「アンタは…」
「自己紹介したいところだけれど、先にあれを倒しちゃってもいいかしら?」
そういった金髪縦ロールの少女はマスケット銃を回すように持ち替えて、周囲に浮かぶ廻喪が蝶鋏と名付けたソレを倒していく。
『……名前の相性と怪異の時じゃないから抑えてたみたいだが、捌咎が倒せなかったアレを意図も容易く……』
『連射を補うだけの銃の生成、さらにリボンで俺達の危険性を回避か、慣れてるな』
華麗に、舞うように戦う少女に対して、敵を倒す力とそれを支える戦術を感心して見続ける二人は、銃撃音を聞き流しその動きに見入った。
「ふぅ、使い魔だからそこまで消費しなかったわね、ここにいても出れないわ、ついてきて」
「ああ、」『使い魔?やっぱ怪異なのか?』
「貴方達、私と同じ見滝原中学校の生徒ね、片方は身長から分からなかったけど」
金髪の少女は、廻喪と捌咎を異空間から出すために先導する。そのなかで見滝原中学校の生徒であることを告げる。
「同じか……」
「私は、見滝原中三年生の巴マミよ、よろしくね」
「それはいいが、アンタ何者だ?」
「自己紹介くらいしろ、二年の銀憑廻喪だ、こっちは鬼灯捌咎」
「銀憑くんと鬼灯くんね、すぐに出してあげるわ」
自己紹介を終えて、薔薇園の中を歩き出す。迷路のような道のりを廻喪と捌咎の二人は興味深そうに見え足しながら巴マミについていく。
「なぁ、やっぱり、怪異だよな?」
「たぶんな、それもかなり特殊な」
「怪異じゃないわ、魔女というものよ。まぁ世間では知られていないから、そらないのは当然よね」
「魔女か……」
「怪異だな」
「ああ」
魔女と言われたのにも関わらず、魔女を、怪異と言う二人はその場の雰囲気を無視するように、魔女の歴史を語り合う。
民間伝承の薬草や占いから始まったそれは、悪魔崇拝者として迫害される魔女狩りへと変わっていく、四から六万人も処刑され、かの英雄、オルレアンの聖女ジャンヌ・ダルクも魔女として裁かれた。
「怪異とは違うと思うのだけど」
否定する巴マミに廻喪は怪異について説明する。
人が科学で理解できない未知を怪異とし、それに名前と形が与えられたのが妖怪なのだと、人が理解できない存在ならば怪異たり得ると言う考えだ。
「なるほどね、でも普通自分から入ろうとは思わないのだけれど」
「怪異に行き合えば、逃れることはできらな、諦めた」
「…今回のことは忘れないさい」
「無理だな」
「忘れなさい、選ばれた人にしかできないことよ、それに怖かったでしょ?魔女もそれと戦う私のことも」
巴マミの自虐の言葉に廻喪は同じ学校に通う人間としてではなく、怪異と相対する専門家として否定する。
「別に怖いとかは思わない、戦闘なんて日常だしな。言葉が通じなければ戦争しかないんだ。名前すらない怪異には話し合いよりも戦争の方が手っ取り早くすむ、それに【魔女】と言ったが、アレが【魔女】と分かっただけで恐怖は消える。【未知】というのは恐怖だがそこに【存在意義】と【ルール】が分かれば瞬時にそれは脅威ではなくなる、人の人類史の成長の方法だ。まっ、今の俺たちが言えるのは二つだな、化け物と相対することを恐怖に捉えるな、成長としろ、もう一つはありがとな、助けてくれて」
「ありがとう……お礼は要らないわ、その言葉だけで十分よ」
想定外の言葉に驚きながらも、その言葉に肩の荷が下りた巴マミは感謝の意を伝える。孤独とは別に魔女と対等以上に戦える魔法少女の力は恐怖の対象だ。それを言葉一つで名前だけで取り払う廻喪の考えは巴マミに大きく響いた。
「帰ったら魔女の歴史だな」
「ああ、共通の弱点を探さないとな」
怪異と相対する専門家は歴史に深い。歴史が怪異を形作る物語であり、噂一つで形が変わる。土地が変われば物語が変わる、故に同じ名前でも少なからずの誤差が生じるのだ。
「魔女だけじゃ足りないな」
「そうか?魔術にまで行ったら分からなくなるだろ」
魔女の歴史は深くも少ない、魔を扱う魔術師も歴史に多く、伝承や歴史だけでなく、神話にも広がっていく。
「マーリン、ソロモン……ああ、メーデイア」
「アルゴノーツの裏切りの魔女か、最期は描かれなかったがそこを見るのもいいかもな」
二人が得意とする歴史からはかなり外れているが、神話まで遡れば魔女などいくらでもいる、それこそ敵として描かれるような魔女が。
「ふぁ………」
「戌の刻か……」
「どうした?」
慣れない歴史を読み漁り夜も更けた頃、捌咎は自分のスマホを見て渋い顔をする。
「臥煙さんからだ……」
「……なんて?」
『やあやあ、二人とも怪異譚になる前の風説がある町で起きているんだ、見に行ってもらえないかい?報酬は今君たちが追っている事についての情報だ、期待してるよ、場所は風見野市だ。
by頼れるおねーさん、臥煙伊豆湖より』
専門家の元締めとして巨大な情報網を持つ臥煙伊豆湖はこの度、専門家二人に声をかけた。断るということも手ではあるが、臥煙ネットワークの重要性を理解している二人は断ることもせずに夜の街へと踏み出す。