とあるライダーオタクが絶望の世界に来てしまった件   作:キラトマト

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第15章 太陽の知略、メギドを討つ。

 

 ────わたしの存在理由が知りたい。夢も、希望もないわたしに、何か役割をくれないか。

 

 同年 6月30日

 

 賢人は波癒を背負い、深く息を吸い込む。

 来栖崎は血液を補充しながら、鋭い視線で前を見据える。甘噛は胸で賢人の言葉を反復し、気持ちを整える。アドは火の武器を調整しながら仲間の表情を一人ひとり確認し、礼音は緊張で震える指先を深呼吸で落ち着けようとしていた。

 

 そしてサンは、戦術デバイスの設定を最終確認する。自分が一番後ろに立っている。戦うことすら出来ない。その事実が、胸の奥を焼くように痛んだ。そして賢人は宣言する。

 

「……行きましょう、もう逃げない」

「あぁ……」

『ライドガトライカーーー!!』

 

 轟音と共に、彼らは再び渚輪区本島へと飛び出していく。

 

「賢人様……その、わたくしって……」

 

 搭乗時、真っ先に賢人の背中ポジションを確保した甘噛が控えめに声を落とした。

 

「どうしたんですか?」

「感染はしているのかなって」

「いや、それは安心していいですよ。昨日のゾンビはウイルス製じゃなかったみたいなんで」

「そう……ですか」

 

 短い返事。しかしその声は、どこか沈んでいた。まるで、感染していたかったとでも言いたかったかのように。

 

 サンはそのやり取りを聞きながら、胸の奥にまた別の痛みを覚える。自分のように戦えない訳じゃない。先日死にそうになったのに……。罪悪感がさらに深まっていく。

 

 ビークルは十数分でメグリエの立体駐車場に到着した。

 

「おい……誰かいるぞ」

 

 新入りが震えた声で指し示す。遠くの駐車場に先日のメギド。そして、黒いローブをまとった青年が立っていた。

 

「知ってる? ケンティー」

「いや……知らない……けどあれは」

 

 テレビの中の存在に似ている、と。賢人の背中に冷たい汗が伝い、仲間に伝えようとした瞬間に空気が変わる。

 

「見つけましたよぉ? 白の剣士」

「ヒッ」

「はじめまして、私はストボロス。以後お見知りおきを」

 

 青年は一歩で距離を詰めるように、突然目の前に現れた。そして賢人たちは恐怖からか、蛇に睨まれた蛙のように。その場の空気はストボロス1人に支配されていた。甘噛は息を呑み、礼音は弓を握りしめ、来栖崎は刀の柄を震わせる。

 

「貴方ならもう分かっているでしょうが、あのメギドの生みの親は私ではありません」

「……何のつもりだ」

「フフフ……何のつもり、ですかぁ……? 私はただ、"無"を求めているだけ……」

 

 そして────ストボロスの視線が、ゆっくりと新入りへ向く。舐めるように。まるで何者かを見定めるかのように。劣等感が、一瞬で膨れ上がった。

 

「ッ……! な、何故僕を……」

 

 ストボロスは不気味に笑い、賢人へ視線を移した。

 

「……まぁ精々頑張ってください? 英雄さん?」

 

 そう言って、彼は闇の中に消えた。

 

「ッ……! 何だったんだ一体……!」

「ストボロスと名乗っていたな」

「怖すぎて私らは何も言えなかったけどね」

「だけど、手を出されなかったのは幸運にも程があるな。今はあの怪物に集中できる」

 

 緊張感が一気に解け、賢人は肩で息をする。そしてアドは苦笑し頭を搔く。新入りはシカバネメギドを見据え、拳を握りしめた。

 

「あぁ、今日は最初から全力で行く。皆さん!」

「応!!」

『エナジーユニコーン ハンターナイトリザード 波癒抜刀!』

「変身!」

 

 賢人は2冊のブックをベルトに装填、聖剣を引き抜く。

 

『闘争の、ユニコーンリザード!』

「やっと来たかァ。白の剣士ィ!!」

「白の剣士じゃない。俺は仮面ライダーヴァルキュア、癒の剣士だッ!」

 

 火葬場作戦 開戦!

 

『作戦はこうだ、まず賢人がメギドからゾンビ群を引き離す。その為に賢人には奴を油断させる必要がある、頼めるか?』

『あぁ、それなら任せろ。前回俺は1冊の状態しか見せていないからな。2冊で戦えば確実に数でゴリ推してくるはずだ』

 

「そうかァ、癒の剣士ィ、前はゾンビだけで手一杯だったからなァ! 今回も……出てこいゾンビ達ィ!!!」

 

 またもや腕を開き、メギドは幾多ものゾンビを召喚する。それに対しリザードの脚で縦横無尽に駆け、四方からの攻撃でゾンビを倒していくヴァルキュア。

 

『ハンターナイトリザード』

 

 ブックを押し込み、生物『ナイトリザード』を呼び出す。それはゾンビを囲むように高速で駆け回る。その軌跡に聖なる白い炎を被せ、一時的にゾンビ群を拘束する。

 

『そして賢人がゾンビ群を引き受けている隙に、甘噛の身のこなしで翻弄、来栖崎の刀でメギドの部位を破壊し、動きが止まったメギドを礼音さんの弓で射抜く』

 

「癒の剣士……前より速ぇなぁ!」

 

 ゾンビを追加出現させ、それに気を取られた隙に甘噛はメギドに攻撃を加える。しなやかな動きが癪に触ったのか、メギドは狙いを甘噛に定める。

 

「ちぃ小娘がァ!!」

「……せいッ!!」

 

 昨日の戦闘を経て、甘噛の中で何かが変わったのか、その動きは苛烈さよりも、軽やかさが強まっていた。

 そして、ほんの一瞬────メギドの首元に、刺繍のような繋ぎ目を発見する。

 

「まさか……! 来栖崎さん! 四肢の根元を狙ってくださいまし!!」

「小賢しいッ!」

 

 メギドは両手を上げ、ゾンビを更に召喚させる。そう、これが召喚の合図。

 

「今ですッ!」

「ウラァッ!!」

 

 来栖崎の高速抜刀、メギドの左腕が欠損する。新入りは敵の動きを見て、最短の勝ち筋を弾き出す。

 

「アド! 火炎瓶を投げろ!」

「ッ、りょーかい!!」

 

 その呼び掛けにアドは行動で応える。

 

「クソッ、火だと……!?」

「火葬の準備は万端っ、アヤネル! トドメは任せたよっ!!」

「三静寂さん! 弱点はおそらく首の繋ぎ目! そこを狙ってくださいまし!」

「引き受けた!」

 

 狙いはその一点。礼音は1本しかない火の矢を着火させる。

 

「……」

『天芽、私はこれから渚輪区に行く。帰ってくるまでは家の事、頼むぞ』

『辛い記憶なんて、上書きしちゃいましょ!』

 

 日本本土に置いてきた弟の事、そして無くした20歳以前の記憶のこと、精神統一の為に全てを取り払う。

 

 ────バシュン。重い発射音。

 

「いや……!」

 

 礼音は走る。

 

「これが1番……!」

 

 火の矢は重量が重く、初速こそ速いものの徐々に高度と速度を落としていく。

 

「確ッ、実だッ!」

 

 空中の矢を掴み取り、礼音はメギドの首元の継ぎ目に突き刺す。今は手元の火より、滾る血の方が熱かった。

 

「クソッ……ただの人間如きに……このメギドとあろう……私がァ……!!!」

 

 火の矢が突き刺さる。一瞬、世界が止まった。そしてシカバネメギドの身体が、内側から崩れ始めた。

 

「っ、まずいッ!!」

『ユニコーン! リザード! 習得二閃!!』

 

 2冊のブックをリード、リザードで速度を増した治癒のエネルギーが皆を間一髪で覆う。

 

「ふぅ……あれ?」

 

 ヴァルキュアはホッと胸を撫で下ろす。そして、メギドが爆発すると同時に、辺りのゾンビも消滅した。それを見て変身を解除した賢人は子供のような叫び声をあげる。

 

「……。……やった。やったぞおおおおお!!!」

「ふふ、わたくしのおかげ、ですわね」

「あぁ、甘噛さんが弱点を見つけてくれなかったらジリ貧になって負けてた……と思う」

 

 そう冗談めかして言う甘噛に賢人は返した。てっきり皆のおかげ、などと返されると思っていた彼女は呆気にとられる。

 

「……あ、もちろん皆さんもですよ!? 礼音さんのあの矢、すっごいかっこよかったですし!」

「はは、君ほどではないさ」

「ちょ、師匠の私は?」

「かっこよかったですよ!! あの抜刀! カリバーの居合必殺技みたいで!」

「褒められてる気しないんだけど」

 

 そして────アドが、新入りへと笑顔を向けた。

 

「それにしても、君の作戦立案能力には脱帽だよ。サーンちゃん」

「サン? え、それってもしかして僕のこと?」

「そーだよっ、参謀だからサンちゃん。いいでしょ?」

「あれ? でも参謀って百喰さんなんじゃ……」

「そ! だから〜戦闘面での参謀! それを君の役職としよう!」

 

 アドは盟主としてサンを指をさす。胸の奥の劣等感が、少しだけ溶ける。

 

「サンか……」

 

 太陽。その言葉で、賢人の脳裏にあるヒーローが浮かんだ。

 

『俺は太陽の子! 仮面ライダーブラァック! アールエックス!!』

 

 賢人の脳内では、あるヒーローの名乗りが思い起こされていた。

 

「いいですね!! じゃあよろしくな! サン!」

 

 握られた手のあいだで、わずかに熱が生まれる。正午の太陽は、それが始まりの合図だと告げるように、まっすぐ輝いていた。




仮面ライダーセイバー 第18章『炎の執念、メギドを討つ。』より

Tips.防具 主にHP、防御力、回避、ガード、反撃を上げられるぞ。改造は出来るが伝説化は出来ないぞ。一部の防具は攻撃力なども上がるぞ。

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