とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件   作:キラトマト

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第8章 旧天地、上陸す。

 

 ────誰にでも、救われる権利はある。しかしこの世界には、救われるべき者が多すぎた。

 

 ペトラ橋のたもとに立った瞬間、賢人の喉がひりついた。視界を埋め尽くす無数のゾンビ。それはまるで──腐肉でできた黒い荒波だった。

 

「ははっ、こりゃまたゾンビの宝石箱ってところか」

 

 橋に辿り着き、賢人はみんなを和ませようと冗談を言ったが、洒落になっていない。

 

「冗談を言っている場合ではありません賢人さん。この量……突破できると仰っていましたが、本当にできるんですか? 今なら引き返しても責めたりはしませんよ」

 

 百喰の声は震えていた。握ったアサルトライフルの先端がわずかに揺れている。

 

「そっちのが冗談。もちろん少ない方がありがたいけど……このくらいは予想してました」

 

 賢人は内心ヒヤヒヤしているものの肩をすくめてみせた。

 

「ですが、この量は……突破できると?」

「できますよ。ね、師匠!」

「は? なに急に振って……ってその呼び方やめてって────」

「ほら! 喧嘩は後! ポートラル、出撃!!」

 

 アドの声によって、張り詰めた空気が一気に裂けた。その瞬間────ゾンビの波面が、うねった。

 

「物語の結末は、俺が決める! ……なーんてね」

 

 賢人が剣を構え、走り出した。次の瞬間、背後から腐肉の影が跳びかかる。

 

「なーにカッコつけてんのよ!」

 

 来栖崎が横合いから蹴り飛ばし、賢人を押し出した。

 

「うわっ!? ちょ!?」

「ちゃんと前見なさいって言ってるでしょ!」

「ごめんそしてありがとう来栖崎さん!! このお礼は終わってからで!!」

「はぁ……」

 

 やれやれ、といった風に来栖崎はため息を着く。そして賢人は再び前へ走る。癒封剣が風を切り────瞬間、白い炎が爆ぜた。

 

「燃えろッ!」

 

 癒封剣の白い光は腐敗した肉に触れた瞬間、溶かすように侵食していく。それを見て賢人は確信する。この光は、邪なるものを排する効果があると。そして橋の縁から礼音が弓を構えた。

 

「背後の敵は気にするなッ! 皆の背中は、私が預からせてもらう!」

 

 射出された矢は、ゾンビの眉間へ正確に吸い込まれていく。賢人が心の中で悲鳴をあげつつ、来栖崎の背中を追う。

 

 前線、そのさらに前。甘噛はトンファーを高速で回しながら、ほとんど呪文のように呟いていた。

 

「この戦いが終わったら賢人様とイチャイチャ……この戦いが終わったら賢人様とイチャイチャ……」

「何言ってんの甘噛さん!? 戦って!?」

「戦ってますわよ! この心の支えで!!」

 

 トンファーがゾンビの顎を砕きながら、甘噛は必死に叫び返した。姫片は鎌を振り抜き、大型変異種を押し返していた。やちるは電磁ブーツで空中へ跳び上がり、蹴りで敵を弾き飛ばす。

 

「ほらよ化け物! 私のやちるに近づいてんじゃねぇぞ!」

「栗子、もっと冷静に戦うべきだと思う……」

 

 百喰は震える手で銃を撃ちながら、必死で仲間の背中を追った。

 

「はぁ……はぁ……誰も……倒れないで……」

 

 彼女の声は風にかき消えたが、その願いだけは確かに戦場に残った。

 

 癒封剣が弧を描いた瞬間、白い炎が、花びらのように戦場へ散った。ゾンビはその炎に触れた途端、肉が弁解の余地もなく溶かされ、灰のように崩れ落ちる。賢人は息を呑む。混沌の中、その炎だけが“静寂”だった。焼ける音もない。臭いもない。ただ音も温度も奪う聖なる白い炎。

 

 ────そのときだった。

 

「くっ……!」

「来栖崎さん!?」

 

 賢人が叫ぶ。来栖崎が足を滑らせ、白炎の渦へ倒れ込んだからだ。

 炎が彼女の身体を包み込む。肉がただれる音を覚悟した。だが……何も起きなかった。来栖崎は目を見開いたまま、炎の中で息をしていた。

 

「触ってもいいか?」

 

 白炎の縁に手を触れたのは礼音。炎は確かに礼音の手を包み込んでいるのに、全く熱くないのだ。それどころか、疲れが取れていくような気もしてきた。

 

「……この炎は、疲れも取るのか」

 

 賢人は息を吸い込み、胸が熱くなる。次の瞬間、彼は声を張り上げた。

 

「皆さん! この白い炎は人間には無害です! 気にせず突っ込んでください!」

 

 その叫びを皮切りに、白炎の中へ戦闘班が躊躇なく踏み込んでいく。白は彼らの影を焦がさず、ただ敵だけを裁いていった。そして戦闘班は、どれだけでも戦えるような気がしていた。

 

 ────どれほど戦ったのか。数十分か、数時間か。感覚がすべて麻痺していた。

 

「ッ……はぁっ……! 終わり!?」

 

 賢人の前で、最後の一匹が橋から転げ落ちた。静寂。その頃にはもう、肉の腐った匂いは無くなっていた。

 

「ペトラ橋攻略作戦……大成功だ!!」

「いやったぁぁぁあああ!!」

 

 賢人の咆哮。次いでアドが来栖崎に抱きつく────が。

 

「来るな」

 

 来栖崎の鉄拳がアドの顔面に炸裂し、彼女は地面へ転がった。

 

 

 

 

 

 ついに彼らは渚輪区本島へ足を踏み入れた。白い炎によってとれた疲れは戦闘が終わると共にドッと彼女達の体を襲う。

 

「はぁ〜……この疲れ、とても苦しいですわね」

「あぁ……まさか副作用があるとは……思わなかったよ」

「それだったら早速! 探検しよ探検!」

「おいおい、接続詞が繋がってねぇぞ。少しは休ませろってんだよおもらし姫」

「は? 私の十分の一の働きで疲れたの? 粉物なの? 死ぬの?」

 

 来栖崎の的確な煽りに姫片がキレ散らかす。

 

「クリコじゃねぇリツコだっつってんだろ!!」

「栗子それ認めたようなもの……」

 

 やちるの静かな指摘が、戦場後とは思えない空気を生んだ。だが街の様子はその空気を一瞬で奪う。

 

「……ボロボロだ……」

 

 賢人の呟きは、重く地面へ落ちた。瓦礫。焼け焦げた家。人の残骸らしき影。全て現実のもの。渚輪ニュータウンよりも更に酷い惨状に、彼は思わず目を覆う。

 

「大きな爆発が、この付近であったらしい」

 

 礼音の言葉に、賢人は息を呑む。

 

「行ってみるのも一手だが……場所が分からんな」

「なら次は! 工業地帯だよ!!」

 

 遠足に来ているかのように元気ハツラツと言うものだから、自然とやる気が湧いてくる賢人たち。

 

「んーじゃ、行くとするか……」

 

 ポートラル一行は工業地帯への道のりにある広末駅を通る。

 

「……またこいつらかよ!?」

 

 駅前には数十体のゾンビ。そして中央には巨大な変異種。その刹那────来栖崎が静かに右足を踏む。

 

「どんな敵でも……斬るだけよ」

 

 風が裂ける。次の瞬間、来栖崎の刀が閃き────変異種の首が宙を舞った。それを見た賢人は息を呑む。

 

「行っくよ!! ヒサギンに続け〜!!」

 

 アドの号令、賢人が癒封剣を構え前へ駆ける。癒封剣の光が腐敗を抉り、仲間たちは連携して敵を押し切る。

 

 そして駅の中へと飛び込んだ。

 

 

 

「この感じ、すたんどばいゆー、みたいです」

 

 線路を歩き、工業地帯に向かう中、ふとやちるが呟いた。

 

「ん? 何それ?」

「随分と古風な映画を知っているんだな豹藤君。100年以上も前の映画だろう」

 

 そう言う礼音も知っているようで、映画のあらすじを話し始めた。

 

「少年たちが、死体を探しに線路を進むというジュブナイル映画なんだがな、それが今の私たちに重なったのだろう」

「死体!? え、ホラーですか?」

「確かに原作者はホラー映画の原作小説なども書いていたが、これはホラーではない。ジュブナイルというのは青春という意味があるのだぞ神川君」

 

「青春……確かに思春期だと突飛なこともしますしね。でも死体って聞いてびっくりしましたよ」

 

「死体……か」

 

 突然、礼音がどこか遠くを見る目に変わる。

 

「どうしたんですか礼音さん?」

「いや、少し嫌な記憶を思い出してしまってな」

「なんですか?」

「────私は隣人に殺されかけたんだ」

「え……?」

 

 悪い、先に行っておいてくれ。と、礼音は皆に呼びかける。賢人と礼音は段差に座る。

 

「あの日からの14日間、樽神名君が台頭するまでの間、私は、いや世界は地獄を見たんだ。蔵に残っていた米。それを巡って……人が、人を襲う光景を見た。理性も羞恥も失った、獣の群れだったよ」

 

 風が止まり、線路の上の二人だけが別の空間にいるようだった。

 

「目先の食料より健全な身体を優先した私は何とか逃げ延びたが、そこからも地獄だった」

 

 それは、賢人がこの世界に来るまでの惨憺たる現実。それはヒーロー譚ではない。

 

「何とか逃げ延びた私は、その他の生存者と共に束の間の安息に浸っていた。だが、そこでも食糧が尽きた。そして彼女たちは禁忌を犯したんだ」

「禁忌……?」

 

 礼音は一度だけ、かすかに喉を鳴らした。吐き気を堪えるように。

 

「あぁ、初めはゾンビを食べた。そして食べても感染することが分かると次は……」

 

 その先の言葉は、風が奪った。

 

「……いや、言わなくていいです」

 

 賢人が遮る。

 少年の顔ではなかった。誰かの“痛み”を受け止めようとする表情だった。

 

「そこで出来た友人同士が殺し合う様子を私は黙って見ていることしか出来なかった。そしてまた逃げ出した私が出会ったのが樽神名君、という訳だ。彼女は『生存組合』を制定し、条約も定めた。コンテナは1番最初に触った生存組合のものという『コンテナ争奪条約』。樽神名君の功績は大きすぎるものだ」

 

「あのアドが……」

 

 礼音は苦笑する。

 

「君は樽神名君を軽く見ているかもしれないが……まぁ普段の醜態だけを見させられていれば仕方ないな」

「本当……なんですか」

「『平和とは戦争の存在体系の変化に過ぎない』『敵がいるから組織は団結するし、悪が蔓延るから正義が憚る』『もし世界がひとつになったら、自堕落で滅亡しちゃうよ』」

 

 突然、アドの口調を真似て話す礼音に、彼は困惑を隠せない。

 

「全て樽神名君の言葉さ。『生存組合』を作った日のな」

「アドさんがそんなことを……」

 

 アドの本質────それはただの無邪気でも、ただのバカでもない。"地獄"を知った者の、苦い理性だった。礼音はスクッと立ち上がり、賢人を見た。

 

「さ、随分と離れてしまっているぞ。急ごう」

 

 少し早歩きする礼音。賢人は足を止め呼びかける。

 

「あ、あの!」

「なんだ?」

「前、大感染の日のショックで20歳からの記憶がないって言ってましたよねっ。だったらっ、皆で楽しい思い出作りましょうっ! それで、あんな辛い記憶、上書きしちゃいましょう!」

「……頼もしいな。君は、本当に」

 

 そう言って先を急ぐ2人。

 

「遅いよアヤネルもケンティーも! 何話してたの?」

「何、ちょっとした昔話さ」

「ちょ、甘噛さんそんなにくっつかないで下さい?」

 

 またもや妬いているように振る舞う甘噛と、やれやれと言ったふうに頭を振る来栖崎。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全員がどうにか到達した時、アドが大声で叫んだ。

 

「ふっふふー! ゾンビっちの群れ越え山越え谷こえて! 着いたぜ工場タウン・ウィズ・港ォッ!! あたし海が見たいぞ!!」

 

 場違いな声が、壊れた工場に反響した。その明るさが、逆に不吉だった。工業地帯の闇はまだ知らない。ここで賢人の“限界が書き換わる”ことを。

 

 ────工場の中、誰ももいないはずの薄闇。そこで確かに、誰かが息を潜めていた。

 

「……助けて」




感染×少女 第一部 第十三章 章タイトル『旧天地に上陸す』より

Tips.ゲームシステムを詳しく説明すると、感染ゲージと呼ばれる、敵の攻撃やプレイヤーの操作で上げられるゲージを使い、スキルを発動するのが主な戦闘手段だぞ。

まだ変身しないの?
いやまじで脱落者いるでしょ仮面ライダーなのに変身しなくて
玩具売上悪そう
それな。てかよく一般販売出来たよな
唐突の過去回想w
アドってもしかして傑物?
今のところ俺らの知ってる日本でてきてないよな?
多分そう。今んとこ出島だけ

神川賢人のキャラが好きか

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