「この時間に連絡ということは夜に関わる怪異というわけか、」
「夜の風説、気は引き締めたほうがいいだろ」
私服である和服を来た廻喪と捌咎は風見野市に来ていた。コンビニで買った肉まんを頬張りながら、夜の街を歩いていく。夜に、和服を来たオトナと勘違いできる捌咎と、逆に女と間違うほどの麗人がセットでいる、異様な光景ではあるが人ではなく、二人の手元を見続ける視線が一つ。
「……」『手元の肉まんか……』
廻喪は視線に対して、肉まんを少しずらす、それに連動するように視線が肉まんを追って動く。それを何度か繰り返したあと、向き直る。
「ふっ……」
「え?あっ!」
「食うか?」
「いや、いらねぇ」
「……ほれっ、一つ聞きたいことがある、最近ここらで変な噂が流れてないか?」
噂、それが風説である、噂が怪異となれば専門家の本格的な行動が開始される。それを事前に防ぐのが風説課であり、国に認められた、公共機関にある専門家である。
「いや、聞いたことはないな、噂ってのがどういったものかも分からないから何とも言えないけど」
「そうか、」
「臥煙さんが間違えことってあるか?」
「ない、というより、風説以外に何かある」
「やっぱか」
「何の話だ?」
「ちょっとした仕事の依頼だよ、まぁ知らないならいいよ、俺達はほかを当たってくる」
そう一言、周りの意思など介さずにわかるもの二人が結論をつけて歩き出す、不干渉、それが専門家が行う暗黙の了解、私情で動くものはその限りではないがただ、の普通の人間には何もしないし、何も語らない、それが専門家である。
「なんだったんだ……っ?!」
少女は戸惑いながらもその背中が見えなくなるまで見つめる。ただし、手元にある普通の人間が持たないものが反応する。ソレは人ならざるものを知らせる反応である。
「さすがに貰ったあとでは寝覚めが悪いな」
少女は反応した手元のソレを握りしめ、廻喪と捌咎が進んだ方向へと走り出す。
そして、とうの二人はと言うと。
「あ……やっぱりか……」
「仕事内容が報酬とはタダ働きに近いものだな」
「とりあえず塗壁おいたけど、魔女の殺し方についてだけど」
塗壁、日本の九州北部に伝えられる妖怪の一種。夜道で人間の歩行を阻む壁のような妖怪といわれる、左右に対しての絶対的な壁であり、迂回するという道はない、文字で作られた壁を通して魔女と相対していた。
日本の角をはやした、月を連想させる形の魔女である。
「月に、角、でもって魔女、追加要素からの弱点は?」
「太陽」
「持ってる?」
「ない、」
「……」
「「燃やすか」」
月に角、魔女の魔性、これらから連想したのは怪異として圧倒的な力を持つ王である。この世にいたとされる王の要素は一つもないが、吸血鬼は総じて太陽に弱い、十字架の弱い、流水に弱い、ニンニクに弱い、蹄鉄に弱い、様々な弱点と、それを凌駕する肉体、再生力、物質生成、霧化、飛行、他にも一部地域では人狼も吸血鬼と同一視されたりもする。だが、怪異として半人半妖である二人は太陽に関する力を持たない、だが、あくまで太陽に限定すればということである。太陽から分けられたもの、人が扱えるもの、それは火である。火ならば、ここにいる二人は差し支えなく使え、鬼灯捌咎に関しては、罪を燃やす地獄の業火である。
「焦熱」
「……あっ、」
「どうした?」
「俺達は怪異だよな」
「そうだな、」
「相手も怪異だよな」
「そう……だな、」
「怪異の炎で怪異の王は燃えるのか?」
「……おい、余計なこと言うなよ……」
この会話に関しては、無駄の一言に尽きない、何せ相手は魔女という怪異ではあるが、吸血鬼などではない、吸血鬼が魔女になることはなく、悠久の時から来る死への欲望も死ねないことに対する絶望も魔女となることは無いが、このときの二人には知る由もなく、
ただ、吸血鬼は怪異の王であるため怪異の炎は効かない、故に吸血鬼の魔女には己の技が効かないという余計な武器を増やしてしまったというわけだ。
「伏せろっ!」
「お?」
後ろから響いた声に二人はしゃがむ、その頭上を通るのは鎖の付いた棒、それも三節棍や四節棍なも比にならないくらいの伸縮と自在を誇る槍である、
「やっぱ巻き込まれてたのかよ、さすがに飯を貰ってそれでおしまいには出来ないから、まあ、私は「魔法少女」知ってるのか?」
「見滝原、巴マミ、これで二回目、あとは察してくれ」
見滝原で既に魔女に襲われ魔法少女に助けられていることを伝える、廻喪は魔女からめを離さずに告げる、
「悪い、変な要素があるかもしれん、気おつけて……」
「マジか…」
己の不始末を、だが、巴マミを師に仰ぎ、経験を積んだベテラン魔法少女は、吸血鬼という要素が追加された魔女を圧倒した上で倒してしまう。
「魔法少女知っていることは分かった、なら知っているなら何で関わったんだ?」
自分から、己から、死ぬかもしれない場所に専門家だからという理由だけで廻喪達は進む、それが役目というように、対処法もないというのに、
「専門家だから、」
「私は恩を返すくらいはするが次は助けない」
「ほう、」
「どんな願いも、意味をなさない、なら魔法少女と成った自分に投資するほうがいいだろう、名前くらいは名乗ってやるよ佐倉杏子だ」
名乗りはしたものの、佐倉杏子は過去ゆえか、他人に対する投資の無意味さを理解しているからか、だがそれを知らずに廻喪は答える。
「例えそれが、己の為だとしても、魔女を狩れる専門家は少ないんだ、私利私欲で戦っては欲しくはないが、それでも絶望を振りまく存在は居なくなるだろう?人の役には立っていると言えるんじゃないのかな、まぁ過去を忘れろとかはわん、ただし、元の願いは何だったのか、まず何をしたかったか、それは必要だろ」
「そんなわけないだろ」
巴マミの下から離れ、魔女を狩り続け薄れていた感覚、他人の死に対する認識である、魔法少女が命をかけるものには人が含まれる人、一人よがりに人を助けない人、このように分けられるが、佐倉杏子は後者であり廻喪の言葉はまだわからぬことであった。
魔法少女と人は違う、魔法少女と専門家も違う、では人と専門家はどうなのか。≒ほとんどは同じであり近しい存在ではあるが、根本が変わっている。人が淘汰してきた怪しい事を、科学を持って否定してきた怪しい事を、存在するという考え方をするものは残りづらい。
それでも怪異が身近どころかその身に宿す廻喪と捌咎は自分にも、相手にも投資はしない、過去に投資する、そして一人で助かっているような存在である。
「わかんなくてもいいよ、まぁあの人もここにこさせるのが目的だったみたいだし、貸し借りは幸いなことにゼロだ、俺達は帰らせてもらう」
「さっさとどっか行けっ」
答えが理解できぬまま声を荒げて否定した。言葉は深く爪痕を残して、災いにならず呪となった。
『でも、人助けか、教会の時以外だな』