魔物使い、はじめました。   作:YTとりあえずぶん投げてみる

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第46話 新人のケアも上司の仕事です

 くだらないやりとりをしながら、ステータスと返してもらった服や持ち物の確認を終わらせる。

 

 俺が監禁されていた場所は、()()()()()()()()()()のすぐ近くにある、こじんまりした病院だった。

 

 吸血鬼曰く、「病院なら輸血用の血液があるかと思った」らしい。

 なんでも、ずっと血を吸ってなくて、このままだと流石にマズいと判断してのことだそうだ。

 

 実際には無かったらしいが、血が欲しいならあの魅了した男たちから吸血しちゃえばいいのに。

「好みの男じゃないと嫌」とか言ってたけど……じゃあ、俺も血を吸われたりするの?

 労働の対価として要求されそうだけど、普通に痛そうだし嫌だなぁ……。

 

 あれ、待てよ……異世界にも「輸血」って概念あんのか?

 それ以前に、なんでコイツらは日本語喋ってんの?

 微妙にこっちの世界の知識も持ってたりするし、どうなってんだよ終末世界。

 

 

「なぁ、ちょっと聞きたいんだけど」

「……なんであんな……セクハラじゃないの……」

「……ダメか、まだ文句言ってるわ」

 

 セクハラセクハラうるせぇな。

 ちょっと処女なのがバレたくらいで別にいいだろ。

 他人のこと裸にして遊んでたくせに。

 セクハラしていいのは、される覚悟がある奴だけなんだぞ。

 

 コイツが何か知ってるかもと思ったんだけどな……また落ち着いたらでいいか。

 

「おい、アンタ。ほら、ここに乗ってくれ」

「……訴えてやるわ……責任者どこよ……」

 

 まだグチグチなんか言ってる吸血鬼をママチャリの荷台に乗っけて、俺たちは日が暮れていく街をキコキコと進む。

 

 舗装の割れた道路に、コンビニの残骸。

 遠くで聞こえるのは、風の音と、時々、魔物の唸り声。

 時間が経つにつれて、終末の匂いが濃くなってく。

 

「……夜になるわ」

 

 背中越しに聞こえる吸血鬼の声は、ちょっとだけしんみりしていた。

 

 さっきまで顔を赤くしてキョドってたくせに、急に真面目トーンになるなよ。

 そんな()()()って、お前は俺の中では既に残念ポンコツ姉さん枠だぞ。

 

「……ねぇ、避難所に着いたらどうするの? 

「どうしようかね……」

 

「一応言っとくけど、私はタケハラには直接手を出さないわ。貴方の仲間にはなったけど、彼が命の恩人なのは変わらないから」

 

「それ、まだ言ってんのかよ。……それがアンタの妥協できるラインってんなら別にいいよ。最初から当てにしてないし。つーか、アンタが襲撃者たちの魅了を解除すれば終わるんじゃねぇの?」

 

 そもそも、竹原の計画は穴だらけな気がする。

『魅了の魔眼』という使える駒を放置とか、アホすぎんだろ。

 現に俺に奪われてるし。

 

「え? 解除? 何言ってるのよ。一度魅了をかけたら最後、意識をなくして永遠に解けないんだから。そんな便利な力なら、私がこんな悩んでないわ」

 

 マジかよ、永久デバフなのか。

 喰らわなくて良かったぁ……レベル15、感謝感謝。

 

「あれ? じゃあ松下さんが言ってた『ぶん殴って解除できた』ってのは、なんなんだ。偶然か?」

「……ぶん殴って? どういうこと?」

 

 後ろの吸血鬼が銀髪を風に揺らしながら、首を傾げて聞いてくる。

 その仕草は、どこから見ても魔物とは思えないほど人間らしい。

 あと、やっぱり可愛い。

 

「警察官を魅了しなかったか? アンタらを監視してた奴」

 

「警察……? 監視って……あぁ、あの覗き魔ね。今朝、私が身体を拭いている時に窓からジッと覗いてた人。タケハラが『怪しい奴は全部魅了しろ』って言ってたし、ビックリして反射的に魅了しちゃったけど……彼がどうしたの?」

 

 ……おい、松下さん。

 その覗き魔といい竹原といい、アンタの部下どうなってんだよ!

 警察の不祥事がヤベェ!

 

「覗き魔って……いや、ソイツ、上司に頭殴られて魅了解除されたんだよ」

 

「……えっ!? 魅了解除できるの!? 殴るだけでっ!? 嘘でしょ!?」

 

 吸血鬼がガバッと身を乗り出してくる。

 

 おっふ。

 胸が……柔らか……いや、集中しろ、俺。

 このくらいで心臓バクバクすんな、童貞じゃあるまいし。

 大丈夫、集中だ。

 冷静に、冷静に背中へ全神経を集中させるんだ。

 

「う、嘘じゃねぇよ。俺に偵察依頼した人、警察官の松下さんっていうんだけど、その人が頭にゲンコツしたら正気に戻ったんだとよ。詳細は知らん、聞いただけだし」

 

 それにしても柔らかすぎね?

 まさかマジでノーブラか?

 おっふ。

 

「……そんな……私の魅了が、そんな簡単なことで……」

 

 コート越しの柔らかな感触を楽しむ俺をよそに、急に黙り込む吸血鬼。

 目は遠く、焦点が合っていない。

 自転車の軋む音だけが、やけに大きく響く。

 

 おい、またヤバいスイッチ入れたか?

 コイツも地雷埋まってんのかよ、勘弁してくれ。

 

「おい、どうした? 魅了が解けるんならアンタにも良いことだろ? 『人を縛りたくない』とか言ってたじゃん」

 

「うん……そう、だけど……。……じゃあ、なに? 永遠に支配したまんまだと思ってた私の葛藤は……村のみんなを魅了して縛ったあの時も……私は無駄に自分を責めてたの……? あ、ダメ、頭痛い……」

 

 ……やっぱ地雷だったか。

 なんか完全に自分の世界に入ってんな。

 梅野さんも面倒臭かったけど、コイツも違うベクトルで面倒だな。

 変なこだわりが無意味だったって分かって良かったじゃん。

 

「……俺の部下になったんだから言わせてもらうけど。つーか、自分の力なんだからそこはちゃんと把握しとけよ。前もってテストするなりさぁ。それに、デバフなんて解除する方法なんていくらでもありそうなもんだろ、ファンタジー的に考えて。そっちの世界の住人なくせに、今さら何言ってんだよ。うちに入ったんなら、そういうのちゃんとしてもらわないと困るんだけど。いい大人なんだから、普通言わなくても分かるよね?」

 

「う、うるさいわね! 小煩い上司みたいにネチネチと! 私の根幹が揺らいでるんだからちょっと黙ってて!」

 

 いつもより語気が強い。

 ちらりと後ろを見れば、コートの裾をギュッと掴んで俯いている。

 その背中越しの空気に、微妙な温度差が生まれた。

 

 ……なんでうちに入る新人は、ゴブ太郎といいコイツといい、こう、面倒くさい奴ばかりなんだろう。

 

 

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