とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件   作:キラトマト

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第13章 戦場に連なる、二つの誓い。

 

 ────蛙に会ったあなたは変わった。柔くなったあなたが、わたしは大好きだ。

 

 新しい服に着替えた賢人に、甘噛と来栖崎が感想を言いかけた、そのときだった。

 

「賢人の旦那っ!!」

「え!? ど、どうした!?」

 

 息を切らして駆けて来たのは、夢氷姉妹だった。尋常じゃない気配が背中に張り付いている。

 

「ゾンビや! ゾンビが現れたんや! しかももう中に入って来とる!」

「な、何だって……? クソッ! 行きましょう師匠! 甘噛さん!」

 

 賢人は即座に腰の聖剣を抜き、床に突き立てて構える。

 

『波癒抜刀!』

「変身!!」

『エナジーユニコーン!』

 

 生成される光が跳ね散り、鎧が纏わりつくより早く、賢人は群がるゾンビの群れへ跳び込んだ。

 

「ここからなら、立体駐車場が一番近いですわ! 早く急ぎましょう!」

 

 甘噛の指示に従い、全員が階段を駆け上がる。だが階段は狭く、ヴァルキュアの剣撃が振り切れない。

 

「チッ……キリがないな……」

『ユニコーン! ふむふむ』

 

 もう1つの技の存在を思い出した賢人は、波癒の先端に備えられたシンガンリーダにブックを読み込ませる。

 

「はぁッ!!」

『習得一閃!』

 

 波癒を床へ叩きつける。治癒光が爆風のように階段を駆け上がり、触れたゾンビを溶かし散らす。屋上まで行けば広大な立体駐車場がある。そこを目指して5人で走る。そしてようやく辿り着いた瞬間、目の前の光景に全員が息を呑んだ。

 

「橋の化け物と……あれは……」

「1体でも精一杯だったってのに……クソッ!!」

 

 変異種とワイヤーワークス。異形2体が遠吠えする。しかし退く道など、誰にも残されていない。そのとき、沙織が抱えていた本が淡く光り始めた。

 

「沙織ちゃん?! そのライドブックどこで……?」

『ハンターナイトリザード』

 

 本は形状を変化させ、鈍く光る銀色のライドブックが誕生した。

 

「トカゲのブック……?」

 

 使うか否かなど、意味の無い問いだ。

 

『〜この白き襟巻と歩む、壮大なるハンティングストーリー〜』

 

 波癒をドライバーに納刀、沙織から受け取ったそのライドブックを真ん中のスロットに装填する。同系色のブックによるワンダーコンボ。それは身体への負担を強める強化。賢人は力任せに抜刀する。

 

『波癒抜刀! 闘争の、ユニコーンリザード! 〜波癒二冊 天翔ける爬虫類が今、闘いを激化する! 〜』

 

 脚部が光を弾き、胸元にエリマキトカゲの意匠が咲く。速度が跳ね上がり、ヴァルキュアは衝撃波のように戦場へ跳び込む。

 

「ケンティー!?」

「ま、また姿が変わりましたね……」

「すみません下がっててください!! ハァっ!!」

 

 狂ったような連撃がワイヤーワークスの鋼皮を裂き、変異種の拳を片手で押し返す。

 

「キッツイな……短期決戦だッ!」

『必殺読破!』

 

 そして波癒をベルトに納刀、そのトリガーを押し、ヴァルキュアはそれを引き抜く。

 

『ユニコーン リザード! 二冊斬り! キュ・キュ・キュア!』

「これで終わりだッ!!」

 

 閃光の刃が三重に軌跡を描いて飛び、その斬撃は2体にまとめて直撃し、爆発四散する。

 

「ハァ……ハァ……ヤバい……し……ぬ」

 

 膝が震え、視界が白く揺れる。ワンダーコンボの過負荷が限界を超えようとしていた。

 

「賢人様!!」

「賢人!」

 

 戦いに参加出来ずにいた甘噛と来栖崎が駆け寄る。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

「アンタが倒れたらどうすんのよ、血の補給!」

「いや……死ぬわけじゃ……ないから……多分……疲労……」

「疲労!?」

 

 その瞬間。誰かが本のページをめくる。

 

『メギド・トリガー』『死せる屍の死』

 

「ハハハ……剣士がいない世界。ダークワールドに染めてやろう」

 

 爆発の残滓の中から、正体不明の怪物────シカバネメギドが姿を現す。

 

「なんだ……アレは?」

「あんなの……知らない」

「……あの造形……メギド……?」

「知っているのか神川君!?」

 

 礼音の問いに、賢人は抱えられながら本の意匠が胸に携えられた怪物を視界に捉える。それは醜悪な顔面にぬらりとした湿った表皮。口からは腐臭のする液体を垂らしていた。

 

「確証は無いです……でも……この状況じゃ……勝てません……逃げてください……!」

 

 シカバネメギドの身体が波打ち、そこからゾンビが次々と生まれ落ちる。

 

「クッソ……! こいつから生まれたゾンビ……なんか固ぇぞ!」

「……弾も通らない……!」

 

 姫片の鎌が、刃すら通らない。百喰の放った銃弾は届く前に掴まれる。人の攻撃が通用しない。押し寄せる絶望を前に、されど甘噛は前へと踏み出した。

 

「……ッ! わたくしが殿を努めます! 皆様は賢人様をッ!!」

「バカガミテメェっ! カッコつけてんじゃねぇぞ!!」

 

 姫片の制止を振り切り、ただ瞳だけはゾンビの群れを見据える。

 

「賢人様はッ!! わたくしの……命なんですのッ!!」

 

 叫びと同時に、甘噛が突っ込む。その動きは、普段の優雅さが嘘のように荒々しく、必死だった。

 

 ────まるで守らねばすべてが崩れると知っているかのように。更に来栖崎が舌打ちし、その隣に並んだ。

 

「だったら、私はアイツの師匠。それにアンタより強いから」

 

 甘噛は一瞬だけ隣に目配せし、舌を鳴らす。

 

「仕方ないですわ。では2人仲良く、死地に赴きましょう?」

「死なないわよ、私も、アンタも」

 

 殿(しんがり)になっていた甘噛の顔に、驚きと悔しさ、そしてわずかな安堵が混ざる。

 

 ゾンビの群れが牙を剥く。

 

 甘噛は戦棍を伸ばし、腕を薙いだ。空気が裂け、数体がまとめて吹き飛ぶ。来栖崎は回し蹴りで頭部を砕き、後方へ滑りながら甘噛の死角をカバーする。数で押し寄せるゾンビを、二人は必死で斬り伏せる。一瞬だけ、二人の呼吸がぴたりと合った。

 

「中々! 強いですわね!!」

「最古参! 舐めんじゃないわよ!!」

 

 だが────。

 

「……っ!?」

「来栖崎さん!?」

 

 膝を崩した来栖崎を、甘噛が咄嗟に支える。額には汗。呼吸が荒く、瞳が揺れている。

 

「血液切れ……!? なんで今ッ……!?」

 

 ゾンビの魔の手が迫り、甘噛は身体を盾にして受ける。

 

「はぁ……? アンタなんで……」

 

 肩に深い裂傷が刻まれ、甘噛が呻く。

 

「……なんで、でしょうね。……死んでしまえば、賢人様と結ばれることはないというのに。ハハ……」

「ッざけんじゃないわよ!! ……アンタに、守って欲しいなんて一言も、言ってない!!」

「……ほんとバカ、ですわね」

 

 甘噛は微笑み、来栖崎の背後から迫るゾンビの頭を肘打ちで砕いた。

 

 彼女達は、退かない。血を流し呼吸もままならず、それでも立ち続ける理由はたった一つ。賢人を、生かすため。そのとき、身体を引きずるようにして賢人が立ち上がった。波癒の効果で身体を動かせるようになったから。しかし、それでも戦える状態ではないはずなのに、それでも無理を押して彼は、飛び出した。

 

「神川さん!? まさか貴方……!」

「甘噛さんを……救います!」

 

 その声が聞こえたのか、甘噛と来栖崎が同時に振り返る。甘噛の瞳が揺れた。来栖崎の表情が、驚きで固まった。百喰は一瞬だけ迷い、そして判断を下す。

 

「……許可します。……ですが、絶対に戻ってきてください」

「……ありがとうございますっ!!」

 

 もう、誰も止められない。

 

『エナジーユニコーン!』

 

 踏み込みと同時に地面が砕け、一直線に二人のもとへ、ヴァルキュアは駆ける。

 

 ゾンビの腕が襲いかかるが、波癒で弾き飛ばし、肩でぶつかり、蹴りで弾道を変えながら無理やり道をこじ開ける。彼の速度は、荒々しく、ぎこちなく、それでも必死だった。視界が揺れるたび、倒れそうになる。それでも前へ。

 

 ────現場は既に地獄であった。発作を起こした来栖崎が息を切らしながらも甘噛を守るが、自分に対する攻撃への対処が疎かになってしまっている。

 

「甘噛さんッ!! 師匠!!」

 

 ヴァルキュアは二人の前に飛び込み、波癒を横薙ぎに振る。光の弧がゾンビの群れを切り裂き、血飛沫すら光に消される。ユニコーン召喚と同時に二人へ血液を飲ませ、彼女らの呼吸が落ち着いていく。

 

「……ありがとう」

「賢人様なぜ……!」

「いいから、今は安静にしててください」

 

 その背中は、震えていた。だが、守るために立っていた。

 

 ────しかし、救いの光は一瞬だった。聖剣が生み出す治癒の波動が消えると同時に、周囲の空気が濁り、腐臭が広がる。シカバネメギドはゆっくりと腕を広げ、まるで新たな"死"の誕生を祝福するかのように呻いた。

 

「さぁゾンビ達よ、人間共を食らい尽くしてしまえッ!」

「ッまた来た……!?」

「アイツを倒さなきゃ終わらない、ってことですわね……!」

 

 ヴァルキュアは波癒を構えながら周囲を見渡した。息は荒い。視界も揺れる。立つのが限界に近い。それでも立つ理由は、皆を守るため。

 

『ユニコーン 習得一閃!』

 

 閃光の波動が何度もゾンビを溶かす。だが、倒すそばから増えていく異常さに、胸が軋んだ。

 

「クッソ……!」

「増えすぎですわ!」

 

 来栖崎は体を引きずりながらも刀を振るい、甘噛は負傷した肩を押さえながら戦棍を振るう。2人とも限界など、とっくに通り越していたのに。

 

「なんでもう動いてるんですか! 下がってください!」

「乙女は時に……ワガママなものでしてよ……!」

 

 壁の向こうから押し寄せる群れの影が広がる。またも変身が解除される。絶体絶命────!!

 

 ガチャリ。空から小さな黒い影が落ち、ヴァルキュアの足元に転がった。

 

「……え?」

 

 落ちてきたのは────スマホだった。

 

「これは……」

 

 考えている暇はない。賢人はそのスマホを拾い、縦に折りたたみ、タイヤを展開する。

 

『ライドガトライカーーー!!!』

 

 スマホは巨大化し、装甲に覆われたトライク型ビークルが姿を現す。

 彼は来栖崎と甘噛を背負い搭乗し、離れた場所で、しかし逃げずにいたアドたちの方にアクセルを吹かす。

 

「皆さんも乗ってください! このままデパートまで突っ走ります!」

 

 アドたちも次々に飛び乗る。全員が乗り終えた瞬間、シカバネメギドが口のような亀裂を開き、耳をつんざく叫びを上げる。賢人はハンドルを捻り、トライクは爆音と共に走り出す。ゾンビを跳ね飛ばし、バリケードを突き破り、死の包囲網を切り裂く。背後ではシカバネメギドが咆哮し、デパート全体が揺れた。

 

「しがみついててください!! 絶対に落としません!!」

 

 唸りを上げるタイヤ。迫るゾンビの群れ。賢人の声に、甘噛が微かに笑った。

 

「……ええ、賢人様……」

 

 賢人は全員を乗せ、闇の中の唯一の道を突き破るように、立体駐車場から飛び出した。

 

 走れ。

 生きろ。

 終わらない。

 まだ終わらせない。

 彼らは、デパートへと帰還するために疾走する。

 

 ────物語は加速する。




元ネタ、なし

原作ではここで甘噛が感染、ゾンビ化による殺人衝動を恐れて拳銃自殺します。

Tips.武器 主に攻撃力と突破力、突破率を上げることが出来るぞ。上昇するのは固定値だぞ。改造して強化することが出来るぞ。そして一部の武器は専用のアイテムを使い伝説化することが出来るぞ!

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