魔物使い、はじめました。   作:YTとりあえずぶん投げてみる

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第49話 労働の対価

 数分後、駐車場に男たちがズラリと横たわる。みんな気絶中。

 

「……な、な」

 

 紅い瞳が、俺をガン見。

 吸血鬼はポカンと大口を開けて俺を見ている。

 あ、牙がある。やっぱ吸血鬼なんだな。

 

「なんで……無言で、無表情でこんなことできるの……貴方、誰かに魅了されてたりしない?」

 

「されてねぇよ、一緒にすんなよ」

 

「……私、とんでもない人と契約したのかしら」

 

 今さらやっぱなしは困るぞ。

 お前はもううちの従業員なんだから。

 

「よし、大体手加減の感じ掴んだわ。これなら殺さんで済みそう」

 

「……それは良かったわ。でも、この人たち放置したら死んじゃいそうね。他の魔物に襲われたりしないかしら」

 

「あ、どうしよう。考えてなかった。運ぶのもダルいしな……どうしよ」

 

「はぁ……。貴方、色々考えてそうで何も考えてないのね。私がやるわ。ナイフか何か持ってる?」

 

 吸血鬼は黒いコートの袖から白い手を覗かせて、こちらに催促してくる。

 

「ナイフ? なに、どうせ死ぬならトドメ刺してやるって? うわぁ、他人のこと言えねぇじゃん」

 

「違うわよ! 貴方、可愛い顔して意外と物騒ね! 私の魔法を使うの! もう夜だから力も戻ってるし」

 

「魔法?」

 

 ポケットから果物ナイフを渡す。

 吸血鬼が自分の白い指を軽く傷つける。

 

 ポタポタッと、血が滴り落ちる。

 

「私のもう一つの力――『血液魔法』よ」

 

 血が、月の光に照らされて紅く輝く。

 地面の血が糸みたいに浮き上がり、男たちの頭に絡みつく。

 

「おおっ! ファンタジー来た!」

 

「一応、頭の怪我も応急処置しとくわ。貴方、ボコボコ殴り過ぎなのよ。この人なんて酷い内出血してるわ、放っとけば死んでたわよ」

 

「え、マジで? やべ。でも応急処置とかもできるのか」

 

 絡みついていた血が、鼻や耳から男たちの体内に入っていく。

 

「あくまで応急処置よ。私の血を自由に操作できるの。こうやって私の血を混ぜてやれば、相手の血もね。それで傷を塞いだり、血を止めるくらいがいいとこね。大きな傷はさすがに無理」

 

「へぇ、すげぇな」

 

 でも、血を混ぜるって大丈夫なのか。

 拒否反応とか出て、それで死んだりしない?

 

「それに、私の血を混ぜすぎると影響もあるしね……」

 

「影響ってどんな?」

 

「言ったでしょ? 錬金術師が私の血を瓶詰めにして売ろうとしたって。言いたくないから察して」

 

「あぁ……なんとなく分かった」

 

 どうせ吸血鬼化するとか、人外っぽくなるとか、そんな感じだろ。あるあるだな。

 

 男たちが少しずつ息を整える。

 まだ気絶中だが、ちゃんと生きてる。

 

「応急処置はいいけど、コイツらどうする?」

「安全なところに運んでおこうかしらね」

 

 吸血鬼がスッと指を動かす。

 すると、流れ出ていた血が集まり、形を作っていく。

 

「この人たちをその辺の家へ運んでおいてちょうだい」

 

「おお! 血のコウモリ!」

 

 吸血鬼の血でできた無数のコウモリたちが、男たちを掴んで飛んでいく。

 

「これで大丈夫よ」

 

「すげぇ、マジで魔法じゃん。魅了の魔眼よりこっちの方がテンション上がるわ」

 

「ふふ、なによそれ」

 

 吸血鬼と言ったらこれって感じのベタベタな魔法だけど。

 

「他にはどんな事ができるんだ?」

 

「そうねぇ、血を硬化せて矢のように飛ばしたり、盾にしたり。身体を血の霧に変化させることもできたり、まぁいろいろね」

 

「汎用性高いな、アイデア次第では何でもできそう。便利すぎるだろ」

 

「そうね、使い勝手は良いわ。ただ、その分……うっ……」

 

 突然、吸血鬼の意識が一瞬飛んだようにしてよろめく。

 倒れないようにサッと支えてやるが、そのまま俺の腕の中へと倒れ込んでくる。

 

「おい、どうした? やっぱりリスクがあったりすんのか。アンタ、まだ本調子じゃないんだから無理するなよ。大丈夫か、顔色悪いぞ」

 

 俺の腕の中で、吸血鬼は元々白い肌が青白くなっている。

 見るからに体調悪そう。

 病人みたいになってる。

 

「うん、大丈夫……ただ、お願いがあるんだけど……」

 

「なんだ、俺にできることなら」

 

「血、ちょうだい」

 

「……えぇぇぇ」

 

 嫌なんだけど。マジで。

 

 でも腕の中の吸血鬼は、顔色が悪くて、息も浅い。

 銀髪が頰に貼りついて、体温はほとんど感じない。

 やたら軽い。ちょっと力入れたら壊れそうだ。

 

「おい、ほんと大丈夫か」

 

「うん……ただ、夜になって力は戻ったけど……しばらく血を吸ってないから、本調子じゃないの。お、お腹すいた……」

 

「それ吸血的な意味でだよな?」

 

 苦しい顔。

 細めた紅い瞳がふるふる揺れて、潤んだままどこか上目遣いで俺を見上げる。

 目を逸らしたり、また戻したり。

 ……なんだその仕草。ずるいって。可愛いかよ。

 

「血液魔法使うと、お腹すくの……さっきの応急処置で、結構使っちゃったし」

 

「へぇ……そうなんだ」

 

 知らねぇよ、そんな話。

 契約書に書いてあったか?

 契約書持ってこいよ、確認するから。

 

「ねぇ………さっき、契約する時に……血をくれるって言ったわよね? まさか、反故にする気?」 

 

 知らねぇよ、そんな話。

 契約書に書いてあったか?

 契約書持ってこいよ、確認するから。

 

 吸血鬼は弱ってるくせに、詰めてくる。

 紅い瞳がジッと俺を射抜く。

 やめて、その目、心臓に悪いから。

 

「言ったけど……マジで吸うのかよ。痛そうだし、嫌だなぁ」

 

「ふふ、貴方が報酬として約束したんだから、ちゃんと払ってもらわないと……ね?」

 

 あー、悪い顔してる。

 絵になるなぁ、くそ。

 

 ……しょうがねぇか。従業員の福利厚生だと思えば。

 うちはちゃんと報酬は払うホワイトな企業だから。

 

「分かったよ。ほら、どうすりゃいいんだ?」 

 

「本当? やった! じゃ、あ~ん……」

 

 途端に顔を輝かせる吸血鬼。

 嬉しそうにニパッと笑い、顔を上げた吸血鬼は口を僅かに開く。

 

 月明かりが銀髪を撫で、唇がほんのり紅く光る。

 牙がちらり。

 舌先が小さく震えて、艶っぽい。

 

「あーん、て……どうしろと」

 

 まじまじと見つめてしまう。

 月の光に照らされた白い肌は、陶器みたいに滑らかで、うっすら開いた潤んだ紅い瞳が俺を映す。

 まつげは長く影を落とし、鼻筋はすっと通って、震える唇が艶めかしく濡れてる。

 

 そこから覗く吸血鬼たる牙は小さく尖り、舌ベロはピンクで柔らかそうで……。

 

 ……うわ、ヤバいなこれ。

 コイツ、限界までエロい。

 

 心の中の童貞が叫んでいる。

 心臓バクバクすんな、俺。

 

「本当は首筋に噛みつきたいけど……そういうのは、その、そういう関係になってから、だし……」

 

 頰がうっすら赤くなってく。

 少しだけ先が尖った耳まで染まってて、目を逸らすその仕草が可愛い。

 

 待って、そういう関係ってなに?

 変な想像させんな、おい。

 

「吸血鬼の恋愛観とか、知らないんだけど……」

 

 彼女は真顔で、俺に小さなナイフを差し出してきた。

 

「指先でいいわ。ほら、ここに垂らしてくれれば」

 

 自分の小ぶりな唇を指さしながら、そんなことを言う吸血鬼。

 

「……マジかよ」

 

 果物ナイフを受け取り、躊躇したあと人差し指を軽く切る。

 チクッと痛みが走り、すぐに血がじわッと滲む。

 

「痛いなぁ……でも、報酬として約束したからな。ほれ、ありがたくいただけよ」

 

「ふふ、いただきます」

 

 これはスキルをゲットするため、いわば先行投資。

 今は痛みと羞恥は我慢だ。

 

 指先を吸血鬼の唇に近づける。

 ぷるぷると柔らかそうな唇が、指先に微かに触れる。

 

 

 ――あったかい。やわい。しっとり。

 

 

 ……ヤベェな。

 なんか、しちゃいけないことしてるみたいな……。

 

 いいの、これ。

 魔物とはいえ、こんな美女にお触りしたらセクハラ一発アウトにならない?

 あとで、実は嫌だったとか無理やりとか、訴えられたりしない?

 今、そういうの多いんだぞ。

 

 

 

 そして、吸血鬼の唇に、俺の赤い血がたらりと。

 

 血が一滴、落ちた瞬間――

 

 

 

 

 

 ――ぺろり。

 

 

 

 

 

「――あ」

 

 

 自分の口から間抜けな声が漏れる。

 

 舌が這う。

 赤い血をなぞるように、舐め取っていく。

 指先で動く舌先は、やけにゆっくりで、無駄にに艶っぽい。

 

 

 

「……おいしい」

 

 

 

 紅い瞳がとろんと細くなり、微笑む。

 牙がかすかに覗いて、指にまた唇が触れる。

 

 

 

 

 ――ちゅ。

 

 

 

 

 軽い吸い込み音。

 柔らかい唇が、俺の指を包み込む。

 吸い付くような感触。

 

 舌が指先をなぞり、血を啜るたび、微かな熱が指先から腕へ、脳みそへと伝わっていく。

 

 牙が軽く皮膚をかすめて、背中がゾクッと震えた。

 

 ……あ、やべぇ、これ。アカンやつだ。

 

 

 

「……んっ、……ちゅ……」

 

 

 小さく漏れる息。

 指先に絡む舌の感触と、湿った息遣い。

 目の前の銀髪がふわりと揺れて、ほのかに花の香り。

 

 視線を逸らしたいのに、逸らしちゃダメだと脳味噌が囁いてくる。

 

 ふと、交わる視線。

 彼女の紅い瞳が蕩ける。

 

 

 目の前の光景が、妙に現実味を帯びて目に焼き付く。

 

 

 ……マジで、限界だ。変な意味で気絶しそう。

 

 

 

「……ん……おいし……」

 

 

 

 彼女はふっと息を吐き、まだ名残惜しそうに唇を離す。

 

「……ん。これで……たいぶ、楽になったわ」

 

 血の味を確かめるように舌で拭いながら、微笑む。

 その唇の端を伝って、血が一筋、艶めかしく滑り落ちた。

 

「ごちそうさま。ありがとう、美味しかったわ」

 

「……あ、あぁ。それなら……良かった」

 

 指先には、まだ微かな熱と感触が残っている。

 

 ヤバい。

 彼女から目が離せない。

 

 腕の中の彼女は、満足そうに目を閉じて俺の胸に頭を預ける。

 

 静かな夜風が流れて、遠くで虫の声がした。

 

 

 ……いや、平和か。今、修羅場の最中なんだけど。

 

 息を吐きながら、思わず笑ってしまう。

 

「……やっぱり、魔眼なんか無くったって落とせるじゃねぇか」

「ふふ、何言ってるのよ」

 

 ほら、また。

 その笑顔は反則だろ。

 職場恋愛はNGなんだけどなぁ……。

 

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