル、そんな感じのものばっかなんだから」

 

「貴方、『魔物使い』よね? じゃあ、『魔物支配』とか『魔物調教』とか、魔物に対する精神汚染や支配系のスキルじゃないの?」

 

「違う。うちをブラック扱いすんなよ、人聞きの悪い! さっきから言ってるだろ、雇用だって。俺のスキルは『魔物雇用』だ。魔物に条件提示して双方の合意の下で契約すんだよ。仲間ってのも、仕事仲間だな。ビジネスビジネス」

 

「……はぁ?」

 

「昼間は使い物にならない? 夜は動けるんだろ? つまり……夜勤だな! 夜勤できる人大歓迎!」

 

 それでも、その頬のこわばりが少しだけ緩む。

 

「……なんだかよく分からないけど、同情してるんじゃないの?」

 

「違ぇよ。ただ、そういう使われ方してきた奴を見捨てるのは……性に合わないというか、昔の自分を見てるようでムカつくというか……」

 

 口にしてから、自分でも気がついた。

 正義感なんて立派なもんじゃない。

 ただ、ムカついただけだ。

 

 吸血鬼は黙って俺を見ていた。

 その紅い瞳が、わずかに揺れる。

 まるで、何かを思い出しているように。

 

「それに」

「……それに?」

 

「なんだかんだ言ったけど、そんなん全部別にどうでもいいんだわ。ほとんど適当に言っただけだし」

 

「……はぁ? どういうこと? 今までの話は何だったのよ」

 

 吸血鬼の視線を正面から受け止めながら、俺はここ一番の大きな声で本音をぶっちゃける。

 

「あのな――ぶっちゃけアンタめっちゃ可愛いし仲良くなりたい。あとおっぱいのサイズも知りたいし。つーか、それが一番の理由だったりする」

 

 一瞬、空気が止まった。

 次の瞬間、マグを持つ彼女の手がぴくりと震えた。

 

「っ……な、何それ……! 結局、ナンパしてるだけ!? ほんと、貴方ってどうしようもない人ね!」

 

 顔を真っ赤にして、吸血鬼はぷいっと顔をそむける。

 その仕草がまた妙に人間くさくて、思わず笑ってしまう。

 

「でも、それでいい。アンタがそうやって怒れるうちは、まだ救いがある」

 

「はぁ……もう、何なのよ貴方」

 

 呆れ顔で吐き出されたその言葉には、さっきまでの棘がなかった。

 

 吸血鬼は顔を赤くして、ココアのマグをそっと机に置いた。

 その手が、ほんの少し震えていたのは気のせいかもしれない。

 

 俺はゆっくりと深呼吸して、手を差し出した。

 

「さぁ、どうする?」

 

 数秒の沈黙ののち、彼女はため息をついて、その手を握った。

 

「まったく……お人好し同士ね、私たち」

 

 軽い笑みとともに、視界の端に淡い光が灯る。

 スキル発動の通知だ。

 

 

============

 

《魔物雇用に成功しました》

 

《吸血鬼が仲間になりました》

 

============

 

 

 ……よっしゃあ。

 

 ふぅ、疲れた。

 

 ……計画通りだ。

 

 

 これで――

 

 

 

 

 

 

 『魅了の魔眼』、ゲットだぜ!

 あとついでに『血液魔法』も!

 

 こんな便利なスキル、使いたくないなら――俺が代わりに使ってやる。

 

 ニヤリと笑うと、吸血鬼が半眼で俺を見た。

 

「……いま、悪い顔したでしょ?」

 

「……キノセイダヨ?」

 

 俺はとびっきりの営業スマイルで笑いかける。

 

 ――これで、眩しい夜も悪くない、てか?

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