お薬鬱々雷蛍術師ちゃん   作:降臨してない異邦人

5 / 8
バーテちゃんの過去を語りたい。


苛々雷蛍術師ちゃん

 

 

──────

── ─ ─

  

「おかあさん…?」

 

 地面に落ちた服に手をつく。

 それは水溜まりの上にあって、びっしょりと濡れている。近くには割れた試験管が転がってる。

 

 

「どうして?」

 

 目の前の光景が理解できず。服を持ち上げてその下を見るのを繰り返す。何度見てもその下にあるのはただの水溜まりだ。

 

 何もわからないけど、原因だけはわかっていた。

 

「わたしのせいだ」

 

 手が震えている。

 机の上の試験管置きに刺さった試験管の一本を掴む。口元で傾けられたそれから中身が喉に流れ混んでいく。

 

「どうして?」

 

 目に見える変化はない。

 

「どうして?どうして!?」

 

 並んだ試験管の中身を片っ端から乱暴に飲みほしていく。

 

「わたしが…悪いから?」

 

 水溜まりの水面が揺れているのが見える。

 

「は、はは」

 

 おかしい、可笑しい、笑える。

 

「あはははははは─

 

─ ─ ──

──────

 

「はあっ、はあ、はっ!」

 

 荒い呼吸であたりを見回す。

 

 ホテルらしい壁。木目調の机に、その上にはまだ置いただけの調薬器具。そして自らの乗ったベッドを見る。

 

「ふうっ、ふうっ、すー、はあ」

 

 現状を理解し、自らに納得させる。

 

「久々に見たな…」

 

 昔の記憶を鮮明に映し出した夢。

 

 それは私を酷く─()()させる。

 

「私は覚えてる。忘れてない」

 

「私は悪い。薬を使ってなくてもファデュイなのは変わらない。何も変わってない。忘れてない。」

 

 安心は不安があったことを示す。それから身を背けるようにベッドの上を出る。

 

「…そうだ」

 

 前日のことを思いだす。

 

 結局怪我や風邪を治すための薬草しか見つけられなかった私がホテルに戻ると淑女様からの指示があった。

 今日の夜の任務についてだ。端的にいえばモンドの教会に所蔵された楽器の窃盗。

 隠密を重視しての一人での任務。私はブリンクできる距離も人より長いから撤退もしやすいし簡単な仕事だろう。

 

  

 机の上に置かれた器具を使い、霧虚ろの草やその他複数の材料を合わせ、薬を調合して行く。

 普段は少しずつ調合を変えたり新しい材料を試したりするのだが、今回は最低限しか持ってきていないので作業は短めだ。

 

 できたものを確認したあと、雷蛍術師として持ち歩くランプに詰められた雷蛍の様子を見る。

 

 特に薬を飲んでおらず、邪眼も使用していない状態では、集めることも操ることもできない。

 

 あれは薬だけでなく、元素力の性質を利用した技術。

 

 元素力は情報、意思の方が近いかもしれない、を保持する性質があり、物質を情報化したり、逆に保持した情報を物質化できる。スメールの缶詰知識、稲妻にある転送装置のようなものはこれを利用していた。魔神である七神が人間の体を持つのもこれの応用かな?

 この性質を利用して、雷蛍を操ったり、雷蛍術師に限らずワープの真似事ができるわけだ。

 こういうことを実験したり調べるのは楽しい。

 

…楽しい?

 

 違う、そんなわけはない。これは雷蛍術師としてファデュイにいるために調べただけだ。私は悪で、罰せられるべきで、そんなことあっちゃいけない。

 

 その時、机の上の薬が目に入る。

 

「ああ、霧虚ろの草の匂いで高揚していただけか。そうだよね、そんなはずないもんね」

 

 出来上がった薬を水で流し込む。

 

 どうせ今日の夜使うんだ。それまで街へ出なければ問題ないだろう。

 

「ふ〜〜♫」

 

 脳に薬が染み渡って行く。世界が色づいて行く。

 

「夜まで何しよっかな〜」

 

 薬を作るための器材しか持ってきてないからできるのは…邪眼の調整くらい?

 

 紫色の邪眼を輝かせ、開いたランプから一匹だけ雷蛍を出す。

 

 くるくると回らせたり星を描かせたり、適当な軌道で飛ばせる。

 

「調子は上々かな〜♫」

 

 ランプから一つ、二つと紫色の光が合流し、部屋は紫色に染まっていった。

 

────

 

「さむ〜」

 

 確か南の方に雪山があるんだっけ?もう春なんだけどな〜

 今いるのは西風大聖堂の地下。お仕事はここにあるハープを盗るだけ。

 

「なんだか興醒め」

 

 地図もわかってたし、警備もざるだし、退屈すぎてちょっとイライラしてきたかも。

 

 変わらない壁、情報通りの防備。わざわざ雷蛍を先行させるのも馬鹿らしい。

 

 視覚を共有していた雷蛍を戻す。これも研究の成果だね♫

 

 

──

 

 

「ほんとにあっさり」 

 

 あんまりにも楽だったから、偽物なんじゃないかと手に取ったハープをまじまじと見る。うーん、少なくとも聞いていた通りではあるし、私にはわからないや

 

「ま、いいか♫」

 

 とりあえず今は帰って報告を─

 

「待って!」

 

 突然声をかけられて振り返って止まってしまう。

 

 いや、振り返ったのは声をかけられたからだけど、止まった理由はそうじゃない。

 

 普通ならそのままブリンクで逃げてた。多少疲れるけど…流石の私でも任務の方が大事だもん。

 

 その理由は─

 

「バーテ?」

「蛍さ…蛍」

 

 まじまじと顔を見られたら流石に気づかれちゃうか。

 

「お前…!」

 

 固まった私たちの横、ローブで私の顔が見えてないパイモンが怒りだす。

 

 周りを見たらウェンティもいる。

 これは、まずいかも。

 

「こんばんは♫三人はこんな遅くにデート?素敵な趣味してるんだね♫」

 

 恐怖を溢れる昂りでぐちゃぐちゃにして話しかける。

 

「バーテ、それは大事なものなの。渡してくれない?」

 

 ウェンティは静かにこっちを見てる。様子見って感じかな?

 

「あは♫蛍ちゃんはまだ私のことを子供だと余ってるの?私は泣く子も黙るファデュイの雷蛍術師だよ〜?」

 

「おい、旅人…あいつ…」

 

 蛍はパイモンの言葉を手で止める。

 

「バーテ」

 

「…なぁに?」

 

 …静かな声。

 敵への怒りも、幼子への憐みもない。けど、鋭い。

 

 その言葉に聞き入ってしまう。

 

 

「あなたはそれでいいの?」

 

 

 蛍にお父様の姿が重なる。

 

「あはは!」

 

 冷たいようで優しい。

 会って間もない彼女の言葉は私に染み入ってくる。

 

 

「あなたに言われる筋合いはない」

 

 

 不快だ。

 

 幻影は掻き消え、構えを取る蛍にできる限りの雷蛍をぶつける。

 

 剣では対処しきれず、風では飛ばないほどの密度。

 

「おっと」

 

 それが旅人のものより強力な風で吹き飛ばされる。

 

「僕のことも忘れちゃ困るな?」

 

 他者の存在を思い出して思考が戻った。

 

「ちょっと遊びすぎちゃったかな♫ブリン─がッ!?」

 

 剣の腹で横殴りにされて壁に打ち付けられ、手に持っていたハープが地面に転がる。

 

「戦いの最中に気を逸らしすぎだよ」

 

「…いつも虐めているけど、私が虐められるのは初めてかも♫」

 

 やろうと思えば叩き切れたはず。わざわざこうしたのは情報を吐かせるためかな

 

「…虐めるわけじゃない。バーテに聞きたいことがあるだけ」

 

「アハ♫それなら変わらないじゃん。何々?蛍ちゃんにならなんでも教えてあげちゃうよ〜?」

 

 ここまで見られていて派手なことはできない。

 けれど、ブリンクの本質は情報の送信。送る元素力はほんの少しだけでいい。

 

「どうしてこんなことしたの?」

 

「アハ♫またそれ?今日はお仕事。一応言うと前回のは近くにいたから狙っただけだよ♫」

 

「…昨日のバーテの涙は偽物には見えなかった。それは、ファデュイにいたからじゃないの?」

 

 不快だ。

 

「ア、ハハ♫まさか、そんなわけないじゃん♫私が悪人なだけだよ」

 

 怒りを噛み殺してグッと堪える。今はまだ、その時じゃない。

 

「バーテ─

 

「あら、随分ゆっくりしてるじゃない」

 

 ビリッ!

 

 一瞬意識が逸れた瞬間、直接雷元素を当てる。

 

「ッ!」

 

 蛍の体が痺れる。

 

 その隙に立ち上がり声の主の方へと体を向けた。

 

「直接来てくださったんですね♫」

 

「気にしないで頂戴。私は目的のものを見に来ただけだもの」

 

「淑女…!」

 

 ここまで静かにしてウェンティが声を出す。

 

「あら、()()()()()()()()に知っていただけているとは光栄だわ。それじゃあバーテ、帰るわよ」

 

「はい♫」

 

「待って!」

 

「どうしたのかしら?ネズミさん達。今日のところは見逃してあげる。その楽器も持っていっていいわよ?」

 

 言葉とは裏腹に部屋が冷気に包まれた。

 まるで、これ以上は続けさせないと言うかのように。

 あっ、パイモンが「お前らも盗みに来たくせに…」って言ってる勇気あるね♫

 密室っていうのもあるけど淑女様がその気になったら簡単に氷漬けにできちゃうじゃないかな♫

 

「バーテをどうするつもりなの?」

 

「…ふふ。優しいのね。流石は龍をも退けた栄誉騎士様ってところかしら」

 

「答えて「黙ってよ」っ」

 

 突然に雷蛍ぶつけられて痺れた蛍が体勢を崩して地面に転がる。

 

「私は私の意思でファデュイに所属してるの。何度も言わせないで、あなたに何も言われる筋合いはない」

 

 沈黙が部屋を包む。

 冷えた部屋がより一層凍えた気がする。

 

「淑女様♫行きましょ♫」

 

「…ええ、そうね」

 

「…」

 

 

 地面に伏せた蛍の瞳はこちらを向き続けていた。

 

 

 

 

 




バーテちゃんそんな怒り方するんだ…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。