とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件 作:キラトマト
────勧善懲悪。徹底した正義は時に、自らにも牙を剥く。だからわたしは、あなたを許すのだ。
先の工業地帯での戦闘を経て、彼らは逃げるようにエノルメ居住区へと来ていた。離れるにつれて呻き声も聞こえなくなってきており、少しの安息感を味わっていた。そんな中突然、アドがぽんと手を叩いた。
「あのさ、さ! せっかくここまで来たんだし、一回あそこ行ってみない?」
「アドさん今は観光の話じゃ……」
「海浜間横断橋!!」
「日本本土と渚輪区を繋ぐ唯一の陸路だな」
賢人の言葉を遮ったアドの言葉を、礼音は少し遠いところを見る目で補足した。
「……それ、安全なんですか?」
「……いや、分からない。なにせ私たちはこの渚輪区本島にすら今日、初めて足を踏み入れたのだからな」
「でも、でももしだよ? もしゾンビが溢れてないんだったら、日本は無事ってことだよっ!」
「少なくとも行ってみる価値はある、と言いたいのですね? アド」
「そゆことモグッチ。近いしっ!」
百喰の言葉に、アドは親指を立てる。その態度に彼女はやれやれ、と言ったふうに、されど少し口角を上げた。ともあれ、ポートラル一行は海浜間横断橋に向かうこととなった。
道中、賢人は疲労も溜まっているであろう姉妹を気遣い、ほんの少しの休息を提案した。そして彼はしゃがみ、沙織に目線を合わせる。
「……あのさ沙織ちゃん。ずっと気になってたんだけどさ、どうやってあんな遠くから、2人で逃げられたのかな? 秘密のルートとかあったりしたの?」
「え……? い、いやそんなんはなかったけど、ああいうの伝って来たねん」
そう言って指さしたのは家の前にある細い塀。
「あんなとこを、数日間? よく落ちなかったね……」
思わず感心してしまう。周りでわざとらしく刑事のフリをして「事案ですね」「現行犯で逮捕するぞ」「容疑者が少女Sに接触」などと言っているのを無視しながら賢人は質問を続ける。
「あのさ……もし違ったらごめんなんだけど。沙織ちゃんと沙南ちゃんがいた生存組合……ああ生存者の集まりってどんなとこだったの?」
数日何も食べていなかったとしてもお菓子をくれただけであの反応。優しくされることにあれ程の感激を受ける状態。何より拠点が襲われて幼女ふたりきりで遠くから逃げてきたという状況証拠。賢人には明らかに正常な組織に属していたとは思えなかった。
その質問に沙織はなんでも無かったかのように答えた。だが姉妹の震えが、すぐ嘘を暴く。生存者組織の話題になると、沙南は隠れ、沙織も固まった。
「……そう、か。ならいいんだ!」
「それよりさ、沙南がお礼したいねんて」
沙織がそう言うと、大事なことを思い出したかのように少し笑顔になった沙南がおずおずと賢人の前に出る。
「……あの……おねえちゃん……助けてくれてありがとう」
少し声は小さかったが確かに聞き取れた。
「なに、当然のことをしただけだよ。それに、君がお姉ちゃん守ろうと前に出たの、かっこよかったよ」
賢人はそう言って彼女の頭をポンポンと撫でる。
「突入〜!!」
それを見た野次馬たちは、次々と賢人に押しかける。彼はその物量に押しつぶされる。
「え〜神川賢人、15時00分くらい? 逮捕する!!」
「えちょ、何してんすか!?」
「声掛け事案だコラぁ!!」
「観念しろオラァ!」
警察の口調を真似してアドが賢人を抑え、その周りでは姫片や来栖崎が悪ノリに加わる。
「はぁ……やれやれですわ」
それに甘噛が呆れたような声を出した。
────海浜間横断橋。
永世中立国 極東大日本国の首都『統京』と特例三区のひとつ『渚輪区』を結ぶ、太平洋を横断する超大型橋。幅だけでも100m、全長56.7km。フルマラソンすら凌駕するその距離は自動車ですら1時間、徒歩であれば数日間を要する世界最長の橋。彼らがそこにたどり着いたのはあれから数十分後のことだった。
「あり得ねェだろ……」
「ゾンビが一体も……いないのです」
静寂が違和感を生む。
「もしかして……脱出……」
皆の喧騒を賢人が少し治める。
「いやちょっと待って皆、脱出するにしてもデパートにいる非戦闘員達も連れていかなきゃだから一旦帰らないと……」
「あ……そうだった。────って、あれ? あそこ人いない……?」
目をよくよく凝らしてみると確かにいた。軍服を着た数人と、1人だけデザインラインの違う服を着た人間。考える間もなく、アドは飛び出していた。
「おーい!! ぐーんじーんさーん!!!」
「ちょっと待っ────」
賢人は、こんな世界にいる軍人等ろくでもない人間だと、生前に見た映画などで培った知識から警告する。
「樽神名君待て!」
次いでなにかに気づいたように礼音も叫んだ。
「およ? なになにケンティーにアヤネル〜。せっかく救助隊かもしれないんだよ?」
「先程の工業地帯にあった死体、特に船にあった死体には疑問を覚えていたのだが……嫌な予感がしただけだ」
「いや待ってください礼音さん、確かにあの死体と船には銃で撃たれた跡がありました。やはりあそこを通るのは……」
ばららららッ!! 銃声が響き、姫片が叫ぶ。
「クソッ! おいアド! あの軍人ら、お前の声にようやく気づいたみてぇだぞ 早く逃げんぞ!」
姫片の号令で、彼らは全速力で逃げおおせた。
「クソッタレ……人間も相手しなきゃなんねぇのかよ……」
幸い追われてはいないようで、彼らは道なりに進み私立朱雀小学校へと辿り着く。
────全員の心も身体も限界に近かった。
「とりあえず俺、見張りやりますよ。まだ眠れないし……」
「え、いいの!?」
「うん。皆は休んで」
賢人の申し出に、全員が驚く。なにせ、こと今作戦においては1番の功労者がまだ働こうと言っているのだ。少しその自分を労る空気に心地良さを感じつつ、彼は自分を落ち着かせるために屋上へ向かった。夜風が気持ちいい。さっきまで死の淵を覗いていたとは思えないほど静かだった。
「……名前、どうしよっかな」
ぽつりと呟く。彼にはそれほどの余裕が生まれていた。
「う〜ん……。セイバーの仮面ライダーって剣の名前もじった奴らしいし、でも俺そういうのあんま詳しくないんだよな……」
ふと、ブックの朗読音を思い浮かべる。全てを癒すという文言、それを英訳し、
「リいらないな……ヴァルキュア……。なんか良くね!? 仮面ライダーヴァルキュア!」
その瞬間────。
「ねぇ」
「キャ-!!」
賢人は女子並みに綺麗な悲鳴を上げて振り返った。
「な、なに!? 来栖崎さん!?」
「いや、ちょっと気晴らしにね。てかこんなとこにいたの」
「いやいや驚いた……ははは……」
「……あれ」
肩をすくめる来栖崎の様子に乾いた笑いを浮かべたそのとき。
来栖崎の眉間にシワが寄る。門の方向。武装集団が校門をくぐっていた。賢人の血の気が引く。
「まさか……政府軍!?」
「分からない! けど皆に知らせましょう!!」
二人は駆け出し、寝静まった教室の扉を開く。
「皆さん!! 起きてください!!」
「うにゃぁ……参勤交代……?」
アドの寝言すら不気味に感じる緊迫感。
「敵襲です!! 武器を持った人たちが校門から!!」
寝ぼけていた仲間たちの目が、一斉に覚める。
「政府軍ですか!?」
「まだ分からない! でも四階にいるのは危険! 下に!!」
「賢人様、参りますわよ!」
甘噛がすぐさま走り出し、賢人もブックを取り出してベルトを装着する。
『波癒、抜刀!!』
「変身!!」
『エナジーユニコーン!!』
白い炎が再び走り、賢人は仲間たちを先導するように階段を駆け下りた。
「2人は絶対にここから出ないでね」
夢氷姉妹をロッカーの中に隠れさせ、疲労も抜けきらない中、夜間戦闘が始まった。
「こっから降りたら裏口に出るはず────って!?」
階段を曲がった瞬間、重火器を構えた女たちがいた。引き金が絞られるのと、銃口がこちらへ向くのは同時だった。
ダダダダダダッ!!
「やばいッ!!」
賢人は咄嗟にライドブックを押し込み、白炎を奔らせる。
『────エナジーユニコーン!!』
光柱が裂け、巨大な白いユニコーンが彼らの前に顕現した。蹄を踏み鳴らし、迫る弾丸すべてを弾き返す。続けざまに跳躍し、女たちの銃を無造作に蹴り上げ、床へ散らした。
「うわっ……!?」
「ひ、退けッ──!!」
ユニコーンが敵を拘束すると、百喰が一歩前へ出る。
「一体何が目的ですか!?」
「ちがっ、離せ!」
姫片がさらに凄みを効かせた。
「おいコラァ……どこの組織だぁ? 言ってみろや」
女は震えながら答えた。
「わ、私たちは……“連れ戻し”に来ただけ……!」
「誰を!」
喉を掠らせ、彼女はひとつの名を吐いた。
「……沙織と……沙南を……」
その瞬間。賢人の中で、冷たい何かが動いた。
「はぁ……、こりゃ政府軍じゃねぇな。尋問されて気絶するとか、なにより武器の扱いがなっちゃいねぇ」
姫片が突き飛ばしたその女性を見て賢人は思わず拳を握る。
「待って、さっき入ってきたヤツらと……数が合わない」
来栖崎が深刻そうに言った。そのとき────。上の階から、巨大な物が倒れる音が響いた。一同は階段を分担し、賢人と来栖崎は全速力で駆け上がる。
「あ……」
「急ごう!」
手分けして向かうことにした彼ら。賢人と来栖崎が4階に向かうと、丁度姉妹が隠れている部屋に入ろうとする女がいた。引き戸に手をかけた瞬間────。
「待て!」
「は? なにあんた」
その隙に、賢人が剣を構え、来栖崎が横から包囲する。
「……何のつもりですか。あなた達は一体、誰なんですか」
「あーもう。わかったわよ。話す。ほら、座りなさい」
女はため息混じりに武装を外し、唐突に座り込んだ。賢人と来栖崎は顔を見合わせる。しかし考えてもその女の意図は分からない。そんな中、女は臆することなく喋りだした。
「私は
「そうですか、それで千比呂さんはなぜ夜襲を仕掛けてきたんですか?」
「うちのメンバーが……あなた達に連れ去られたって、目撃情報があったから」
「連れ去った……? 誰をですか?」
「決まってるでしょ。あんた達が沙織と沙南を攫ったんじゃないの!?」
突然怒鳴られ、賢人は言葉を失う。
「……本人からは、拠点が襲われて姉妹で逃げたと聞いています。それに、二人はもうここにはいません」
賢人は表情に出さずに心の中で毒づく。
「結局、誤解で襲撃したわけですね」
「そんな言い方……っ、でももういいわ。二人もいないみたいだし帰らせてもらう」
急に立ち上がり、そそくさと退室する千比呂。賢人は違和感を覚えつつも見送った。
「はぁ……人騒がせなやつだったな。……よーし沙織ちゃ〜ん沙南ちゃ〜ん、もう大丈夫だよ〜」
返事がない。
「もう出てきて大丈夫だよ〜」
猫なで声でロッカーを開ける。
────空。
「あ……?」
「賢人?」
「師匠……アイツらどこいったか分かりますか?」
来栖崎が窓の外を見て呟いた瞬間、賢人の背筋を冷たいものが走った。話し合いに持ち込ませた理由────仲間が姉妹を拉致する時間稼ぎだった。
「すみません。完全に俺の失態です。連れ去られた2人は、俺1人で連れ戻してきます」
合流した仲間たちに深く頭を下げる賢人。
「チッ、ったく……」
「……私も悪いし」
来栖崎が小さく俯く。
「そう自分を責めるな来栖崎君も神川君も。私達は一蓮托生、どこまでも着いていくぞ。"思い出"、作ってくれるんだろう?」
「え……?」
礼音の静かな宣言に、賢人が顔を上げる。
「それに、連れ去られた仲間を助けに行くって、少年ジャンプみたいでアツいじゃん? ほら、サスケ奪還みたいな」
「失敗フラグはやめてください。ゴホン……例のライブハウスは進行進路上にあります。ですので目的地への経路ということでしたら」
アドの軽口、百喰も合理的判断というのを建前に同意する。
「わたくしは賢人様の隣だったらどこへでも」
「しゃぁねぇな。だからガキは手間がかかって嫌なんだよ」
「栗子、素直じゃない」
「うっせ」
仲間たちの言葉に、賢人は堪えきれず微笑んだ。
「皆さん……本当にありがとうございますっ!」
「何回頭下げんのよ。あんたは赤べこ?」
生存者組織『モラトリアム』 渚輪区本島に存在する生存者の集まり。生き残るために、くじ引きで“食糧になる人間”を決める。そのくじで選ばれたのが夢氷一家。
母は姉妹を逃がし、自ら犠牲になった。そして今日、彼女たちが姉妹を連れ戻しに来た理由。それは文字どおりの食糧確保だった。彼女達は禁忌を犯し、今駆逐されようとしていた。
「はっ、他愛ねぇなぁ! 人間相手なんてよぉ!」
一番最初に飛び出したのは意外にも悪態をついていた姫片だった。
「なるべく命は奪わない方向でお願いしますよ!? 姫片さん!」
「わーってるよ! 私だって命奪うのは寝覚めがっ、悪りぃからなっ!」
「しっかしっ! 変身縛られんのキツイっ、なぁ!」
仕方の無いことだ。なにせ聖剣など言うまでもなく、パンチやキックでも人体を豆腐のように容易に壊せてしまうから。
アド・百喰・礼音の遠距離攻撃で逃走経路を塞ぎ、来栖崎と甘噛が手加減しながら戦闘員を次々倒していく。モラトリアム53名のうち、実際の戦闘員は20名。夜襲で既に7名を無力化していたため、制圧は早かった。
しかし────。
「……2人は!?」
「クソっ! そりゃそんな表に出しておくわきゃねぇよなぁ!!」
豹藤が耳を澄ませる。
「聞こえます……です。悲鳴が」
「────どこ!?」
「あっち……です!!」
賢人、豹藤、姫片の3人で悲鳴を元へと急ぐ。
「沙織ちゃん!!」
辿り着いた部屋は元は楽屋だったであろう個室。中からは機械音が聞こえてくる。
中には工業用のミンチ機と、吸い込まれかけていた姉妹。
「────んー!! んー!!」
沙南が恐怖で目を大きく開いて賢人を見た。彼は何も迷わなかった。波癒を逆手に構え、一直線に投げる。機械の中枢に突き刺さり、火花と煙が上がる。
「間一髪……だったみてぇだな」
姫片は安心感からかその場にへたり込み、賢人は縛られた2人の縄と猿轡を解く。見たところ外傷はないようで、賢人はホッと胸を撫で下ろす。
「へへ、信じてたで。助けに来るって」
出会って1日、それでも沙織は賢人に全幅の信頼を寄せていた。
「……おねえちゃん」
「言うたやろ? 絶対来るって」
「……ぅん!」
沙南は、今までで一番の笑顔を見せた。
「姫片さん豹藤さん、2人を頼みます。俺はあれにケリ、付けてきます」
「お、おう……」
姫片も思わず怯むほど、賢人の気迫は鋭かった。篠原千比呂の前に座り、一転して冷徹な表情に変わる。
「篠原千比呂、待たせましたね」
千比呂は拘束されたまま、床に座らされていた。賢人の影が彼女を覆う。
「ヒッ……」
「まず、今回の俺の罪について話します」
淡々と、しかし刃のように鋭い声。
「一つ。不自然な“話し合い”の提案に乗った。
二つ。沙織ちゃんの話から貴方達が危険だと気付いていたのに、泳がせた。
三つ。不自然な会話の切り上げ方に疑問を持たず帰した」
賢人は眠気からか少し欠伸をする。
「そして貴方の誤算。
一つ。逃げた二人を追ったこと。
二つ。取り返しに来る可能性を考えず、拠点を動かさなかったこと。
三つ。俺達ポートラルの団結力を甘く見たこと」
「なっ、何が言いたいのよっ」
「まだそんな態度取れるんですね。……まぁいいでしょう。こちらの要求は大きくわけて2つです。夢氷姉妹のポートラルへの加入の許可────そして」
千比呂の顔が一瞬ほころぶ。
「ここにある資材の無条件の明け渡しです」
「えっ……?」
「今回の件でこちらが無駄に消費させられた弾薬や休む
「は……? そんなことしたら……」
「死ぬ、ですか?」
賢人の声が氷のように冷たくなる。
「貴方は年端もいかぬ少女2人をそういう状況に追い込んだんですよ」
彼は、言外に俺たちが発見していなければ、という意味を込める。
「ふざっ……けないで……そんなの……! 結果生きてるじゃない2人は!」
「だから……!」
彼は千比呂の肩を両手で掴む。
「モラトリアムは、今日からポートラルの傘下です」
「な、なんで……?」
「そこで考えてください。そして生きて、罪を償ってください」
────仮面ライダーなら、悪人でも見殺しにはしないはずだから。生存組合『モラトリアム』はその日より、ポートラルの傘下に入り、相互支援の関係となった。
「沙織ちゃんと沙南ちゃんには会わせません。少なくとも、2人が完全に心の整理がつくまでは」
「それは……いい判断だ」
礼音は心底安心したように賢人に語りかけた。
「それにしても、詰めてる時のケンティー、ホンット怖かったよ〜」
「え、そうですか?」
「でもいつもとギャップがあってシビれましたわ!」
「なんかコツとかあるんか? 私怒っても笑われんねん教えてや〜」
沙織にねだるように腕を掴む。
「い、いや〜……特にないよ?」
────生前のアルバイトでサボった時の店長を参考にした、とは言えない賢人であった。
感染×少女 第十七章 章タイトル『終わり月の夜に』より
感想くれたら嬉しいです
Tips.ゾンビ化を発症したキャラも倒すとコレクションに加えられるぞ。また、一部のキャラは発症させるととてつもない強さになり、それを倒すとコレクションに加え、装備も貰えるぞ。
ヴァルキュアか。セイバーライダーの命名からは外れるけど
てかあの姉妹酷い目に遭いすぎでしょ
もしかして政府軍は敵?
神川賢人のキャラが好きか
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好き
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嫌い
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キャラが薄い