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「久しぶりね、バーテ」
「相変わらずえっちな衣装着てますね♫」
「は?」
「豊満でありながら引き締まった体。そしてそれを胸元から覆う白い膨張色の布と、対をなし輪郭を覆う黒い収縮色の布が引き立てる。
さらに、その黒い布は彼女の美しい輪郭を強調しすぎたばかりに、腹部の側面を隠すには至らず、白い布だけでなく外の光を浴びて透き通るようなその肌さえも誇示している。
そしてそれを覆う紅のコート!常人では呑まれることを避け得ないこの色は、その抑え切れぬ魅力ゆえに奇跡的な調和をなし──
「ちょっとちょっと、一旦止めなさい!」わかりました♫」
まだまだ続けられたんだけどな〜。
私は今、モンドのファデュイが所有するホテルの中、ファデュイ執行官第八位「淑女」様に会いにきていた。
まあ、淑女様は
「よくそこまで話し続けられるわね…」
「淑女様の美しさを表現するにはまだまだ…もっと続けられますよ?」
「もういいわよ!…随分と変わったみたいね」
「あはは♫こんな私も成長するってことですよ♫」
「…そう」
淑女様は
嬉しかったな〜
もしかしたら、部隊の足を引っ張ってた時の私を思い出してるのかもしれないけど♫
淑女様はこちらに向き直ると真面目な顔をする。
どうやら、そろそろお仕事の話みたい。
「任務についてはどこまで聞いているかしら」
「淑女様に従うって話だけですね〜。暴れるお仕事なら大歓迎ですよ♫」
「今回の仕事は一瞬の拘束だけよ。鎮圧もできる限り静かに。秘匿性と隠密性の重要視される任務だから後の情報は追って伝えるわ」
「うーん、あんまり私には向いてなさそうだけど…どうして私に?強いてあるのは信頼くらい?けど淑女様とは会うのも久々だし…もしかしてお父様から来たお話?」
「…あなたの雷蛍術師としての能力が迅速な鎮圧に向いていただけよ。話はこれでおしまい。任務はもう少し先だから街でゆっくりしてらっしゃい」
「はーい♫それじゃ、失礼しまーす♫」
淑女様のいた部屋の扉を閉じると声が聞こえて来た。
「おい、あいつが噂の…」
「ああ、敵味方構わず襲ってくるイかれた女って話しの…ひっ!」
声の主は少し視線を向けられただけで退散していく。
「…これからどうしよっかな〜」
流石にここで問題起こすのは不味いしな〜
部屋でお薬の改良かな?
けど、施設に揃えてた設備を全部は持ってこれてないからな〜
突然、くらりと頭が揺れる。
「おっとっと」
かろうじて転倒は避けたけど…体調でも崩したかな?
原因を辿って過去を振り返っても何にも…
「あ」
そういえばしばらくご飯食べてないや
とりあえずはご飯かな♫
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ご飯と言ってもモンドに来るのは初めて、土地勘はなし。
まだまだお日様は真上にあるから大通りに行けばすぐ見つかりそうだけど、あんまり人がいるところはな〜
まあ、食べられればどこでもいっか♫
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そんな考えが甘かったのか、小道を通り続けて経った時間は覚えてない。
「お腹空いた…な♫…」
ふらふらと歩きながら店の看板がないか探す。
「…!」
見つけたのは酒場。料理屋ではないけど…多少はあるかな♫
店の扉を抜けると、美しいハープの音色が店内に響いていた。
一瞬その音色に心を奪われ惚けてしまうが、早くご飯が食べたい。視界が霞んできた気さえする。
音の発生源にも目をくれずに端の方にある卓に着く。
「相席させてもらうね♪」
「え?」
ハープを持った少年が目の前の席に座ってきた。
驚きのあまり目を回す。別に急に人が相席したことに驚いているわけではない。
「いつものを一杯!君は?」
少年がカウンターに声を張り上げながらこちらに注文を尋ねてくる。
「あっ、えっ」
言葉が出ない。咄嗟に答えられなかったことに動揺して、より一層言葉がつかえる。
けれど、そのかわりに
ぐー
と腹の音が鳴った。
「アハハ! 適当な料理をお願い!」
少年による注文が終わると、場を沈黙が支配した。
カウンターの方からため息をつくような音が聞こえたが、それきり空気が揺れることはなかった。
少年はニコニコとした笑顔で、それでいてどこまでと見通すような冷酷な瞳で私を見つめている。
(殺される…!)
私の胸中を恐怖が支配し、視界がぼやける。
少年の顔にはっきりと見覚えはない…しかし、その形だけで誰かわかる帽子、こちらを見通すような凍てつく視線は覚えている。龍の足元で弓を構えていた少年だ。
息が詰まる。
その苦しさでようやく薬が抜けていることに気づいた。
早く飲まないと。懐の薬へと手が伸びる。
「まあまあ、そんなに焦らないでよ?」
「ひっ!」
少年が前から私の腕を掴んでその行動を咎める。
「街の外で人に襲い掛かるどころか、街中でそんな薬を使って君は何をしようとしてたのかな?」
「ち、違うんです!」
「ふーん?」
軽い語調とは裏腹にその瞳は冷たい。
掴んだ腕は離されず、私の命が少年の手のひらの上にあるように錯覚する。
街で暴れようとしたと誤解されてる…!確かに私はファデュイだし、今まで多くの人を傷つけてきたし、人も殺したことだってある…けど?…いや…もう…
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
視界が歪む。見えていた景色がぼやけていく。
「あれ?怖がらせすぎちゃった?」
「わたしの、わたしのせいなんです……」
「あちゃー……聞こえてない?うーん、それなら…」
脳裏に浮かぶのは初めて人を殺した日のこと。私が、わたしが─
思考の隙間から音楽が割り込んでくる。
透き通った、それでいて暖かい風が私を導いていく。
気づけば私はあの日の記憶から戻ってきていた。
「〜♪…落ち着いた?」
目を閉じてハープの弦を弾く少年を目に映した私は咄嗟に謝罪の言葉を吐き出す。
「…はい」
「あの、本当にここで暴れようとしてたわけじゃなくて、この薬をいつも使ってるだけなんです」
「どうしてかな?」
「精神への作用が目的で…私がこんななので、そのためというか…一番手に入れやすいのがこれなんです…」
「なるほど、ね。彼女に襲いかかかっていたのもその薬の副作用か」
「はい…」
そこまで話を聞くと少年は何か考え込んだあと、息を吐いた。
「少なくとも街の中で薬を使ってもらうわけにはいかないかな」
「そんな…」
私の生活はこの薬を前提に成り立っている。薬無しでここまで喋ったのは何年振りだろうか?
今更薬なしで…?しかも、任務がいつまでかはわからない。
そんな状態でいつまでも…?
モンドの外で野宿するべきだろうか。けど、いつ任務があるかわからないし、そもそも淑女様の言うことを聞くよう言われているのにそこまで離れては不味いだろう。
淑女様と一緒に野宿を…?
「流石にモンドの民に危険が及ばなければ何もしないけど…薬を飲んだ人が街にいたら街の中にいたら危ないなあ」
「ひゃ、ひゃい!も、もちろんわかっています」
「わかってくれたなら大丈夫だよ♪さて、そろそろ料理も出来たみたいだ」
机の上に届けられるステーキを見つめる。
「食べれるかな…」
──
味も感じられないステーキをなんとか食べ切った私はなんとかあの酒場から脱出することに成功した。
「最後までニコニコしてたな…」
食事中に彼が話したところによると、彼は吟遊詩人だったらしい。
何で吟遊詩人が龍と一緒にいたのか、あの気配は何なのか。
そういえば今日はファデュイの服じゃないのに何で気づかれたのか。
疑問はたくさんあるけど…
『僕のことは秘密にしてね♪』
ステーキを食べ切り、去ろうとした私にかけられた言葉がよぎる。
…気にしないことにしよう。
実際どうしようか。やっぱり野宿は厳しいし、そもそも任務で人を傷つけることはあるだろう。
…いや、人を傷つければ自分に返ってくるのは当然か。
一応危険そうな人物として報告して、それ以上はどうにも「おい、あんた何してんだ!」
突然後ろから声をかけられた。
「ヒっ!私は何もしてませんよ?」
「何惚けたこと言ってんだ!あれを見ろ!」
男の人は指で空を指す。
その先には…
「龍!?それと人間…!?」
「風魔龍が襲って来たんだ!あんたも早く逃げろ!」
「はい!…あ、ありがとうございます…」
「礼はいいから早く逃げとけ!」
そう言って男の人は走り去っていく。
慌てて私もファデュイの拠点へと駆けていった。
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なんとかファデュイの拠点に辿り着き、自分の部屋に入った私は先ほどのことを思い出していた。
「風魔龍…」
龍が危ないらしいという話は聞いていたけど、本当に国を襲ってくるとは思ってなかった。
というかそれを追うように飛んでいた人間はなんなんだろうか…とてもじゃないが正気とは思えない。今思うと服の形も変だった気がする。
「けど、見覚えがあるような…?」
まあ、見たことがあったとして私がその誰かと関わりを持つこともないだろう。
ウェンティの演奏は、夜叉の業瘴をも和らげられるそうです。
また違った方向性ではありますが…薬の効果を消すくらいはできるでしょうね