魔物使い、はじめました。   作:YTとりあえずぶん投げてみる

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第61話 うんこマン が あらわれた!

「いい大人がギャーギャーと泣き叫んであんな大勢の前で盛大に漏らしたくせに、テメェに言われたかぁねぇよ!」

 

「自分のやったことを棚に上げて、偉そうに説教とかしてんなよ。うんこマンがよぉ!」

 

「誰も言わねぇけどな、みんな心の中で思ってんだ。『人前でうんこ漏らした奴に言われたくねぇ!』ってな」

 

「でも、そこをツッコむのはいくら竹原でも『さすがに可哀想かな』って、大人として気を遣ってただけだぞ? なのに、お前ときたら『うんこ漏らし? そんなことありましたっけ?』みたいな顔して何食わぬ顔で座りやがって」

 

「お前が漏らした事実、絶対無かったことになんてしねぇからな! つーか、うんこ漏らしたくせにここまで偉そうにできるの、ある意味凄いわ」

 

 俺が内心でボヤいてると、いつの間にか部屋が静かになっている。

 

「……って、ん? なんだ、どうしたみんな? あれ、竹原……?」

 

 竹原は顔を真っ赤にしてプルプル震えてるし、他のみんなは口元を手で押さえて肩を震わせてる。

 

「お、おま、お前ぇ……っ!」

「……あ、まさかまた漏らすのか?」

 

「も、漏らさねぇよっ!」

 

 竹原が立ち上がって叫んだ。

 それに合わせて、手錠がじゃらじゃらと鳴る。

 

「……え?」

 

 なんだと!?

 こいつ、俺が考えてること……まさか、エスパー……!?

 

「……貴方ね、全部口から出てたわよ」

 

 吸血鬼が顔をひくひくさせながら言う。

 

「あ……マジ?」

「はい。早口で一気にまくし立ててましたよ、望月さん」

 

 梅野さんも、さっきまでの沈んだ顔が少しニヤけている。

 松下さんと桐生さんも、視線を逸らして肩が小刻みに揺れてる。

 完全に笑いこらえてるやつだ。

 

「マジか。いや、自分では我慢してたはずなんだけどな……漏れちゃってたか! うんこだけに」

「ぶふぅっ!」

 

 吸血鬼が盛大に吹いた。

 そのまま机に突っ伏して腹を抱えてる。

 

「ちょ、望月さん、やめてくださいよ!」

「いや、そう言ってめっちゃ笑ってんじゃん」

 

 梅野さんも口元を手で隠して少し涙目になってるし。

 

「お、お前ら……っ!」

「いや、そんな凄んでも怖くねぇよ竹原《うんこマン》。あ、すごいな、また漏らすのかなって思うだけで」

「うるせぇ! うんこマンって言うな! ガキかテメェは!」

「ガキじゃないよ〜? お前と違ってちゃんとトイレでうんこするし〜、お前みたいに漏らさないし〜」

「〜〜っ!」

 

 竹原の顔が茹でダコのように真っ赤で、耳まで赤くなっててウケる。

 手錠の鎖を握りしめてガタガタ震えてるのは怒りか羞恥か、

 

 

あるいは――

 

 

――便意からか。

 

 

「『俺より潔癖な奴がいない』? ギャグで言ってんのか? 少なくともうんこ塗れのお前よりはみんな綺麗だぞ」

 

「そ、そういう意味じゃねぇ!」

 

「あ、臭っ! ちょっと口閉じてもらえます? うんこ臭がするんで」

「テメェ、望月ぃぃっ!」

 

「怖〜い! うんこマンが怒った〜! や〜い、うんこマ〜ン! 悔しかったらトイレでしてみろよ〜!」

「くそがっ! ぶっ殺してやるっ!!」

「はははっ! クソはお前だうんこマン!」

 

 部屋中が笑いに包まれた。

 松下さんまで小さく肩を震わせてるし、桐生さんは顔を背けてるけど絶対笑ってる。

 

「……望月さん、そのくらいで勘弁してあげてください。さすがにそれ以上は竹原くんが可哀想です」

「頼む望月さん。も、もうやめてくれ」

「あぁ、すみません。思わず。水に流してください。うんこだけに」

「あははははははっ!」

 

 いや、アンタらも完全に笑ってるじゃん。

 吸血鬼に至っては笑い上戸なのか、腹抱えて転げそうになってる。

 

「……竹原、すまんな。でもお前が悪いんだぞ。世の中には言って良いことと悪いことがあるんだ。お前も、これで分かっただろ?」

「う、うるせぇ! ぶっ殺してやる!」

 

「だからすまんて。じゃあお前もあんまりドヤ顔でイキんなよ。漏れるぞ」

「くっ……くそ野郎が!」

「いや、だからそれはお前だって」

「ぶふふぅっ!」

 

 吸血鬼がまた吹いた。

 こいつ、涙流して笑ってるけど、ここに来てポンコツ感がさらに加速してんな。

 うんこでこんな笑うって小学生か。

 

「俺を……俺をうんこマンなんて呼ぶんじゃねぇ! 俺はうんこマンじゃない!」

「竹原くん、落ち着きなさい」

「そ、そうだ竹原。誰しも間違いはあるんだ。そんな気にするな。また漏れるぞ」

「うるせぇうるせぇうるせぇっ!!」

 

 竹原は手錠付きの両手で頭を抱えて、まるで駄々っ子のように頭を振っている。

 

「えぇ……何なの急に。こいつ、ヤベェ薬でもやってんのか? 怖ぁ」

「貴方がいじめ過ぎるからよ! だいたい貴方、デリカシー無さすぎなの! そういう事言う空気じゃなかったじゃない! もういい大人なんだから、言っていいことと悪いことくらい分かりなさい!」

 

「俺が悪いのかよ! めちゃくちゃ笑ってたお前に言われたくないわ! そもそも俺はみんなを思ってだなぁ!」

「他人のせいにしないの! タケハラのこと言えないわよ貴方!」

 

 吸血鬼が完全に理不尽。

 ちょっと「うんこマン」て言っただけだぞ?

 そもそも一番笑い転げてたのお前だし!

 

「あのー、たぶんなんですけど……」

 

 急にキレ散らかした竹原に皆がドン引きする中、梅野さんがそっと手を挙げる。

 

「! 何か知ってるのか、らい……梅野!」

「な、なんですかそのノリ……。えと、慎ちゃん、子供の時も漏らしたことがありまして……」

 

 出た、梅野さんの幼馴染トーク!

 フォローしてますって顔して、実はさらに追い打ちをかける!

 実は梅野さんが一番根に持ってる説!

 もうやめて! 竹原のライフはゼロよ!

 

「えぇ……こいつ、ガチの生粋じゃん」

「ええ、まぁ……慎ちゃん、生粋のうんこマンなんですよね」

「……ウメノ、あなたも結構酷いわね」

 

 そりゃあ生粋のうんこマンの幼馴染なんかやってんだ、嫌にもなるだろ。

 

「その時もクラスの子の仕掛けたドッキリで……漏らしちゃって。その時からあだ名が……」

「あぁ……うんこマン」

「はい……。それで一時期いじめられて不登校に……」

 

「トラウマになってるのね、可哀想に……」

「望月さんがピンポイントで抉るから……」

 

 吸血鬼と梅野さんがジト目で俺を刺してくる。

 

「貴方、謝りなさいよ」

「そうですよ。いくら慎ちゃんが悪いことをしたからって、こんな酷いこと……」

「何でだよ! なんでお前ら竹原に同情してんだよ! これだからトラウマ持ちのめんどくせぇ奴らは!」

 

 だから俺のせいじゃねぇ!

 俺は何も知らなかったんだ。

 俺は悪くない。

 悪いのは、竹原――そして、うんこだ。

 

 

 

「で、冗談はさておいて……」

 

 部屋の笑いがようやく収まったところで、俺は咳払いして椅子に腰を下ろした。

 

 吸血鬼は「う、うんこマン……ぶふぅーっ!」ってまだ吹き出しながら腹を抱えてるし、梅野さんは涙を拭ってる。

 松下さんと桐生さんは苦笑いで顔を見合わせて、竹原は……あ、うんこマンは手錠のまま俯いて震えてる。

 

「なぁ、う……竹原」

 

 俺が声をかけると、竹原がびくりと肩を跳ねさせて顔を上げた。

 目はまだ赤い。涙目か、怒り目か、知らねぇけど。

 

「な、なんだよ! 俺はうんこマンなんかじゃねぇ!」

 

 声は震えてるけど、さっきみたいな勢いはない。

 完全にトーンダウンだ。

 うんこマン、ライフゼロ。便意喪失!

 

「うん、すまん。言い過ぎた言い過ぎた。で、ちょっと聞きたいんだけどな」

「……なんだよ、詐欺師。他に何か言いたいことでもあんのかよ」

 

 言いたいことはあるよ。

 うんこマンって叫びたいよ。 

 

「ああ。竹原、お前さぁ――」

 

 

 俺はあえて軽い調子で言う。

 

 

「ここで魅了されるのと殺されるの、どっちがいい?」

 

「…………………は?」

 

 俺の質問に、竹原は固まった。

 うんこは下痢気味だったけど。

 

 

 

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