とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件   作:キラトマト

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第10章 癒の剣士、そのはじまり。

 沙織の喉が潰れ、かすれた悲鳴さえ形にならない。

 沙南の小さな手は虚空を掴むように震え、世界は今まさに終わろうとしていた。

 

 賢人は走る。なのに、足はまるで泥に沈むように重く、前へ進まない。胸が焼けるほど苦しい。たった数メートルが、永遠に縮まらない。怪物が握る包帯めいた線が、沙織の首を吊り上げ、その身体に残された命の残量が、砂時計の砂のように落ちていく。

 

 思いを貫く事さえ、自分を信じる覚悟すらもその怪物の前では無力だった。

 

「────やめろ……やめてくれッ!!」

 

 怒鳴り声は、自分のものとは思えないほど掠れていた。

 

「……ぉれに……力を……っ……くれ……」

 

 祈りでも、願いでもない。賢人が生まれて初めて吐き出した、限界を書き換えたいという絶叫だった。白い炎の剣を握る。しかしその火は、風に揺らぐ蝋燭のように弱々しい。

 

「癒封剣……波癒……!!」

 

 力を込める。震えた声が、涙に濡れていた。

 

「頼む……頼むよ……!! 今じゃなきゃ……嫌なんだ……!!」

 

 何も起きない。ただ、世界の音がひとつずつ消えていく。呼吸も、風も、仲間の声も、怪物の唸り声さえ遠ざかる。

 

 残ったのは────。

 

「……誰か……ぉねぇちゃんを……たす……けて……」

 

 沙南の、小さく震える声だけだった。

 

 その瞬間、賢人の脳内に溢れ出したのは存在するはずのない過去。沙織の脊髄が引き抜かれ死に、そして"戦えない"自分の無力さを噛み締める記憶。

 

 ────賢人の胸の奥で、“何か”が決壊した。怒りでも、恐怖でもない。もっとずっと深い、『もう誰も悲しませない』という、ただひとつの願い。

 

 白い炎がぱちん、と音を立てた。次の瞬間、賢人の手の聖剣が光の粒から形を成した。鞘に自然と収まる構造を持ち、まるで「待たせたな」と言わんばかりに震えている。

 

「え……? ────いや違う」

 

「師匠ごめん!」

 

 来栖崎の刀を怪物に投擲する。金属音が響き、弾き返される。怪物の視線が賢人へと向いた。恐怖が、胃の奥を掻きむしる。

 

 ────されど、その全てを噛み潰すように、賢人は叫んだ。

 

「────見てろよこの化け物!」

 

 震えていても構わない。泣いていてもいい。格好悪くてもいい。

 ただ一つだけ、絶対に譲れない言葉があった。

 

「この物語は、俺が書き換える」

 

 賢人は、ソードライバーを腰に当てる。

 

『────聖剣ソードライバー』

 

 その宣言は“装置の音”というより、

 むしろ賢人という存在を認識した、誰かの声に近かった。

 

 ────次の瞬間。賢人の手に本が現れた。

 

『エナジーユニコーン』

 

 白い装丁。一角獣が書かれた表紙。触れた瞬間、胸の奥で痛みのような熱が走る。でも、それで終わりではない、まだやらなければいけないことがある。賢人は本を開く。

 

『〜かつて、全ての生物を癒した、一角獣がいた〜』

 

 朗読音声は厳かで、どこか悲しげだった。賢人は震えながらも、その本を右のスロットに挿す。白い光が帯電し、聖剣が鞘の中で震えた。

 

『波癒抜刀──!』

 

 賢人は剣を引き抜く。

 

 ────その瞬間、白い炎が弾けた。ただの火ではない。ぬくもりそのものを具現化したような炎。それは“癒し”の概念をそのまま燃やしているようで、他の炎とは決定的に違う波長を持っていた。

 賢人は震える声で、しかし誇りを込めて言う。

 

「────変身!!」

 

 白炎が賢人の頬を撫で、彼の身体を包む。

 ページが覆い重なり、装甲へと変わる。右半身には純白のパネル。肩には一角獣の意匠。ローブが風もないのに揺れる。

 

『エナジーユニコーン!! 〜波癒一冊、完全生物と、癒封剣治癒が交わるとき、癒しの力が、仲間を救う!』

 

 最後の文言が読み上げられた瞬間、賢人はかつてないほど強く呼吸ができた。それはヒーローへの憧れでも、戦う才能でもなかった。 助けたいという想い。それこそが賢人を変えたのだ。

 

「うごぉ……」

 

 怪物は賢人を脅威と判断し、唸り声を上げながら襲いかかってくる。

 

「おっしゃ来い……!!」

 

 賢人の声は震えていた。それでも迷いはなかった。怪物が包帯の線を鞭のように振るう。その軌道は空気ごと切り裂き、殺すための速度だった。

 だが彼は一歩踏み出す。白い炎が足元に渦巻き、踏み込みの瞬間に爆発的に加速した。

 

 白い残光を引きながら剣を振り抜く。怪物の腕が、弾けた。

 

「……よし!」

 

 明らかに今までとは威力が桁違いだった。しかし身体は軽い。まるで“剣が導いている”ような感覚。賢人は剣を左腰の必冊ホルダーに納め、イヤシトリガーを引く。

 

『波癒居合!』

 

 怪物のもう片方の腕が迫る。

 

 ────刹那。

 

『読後一閃!!』

 

 白い閃光が横一文字に走り、怪物の攻撃は空を切り、その首が宙を舞った。

 

「これが……仮面ライダーの力だッ!!」

 

 賢人は本気で誇らしげに構えを決めた。だが、怪物は最後の執念で全身を使い、賢人へ圧し掛かってくる。

 

「あ、やば……」

 

 剣が間に合わない。その瞬間。

 

「チィッ!!」

 

 銀閃。来栖崎の横薙ぎが怪物を完全に沈黙させた。静寂。砂埃。そして、来栖崎の呆れ顔。

 

「甘い、賢人」

「は……はいッ……!」

 

 賢人は変身した姿のまま、すぐに夢氷姉妹のもとへ駆け寄った。何をすればいいかは、ライドブックの口上と、テレビ番組『仮面ライダーセイバー』から分かっていた。

 

『エナジーユニコーン』

 

 白い光の神獣が現れた。姿はユニコーン。その神獣はゆっくりと沙南の前へ歩いた。小さな少女は涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、その光を見上げている。

ユニコーンは静かに頭を下げ、彼女の頬の涙に触れた。

 

 その瞬間、柔らかな白光が溢れ出した。

 

「安心して、この子は優しい子だから」

 

 賢人は優しく語りかける。神獣は聖なる光を発し、ふたりの怪我を治していく。治ったことを確認した賢人は変身を解除する。

 

「ッ……ハァ……よかったぁ……」

 

 緊張が一気に解け、賢人は姉妹に矢継ぎ早に問いかける。

 

「もう痛いところはない? 怖かったよね? ごめんすぐ助けにいけなくて……沙織ちゃんも沙南ちゃんも、無事でよかったよ」

 

 過保護すぎるほどの声。姉妹はぽかんとしたあと、小さく笑った。

 

「……うん……」

「ならよかった!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし……帰ろう。とにかく今日は、全員で生きて帰る」

「あれってもしかして……ゲート……」

 

 賢人が気合を入れ直すように言い切った。その瞬間百喰が指を震わせた。工業地帯の唯一の出口。そこは巨大な瓦礫で完全に塞がれていた。

 

「……嘘だろ……」

 

 賢人は崩れた鉄骨に触れ、呻いた。怪物が暴れた際に倒れた工場の残骸だ。その奥で、なにかが“蠢く音”がする。

 

「ッ、やべぇ……!! 逃げるぞ!!」

 

 満身創痍であり、非戦闘員を抱える今の状態では埋もれているであろうゾンビはあまりに多勢に無勢だ。

 

「どこに!!」

「南側のゲートだッ!! とにかく急ごう!!」

「クッソッ!!」

 

 姫片が沙織を抱え、百喰は沙南を背負い、来栖崎、賢人で前後を固める。ひたすら走る。息が切れ、足が痺れ、胸が焼ける。それでも追われる音は確実に近づいていた。金属の軋み。瓦礫の下から湧き上がる呻き。無数の足音。逃げなければ、全滅する。生存本能だけが、彼らの背中を押し続けた。

 

 ────どれほど走ったかも分からない。ついに南ゲートが見えた時、全員が崩れ落ちそうになった。外へ出た瞬間、空気が変わる。腐臭も、鉄の焦げた匂いも、怪物の気配も消え、ただ風が優しく肌を撫でた。

 

「……助かった……のね……」

 

 百喰がしゃがみ込み、涙を拭った。

 

「油断すんなよ。ここらも安全とは限んねぇ」

 

 姫片が警戒を解かず言う。しかし、心のどこかで“生き残れた”という実感が広がっていた。

 

 ────我は貴方を知りたい。名も知らぬ貴方を、私は知らない。それでも未来は、変えられる。




前話 仮面ライダーセイバー第9章『重なり合う、剣士の音色。』より
今話 仮面ライダーセイバー 第1章『はじめに、炎の剣士あり。』より

Tips.感染ゲージがMAXまで溜まった状態で敵の攻撃を受けるとゾンビ化するぞ。

いや2話でこんな愛着持たせられる!?
まじで死なないで。
聖剣さぁ……。変身くらいさせたれよ
変身出来ても救えなかったら意味ないぞ

ああ!! かっこよ
かなりいいよねこれ。 初変身で無双できた飛羽真やばかったな。流石英雄
流石に聖剣買った。
聖剣ソードライバーVer2やっけ。波癒3冊だけ追加されてるから結構ぼってる
こういうのはライブ感が大事だからね。放送中に買える事が凄いから

神川賢人のキャラが好きか

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