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── ─ ─
「早く早く♫」
「ちょっと待ってください!お姉ちゃん!」
「アハッ♫あっちまで競走だよ♫」
「もう……止まってください!!危ないですよ!」
「えっ何!?……???」
「じゃあ先に行きますね」
「それはちょっとずるくない!?」
「二人ともあんまり遠くまでいっちゃダメよ〜」
昔、私には姉がいた。
まあ姉と言っても血縁関係はない。
元々の私の両親は違法な研究で二人とも捕まってしまった。
親戚のうちで誰も引き取り手がいなかったところをお母さんが受け入れてくれた。
以前の両親とは違う、優しい親だった。
───
「何してるの?」
「何って、実験ですかね。元素を誰でも使えたら面白く無いですか?」
「そうかな?できてるのはネズミの死骸の山みたいだけど♫」
「…はあ。雷元素を纏わせても、その元素で焼け焦げてしまうんです。量の問題かと思いましたが、やはり晶蝶のような一番の生物が特別なのですかね…構成する物質の特性でしょうか…しかし…」
「……」
「あ、お母さん♫」
「帰っていたんですね、おかえりなさい」
「ただいま…バーテ、悪いことはしちゃダメだからね」
「?はい」
お母さんは夫を早くに亡くしているらしい。
お母さん一人では二人を養うには足りなくて、遅くまで働くことが多かった。
お姉ちゃんは友達と遊んでいることが多かったけど、私はよく一人で実験をしていた。
以前の両親の手伝いでよくしていたし、器具はそのまま引き取ったものがある。
今思えば、かつての両親の思い出に縋っていた一面もあるのだろう。
お母さんはたまに不安そうな目を向けていた気がするけど、元の両親が違法な研究で捕まったことを考えれば当然だった。
───
「どうして…あの子が…」
「…」
「バーテ…あなたは人を傷つけるような悪人にだけはなってはダメよ…」
「はい」
お姉ちゃんが居なくなってからお母さんは笑わなくなった。
口を開けばいつも「悪人になってはいけない」と言う。
それは正しい懸念だったんだろう。
───
「この成分は…少し、ロシに似ていますね」
お姉ちゃんが最後にいた場所、そこに不自然に残された水の成分を分析していた。
特に理由はない。私が悪かったわけでもないから責任はないし、本当に気になっただけだ。
結果として、その成分に私は見覚えがあった。
かつて両親が作ろうとしていた薬物と同じものだ。
あの頃は言われたことをやらなくちゃいけなくて、好きに調べられなかった。
良い機会だと考えた私はその分析に没頭していた。
それが、私の守るべき唯一の教えに反するとも思わずに。
───
「お母さん」
「バーテ?どうしたの?」
「凄い薬ができたんです。できればお母さんに使ってみて欲しくて…」
「…大丈夫なのよね?」
「大丈夫ですよ!動物実験もたくさんしましたし、私が飲んでも大丈夫でしたから」
「わかったわ─
「え?」
お母さんが口に含むと同時に、その体が水へと変化していく。
まるで、あるべき姿へと還っていくように人の形が崩れていく。
誰も言葉を発する暇もないほどに一瞬だった。
それは私が「
─ ─ ──
──────
「バーテ!」
大きな声で叩き起こされる。
「…?」
「淑女様から招集がかかっている!早くしろ!」
頭が現実に戻ってくる。
言葉を理解し、迷いなくいつもの薬を服用しながら最低限の支度を済ませる。
「準備できました♫」
「ふん、ついてこい!」
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まだひんやりとした朝の空気が肌を刺す。
「…」
上官はずんずんと肩を揺らしながら進んでる。
曲がり角の度に私を見る目はやけに鋭い。
ちょっと険が強いんじゃないかな〜?
…。どうでもいっか♫
「これで全員集まったみたいね」
辿り着いた薄暗い路地に真紅の衣が映える。
「あなた達のやるべきことは作戦目標の周囲の人間の無力化。作戦目標は私がやるわ」
「「「は!」」」
「は〜い♫」
淑女様が言うにはあの吟遊詩人から神の心とかいうのを回収するらしい。 何なのか詳しくは知らないけど…説明がないってことは聞くなってことかな?
ま、あくまで私たちの仕事は拘束。あの吟遊詩人は恐いけど、淑女様ならなんとかできるでしょ♫
淑女様は悪い人じゃないし、今回も簡単かも?
「それじゃあ、行くわよ。今回の作戦は大事にしないことが大前提。行動には注意を払いなさい」
────
教会前、淑女様の邪眼の輝きと共にあたりが凍てつく。
「!?バーテ!?」
対応のできていない旅人を痺れさせる。
「お仕事だから、静かにしてくれるかな♫」
雷蛍で囲いつつ私は離れ、万が一にも攻撃されないようにする。
傷つけ、奪う。それが
…おっとっと、変なこと考えちゃった♫寝起きで飲んですぐだから効きが悪いのかな♫
淑女様は吟遊詩人と会話をしている。まあ、淑女様は良い人だし、そこまで悪いことには─
─淑女様の手が吟遊詩人の胸を貫こうと近づき─
「!?」
それは一瞬のことだった。
淑女様が雷に痺れ、その制御が乱れた隙に吟遊詩人は氷を破り、両者は距離を取る。
「「「…」」」
場の人間は状況を探ろうと目を動かし、やがてそれは私に向けられる。
「え、あ、違、淑女様が… 殺す筈なくて」
「だからこんなやつに任せるのは反対だったんだ!」
淑女様の隣から炎の弾丸が撃ち込まれる。
「おっと、僕のことも忘れちゃ困るな?」
しかし、それは風によって弾かれた。
「…!?」
「お礼は一杯で良いよ」
吟遊詩人がこちらに向かってウィンクをする。
「何!?」
銃声に気づいたのか、教会の中から声が聞こえてくる。
「おっと〜?すぐ逃げなきゃ人が来ちゃいそうだけど大丈夫?」
ニヤニヤとした笑みの吟遊詩人…そして、淑女様は
「チッ!調子に…乗るな!」
あたりが炎に包まれる。
憎悪と憤怒が混ざりあったように暗く濁った炎がこの場にヴェールを落とす。
その炎の強さに私は思わず目を瞑った。
「…!!!」
目を開けると、淑女様の腕が吟遊詩人の胸を貫いていた。
私が恐れ、拒んだ光景が目の前に広がっている。
「はあ、手間がかかったわね」
すぐに腕を引き抜いた淑女様は振り返ってこの場を離れていく。
「淑女様─!」
その背に駆け寄ろうとした私の足が止まる。
…いや、止められた。淑女様の氷によって地面へと縫い付けられている。
「バーテ…!」
氷が体を下から覆っていく。
「っ!」
「…いえ、殺したらアイツがうるさいかしら」
「ちょうど良いわ。あなたはファデュイ追放よ。せいぜい平和に暮らしなさい」
「え…?」
視界が歪む。
「早く行くわよ。ここまで派手にやったから時間がないわ」
「「「は!!!」」」
「待って…」
私は