魔物使い、はじめました。   作:YTとりあえずぶん投げてみる

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第48話 名前の意味、からのドン引き

「昔から、魔物使いは魔物を仲間にすると、新しく自分好みの名前をつけると言うわ」

 

 吸血鬼がポツリと、まーた訳わからんことを言い出した。

 

「私たちも一応契約したんだから、貴方も私に名前をつけてくれないかしら」

 

「オッケー、了解。じゃ『花子』で」

「却下よ!」

 

 即答でバッサリ。ちょっとぐらい考えろや。

 

「なんでだよ、いい名前じゃないか。覚えやすいし日本らしいだろ」

 

「安易すぎるわよ! もっとこう、少しは考えなさいっての」

 

 考えた結果なんですけど?

 

「アンタの前に雇ってたゴブリンは『ゴブ太郎』だ。と来たら、次は『花子』でちょうどいいだろ。バランスいいし。ヴァンパイアの『ヴァン花子』。うん、響きもいいし。覚えやすい」

 

「最悪! バランスって何のよ! 覚えやすければ何でもいいって問題じゃないでしょ!」

 

 荷台の上で吸血鬼が腕を組み、月明かりに照らされた銀髪を揺らす。

 怒ってるというより、呆れてる感じだ。

 

 おぉ……腕を組むと戦闘力の高さが際立つな。

 

「わがままだなぁ……分かったよ。じゃあ、『華子パイア』とかにするか? あ、いいなこれ。漢字変えたら高級感が――」

 

「そういう問題じゃないのよ! 貴方、バカじゃないの!」

 

 バカとはなんだバカとは。

 俺はゲームのキャラメイクでも、どうでもいい奴には『1』とか『あ』とか付けるんだぞ。

 人っぽい名前でまだマシだろうが。

 

「人が一生懸命考えた名前をなんだよ! あーもう、めんどくせぇなぁ……。じゃあ逆にどんなのがいいんだよ」

 

「そうね……もっとこう、私の存在にふさわしい、上品で、夜の月に似合うような――」

 

「どっちが馬鹿だよ。今さらぶってんじゃねぇよ。はいはい、じゃあ『夜子』ね。夜っぽい夜っぽい」

 

「安直! 投げやりすぎるわ!」

 

 吸血鬼の花子(仮)が俺の後ろでぎゃあぎゃあと騒ぐ。

 まったく、名前ひとつ決めるだけでこの騒ぎだ。

 

 まぁ……こんなやり取りができるぐらいには、元気出てるってことだろう。

 沈んでた顔も、今は月明かりの下でちゃんと笑ってる。

 

「はぁ……なんで急に名前つけてなんて言うんだよ。俺がつける必要ないだろ、自分で好きなの決めればいいじゃん」

 

 ため息をつく俺を見て、吸血鬼が少し目を伏せる。

 風が吹いて、彼女の銀髪が背中にかかる。

 

「……名前って、ただの呼び名じゃないのよ」

 

「ん?」

 

「その存在を定義するもの。呼ばれるたびに、自分が形になる。だから、ちゃんと考えてほしいの」

 

 妙に真面目な声だった。

 さっきまで『ヴァン花子』にブチ切れてた奴とは思えない。

 つーか『ヴァン花子』で定義されちゃダメなのかよ。

 全国の花子さんに謝れ。

 

「……分かったよ。でも、今は仕事優先だ。落ち着いたら考えるでいいか?」

 

「ええ、約束よ」

 

「ああ」

 

 そう言うと、吸血鬼は少し黙り込んだ。

 そして、ぽつりと呟く。

 

「……ねぇ、私、名前がなかったわけじゃないの」

 

「へぇ。じゃあ、それでいいじゃん」

 

「私の両親から貰った名前だけど……好きじゃないの。理由は、なんとなく分かるでしょ?」

 

 ああ、さっきの話のことか。

 名前が存在を定義する、とかよく分からんこと言っていたし。

 前の名前は嫌な思い出ばかりなのかもな。

 

「なるほどな。新しい門出ってわけか」

 

「そういうこと。……だから、ちゃんと考えてね?」

 

「へいへい、考えとくよー」

 

「もう……」

 

 わざと軽く流すと、吸血鬼が苦笑する。

 いつの間にか、風の匂いが変わっていた。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 街並みが途切れ、視界の先に避難所の象徴――『ド』とお腹に書かれたペンギンのオブジェが見えてくる。

 

 だが、そこから――煙が上がっていた。

 

「……あれ」

 

「おい、マジかよ。ペンギン燃えてんじゃねえか」

 

 ペダルを止め、ブレーキを握る。

 遠くで怒鳴り声と何かが割れる音。

 避難所の駐車場前には数人の男たちが立っていた。

 目が虚ろで、体の動きがぎこちない。

 

「……魅了された奴らか」

 

「ええ。どうするの?」

 

「どうするも何も……戦うとめんどくせぇんだよなぁ。めっちゃ追っかけてくるし。無表情のおっさんたちに追いかけられる恐怖、分かる?」

 

「……分かるわよ。経験あるもの」

 

 ……あるんだ。それは怖かっただろうに。

 

「でも、貴方の話だと頭を殴れば魅了が解けるんでしょ? じゃあそれでいいじゃない」

 

「いや、戦いの最中、うまく手加減できる自信がない。殺しちゃったらあとが面倒くさいし。うーん、魅了の上書きとかできねぇの?」

 

「無理よ。そんな便利な力じゃないもの。一度魅了した相手には効かないのよ、私が把握してる限りでは。……解けた人は分からないけど」

 

「微妙に使い勝手悪いなぁ」

 

 俺は深く息を吐いて、チャリのスタンドを立てた。

 月明かりの下、吸血鬼がゆっくり立ち上がる。

 

「じゃ、やるしかないか。……足の骨折るとか、眼球潰すとか、物理的に追えなくしてやれば大丈夫だろ。……あぁ、もう定時すぎてるから残業ってことで」

 

「ふふ、初日からこれなんて、ブラックね。でも――」

 

 ――と、吸血鬼が急に手を挙げて止める。

 

「気合入ってるとこ悪いけど、私が一緒にいるなら襲われないわよ」

 

「……は?」

 

「だって、魅了をかけたのは私なんだから。竹原の命令を優先的に聞くように魅了したけど、あくまで主は私よ?」

 

「マジかよ。じゃ、試しに近づいてみるか」

 

 ママチャリを押して、虚ろな男たちにゆっくり接近。

 10メートル、5メートル……3メートル。

 

 奴ら、俺をチラッと見た気がしたけど、ほぼ無反応。

 まるで空気みたいにスルー。

 

「……マジで襲われねぇ」

 

「でしょ? 私がいる限り、安全よ」

 

 吸血鬼が得意げに胸を張る。

 ……どことは言わないが、強調されて凄いことになってる。ありがたい。

 

「この人たち、どうするの? 放置する?」

 

「いや、結局殴らないと魅了解除できないなら、ここでやっといたほうがいいだろ」

 

 スルーしてあとで後ろから襲われる、なんてのは防ぎたいしな。

 襲われないなら練習にちょうどいいし、サクッとやるか。

 

 ――ドゴ!

 

 鈍い音が響き、おっさんが崩れ落ちる。

 

「……は?」

 

「あ、強すぎたか?」

 

 少し待ってみても、倒れたおっさんは前みたいに起き上がってこない。

 

「これ、起き上がってこないのはアクティブになってないからか? どうなの?」

 

「ちょ、待って待って! 貴方、いきなり過ぎない!? 同じ人間なのに、もう少し躊躇とかないの!?」

 

 吸血鬼が信じられないものでも見るような顔でこちらを見る。

 

「いや? やらなきゃいけないんだから躊躇するだけ無駄だろ。魔物殺しまくってんだから今更じゃね?」

 

「えぇ……」

 

 そんなドン引きされても……いや、まぁ自分でも自分にびっくりしてるけど。

 人間相手でも平気なもんだな、俺。

 

 ――ドン!

 

「って、だから! いきなり過ぎよ! やる前に何か言いなさいよ! ビックリするのよ!」

 

「はいはい、急いでんだから。時短だよ、時短」

 

 

 おっさんの次はモブっぽい兄ちゃんのこめかみ辺りをサクッと一発。

 あ、起き上がってきた。

 弱かったか。

 

 次はもっと強めに――ほいっ!

 

 ――ドンっ!

 

 ……アレ?

 まだ弱い?

 こうか?

 

 ――ドゴン!

 

 あ、強すぎたか?

 次!

 難しいな、手加減。

 

 ――ドゴ!

 

 調整が……よっ!

 

 ――ドンっっ!

 

 ほっ!

 

 ――ドゴっっ!

 

 

 「……貴方、タケハラとは別の意味で怖いわね」

 

 失礼な。

 あんなモラハラ野郎と一緒にしないでほしい。

 

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