とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件 作:キラトマト
第14章 吹き出す新風、蠢く策動。
────わたしは鳥になりたい。誰にも邪魔されず、青空を飛び回りたい。でも世界がそれを許さないのだ。ならば世界よ、せめて夢を消してくれ。
渚輪ニュータウンへ戻る道中。ライドガトライカーが夜道を突き進む中、賢人は視界の違和感に気付き叫んだ。
「危ねぇ!?」
進路の先に何かが倒れている。人影だと気付いた瞬間、彼は反射的にハンドルを切った。
「皆さん掴まってーッ!!」
「……ん? あれ? ここどこ?」
激しい衝撃。車体は横転し、回転しながら路面を滑る。その砂埃の中で、のんきな声が上がった。賢人は飛び起き、その声の主のもとへ駆け寄る。
「ちょっと!! 何考えてるんですか死にたいんですか!? そんな裸で!! ────裸!?」
しかも、男だった。
「え……? 誰、ですか?」
賢人は混乱する頭のまま仲間の元へ全力ダッシュした。
「み、皆さん!! 聞いてください!! 男です男がいました!!」
「はぁ? 男男って……お前がいんじゃねぇか。鏡でもあったか?」
「それか頭打ってしまった……とか?」
「あーもういいから来てください!!」
全く信じていない様子の姫片の手を引っ張り、男の前に連れ出した。
「ったく……おもちゃ売り場のガキじゃあるまいし……。どれほどの阿呆が道のド真ん中に……って、男じゃねぇか!!!」
「ほら言ったじゃないですか!?」
他の皆も近づいてきて────。
「嘘……」
「本当に男じゃない」
来栖崎は息をのみ、潤んだ瞳でその姿を見つめていた。"可能性"が増えた。それだけで、世界が少しだけ救われる気がしたのかもしれない。
「と、とりあえず、連れ帰りますか?」
「……。……そうだねモグッチ。連れて帰ろう」
アドの提案に、賢人は心底申し訳なさそうに手を挙げる。
「あの、ごめんなさい皆さん。もう乗れません」
仕方なく徒歩で帰ることになったポートラル。男に対し、世界の状況を話しながら帰路に着いた。
「……ごめん。僕のせいで手間取らせてしまったみたいで」
男は賢人から受け取った服を羽織り、歩きながら何度も頭を下げた。
「いやいや、そこは気にしてなーいよ。でもさぁ? 自分の名前すら覚えてない記憶喪失なんて珍しいねぇ」
アドが横からにやつきながらからかう。
実際問題、男のプロフィールは空白だらけだった。
・名前不明
・出身不明
・自分が何者かすら不明
・なぜ男の絶滅から生き残れたかも不明
怪しさで言えば賢人以上である。
「すまない。……でも驚いたよ。男だけ絶滅するタイプのパンデミックなんて……。それじゃあWHOとか、世界はどう対応してるんだよ」
「さーね。でもね少年くん。ここは渚輪区っていう島の更にちっこい出島。渚輪ニュータウンっていうの。つまりいつでも────」
「口封じが出来るってことか」
「そういうこと。まぁ、それならまだマシかも。世界が“動いてる”ってことだから」
男は少し視線を落とし、歩きながらぽつりと漏らす。
「じゃあ……僕が生きてる理由は……なんだ?」
その横顔が、賢人には妙に引っかかった。
まるで、死んだ記憶を探している人の顔のように。
「あ、それと……なんで彼は生きてるんだ?」
「あぁ俺? 俺はこの聖剣のお陰で生きてるんだ」
謎の男は素朴な疑問に、ソードライバーを指し示す賢人。
「そして、彼は戦士に変身するんだ。この剣の力でな」
まるで自分のことかのように誇らしそうに、可愛らしく補足する礼音。
「変身?」
「今は体力消費し過ぎてて出来ないんだけどね。仮面ライダーヴァルキュアって言って、人を癒す力があるんだ」
「そん力で、あたしらも助けられたねん。な! 沙南!」
「……うん」
男は静かにその装置を見つめ────ほんの一瞬だけだが、眉を寄せた。それはまるで、“何かを思い出しかけた”ような反応。それに気づかず賢人は男に問いかける。
「君もさ、入ってみない? ポートラル」
「あぁ、行くところもないし、入るよ」
「よっっしゃああああ!!」
デパートに戻った一同は、さきほどの怪物について会議室で話し合うことになった。
「それで、先程のあれは恐らく『メギド』と呼ばれる怪物です。本来なら、『仮面ライダーセイバー』っていう番組に登場する架空の存在のはずなんですが……」
「ヒーローものの敵、という訳か。賢人はその怪物が出てくる番組、見たことあるのか?」
新入りは自然にタメ口で割り込んみ、賢人は自分の中で整理をつけながら、語り出した。
「うん、大ファンだった。そいつらってさ、テレビの中じゃ喋るんだ。声優さんが声をあてててさ、だからなにか親しみやすさ、みたいなのがあったんだよ。……でもさっきのやつは違った」
「……どう?」
「本気でこっちを殺そうとしている声。……初めてだったよ、言葉で殺意を向けられるの」
「あー……そういう私感じゃなくて、その怪物の情報が欲しいんだけど……」
表情が陰った賢人に、新入りは冷静に遮った。アドは小声でボソッとつぶやく。
「こいつ……いやまだ早計だね」
「……あ、ごめんごめん。『メギド』って種別の性質だったよね。メギドには生みの親みたいなのがいてさ、そいつらがコレ」
賢人は自らのライドブックを指し示す。
「これの悪い版の本『アルターブック』を開いてさ、生み出すんだよ。んでその本っていうのは元ネタがあって、『アリとキリギリス』だったり、『みにくいアヒルの子』だったりが改変されて生み出されるんだ」
「本の怪物ってわけか」
「そゆこと。それで主人公は作家だから元の本から敵の弱点とか分析して倒してた。……でも今回の敵の原典が……分からないんだ」
「……おいおいそれじゃあ対処法が────」
「賢人、その今回現れたアルターブックとやらの題名、分かるか?」
姫片の呟きを遮り、新入りは賢人に顔を向ける。
「確か……『死せる屍の死』だったような……」
賢人の言葉。新入りが呼吸を止めた。
「それは────『生ける屍の死』じゃないか?」
「え?」
「昔の推理小説だ。死者の蘇りは単なる現象に過ぎず、犯人はその蘇りを邪魔する火葬を阻止する為に殺人を続けていた、というオチだったはず……」
「火葬……つまり火が弱点ってことですね」
「火って……俺治癒なんだけど……クソ……火は飛羽真さんじゃねぇか……」
よりにもよって、である。この世界に最初に生まれた怪人。そしてこの世界唯一の仮面ライダー。相性が噛み合わないのだ。その嘆きに、アドが肩を揺らす。
「ふっふっふっ。それならアタシらがいるじゃないか!!」
「え?」
「このポートラルには戦闘用に火炎瓶が大量に常備してあるのだよ! ……まぁ外でうろついてるゾンビには効かなかったんだけどね〜……」
彼女は誇らしげに胸を張り、人差し指をピンと天井に伸ばす。
「でも、アイツと、アイツ産のゾンビ相手なら効くかもしれない! ありがとうございますッ!」
「そんじゃ作戦を立てよう!! ケンティーを主軸に────」
「すまない。その作戦、俺に立てさせてもらっていいか?」
新入りが手を上げた
「およ? 出来るのかにゃ新入りくん?」
「バカにするな。頭仕事をするのは得意……だった気がするだけだ」
「頭仕事が主……これはいい手がかりになりそうですね」
百喰の呟き。アドは少し目を落とし、すぐにホワイトボードのペンを新入りに手渡す。
「まず相手の主戦力であるゾンビ群とこちらの主戦力である賢人たち戦闘班の戦力差を教えて貰っていいか? ────」
淡々とした、段取りの良い声だった。そんな新入りを、アドだけが無言で見続けていた。まるで知っている相手の影を探すように。
実行は翌日昼、メンバーは賢人、甘噛、来栖崎、アド、礼音、新入りの6人。他の班員はデパートの防衛となった。賢人は仲間たちの顔を順に見渡し、小さく息を吸う。
「……行こう。もう逃げない」
そう呟いた声は、誰よりも静かで、誰よりも強かった。
暗い空の裂け目の下、黒い瘴気が渦を巻く。そこに、三つの影が佇んでいた。
「そうか……白い剣士が現れたか。剣士がいない世界だったはずだが……?」
レジビルは指先で本の切れ端を弄びながら、静かに吐息を落とす。
「壁がデカけりゃデカいほど……ぶっ壊す価値ってやつも増える。そうだろ?」
ズモンが獣じみた笑い声を上げ、拳を鳴らす。
「わかりやすいですねぇ……本当に」
ストボロスが薄く笑い、肩をすくめる。その目だけは、冷たく研ぎ澄まされていた。
「ですが焦ることはありません。まだレジビルのシカバネメギド”が残っていますから」
「ハッハッハ!! たしかにな! じゃあどうする?」
ズモンが牙を見せるように笑う。
「もう1冊ブック開いて、ブッ放してみるか!?」
「いいえ……」
ストボロスはゆっくりと首を振った。瘴気が揺れ、黒い風が彼のローブを撫でる。
「今は────あの白い剣士が、どれ程のものかを見させてもらいましょう」
彼は静かに目を伏せ、唇の端をわずかに持ち上げた。
「彼は英雄に、なれますかねぇ」
3人の笑いが、夜の空気に溶けていく。やがて瘴気は渦を巻き、3つの影は闇の奥に沈んで消え、ただ一つだけ言葉が残された。
「観察しましょう。新たなページが開く、その瞬間をね……」
元ネタ、なし
Tips.突破率、突破力について。まだ出現していない敵を倒すことができるか(確率)が突破率、どれだけの量を倒せるかが突破力だぞ。
神川賢人のキャラが好きか
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好き
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嫌い
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キャラが薄い