魔物使い、はじめました。   作:YTとりあえずぶん投げてみる

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第57話 束の間の。(ヴァン花子……ダメ?)

「……そんなわけで、新しい仲間の吸血鬼さんです」

「よろしくね」

「はい、よろしくお願いします!」

 

 梅野さんが柔らかく笑う。

 その穏やかな空気に、俺もつい肩の力を抜いてしまう。

 

 あれから俺たちは、避難所の片隅にある休憩所へと移動した。

 かつて、梅野さんの地雷が爆発した爆心地でもある。

 

 松下さんと桐生さんは現場の後始末。

 俺と梅野さん、吸血鬼の三人は休憩所のソファに腰を下ろしてる。

 

 ちなみに、ドッキリのショックで脱糞失神した竹原は、別室で勾留中らしい。

 

 冷えた空気の中でようやく一息ついて、俺は吸血鬼を雇うまでの経緯を説明中だ。

 

 

「でも、私も驚いたわ。まさかあの状況で誘われるとは思わなかったもの。彼、全裸だったし」

「あのな、全裸なのはお前のせいだろうが!」

 

 気絶してる間に脱がしやがって……!

 次は、素面の時に見つめ合いながらお願いします!

 

「望月さんてちゃんと考えてそうで、実は何も考えてないですよね。考えてるのは……おっぱいとか、そういうことばっかり」

 

 そんな冷静に俺が変態みたいに言わないでくれる? 

 頭おっぱいなのは事実だけど。

 

「この人、頭脳派気取ってるけど意外と脳筋なのよ。全部殴り倒せばいいと思ってるんだから」

「まぁ……なんとかなるかなって。いや、お前だって成り行きでなんとなく仲間になったくせに人のこと言えんぞ」

 

「ふふ、()()()()、ですか」

「そうそう、成り行き成り行き」

 

 二人で苦笑していると、横からじとりとした視線。

 吸血鬼が腕を組んで、やや不機嫌そうに口を尖らせた。

 

「ちょっと待って。成り行きって何よ。二人の間だけで分かる、みたいな雰囲気出して」

「え?」

 

「『なんとなく仲間に』なんて言い方。『美人』だの『可愛い』だの口説いてきたくせに、よく言うわ」

「ちょ、それは……」

 

「貴方、初対面の私に『おっぱい揉ませろ』とかも言ってたわよね?」

「言ってねぇ! セクハラ容疑を水増しすんな!」

 

「やらしい目で全身を舐め回すように見て、『はぁはぁ、お前が欲しい』、『げへへ、俺のものになれ!』って熱心にスケベな顔して誘ってきたのは誰だったかしら?」

「……望月さん」

 

「ちげぇ! やめろ、冤罪だ!」

 

 吸血鬼がわざとらしく胸を庇うように身体を抱きしめる。

 芝居すんな! 表情作ってんじゃねぇよ!

 

「この人、私のスリーサイズまで知ってるのよ? 『部下の健康管理の一環だ』とか言って。ここに来るまでにも、妙に身体を寄せてベタベタしてくるし……」

「おい、完璧に捏造だろうが! 不可抗力だあれは!」

 

 梅野さんの表情がすぅっと冷えて、無言で俺を見る。

 やめろその冷たい目、冷凍マグロみたいになってるから!

 

「……望月さん。『部下の健康管理』って、具体的にどんな測定方法なんです?」

「違うんですよ!? 俺は測ってねぇし、触ってねぇ! 言葉の暴力だろこれ!」

 

「ふぅん、『暴力』ね。なるほど、被害者ムーブ。いいわねぇ」

「お前、地味に語彙が強いんだよ!」

 

 何でコイツこんなに語彙力ついてんだよ。

 やっぱり俺と契約した影響か!?

 

「貴方、私の過去を知ってるくせに都合のいいことばかり言って。結局、私の身体だけが目当てなのは分かってるのよ……!」

「おいストップ! やめろ! その言い方はズルいぞっ!」

 

 オヨヨ、と泣く仕草で梅野さんに縋る吸血鬼に、慌てて手を振る俺。

 梅野さんは吸血鬼を抱きしめて俺を睨みつける。

 

「……望月さん、最低です。謝ってください」

「違うんです、これは誤解でして! 今の全部、彼女の脚色ですから!」

 

「ふぅん、脚色ね。なるほど、そういうプレイなのね。さすが変態だわ」

「そんなプレイはねぇし、俺は変態じゃねぇ!」

 

 もはや手遅れだ。

 俺の名誉も尊厳も、紙屑のように舞っていく。

 松下さんがいないのがせめてもの救いだ。

 ここであの仏顔で見つめられたら、ありもしない罪まで認めてしまいそうな気がする。

 

 だが、俺が頭を抱えていると、梅野さんがふいに小さく笑った。

 

「……でも、分かりますよ」

「え、え?」

 

 分かるの?

 梅野さんて、そっちの気があったり……?

 それはそれで……アリ!

 

「ほら、吸血鬼さんすごく綺麗ですし。望月さんがつい口説くのも分かります。話しててとっても面白いし」

 

「あら、あらあら」

 

 吸血鬼が驚いたような顔をして、紅い目を丸くする。

 

「それに……吸血鬼さんって、人間より人間らしいというか。酷い目にあっても人を信じて、話して、笑って……強くて優しくて、なんか羨ましいです」

 

 その言葉に、吸血鬼は目を細めた。

 今度はからかうような笑みじゃない。

 どこか慈しむような、穏やかな微笑み。

 

「あなた、とても良い子ね。ウメノも私に負けず劣らず素敵で可愛いわ。おっぱいは……まぁ、私の負けだけど」

「ま、またそれ言うんですか!」

 

 梅野さんの頬がみるみる赤くなる。

 吸血鬼は楽しそうに笑って、軽く肘でつついた。

 

「ウメノみたいな子、久しぶりに見たわ。大丈夫、あなたも強い子よ」

 

「い、いえ、そんな……。私は自分のことしか考えなくて。今日だって出会ったばかりの望月さんに八つ当たりして、すごく困らせて……」

 

「ウメノ、さっきのことはごめんなさいね。ちょっと悪ノリが過ぎたわ」

「いえ、実際そうでしたし……」

 

「いいのよ。どうせ彼がまたセクハラしたんでしょう? この人、ほんっとデリカシーないんだから」

「それは……確かにその通りです」

 

「ちょ、ちょっと待て! 今いい話だったのにこっちに矛先向けるなよ! 女二人で意見一致させないで!?」

 

 二人が顔を見合わせて、ふっと笑い合う。

 もう完全に女子連合が結成されたようだ。

 俺、孤立。

 

「どうせ、何言ったって『めんどくせぇ』って言って気にしないんだから、もっと言わなきゃダメよ」

「そうですね! でも……望月さんって、典型的な軽くて憎めないタイプなんですね」

 

「お、やっとフォローきたか!」

「その代わり、すぐに調子に乗るしセクハラ率が高いわ」

 

「おい、フォローとは」

 

 吸血鬼がくすくすと笑い、梅野の肩に手を置く。

 

「ウメノ、覚えておきなさい。男はね、ちょっとバカなくらいが丁度いいのよ」

「そうなんですか?」

 

「この男を見なさい。頭の中おっぱいしかないわ。ほら、扱いやすいでしょ?」

「あぁ、なるほど……勉強になります」

 

「おい、教育的虐待やめろ」

 

 二人は、まるで昔から仲の良い友人みたいに笑い合い、キャッキャッしてる。

 

「なに仲良くなってんだよ。いや、待て……こんな美人二人にイジられるとか、逆にこれご褒美では? あ、捗りそう」

 

 かたや、ゆるふわ系おっとり神乳美人。

 かたや、クール系ポンコツ天然銀髪美人。

 うむ、よきかな。

 

「なにニヤニヤと気持ち悪い顔してるのよ……どうしてあなたって、反省の仕方が独特なの」

「この人の習性ですよ、これ」

「もはや病気ね、それ」

 

 吸血鬼が肩をすくめ、梅野さんが笑う。

 そんな軽口を交わしながら、ほんの少しだけ、終末の現実を忘れて笑い合った。

 

 

 そして。

 

 

「あ、そうだ。あの、一つだけ聞きたいことがあるんですけど」

「どうしたの? 急に改まって」

 

 梅野さんが申し訳なさそうな顔をして言う。

 

「あの、すごく大事なことを、聞きそびれてて……」

「うん? なんかあったっけ?」

「なによ、なんでも聞きなさい。私たちの仲じゃない」

 

「あのー、吸血鬼さん……、」

「なぁに?」

 

 

 

 

 

「あなたの――名前って、教えてもらえませんか?」

 

 

 

 

 

「「……あ」」

 

 二人して顔を見合わせる。

 やべぇ、完全に忘れてたわ。

 

「あー、すまん。すっかり忘れてたわ」

「ちょっと、忘れるってどういうことよ」

「いや、お前だって言われるまで忘れてただろ」

 

「え? えと、どういうことですか……?」

 

「あー、実は……」

 

 

 そのとき――

 

 

「失礼します」

 

 静かな声とともに、松下さんがやってくる。

 表情はいつも通り穏やかだが、声のトーンにはわずかな緊張が混じっている。

 

 

「皆さん、竹原くんが目を覚ましました」

 

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